人件費負担削減!同一労働同一賃金で活用したい「所得拡大促進税制」とは

人件費対策 節税対策

中小企業は2021年4月より同一労働同一賃金がスタートします。

これにより企業の賃金負担はこれまで以上に増えることになります。

そんなとき利用したいのが「助成金」と「所得拡大促進税制」です。

助成金は非正規社員や正社員の賃金を改善したときに支給されるおのがありますし、税制でも従業員の給料をアップすれば税額控除されて法人税が軽減されます。

このような制度を利用することで、同一労働同一賃金におけるコストアップを軽減することができます。

同一労働同一賃金で賃金はアップする

同一労働同一賃金とは同じ仕事内容なら、非正規社員と正規社員の賃金に「不合理な格差」を付けてはいけないというものです。

格差がある場合は、第三者が聞いて納得できる「合理的な理由」が必要になります。

ただ単に「パートだから」「契約社員だから」と理由で、賃金に差を付けることができなくなるわけで、そうなると、非正規社員の給与を正社員の給与に合わすか、正社員の給与を非正規社員に合わすかになります。

しかし現実的にいって、正社員の給与を下げるというのはむずかしいです。

そうなると同一労働同一賃金による格差是正は、非正規社員の給与を正規社員並みに上げるというが現実的な解決策になります。

つまり、同一賃金同一労働がスタートすれば、今より人件費が上昇するのはほぼ確定です。

そんなときの人件費増大の負担を減らしてくれる制度が「助成金」と「所得拡大促進税制」です。

同一労働同一賃金には助成金が活用できる

助成金とは厚生労働省が支給してくれるお金のことで、雇用の創出、非正規社員や従業員の労働環境の是正・処遇の改善を行ったときに費用の一部を助成してくれます。

同一労働・同一賃金で使える助成金については、下記記事をご覧ください。

所得拡大促進税制で雇用コストの負担を削減

さらに従業員に給与を増額支給した企業には、税制面でも優遇されます。

それが「所得拡大促進税制」です。

所得拡大促進税制は、青色申告書を提出している中小企業・個人事業主が、前年度より給与等の支給額を1.5%増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。

制度の概要

前期の給料総額に対して今期の給料総額が1.5%増加した場合、法人税から15%控除されます。※最大20%まで

前期の給料総額に対して今期の給料総額が2.5%増加した場合で、一定の要件を満たした場合、法人税から25%控除されます。※最大20%まで

1.5%給与総額が増額したときに控除できる額

1.5%増加した場合とは、今期の給与総額から前期の給与総額を引いた額になります。

仮に今期の給与総額が3300万円、前期の給与総額が3000万円なら、増えた給料は300万円になります。

・3300万円-3000万円=300万円

300万円の増額とは10%の増加になりますので、1.5%の増加という条件をクリアします。

したがって15%の控除を受けられますので、控除額は45万円となります。

・300万円×15%=45万円

控除額は最大20%まで

ただし控除額の上限は20%までです。

上記のケースでいえば、調整前法人税額が225万円以上の場合、45万円が最大控除額になります。

<調整前法人税額が250万円の場合>

・250万円×20%=50万円

・50万円>45万円

となるため、控除額は45万円です。

調整前法人税額が225万円以下のときは、法人税額の20%が上限になります。

<調整前法人税額が200万円の場合>

・200万円×20%=40万円

・45万円>40万円

となって、45万円が上限20%をオーバーするため、最大20%が控除額となります。

適用の要件

継続雇用者に支払った給与等の総額について、適用年度において前事業年度と比べて1.5%以上増加していることが適用の要件になります。

継続雇用者とは

継続雇用者以下の全てを満たす人を指します。

  1. 前事業年度及び適用年度の全ての月分の給与等の支給を受けた国内雇用者である
  2. 前事業年度及び適用年度の全ての期間において雇用保険の一般被保険者である
  3. 前事業年度及び適用年度の全てまたは一部の期間において高年齢者雇用安定法に定める継続 雇用制度の対象となっていない

同一労働同一賃金の場合、

  • 1週間の所定労働時間が20時間未満である者等(雇用保険法の適用除外となる者)
  • 高年齢被保険者(65歳以上の被保険者)、短期雇用特例被保険者(季節的に雇用される者)、日雇労働被保険者(日々雇用される者、30日以内の期間を定めて雇用される者)
  • 高年齢者雇用安定法に定める継続雇用制度の対象者

は継続雇用者に含まれないので、計算の際には注意が必要です。

同一労働同一賃金での賃金アップの対象になる人は、非正規社員がメインになるので、「所得拡大促進税制」の対象者とズレる可能性があります。

給与等の増加額の25%を税額控除(10%の上乗せ)できる場合

前期の給与総額から今期の給与総額が2.5%以上増額した場合、10%控除額が上乗せされ、25%の税額控除を受けることができます。※この場合も、最大20%が上限となります。

ただし、2.5%以上増加して、かつ、以下の「いずれか」を満たすこと必要があります。

  1. 適用年度における教育訓練費の額が前事業年度における教育訓練費の額と比べて10%以上増加していること
  2. 適用年度終了の日までに中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の認定を受けており、経営力向上計画に基づき経営力向上が確実に行われたことにつき証明がされていること

前期に比べ今期の給与総額が2.5%以上増加した場合は、上記の条件どちらか一つをみたさなくてはいけません。

2.5%以上増加した場合でも、2つの条件のうちどちらかを満たさない場合は、25%の控除額を受けることはできません。

中小企業向け所得拡大促進税制ご利用ガイドブック

まとめ

同一労働同一賃金がスタートすると、雇用コストはアップすると予想されます。

ただし、所得拡大促進税制の場合は、非正規社員は対象にならないので注意しましょう。

中小企業や個人事業主の負担は増えます。

そんなとき、助成金や税優遇制を使えば、そのぶんだけ資金の負担を減らすことができます。

同一労働同一賃金に合わせて、しっかり活用していきましょう。

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