手元資金を増やすには、いかに低い税率のゲートを潜らすかが大きなポイントになってきます。
そこで使うのが「一時所得」です。
効率よく資金移転するには?
同じ100万円を受取るのでも、ゲートの税率によって手取りは変わります。
経営者の場合、オーソドックスな報酬の受け取り方は4つあります。
一つは役員報酬、二つ目は役員賞与、三つめは退職金、四つ目は配当です。
この中でもっとも効率よく所得移転できるのは退職金で、もっとも非効率なのは役員賞与になります。
なぜなら退職金には大きな非課税枠があり、役員賞与は法人・個人ともダブルで課税されるからです(事前確定給与届出がない場合)。
※配当の場合は、会社は税引き後の利益で配当することになりますので、個人と法人で課税されます。
仮に在職10年の役員が2000万円の退職金を支給される場合と、役員賞与で2000万円受取る場合、個人の所得税にどれくらい差があるかといいますと
役員退職金
・課税対象金額:(2000万円-400万円(40万円×10年))×1/2=800万円
・個人の所得税:800万円×23%-63万6000円=120万4000円
役員賞与
・個人の所得税:2000万円×40%-279万6000円=520万4000円
<差額>
・520万4000円-120万4000円=400万円
400万円も納税額に差があることがわかります。
今さら説明しなくてもこんなことはご存知でしょうが、税率がどれだけ手取りに影響するかあらためてご理解いただけたかと思います。
一時所得で受取るとお金が増える
所得には、給与所得や退職所得を含め10種類の所得があります。
その中の低い税率で受取れるものに「一時所得」があります。
一時所得とは、簡単にいいますと、ギャンブルや懸賞金、生命保険の満期保険金などの臨時収入のことです。
一時所得になるものは次の通りです。
(1) 懸賞や福引きの賞金品(業務に関して受けるものを除きます。)
(2) 競馬や競輪の払戻金
(3) 生命保険の一時金(業務に関して受けるものを除きます。)や損害保険の満期返戻金等
(4) 法人から贈与された金品(業務に関して受けるもの、継続的に受けるものは除きます。)
(5) 遺失物拾得者や埋蔵物発見者の受ける報労金等参照元:一時所得とは
一時所得の税率がなぜ低くなるかというと、最終的に課税対象となる金額が半分に減額されるからです。
一時所得の課税額の計算式
・(総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額(最高50万円))×1/2=一時所得の金額
ということは、所得税で最高税率45%掛かる場合でも、一時所得で受取ることができれば、税金の負担は22.5%で済んでしまうということです。
・1/2×45%=22.5%
これは所得が多い人ほど、一時所得で受取った方がお得ということになります。
もちろんそれだけ優遇されるわけですから、認められるケースは限られますが、一時所得として受け取れるならそれを利用しない手はないでしょう。
差額891万円
たとえば生命保険の死亡保険金の場合、契約形態を変更することで一時所得として受け取ることも可能です。
一時所得して受け取れる保険の契約形態は次のようになります。
- 契約者:A
- 被保険者:B
- 保険金受取人:A
一時所得として受け取ることができれば、資産が多い場合は相続財産として受け取るよりも手元資金は多く残ります。
仮に次の保険に加入したとします。
保険料は父から子へ、毎年100万円の暦年贈与をします。

たとえば6年目に父が亡くなったとき、子は1300万円の死亡保険金を受取ります。
このとき子が受け取った死亡保険金は相続税ではなく、一時所得の対象となります。
一時所得の課税対象額は
・(1300万円-408万円-50万円)×1/2=421万円
421万円になり、他の所得と合算して所得税を支払います。
もしこれが相続税の課税対象となっていたらどうでしょう?(契約形態は契約者:父、被保険者:父、保険金受取人:子)
1300万円が課税対象になりますので、課税額に879万円の差が出たことになります。
ただし相続税の対象になれば、「500万円×相続人の数」という非課税枠がありますので、一概に一時所得の方が得だとはいえません(トータルのシミュレーションが必要になります)。
しかし
- 他にも相続対象の死亡保険金がある
- 相続人の人数が少ない(基礎控除、保険の非課税枠ともに少なくなる)
- 基礎控除以上の財産がある(基礎控除:3000万円+(600万円×相続人の数))
といったときは、一時所得で受取る方が手残りが多くなる可能性があります。
相続税の納税資金と遺留分対策に
また一時所得で受け取った死亡保険は、保険金受取人の固有の財産となります。
中小企業の社長の場合、個人資産が自社株と事業用資産と自宅で手持ちキャッシュが少ないということがあります。
こういった状況だと、事業を受け継いだ後継者が相続税の納税資金に困るということが起きてきます。
相続税は原則現金での納税、しかも相続の開始を知った翌日から10ヵ月以内で、この期間内に現金を用意して納税しなくてけません。
資金がない人にとってはハードなスケジュールです。
それが一時所得として受け取ることができれば、相続の発生した時点で後継者が余裕を持って納税資金を確保することができるのです。
また遺留分対策として、後継者が代償分割の資金を持っておくこともできます。
しかも、繰り返しになりますが、一時所得は半分が非課税になり、相続税より手残りが多くなります(ケースによる)。
納税資金、遺留分対策と大きなお金が必要になるとき、手元のキャッシュを1円でも多くすることは重要なことです。
親の会社を引き継ぐときも有効
亡くなるなんてまだまだ先の話でしょうが、ご自分が親の会社を引き継ぐ場合はどうでしょう?
税率の低いゲートで所得移転できることを、知っているか知らないかで、その後の資金繰りに大きく影響してきます。
もちろん生前でも、社会保険料を削減しつつ、生命保険を一時所得で受取る方法はあるのですが。
手元資金を増やすには「いかに低い税率のゲートを潜らすか」これがポイントです。
そのためにも、生命保険をしっかり活用したいとことです。
生命保険は、契約者、保険金受取人を変更することができますから、相続対象だったものを一時所得課税にすることもできます。
まとめ
会社から経営者個人に最小で所得移転するには、退職金が非常に効果が大きいです。
しかしそれ以外にも、実は一時所得という課税区分にすることも有効な方法なのです。
そのとき役立つのが生命保険です。
そう考えると、営業に来る保険営業マンを無下に扱えませんね(もちろん、こういったことを知らない保険営業マンはぞんざいに扱われることでしょうが)。
所得移転を考えるときは、一時所得を設計に組み込みましょう。
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