法人・個人事業主にかかわらず、業務中・業務外で従業員や経営者自身が病気やケガをすることはあります。
このとき支払った医療費は経費として落とせるのでしょうか?
結論からいえば、法人でも個人事業主でもその従業員でも、医療機関に支払う医療費は経費になりません。
病院で支払う診察費や薬代は個人が負担する費用になります。
ですがケースによっては経費になる場合もあります。
個々のケースの医療費の取り扱いについて解説していきます。
法人の負担する医療費の場合
会社が負担する医療費として計上できるものは限定されています。
会社が負担する医療費は、税務上の要件をクリアするものは「福利厚生費」となり、その一方、要件をクリアしないものは、役員・従業員に対する給与や役員賞与とみなされます。
医療費が福利厚生費として計上できるもの
まず福利厚生費として計上するには、
- 全従業員が対象であること
- 著しく高額でないこと
という2点を守らなくてはいけません。
この前提を守ってはじめて福利厚生費の対象になることを忘れないでください。
健康診断費・人間ドック費用
従業員・役員が受ける健康診断・人間ドックの費用は、福利厚生費として経費に計上できます。
会社には「従業員・役員に対して健康診断の実施が義務付けられている」ので、健康診断費・人間ドック費用は福利厚生費の対象になります。
この場合、役員・従業員に直接診断費用を手渡すと、給与とみなされるので注意しましょう。
あくまで会社が医療機関に支払うことが必要です。
予防接種
予防接種は会社に義務付けられたものでないため、福利厚生費といえない可能性があります。
ただし「会社の業務遂行上の必要性がある」と認められた場合には、福利厚生費として計上できます。
たとえば介護施設のような場合、インフルエンザにかかると業務に支障が出る上、体力の弱った利用者に感染する恐れがあります。
このような状況であれば、予防することは会社として合理的な判断であり、業務上必要だといえます。
またワクチン接種は一回数千円程度であり、著しく多額とはいえないでしょう。
したがって、「特定の時期や状況下」で病気の感染による会社業務の停滞を事前に防止することが必要となる場合などに行う予防接種は、福利厚生費として経費にすることができます。
業務上の傷病に対する医療費
業務中にケガや通勤途中のケガについては、労災保険から従業員の「治療に掛かる費用の全額」が補償されます。
そのため会社が業務中のケガの医療費の負担をするということはほぼないといえます。
それでもあえて会社が業務中のケガの治療費を負担したなら、「福利厚生の範囲を超えている」とみなされ、従業員への給与と認定される可能性が高くなります。
ただし傷病見舞金の名目で支払われるお金については、福利厚生費として認められる条件を満たしていれば、福利厚生費として経費になります。
業務以外の傷病に対する医療費
業務外の傷病に対する医療費を会社が負担していた場合は、
- 会社の業務との関連性が薄い
- 福利厚生の範囲を超えている
ので、特定の従業員への「経済的利益の提供」の面が強くなります。
したがって、会社が負担する業務外の傷病に対する医療費は、従業員への給与とみなされるでしょう。
つまり、従業員が個人で支払う医療費は、経費にならないということです。
ただし傷病見舞金の名目で会社から支払われるお金については、福利厚生費として認められる条件を満たしていれば、福利厚生費として経費になります。
役員の傷病に対する医療費
役員は原則労災保険に加入できないので、業務中・業務外の傷病に対する医療費を会社が負担した場合は、役員賞与と認定されてしまいます。
つまり役員が個人で支払う医療費は、経費にならないということです。
個人事業主の負担する医療費の場合
従業員の健康診断・人間ドックの費用
個人事業主で従業員がいる場合、その従業員が受ける健康診断・人間ドックの費用は、福利厚生費として経費にできます。
ただし福利厚生費にするには、全従業員が対象であること、著しく高額でないこと、という2つの条件を守ることが絶対です。
予防接種は法人の場合と同じです。
個人事業主本人が受ける健康診断の費用
個人事業主本人の健康診断や人間ドックの費用は、事業の経費にできません。
個人事業主本人だけでなく、青色事業専従者として働く家族も健康診断や人間ドックの費用を事業の経費にはできません。
個人事業主の福利厚生費は、雇っている一般の従業員のための費用で、事業主本人と青色事業専従者の家族は福利厚生費の対象外となります。
従業員の業務中・業務外の医療費
従業員へ支払った医療費は、業務中・業務外とも法人の場合と同じです。
個人事業主本人の傷病に対する医療費
個人事業主が病気やケガで支払った診察費や薬代は経費になりません。
ただし条件を満たせば、医療費控除とすることができます。
医療費控除とは
医療費控除とは、「1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合、その超えた部分について所得控除を受けられる」という制度です。
これにより所得税・住民税を軽減できます。
ただ医療費控除は、あくまで税額控除であって、医療費が戻ってくるわけではないので誤解ないようにしましょう。
医療費控除は、自分だけでなく生計をともにする家族や親族にかかった医療費も対象となります。
生計を一にしている家族であれば、家を出た子供にかかった医療費も合算できます。
医療費控除の対象となる主な費用
1・医師又は歯科医師による診療又は治療の対価
2・治療又は療養に必要な医薬品の購入の対価
3・病院、診療所、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、指定介護老人福祉施設、指定地域密着型介護老人福祉施設又は助産所へ収容されるための人的役務の提供の対価
4・あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術の対価
5・保健師、看護師、准看護師又は特に依頼した人による療養上の世話の対価
6・助産師による分べんの介助の対価
7・介護福祉士等による一定の喀痰吸引及び経管栄養の対価
8・介護保険制度の下で提供された一定の施設・居宅サービスの自己負担額
9・医師等による診療等を受けるための通院費、医師等の送迎費、入院の際の部屋代や食事代の費用、コルセットなどの医療用器具等の購入代やその賃借料で通常必要なもの
10・医師等による診療や治療を受けるために直接必要な、義手、義足、松葉杖、補聴器、義歯などの購入費用
11・傷病によりおおむね6か月以上寝たきりで医師の治療を受けている場合に、おむつを使う必要があると認められるときのおむつ代
No.1122 医療費控除の対象となる医療費
医療費控除の対象とならない主な費用
1・人間ドックやその他の健康診断費用(病気が発見されれば医療費控除の対象になる)
2・予防接種にかかった費用
3・ビタミン剤やサプリメント類の購入費用
4・容姿を美しくするための歯列矯正費用
5・美容整形の費用
6・入院中の子供の世話のために病院へ通う際の交通費
7・自家用車での通院にかかるガソリン代や駐車場料金
青色申告の基礎知識
まとめ
法人や個人事業主の医療費について解説してきました。
法人でも個人事業主でも、個人が負担した診察代や薬代は「経費にすることができない」のが原則です。
それ以外は、ケースによって取り扱いがかわります。
それぞれのケースを見て、しっかり確認しながら会計処理を行いましょう。
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