「うちの従業員に払っている給料が高いのか安いのか」、人件費がいくらなら適正なのか、社長なら1度は悩んだことがあるはずです。
人件費はどの会社でも発生する費用であり、さらに生産性や売上げを決める重要度の高い費用です。
高すぎては会社の利益を圧迫し、低すぎては社員のモチベーションを下げたり人不足を招いたりします。
人件費の適正値を探ることは、経営者にとってとても大事な仕事といえます。
この記事では適正な人件費の求め方について解説します。
人件費を「人件費率」で考える
人件費が適正かどうか測る指標に人件費率があります。
人件費率は、売上に占める人件費の割合のことです。
・人件比率:人件費÷売上×100
人件費率の数値によって、人件費が高いかどうかを判断しようという指標です。
人件費とは、企業の事業活動に参加している人に対して支払う費用の総称のことです。
人件費の対象は次のものが含まれます。
- 社員の給与
- 各種手当
- 一時金等のボーナス
- パートやアルバイトへの給与
- 役員に対する報酬
- 法定福利費(社会保険・労働保険の保険料)
- 福利厚生費(慶弔金や社員旅行費などの法律が規定していないもの)
- 現物支給
これらの費用を足したものを売上総額で割ったのが人件費率です。
人件費率からわかる2つのこと
人件費率からわかることは次の2つです。
- 人件費の適正率
- 社員への還元度
1・人件費の適正率
人件費が高いかどうかを判定します。
売上高に対して人件費がかかりすぎているのであれば、人件費の見直しが必要になります。
人件費率が高ければ、会社の利益を圧迫していていることはもちろん、非生産的といえます。
たとえば人件費100万円で、売上を180万円作っている会社の人件費率は約56%です。
・100万円÷180万円=56%
しかし同じ人件費でも人件費率を50%に落とすことができれば売上高は200万円に伸ばすことができます。
・100万円÷50%=200万円
つまりその分だけ非効率だということです。
2・社員への還元度
人件費率は低ければ良いとはいえません。
人件費率が低いということは、社員への還元が十分でない可能性もあります。
その結果、
- 社員のモチベーションが下がる
- 人手が足りす商品・サービスの品質が悪くなる
- 離職で人手不足が起こる
- 品質の悪化・人手不足で経営悪化になる
といった悪影響を起こします。
人件費率が低ければ生産性が高いともいえますが、実は社員への還元が適正になされてない場合もあります。
そのため、社員への待遇がきちんとなされているかも検証しなくてはいけません。
業績は好調なのに社員へ還元していなければ、優秀な社員から離職してしまいます。
もしも理由もなく人件費率が低いのであれば、給与や福利厚生が適切かどうか検討しましょう。
業種別人件費率
あくまで目安ですが、業界別の人件費率を載せておきます。
- 旅館・ホテル:30%
- 訪問介護:66%
- 広告業:20%
- 美容・理容室:54%
- ガソリンスタンド:8%
- コンビニエンスストア:11%
- 居酒屋:36%
自社の人件費率をみるときの参考にしてみてください。
もっとシビアに労働分配率で考える
人件費率と似た指標に労働分配率があります。
労働分配率とは人件費率よりもっとシビアに見た数値です。
具体的には、粗利益額に対する人件費の割合を示した数字です。
計算式は次のように求めます。
・労働分配率:人件費÷粗利益額×100
人件費率は売上高に対して人件費の占める割合ですが、労働分配率は粗利益額に対してです。
企業にとっては、売上高より粗利益をいくら稼ぐかの方が大事ですので、人件費率より労働分配率の方が重要といえます。
人件費率では売上高に対して人件費が高いかどうかはわかりますが、粗利益を効率的に稼いでいるかまではわかりません。
たとえば人件費1500万円、売上高5000万円、粗利益額2500万円の会社があったとします。
この会社の人件費率は30%です。
・1500万円÷5000万円=30%
人件費率で考えれば低いかもしれません。
しかし労働分配率で考えれば60%となります。
・1500万円÷2500万円=60%
この場合60%が業界水準より高いのであれば、生産性が非効率ということであり、人件費の見直しを検討しなくてはいけないでしょう。
人件費率が高すぎるときの改善法
単価を見直す
人件費率は売上に占める割合のことなので、単純に考えれば人件費はそのままで、売上を伸ばせば人件費の占める割合は低くなります。
人件費を変えずに売上を伸ばすには、商品・サービスの単価の値上げが必要になります。
安売りしているのであれば、適正な価格に戻して販売するだけでも単価アップ効果があります。
どのようにして単価を決めればよいのか、下記記事をご参考にしていてください。
人件費を下げる
人件費を下げれば人件費率も低下しますが、それにより失うものも大きくなります。
先述したように、社員のモチベーションは下がり、商品・サービスの品質も下がります。
このような状態が悪循環を招かないわけがありません。
それに人件費を下げるのは、社員の合意が必要で、その承諾を得るだけでも大変な作業です。
しかも従業員の給料は、合理的な理由もなく下げることは違法になります。
賃金を下げるときは、この辺を踏まえて慎重に行う必要があります。
時間単位で人件費を考える
人件費を月や日数でなく、時間単位で管理を行います。
要は時間単位で工数管理を行いましょうということです。
時間単位の工数管理は、労働者がある課題を達成するのに、どのくらいの時間を要したのかを計る指標です。
これにより「労働者の生産性を高め、仕事の効率化を図ること」と「プロジェクトにおける人件費を算出する」ことが行えます。
時間という単位に作業を分解することで、より無駄を省く効果が見込めます。
同一労働同一賃金に気を付ける
作業工程を時間単位にしていくことで、人件費もより細かくわかることになります。
その場合、同じ作業なら正社員に任せるよりも、パートなどの非正規社員に任せた方が良いと判断することもあるでしょう。
しかし2021年4月から同一労働同一賃金のルール改正が行われば(大企業は2020年4月から)、この考えはルール違反となる可能性がありますので注意が必要です。
同一労働同一賃金とは、同じ職務内容であれば正規労働者と非正規労働者で「不合理な待遇差」を禁止にする法改正です。
これにより明らかに職務内容に違いがある場合を除き、正社員と非正規社員での給与面(手当・福利厚生などを含む)で差をつけることが難しくなります。
したがって、非正規労働者を利益の調整に使うといった考え方も厳しくなると思ったほうがいいでしょう。
その場合は外注化を検討しなくてはいけません。
作業の効率化を図る
人件費を削減するためには、設備投資やIT化などにより、作業の効率化を図ることも有効です。
たとえばレジをタブレットPOSレジを導入することで、会計作業やレジ締作業といったことを一気に短縮することができます。
またキャッレス化も作業効率の改善に役立ちます。
ただし設備投資やツールの導入には、それなりに資金が必要になります。
そのためお金の余裕のない会社は設備やツールを導入したくてもできないという事情があります。
しかしそんなときには「助成金」の活用を考えましょう。
助成金は雇用関係の取り組みに支給されるお金ですが、働き方改革の一環で、作業効率を上げ社員の労働時間を短縮したときなどにも支給される助成金があります。
このような助成金を利用すれば、設備投資やIT化の導入でも資金の負担を軽減できます。
まとめ
この記事では人件費が適正かを見る人件費率とその改善法について解説してきました。
いろいろな場面で従業員の給料を「いくらにすればよいか?」と考えるときがあるかと思います。
そんなときは人件費率を参考にされてみてはいかがでしょう。
きっと参考になると思います。
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