節税にもなる経営セーフティ共済のメリット・デメリット

節税対策

事業を行っていれば、ときとして取引先の倒産により、資金繰りにダメージを負うことがあります。

最悪の場合は連鎖倒産に追い込まれます。

そんなときのリスクヘッジになるのが「経営セーフティ共済」です。

この記事では経営セーフティ共済について解説します。

経営セーフティ共済とは

経営セーフティ共済(正式名:中小企業倒産防止共済制度)とは、中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する共済制度です。

その内容は、中小企業の取引先が倒産した際の連鎖倒産を防ぐために創設された共済制度です。、中小機構基盤整備機構がお金を貸してくれます。

取引先が倒産すれば売掛金の回収が困難になります。

そんな緊急事態に掛け金の10倍を上限として、無利息・無審査で共済金を借り入れることができます。

とはいえあくまで借入なので返済義務はあります。

経営セーフティ共済への加入資格

経営セーフティ共済には、継続して1年以上事業を行っている中小企業者で、以下の加入要件に該当する場合に加入できます。

会社または個人の事業者

次表の各業種において、次の「資本金の額または出資の総額」「常時使用する従業員数」のいずれかに該当する会社または個人の事業者になります。

組合

次のいずれかに該当する組合

  • 企業組合、協業組合
  • 共同生産、共同販売等の共同事業を行っている事業協同組合、事業協同小組合、商工組合

※医療法人、農事組合法人、NPO法人、森林組合、農業協同組合、外国法人等は加入対象になりません。

加入できない場合

上記の要件を満たしていても、以下のいずれかに該当する場合は加入できません。

・住所または主たる事業の変更を繰り返し行ったため、継続的な取引の状況の把握が困難な場合

・事業にかかわる経理内容が不明の場合

・すでに借入れを受けた共済金または一時貸付金の返済を怠っている場合

・中小機構から返還請求を受けた共済金、一時貸付金、早期償還手当金、解約手当金の返還を怠っている場合

・納付すべき所得税または法人税を滞納している場合

・12か月分以上掛金の納付を怠ったため、または偽りその他不正の行為等のため、中小機構によって共済契約を解除され、解除された日から1年を経過していない場合

・偽りその他不正の行為により共済金もしくは一時貸付金の借入れ、または早期償還手当金もしくは解約手当金の支給を受け、または受けようとした日から1年を経過していない場合

・現に共済契約者となっている場合(重複加入はできません)

加入資格

経営セーフティ共済の掛け金について

掛金月額と掛金の積立限度額

掛け金月額は、5,000円から20万円までの範囲(5,000 円単位)で自由に選択できます。

掛け金は掛金総額が800万円に達するまで積み立てることができます。

掛け金は増額も減額もすることができます。

ただし掛け金の一部を引き出すことはできません。

事業資金が必要な場合は、一時貸付金の借入れをするか任意解約をして解約手当金を受け取らなくてはいけません。

掛け金の全納

掛け金は前納でき、1月につき掛金月額の1,000分の5の前納減額金が発生します。

掛け金の掛止め

掛け金総額が掛け金月額の40倍以上に達している場合、掛け金の払込みを止めることができます。

また、この制度を利用して借入れを受けた場合も、6か月間掛金の払込みを止めることができます。

経営セーフティ共済の貸付制度

経営セーフティ共済は、取引先事業者が倒産したことにより売掛金債権等の回収が困難となった場合に、共済金の借入れが受けられます。

「倒産」とは、取引先事業者が以下のような状態であるときを指します。

法的整理
  • 破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始、特別清算開始の申立てがされること
  • 倒産日:申立てがされた日
取引停止処分
  • 手形交換所に参加する金融機関によって取引停止処分を受けること
  • 倒産日:取引停止処分の日
でんさいネットの取引停止処分
  • でんさいネット(株式会社全銀電子債権ネットワーク)に参加する金融機関によって取引停止処分を受けること
  • 倒産日:取引停止処分の日
私的整理
  • 債務整理の委託を受けた弁護士または認定司法書士によって、共済契約者に対し支払いを停止する旨の通知がされること
  • 倒産日:通知がされた日
災害による不渡り
  • 甚大な災害の発生によって、手形や小切手等が「災害による不渡り」となること
  • 倒産日:当該手形等の手形交換日または呈示日
災害によるでんさいの支払不能
  • 甚大な災害の発生によって、でんさいが「災害による支払不能」となること
  • 倒産日:でんさいの支払期日
特定非常災害による支払不能
  • 特定非常災害により代表者が死亡等した場合に、弁護士等によって、共済契約者に対し支払いを停止する旨の通知がされること
  • 倒産日:通知がされた日

