役員借入金をご存じでしょうか?
役員借入金とは、オーナー社長が個人マネーで会社に貸し付けるお金のことです。
役員借入金はすぐには問題となりませんが、いずれ解消しておかなくてはいけない問題です。
なぜなら役員借入金はオーナー社長の財産として、相続税の対象になるからです。
役員借入金が融資で不利になることも
役員借入金は、オーナー社長が会社の運転資金が足りないときや、出張費用の立替え払いなどで、会社に貸しているお金です。
会社から見て借りているお金なので、役員借入金となります。
貸借対照表の負債の部に計上されます。
ちなみに負債の部には「流動負債」と「固定負債」の2つがあります。
流動負債は1年以内に返済するお金で、一方の固定負債は返済期間が1年を超えるお金のことです。
もし役員借入金を1年以内に返済してもらう予定がないのであれば、固定負債の方へ計上しておきます。
間違っても流動負債には計上しないようにしましょう。
役員借入金を流動負債に入れてしまうと、銀行融資の際に決算書のスコアを落とす原因となります。
また銀行からすぐに返済する意思があるとみなされ、資本金とみなしてくれない可能性も出てきます。
銀行から融資が必要な企業にとっては、決算書で悪く見られるのは融資を断られる原因となります。
自社に不利となるような計上の仕方はやめましょう。
役員借入金という財産
話がそれましたが、役員借入金はオーナー社長の財産となります(オーナー社長が貸している場合、そのほかの役員が貸しているときは、その役員の財産)。
この点がピンとこないかもしれませんが、会社と社長個人は別人格として扱われます。
別人格であるということは、です。
仮に友達に1000万円を貸したケースを考えてみてください。
友達に貸したお金はいずれ返してもらうお金ですので、踏み倒される可能性はあっても、債権という立派な財産になります。
この関係が社長と法人との間にも成立します。
オーナー社長が別人格の法人に貸したお金は、いずれ返してもらうお金なので、それが債権という財産になるのです。
国債という債権も財産になりますよね、その債権の相手が自分の会社というわけです。
とはいえ建前上は別人格とはいえど、実質オーナー社長と法人は一体です。
ですから「会社からお金は返してもらわなくていい」と簡単に債権放棄することもできます。
しかし役員借入金を債権放棄してしまうと、今度は「債務免除益」として収益が発生し、そこに法人税が課せられるという縛りができてしまいます。
なのでむやみやたらに債権放棄もできないという代物なのです。
仮に債権放棄するのであれば、その利益を相殺できる損失のある事業年度となります。
その他の役員借入金の処理の仕方は下記記事をご参考にしてください。
本当は怖い役員借入金の相続リスク
役員借入金は立派な債権という財産ですので、相続税の対象となります。
役員借入金が100万円や200万円くらいなら大した問題ではありません。
相続税には基礎控除(3000万円+相続人の数×600万円)がありますので、トータルの相続財産がこれを超えなければ相続税を課税されることはありません。
しかし役員借入金が1億円もあるようならどうでしょう?
基礎控除を軽く超え、相続税の納税をしなくてはいけなくなります。
さらに、です。
もしオーナー社長が会社を立て直すため、個人マネーで1億円会社に役員借入金を投入し、その直後に亡くなった場合を考えてみましょう。
役員借入金を1億円投入するくらいですから、会社の状態はそれほど良くないでしょう。
そしてオーナー社長の個人資産も大きく目減ります。
然るにです。
そこで1億円という相続財産に対して、残された遺族は相続税を納めなくてはいけないのです。
会社にめぼしい財産はない、亡くなった社長にも個人資産は少ない、これで遺族はどうやって納税資金を用意すればよいのでしょう。
これってとっても怖いことだと思うのですが、人はいつ亡くなるかわかりませんから、ある日気づいたらご家族はとんでもない財産を背負わされていた、となるかもしれないのです。
こういったリスクがあるからこそ、役員借入金は早めに解消しておかなくてはいけません。
役員報酬の代わりに受け取る
役員借入金はいくつか処理方法はあるのですが、もっとも手っ取り早いのは、役員報酬の代わりに会社から役員借入金を返済してもらうことです。
しかも役員借入金は借入の返済なので、税金も社会保険料もかかりません。
役員借入金の返済期間中は、税・社会保険料が発生しないのです。
同じ額を受け取るなら、役員借入金の返済を受けた方が手取りは増えます。
【追記】役員借入金は、少額であったり、大きな額であってもすぐには問題となることはありません。
