社長の老後資金を残すには退職金リスクにしっかり備える

社長の手取りを増やす方法

退職金は老後の資金を支える貴重な財源です。

国の年金財政がすでにあてにならないことは、少子高齢化、人口減少、年金の支給年齢の引き上げ、在職老齢年金の廃止案などを考えると、現実のものとなっています。

公的年金だけに頼ると老後破産という恐ろしい現実が待っています。

国も年金など公助の限界を認め、国民の自助を促しております。

人生100年時代の蓄えは? 年代別心構え、国が指針案(朝日新聞)

そうなると、退職金を大いに活用しないと、老後資金は不足することになります。

とくにオーナー経営者の場合、法人に残したお金を所得移転するには退職金の活用は必須です。

にもかかわらず、退職金に潜むリスクに対して鈍感なのは、少しヤバいといってもいいでしょう。

なめたら怖い退職金リスク

退職金に潜むリスクとは税務上のリスクです。

そう、退職金が否認されたときのリスクです。

社長の退職金は、一般的に高額になります。

あなたのようなビジネスセンスのある社長ならなおさらです。

事業の成功により、多額の退職金を受取られることでしょう。

しかしここに税務上のリスクが潜んでいます。

退職金は支給額が高額なため、万が一否認されたときはその損失が大きくなってしまうのです。

これってとっても怖いことだと思いませんか?

退職金に潜む2つのリスク

退職金の否認には2つのパターンがあります。

リスク1・過大退職金

退職金の支給額が過大だとして、「過大な部分」部分が損金不算入になり、追徴税額が課税されます。

過大退職金は法人側だけのペナルティで、個人にはペナルティはありません。

リスク2・退職の事実

退職の事実が否認されるパターンです。

退職金は受け取って、実質経営者として会社に携わっている場合です。

退職の事実が否認されると、法人と個人両方にペナルティが課せられます。

法人側は退職金の全額が役員賞与とされ、損金不算入になり、追徴課税されます。

退職金額が大きいだけにその税額も大きくなります。

さらに過大と評価された分だけ利益が増加しますので、自社株の価額も上昇します。

個人側は税優遇されている「退職所得」ではなくなり、退職所得の税優遇がなくなり、所得税の負担が一気に増えます。

仮に4000万円超の所得になると、所得税の負担率は45%になります。

退職所得控除は控除額があるだけでなく、課税所得が1/2になります。

4000万円の退職金を受け取っても、課税所得が2000万円以下になるのです。

退職所得の税優遇を取り消されることがどれほどおそろしいかご理解いただけたかと思います。

それだけにとどまりません。

会社の株価も上昇しますので、相続税や贈与税の負担増のリスクも高まります。

退職金を否認された事例

ここで退職金を否認された事例をご紹介します。

その社長は役員退職金として3億円会社から受け取りました。

しかしその後の税務調査で

  • 株主総会の議事録を紛失していた
  • 新社長は退職金の額を知らなかった
  • 取締役会は開催しておらず形式だけの議事録だった

と、いわゆる「お手盛り」で退職金を支給したことが判明し、否認されてしまったのです。

その結果、役員退職金は役員賞与と認定されます。

役員賞与は損金不算入のため、当時の実効税率の4割の1億2千万が本税として、そこから仮装・隠ぺいがあったとして「重加算税」、さらに延滞税を加算され、トータル1億8千万円の追徴課税をされました。

退職金を受け取った社長は、退職金が役員賞与となったため、約1億5千万円の税額になり、退職所得としてすでに納めた6千万円との差額、9000万円が本税となり、さらに重加算税と延滞税が加わり、1億4千万円を支払う羽目となりました。

法人と個人を合わせれば、3億2千万円の税金です。

受取った退職金3億円よりも、支払う税金の方が多くなってしまいました。

これでは老後資金どころか、老後破産のリスクが一気に高まります。

もちろん引退した会社にとっても大きな損失、どころか会社存亡の危機とさえいえます。

退職金は金額が大きいだけに、ペナルティを課せられたときは、その金額も比例して大きくなり、被る損失も甚大です。

これが退職金のリスクです。

退職金リスクを避けるために準備しておくこと

退職金のリスクを避けるためには

  1. 退職金規定を作っておく
  2. 株主総会で支給を決めるときは、実際に開催して議事録を残しておく
  3. 実態として退職する(退職後は経営に関わらない)

といったことが必要になります。

中小企業は事例のようにお手盛りになりがちですが、それでは否認のリスクが大きくなります。

ちなみに、「過大退職金」と「退職金の否認」では、「退職金の否認」の方がペナルティは大きくなります。

たとえば、1億円の退職金のうち3000万円が過大と否認されれば、3000万円について課税されます。

しかし「退職金の否認」をされると、1億円全額が、ペナルティの対象となります。

法人側では1億円が損金不算入、個人側では「退職所得」が「給与所得」なって、所得税・住民税がどんと増えます。

退職金を受取ったなら、事実上の引退をしないと、否認されたときの損失は大きくなります。

「事前確定届け出給与」を使ったスキームには注意

余談ですが、退職金の損金計上額を算出する計算は

・最終報酬月額×在職年数×功績倍率+功績加算

となります。

社長の場合功績倍率は3.0が一般的です(功績倍率は功績加算も含めて3.0というのが税務上の考え方です。功績倍率3.0に功績加算1.3を加えると、功績倍率は3.9になり、否認される可能性が出てきます)。

このとき計算式に使われる最終報酬月額は、「退職の直前に大幅に引き下げられたなどの特段の事情がある場合を除き、当該退職役員の在職期間中における法人に対する功績の程度を最もよく反映しているもの」というのが裁判所の考えです。

引用元:役員賞与を12等分して、最終報酬月額に加算する妥当性

ポイントは役員賞与を含めた「年収÷12か月」が最終報酬月額になるわけではないということです。

そうなると、年金復活プランや社保削減のために「事前確定届け出給与」を使ったスキームを使っていると、極端に月額の給与が低くなるため、損金計上額が大きく取れないリスクが出てきます。

繰り返しますが、退職金は金額が大きいだけに、否認されたときの損失は甚大です。

事前確定届け出給与を使ったスキームは、そいった危険性があることを十分認識しておきましょう。

まとめ

退職金は金額が大きいだけに、税務署も注目しています。

バレなければいいと考えるのはとても危険です。

社長の老後資金をしっかり残すには、お金を増やすことだけでなく、税務上のリスクにもしっかり目を向ける必要があります。

金融商品の運用や事業の成功でお金がたくさん増えても、税金でガッポリ取られれば老後資金は残りませんよ。

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