同一労働同一賃金で正社員の給与は減額できるか?

労使トラブル対策

同一労働同一賃金の導入により、同じ職務内容であれば正規労働者と非正規労働者で「不合理な待遇差」をつけることは禁止されます。

この場合基本的には、正規労働者の待遇に非正規労働者の待遇を合わせることになります。

しかし中には資金の負担が大きく、正規雇用労働者の待遇を下げざるを得ないというケースも出てくるかもしれません。

とはいえ、この正社員の給与を減額するのは、かなり高いハードルを要求されます。

結論からいえば「正社員の給料を減らすのは難しい」というのが現実です。

減額には労使の合意が必要

はじめに、雇用契約における従業員の給与の額は、売買契約における売買価格のように契約の重要部分であり、従業員の給与を減額させることは契約内容を会社が一方的に変更することに他なりません。

労働法第2条では次のように定められています。

1・労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。

2・労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。

そのため従業員の同意が得らない減給は、原則的に違法で無効なものとなります。

また従業員との同意についても、「減額のことを従業員に話したが異議がなかった」と、単に異議を出さなかっただけでは「同意したとはいえない」と認められています。

したがって「書面による同意書がある」など、従業員の明確な意思表示が必要となります。

従業員の給与を下げるときの考え方

減額の基準は労働基準法91条

従業員の給与を減らす場合の考えとしては、労働基準法91条の考えたかが適用されます。

労働基準法91条には、

就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない

と定めてあります。

懲戒処分の減給の場合

これは懲戒処分による減額の場合でも、減給できる額は1回につき1日の賃金の半分を超えてはいけないですし、減額の総額が支払い給与の10%も超えてはいけないということです。

たとえば30万円の給与を支払っていた場合は、1日当たりの賃金は1万円になります。

したがって減額できる給与は

・1日分の減額できる額:1万円×50%=5000円

・1か月分の減額できる額:30万円×10%=30000円

となります。

これを超える額を給与から減額する場合は、懲戒処分のときであっても労働基準法の違反となります。

業績悪化で減給の場合

この労働基準法91条の減額の基準は、経営悪化による減額の場合にも基準となりますが、従業員と「合意」ができれば、給与総額の10%の上限の制限を受けることはありません

ただし、最低賃金法に定める最低賃金を下回らない範囲であることという条件がつきます。

地域別最低賃金の全国一覧

しかし最初にも述べましたが、従業員の給料を一方的に下げることはできません。

給与を下げる場合は「合理的な理由」が必要であり、その説明をしたうえで従業員の同意(書面による同意書)が必要になります。

ここでいう「合理的な理由」とは、単に「業績が悪くなったから」といった理由ではいけません。

業績が悪化して人件費を削減しなければ会社が危機に陥る可能性があり、それを、貸借対照表、損益計算書、資金繰り表などで合理的整合性をもって説明することが求められます。

管理職を降格させる場合

降格処分に伴って減給する場合の限度額については、法律上明確な規定はありません。

労働基準法第91条で減給の限度額は減給処分の場合の基準であり、降格処分の場合には適用されないのです。

そのため降格自体が合法であれば、「課長手当」や「部長手当」といった役職給を減額することは問題が少ないといえます(役職給の支給を停止することについては合法と判断した判例が多くなっているため)。

ただし、降格に伴って「基本給」を減らすことは問題となる場合が多くなりますので、慎重な対応が必要になります。

基本給の減額が合法と認められるためには次の3つの条件を満たす必要があります。

  1. 就業規則に基本給が減額される場合があることが規定されていること
  2. 基本給減額の決定過程に合理性があり、従業員の言い分を聴くなどの公正な手続きが存在すること
  3. 減額された従業員に対する人事評価の過程に不合理や不公正がないこと

引用元:降格処分について。会社側の立場で注意点を解説。

降格で減額する場合の注意点

そのほかにも降格で給料を減額する場合は次の注意点があります。

  • 退職に追い込むことを目的とした降格でないこと
  • 有休消化など正当な権利行使を理由とする降格処分でないこと
  • 2段階以上の極端な降格は違法と判断されやすい
  • 妊娠、出産、育児休暇を契機とする降格でないこと

上記に該当する場合は違法と判断されます。

引用元:降格処分について。会社側の立場で注意点を解説。

従業員の給与の減額手続きの手順

従業員の給与を減額するためには、次の3つの手順を踏む必要があります。

給与削減案の作成

給与削減案を作成し、そして従業員に向けて説明会を開催します。

給料を減額せざるを得ない状況についてできるだけ詳しく丁寧に説明しましょう。

就業規則の変更

賃金を減額する場合は就業規則や賃金規定を変更しなくてはいけません。

就業規則を変更する場合は労働基準監督署へ届け出る必要がありますが、その際労働者の過半数の代表者の意見を聴取し、書面化したものの添付が義務付けられています。

従業員から同意書を提出してもらう

就業規則や賃金規定の変更が終われば、従業員からの同意書を提出してもらいます。

内容を確認し、同意を得られれば、従業員に「自署」してもらいましょう。

自署にするのは、従業員の名前をあらかじめ印字してしまうと、会社が同意を前提に同意書を用意したと判断されかねないためです。

同意する従業員が少ない場合は後々のトラブルに発展する恐れがあります。

強引に同意を得るのは避け、再度の話し合いが必要です。

現実的に従業員の給与を下げるには難しい

以上のように従業員の待遇を下げるのは、かなりのハードルが求められます。

会社の経営状態が悪化した場合でも、簡単に給与を減額することは法律上も許されていません。

とならば同一労働同一賃金がスタートするから、という理由だけで正規雇用労働者の待遇を下げることは難しいでしょう。

その理由で従業員から合意を得られるかといえばはなはだ疑問です。

現実的には非正規労働者の待遇を上げる方向へいかなくてはいけないでしょう。

まとめ

従業員の給料を減額する際の考え方と必要な手続きについて解説してきました。

従業員の給料を減らすのは、通常でも法律的にもハードルが高いですし、従業員の同意を得ることも簡単ではありません。

同一労働同一賃金で賃金の総額が増えるとしても、ここは非正規雇用者の待遇を上げたほうが、何かとスムーズに進むのではないでしょうか。

この記事が同一労働同一賃金の際の給与の見直しの参考になれば幸いです。

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