しかし、少額が積み重なって大きくなったり、多額の役員借入金をそのまま放置しておくと、相続が発生したときに問題となってきます。
ですから、今は問題ないとはいえ、いずれ解決しなくてはいけないということは忘れないようにしてください。
余談ですが、役員借入金の解決策に、終身保険を使ったスキームがあるといいます。
たとえば法人保険の契約形態を
・契約者:法人
・被保険者:社長
・死亡保険金受取人:社長の家族
とすれば、通常は役員に対する給与とみなされます。
給与とみなされれば、それは経費になりますので、保険料を損金に入れることができます(役員に対しては給与課税されます)。
つまり、会社に保険料でお金を返してもらいながら、損金として経費計上できれば、法人の利益も圧縮でき、なおかつ死亡が発生した際は、生命保険で遺族にお金を用意できるというわけです。
しかしです。
ここで給与と認定されるためには、「役員に対して会社から経済的利益供与があった」事実が必要になります。
ですが、役員に対しては、実質借りたお金の元本を返しているだけなので、経済的利益供与には当たらず、保険料は給与とみなされないということです(よって会社の経費にならない)。
これは、国税の方の見解なので、最高裁の見解まではわかりませんが、一つの参考にはなるでしょう。
下手なスキームを実行してしまっても、何の効果もないことになります。
退職金にリスクが発生
ただし、退職が近い年齢になったり、高齢になると、役員借入金の返済で受け取るリスクが生じます。
それが「退職金」「死亡退職金」の問題です。
退職金も死亡退職金も、会社の損金に計上できる額は、一般的に次の計算式で求めます。
・役員退職金支給額=最終報酬月額×在任年数×功績倍率(+功労加算)
ここで注目なのが最終報酬月額です。
最終報酬月額とは、役員の退職時の毎月の給与の額です。
ちなみに、賞与を含めた総収入を12か月で割った「数字でない」ことに注意が必要です。
裁判所の最終報酬月額の考え方は、「退職の直前に大幅に引き下げられたなどの特段の事情がある場合を除き、在職期間中における法人に対する功績の程度を最もよく反映しているもの」となっています。
したがって退職が近くなってきているのに、役員報酬を少なくした状態だと、法人の損金算入できる金額が極端に低くなってしまうのです。
退職の時期はまだコントロールできますが、人の死となるとコントロールできませんので、年齢が高くなってくると、役員借入金を返済で処理するより、死亡保険金(被保険者:オーナー社長)で返済できるようにしておいた方がいいでしょう。
その際は死亡保険金額は発生する法人税分も見越した額にしておくべきです。
まとめ
役員借入金のリスクについて解説しました。
役員借入金はすぐには問題となりませんが、額が大きくなってくるとリスクを生じます。
早め早めに処理しておく必要が出てきます。
返済で受け取れば社会保険料も税金もかかりません。
もし役員借入金があるなら、処理できる対策をしっかり考えておきましょう。
はじめまして
役員報酬の代わりに役員借入金を返済してもらうということは、役員報酬は経費として発生しないのでしょうか
とすれば、定期同額給与として毎月計上しなければならない役員報酬の取扱はどうなるかご教示いただけますと幸いです。
田中様
はじめまして、ご質問ありがとうございます。
>役員報酬の代わりに役員借入金を返済してもらうということは、役員報酬は経費として発生しないのでしょうか
仰る通りです。役員報酬として支給してない減額分は、経費も発生しないことになります。
>とすれば、定期同額給与として毎月計上しなければならない役員報酬の取扱はどうなるかご教示いただけますと幸いです。
仰るように、期の途中で役員報酬を減額した場合、定期同額給与になりません。
そのため
・(下げる前の金額 - 下げた後の金額)× 期のはじめから下げるまでの月数
が損金不算入になります。
詳しくは下記記事をご覧くださいませ。
https://tenpo-syukyaku.com/2019/06/29/%e5%bd%b9%e5%93%a1%e5%a0%b1%e9%85%ac%e3%82%92%e4%b8%8b%e3%81%92%e3%82%8b%e5%89%8d%e3%81%ab%e8%aa%ad%e3%82%80%e8%a8%98%e4%ba%8b/
したがって、その期の役員報酬を全額損金算入するためには、期の最初に減額分(役員借入分)を引いた役員報酬額に設定しなくてはいけません。
簡単ですが以上です。
それでは、よろしくお願いいたします。