資金繰りの改善には「良かれと思ってやった」ことが、実は真逆の効果だったりすることもあります。
「最近資金繰りが苦しい」
もしそうお感じならこれから説明することを行っている可能性があります。
1・借入れの早期繰上げ返済
「資金に余裕ができたので借入れを全部銀行に返してしまおう」、一見すると無借金経営で良いように思えますが、借入れを早期繰上げ返済で行うのは得策ではありません。
中小企業の業績は一定ではなく、良いときもあれば悪いときもあります。
そして悪いときに銀行がお金を貸してくれるといえないのが現実です。
むしろ「銀行は雨の日に傘は貸さない」という喩えがあるように、業績が悪いときほど融資に慎重になります。
仮に融資を受けられたとしても、時間がかかってしまいます。
会社の存続とは何で決まるのでしょう?
そうキャッシュのあるなしで決まります。
借入れのお金でもキャッシュがあれば会社を存続することはできます。
逆に無借金経営にこだわって、早期繰上げ返済で手持ち資金を減らしてしまえば、いざというとき会社は倒産してしまうかもしれないのです。
借入のお金でも口座においていた方が、実は経営上は安全なのです。
返済を優先させてしまうことで、資金繰りの悪化を招くケースがあります。
借入の限度額の目安は10年
とはいえ、それならいくらでも借金した方がいいのか、と思われるかもしれませんが、やはりそうではありません。
借入の限度額の目安はあります。
それが「債務償還年数」です。
債務償還年数は、銀行が融資先企業を財務分析する際に重視する財務指標の1つです
この数値は「企業の返済能力」を表します。
計算式は次の通りです。
・債務償還年数:(有利子負債合計-正常運転資金)÷キャッシュフロー
有利子負債
有利子負債とは返済義務のある借入金や社債のことです。
・有利子負債:短期借入金+長期借入金+社債
正常運転資金
正常運転資金は次の計算式で求めます。
・正常運転資金:(売掛金+受取手形+在庫)-(買掛金+支払手形)
キャッシュフロー
キャッシュフローは次の計算式で求めます。
・キャッシュフロー:税引き後利益+減価償却費
利益は銀行によって、営業利益、経常利益、税引き後利益のどの利益を使うかは変わります。
要は
・(有利子負債合計-正常運転資金)÷キャッシュフロー
で求めた数値が10年以内だと正常値となります。
毎年稼ぐ利益で今ある借入れを、10年以内に返済できるという意味です。
逆にいえば債務償還年数が小さいほど、借入の余力があるということです。
その反対に債務償還年数が10年を超えると、借り過ぎとみなされます。
ですから借入れの範囲が適正かどうかは、債務償還年数の10年を一つの目安にします。
2・設備資金の短期返済
設備資金を短期で返済しようとすると資金繰りの悪化を招きます。
設備資金は金額が大きくなるのが一般的で、これを短期間で返えそうとすると、月々の返済金額の負担は大きくなります。
仮に大きくなっても、その設備投資で稼ぐ金額が返済金額を上回っていれば問題ありません。
しかし稼ぐお金が返済金額以下だと、資金繰りが苦しくなります。
たとえば1000万円の設備資金を借りて10年で返済する場合と、5年で返済する場合を考えてみましょう。
このとき設備投資で増える利益は月10万円とします。
5年返済の月々の返済額は約17万円になります。
・1000万円÷5年÷12か月=約16.7万円
したがって返済が7万円足らず、その分をほかの利益やストックしたお金からカバーすることになります。
そうなれば必然的に資金繰りは苦しくなります。
その一方10年返済なら、月々の返済は約8万円になります。
・1000万円÷10年÷12か月=8.3万円
これなら稼いだ10万円の利益で十分返済することができます。
10年返済だと楽に返せるが、5年返済だと苦しくなる、設備投資は返済期間がポイントなります。
できれば耐用年数に近い期間で返済するようにしましょう。
返済金額(元本部分)が減価償却費を超えてしまうと、税引き後の利益からキャッシュが流出することになり、これもまた資金繰りを悪化する原因になります。
設備投資を短期間の返済で済ませようとすると、資金繰りは悪化すると覚えておきましょう。
3・無駄な節税
利益が出て税金を支払うのがもったいないからと、節税目的で無駄に経費を使うと資金繰りの悪化を招きます。
節税がすべて無駄とはいいませんが、節税が目的化してしまうと、とにかく経費を使って節税することに頭がいってしまいます。
節税にも、「お金の残る節税」と「お金の残らない節税」の2種類があります。
行ってよい節税とは「お金の残る節税」です。
経費の無駄遣いよる節税は「お金の残らない節税」です。
経費を使って節税する場合には、それが事業の成長に役立つかを基準にしましょう。
利益を先食いする先行投資も注意が必要
ですが、ここでも気を付けなくてはいけないことがあります。
税金に支払うくらいだったら、先行投資で事業を成長させることにお金を投下しようと考える経営者もいらっしゃいます。
それはまことに素晴らしい考えなのですが、利益が残らない弊害も同時に頭に入れておくべきです。
それは何かといえば「融資」に対してです。
先行投資で事業を成長させるということは、売上も比例して大きくなります。
では売上が大きくなれば何が起こるか?
それは運転資金の巨額化です。
売上げ拡大で売掛金や在庫が増えれば、それに比例して用意しなくてはいけない運転資金も大きくなります。
会社にその資金があればよいのですが、先行投資してキャッシュがすくなければ、それをどこから用意してくるのでしょう。
オーナー社長個人の資産でも、売上が1億円を超えてくれば間に合いません。
となれば、銀行からの融資が必要になってきます。
にもかかわらず、先行投資で利益がないような状態なら、融資を受けられない可能性も出てきます。
売上はあるのにキャッシュが用意できないとなれば、黒字倒産もあり得ます。
先行投資する場合も、会社の財務状態を見ながら行わなくてはいけないのです。
まとめ
資金繰りを悪化させるやってはいけない代表的な3つのことについて解説しました。
良かれと思ってやったことが実は資金繰りを悪化させていたとなると本末転倒です。
ここでは資金繰りを悪化させる代表的な3つのことについて解説しましたが、それ以外にも、会社が無駄な資産(収益を生み出さない土地や建物など)を購入することでも、資金繰りは悪化します。
何が正しくて何が間違っているのか、しっかり見極めて対策を行いましょう。
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