借入れの限度額

共済金の借入額は、被害額と掛金総額の10倍に相当する額のいずれか少ない額となります。

借入額は原則、50万円から8000万円で5万円単位の額となります。

返済期間

返済期間は借入額に応じて変わります。

  • 5000万円未満:5年
  • 5000万円以上6500万円未満:6年
  • 6500万円以上8000万円以下:7年

利率

共済金の借入れは無利子です。

ただし借入れ後は、共済金の借入額の10分の1に相当する額が払い込んだ掛金から控除されます。

無利子であっても実質は10%の利息

経営セーフティ共済から借りるお金は無利子です。

しかし実質は10%で借りているのと同じ状態になります。

たとえば800万円掛け金があって、8000万円の共済金を借り入れをしたとします。

このときの掛け金の800万円は控除され、掛け金の権利が消滅します。

したがって実際には、10%の利息を一括で最初で支払っているのと同じなのです。

そう考えれば、銀行で借りられるのであれば、銀行から融資をしてもらった方が利息的には安く済みます。

担保・保証人

担保・保証人は不要です。

返済方法

6か月の据置期間の後、返済期間が5年の場合は54か月、6年の場合は66か月、7年の場合は78か月の均等分割により毎月返済することになります。

返済期日までに共済金の返済がないと、年14.6%の違約金が課せられます。

注意事項

  • 倒産日から6か月を経過した場合には、共済金の借入手続きを行うことはできません。
  • 「夜逃げ」は、取引先事業者の「倒産」には該当しません。
  • 貸付金や融通手形、不動産賃貸料などは対象となりません。
  • 倒産した取引先事業者に対して買掛金などの債務がある場合は被害額と相殺されます。

借入れができない場合

取引先事業者の倒産が、加入後6か月未満に生じたとき、加入から取引先事業者の倒産日までに、6か月分以上の掛金を納付していないときなど、共済金の借入れができないケースもあります。

共済金について

取引先が倒産していなくても借りられる一時貸付金

一時貸付金制度を利用すれば、取引先事業者が倒産していなくても、契約者が臨時に事業資金を必要とする場合に、解約手当金の95%を上限として借入れすることができます。

借入額は30万円以上、5万円単位です。

倒産の場合と違い、返済は1年です。

担保は・保証人は不要で、貸付利率は金融情勢に応じて変動しますが、0.9%程度となっています。

民間の生命保険もこれに似た制度(契約者貸付)がありますが、0.9%という利率を考えれば、経営セーフティ共済の一時貸付の方がお得といえます。

解約手当金

解約手当金は解約の理由によって3種類に分類され、種類によって支給率が変わります。

  1. 任意解約:共済契約者が任意でいつでもきる解約
  2. みなし解約:個人事業主の死亡や法人(会社など)の解散・分割の際に、その時点で解約されたものとみなす場合
  3. 機構解約:12か月分以上の掛金の滞納や共済金の貸付けなどに不正行為があった場合に中小機構が行う解約

上記の表を見てわかるように、任意解約をしたときでも、40か月以上掛金を納付している場合には、支払った掛金の100%が解約手当金として戻ってきます。

経営セーフティ共済のメリット

掛け金が全額損金に計上できる

払い込んだ掛金は全額が必要経費に算入できます。

経営セーフティ共済の掛け金の上限は、毎月20万円まです。

つまり年間240万円、累計で800万円は損金に計上できるということです。

さらに1年以内の前納掛金も最大で240万円払い込んだ期の必要経費に算入できますので、急な利益が出た場合の利益調整にも使えるという面もあります(その期に計上できる損金算入額は最大240万円まで)。

また最大240万円の掛け金を支払った場合、翌期から掛け金の支払いが負担になることもあります。

しかし経営セーフティの掛け金は、期の途中でも減額もできますので、かなり融通のきく金融商品といえます。

なお掛け金を必要経費に算入するには、「中小企業倒産防止共済掛金の必要経費算入に関する明細書」を作成し、確定申告書に添付する必要があります。

経営セーフティ共済のデメリット

40か月以下で解約すると元本割れする

40か月未満で任意解約をした場合や機構解約が行われた場合は、掛金の全額返還を受けることはできません。

解約手当金の率は前述した表のとおりです。

ただし解約した場合でも比較的高い割合の解約手当金が返還されます。

解約手当金は課税対象になる

経営セーフティ共済の掛け金は、支払い時は全額損金になりますが、解約時には雑収入に計上され、その期の利益によっては法人税が課せられます。

経営セーフティを節税商品として利用されている方もいらっしゃるかもしれませんが、いわゆる「繰り延べ効果」しかないのです。

経営セーフティ共済を節税として利用するなら、解約時の出口に、役員や従業員の退職金などの大きな損失が出るようにしておく必要があります。

雑収入と特別損失をぶつけて、利益を相殺するという方法です。

まとめ

経営セーフティ共済について解説してきました。

経営セーフティ共済の基本は、連鎖倒産を防ぐ万が一のリスクヘッジのためです。

しかしそれ以外にも一時貸付のように、解約手当金から借り入れをすることもできたりします。

また繰り延べ効果しかないとはいえ、掛け金を全額損金にできることは個人事業主・中小企業にとって魅力です。

もう生命保険では全額損金はできませんからね。

経営セーフティ共済を活用して経営に役立てましょう。

関連記事

この記事へのコメントはありません。

マニュアル・書籍


最近の記事

  1. 最高裁の判例から考える誤魔化しの残業代は通用しない時代

  2. 就業規則にない事由で従業員を懲戒処分にはできない

  3. 髭や金髪はあり?!社員の身だしなみはどこまで制限できるか?

  4. 業務命令を拒否する社員を業務命令に従わせることはできるか?

  5. 定められた手続きを踏まない36協定は無効になる

  6. 能力のない社員を解雇できるか?判例から読み解く解雇前に必要な準備

  7. 連帯保証解除に無借金と節税が「妨げ」になる理由

  8. 自宅謹慎を命じた社員の「謹慎中の賃金」は支払わなくてはいけないか?…

  9. 懲戒解雇・競業避止で社員の退職金は減額・不支給にできるか?

  10. 不祥事を起こした社員の退職金は損害賠償と「相殺」できるか?