会社は必ず1年に1回決算を行います。
決算とは年間の収入と支出を計算して会社の経営状態を明らかにすることで、そこで思った以上の利益が出ていれば、決算が終わった後に社員に賞与を支払うことがあります。
これを決算書と呼びます。
決算賞与は節税対策となる一つの手法ですが、行う際はメリットとデメリットを見て検討しましょう。
決算賞与とは
決算賞与とは、その年の会社の業績に応じて支給される賞与のことです。
会社の利益を社員に臨時のボーナスという形で還元します。
社員への賞与は損金計上が認められているため、予想以上の利益が出たときの節税対策としても利用できます。
ボーナスとの違い
決算賞与が会社の業績に応じて決算月に支給されるのに対し、ボーナスはかなり経営状態が悪化しない限り毎年決まった時期に支給されます。
通常のボーナスは夏・冬に「基本給の○ヶ月分」として支給されますが、決算賞与は決算月に支払われる臨時ボーナスです。
したがって、ボーナスのように基本給を基準とし支払うわけではありません。
ボーナスと決算賞与の大きな違いは期待する効果です。
ボーナスは社員のモチベーションアップや維持を期待して支給されますが、決算賞与はどちらかといえば節税効果を見込んで支給されます。
支給時期
決算賞与の支給時期は、「事業年度終了の日の翌日から1ヶ月以内」と決められています。
決算書を「未払賞与」にするには
決算賞与の支給は決算直前に決めるため、支払い原資が足りないことがあります。
そんなときでも次の3つの要件を満たせばその期の損金に計上できます。
- 事業年度終了の日までに支給額を、同じ時期に支給する全従業員に対して個別に通知していること
- 通知した金額について、通知した事業年度に損金として経理上の処理をしていること
- 通知した金額を、事業年度終了の日の翌日から1カ月以内に全額支払うこと。
これらの条件を満たすことで、今期中に決算賞与を支払わなくても、今期の経費にすることができます。
なお通知の日付をごまかしたり、社員全員への通知を怠ったりすると、税務調査でしっかり調べられ、偽装が判明してしまいます。
人の口に戸は立てられないものです。
調査員が従業員に「決算賞与の通知を受けましたか?」と何気に聞けば、事情を知らない従業員は「いいえ。知りません」と答えてしまうかもしれません。
ですから、実際に全従業員に対して事業年度終了の日までに賞与の金額の通知があったことを証明できるように、しっかり証拠を残しておく必要があります。
ちなみに、未払い賞与が否認されると、その事業年度の損金が減り、追徴分の税金が増えます。
しかし翌期の損金になるの、結局の税負担は同じということになります。
決算賞与に対する社会保険料も未払計上できるか?
決算賞与を支給すると、社会保険料も発生します。
そこで、決算賞与を未払計上する場合、決算賞与に係る社会保険料も未払計上できるのか、という問題が生じます。
法人税基本通達9-3-2では、社会保険料の損金算入の時期を次のように定めています。
法人が納付する次に掲げる保険料等の額のうち当該法人が負担すべき部分の金額は、当該保険料等の額の計算の対象となった月の末日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。
つまり、社会保険料の支払債務が確定している必要があり、決算賞与に対する社会保険料の支払額は、その決算賞与を支払った月の末日におけるその使用人の在職の事実をもって確定することになります。
決算賞与を決算月に未払計上し、翌月に支給する場合は、決算賞与に係る社会保険料の支払債務が確定するのは決算月の翌月末日になります。
そのため決算月に社会保険料の未払計上はできません。
決算賞与を未払い計上できない場合
実は上記3つの要件を満たしても、今期の経費として認められない場合があります。
それが、
- 通知をしたが支給を受けられなかった人がいる場合
- 支給日在籍基準がある場合
- 通知した額と支給額が違っていた場合
です。
通知をしたが支給を受けられなかった人がいる場合
決算賞与の通知を受け取った後、退職をして支払いを受けられなかった人が1人でもいた場合は、全員分の決算賞与を今期の損金には認められなくなります。
支給日在籍基準がある場合
支給日在職基準を給与規定で決めている場合、賞与を支払うときには「在職していることが条件」となります。
しかし決算賞与の支払い日は「決算後1か月以内」と決められています。
つまり決算賞与の支払い日は来期ということです。
そのため決算賞与の通知から支給日までに退職した従業員がいると、たとえ未払い計上をしていても、その決算賞与が支払われないことになるため、今期中の損金として認められないことになるのです。
ただし、給与規定などの支給日在籍基準の箇所を「賞与(決算賞与を除く)」と記載することで、今期中の経費にすることができます。
通知した額と支給額が違っていた場合
通知した額と実際に支給した決算賞与の額が1人でも異なっていた場合は、さかのぼって今期の損金に計上できなくなります。
決算賞与のメリット
法人税の節税になる
法人税の節税になります。
仮に2000万円の利益があり、この利益で法人税を納める場合は、税率を30%とすると600万円になります。
これに対し決算賞与で1500万円の支給をした場合、その事業年度の利益は500万円になりますので、税率を30%で計算すると納める法人税は150万円です。
その結果450万円を節税できます。
「どうせ税金で持っていかれるなら従業員に還元したい」と経営者が思うのも道理です。
ただし税務署は決算時の利益調整を嫌いますので、税務調査があれば調べられることになります。
社員のモチベーションアップができる
決算賞与は臨時ボーナスです。
夏と冬のボーナス以外に臨時収入をもらえれば、社員のモチベーションや忠誠心はアップします。
来年も臨時ボーナスがもうらえるよう、意欲的に働くインセンティブとなることを期待できます。
決算賞与のデメリット
会社に残るキャッシュが減る
節税や社員のモチベーションアップの手段とはいえ、決算賞与を支給するとその分だけキャッシュアウトが生じます。
その結果、手元に残るお金は、決算賞与を行うより減ってしまいます。
先の例で考えてみましょう。
2000万円の利益があって決算賞与を支給しない場合、手元キャッシュは1400万円残ります。
・2000万円-(1-30%)=1400万円
一方決算賞与を1500万円支給すると、手残りは350万円になってしまいます。
・(2000万円-1500万円)-(1-30%)=350万円
節税効果や社員のモチベーションを優先するのか、それとも手元キャッシュの残額を優先するのかで、決算賞与を行うかどうかの判断となります。
従業員の期待値が上がってしまう
決算賞与を通常のボーナスと勘違いして、毎年もらえるものだと期待値が上がってしまいます。
そうなると、次の年に決算賞与が支給されないと、夏と冬のボーナスだけでもありがたいのに、逆にモチベーションが下がってしまう可能性があります。
それを避ける意味でも、決算賞与の意味をしっかり周知しておく必要があります。
税務調査で調べられる
税務署は決算期の利益調整を嫌うため、利益調整のために行われる決算賞与を調べられます。
決算賞与の要件を実態として満たしていること、かつ証拠をしっかり残しておくことが大事になります。
未払いであっても要件を満たすことで今期に計上できますが、税務調査で否認される可能性もあことを考えれば、できるだけ決算前に支払うなどの対策も検討しましょう。
まとめ
節税対策に使われる決算賞与ですが、メリットだけではなくデメリットもあります。
決算賞与を行うかどうかの判断は慎重に行う必要があります。
手元キャッシュが減ってしまうことも、経営戦略として考えておくべき事項です。
また税務調査への対応も必要になりますので、その点も十分留意しておきましょう。
節税にも使える決算賞与について解説しました。
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