経営者が手取りを増やしてお金を貯めておくことは、会社を守る防衛策として大事なことです。
会社が資金不足の際には、確実な資金調達ルートになるからです。
しかしだからといって、会社にお金を残さず個人に所得移転してしまってもいいかといえばそんなことはないでしょう。
財務戦略を含めトータルで考えるなら、会社に必要なお金をあらかじめ設定し、それに影響しない形で、経営者の役員報酬額を決めるべきです。
役員借入金は便利に使える
会社の事業資金が足りないときに社長個人のポケットマネーで補うことを「役員借入金」といいます。
この役員借入金は会社にとっては負債ですが、いざというときは会社の自己資本に振り替えることもできますし、社長が債権放棄すれば借金を帳消しにできます(ただしどちらのケースも会社側に債務免除益が発生する場合があります)。
また融資の際に、役員借入金を自己資本とみなしてくれる金融機関もあります。
仮に債務超過でも役員借入金を自己資本とすれば、債務超過でなくなり融資されるケースもあるのです。
・社長を悩ます役員借入金と役員貸付金のメリット・デメリットを徹底検証!
会社との貸し借りがあると不利になる
このように借金とはいえ使い勝手が良いのが役員借入金です。
しかし会社と社長個人の貸し借りは、あまり好ましくないのが事実です。
たとえば「経営者保証に関するガイドライン」では、社長個人と会社の「経理・資産が分離されていること」が、会社の借入の連帯保証人にならないでよい条件の一つにあげられています。
連帯保証人は思う以上に経営者とご家族の足かせになる制度です。
事業に失敗すれば個人資産のすべてを失う可能性もあります。
万が一病気などでお亡くなりになられた場合でも、負債が大きければ、ご遺族は廃業するか負債ごと事業を引き継ぐか、すべての財産を放棄するかの選択を迫られます。
ただし相続を放棄する場合でも、保険を上手に利用すれば、ご家族にお金を残すことはできます。
反対に事業が好調の場合でも、連帯保証の債務は廃業しない限り相続財産から控除できませんので、場合によっては多額の相続税が発生することもあります。
このように、非常に面倒でデメリットが大きい連帯保証を外したり個人保証なしで新たに融資を受けたいときは、社長と法人間で貸し借りがない方が有利に交渉しやすいのです。
・銀行融資と社長と連帯保証人。その知られざる本当の怖さとは?
個人と法人で何かと公私混同されている会社は、基本的に安心してお金を貸せないでしょという話です。
中小企業もクリーンな会社でなければ政策の恩恵は受けられないのです。
役員借入金で相続税が発生
また、役員借入金は社長の相続財産(債権という財産)になりますので、会社に貸したままお亡くなりになると、相続税が課せられる可能性があります。
役員借入金の額が大きい場合は、どこかで借入を清算するか、会社にお金がなくて借入を清算できなければ、経営者に保険を掛けて死亡保険金で納税資金を用意しておかなくてはいけません。
死亡保険金には「500万円×相続人の数」という非課税枠がありますので、現金でご家族に残すより、所得移転のコストが少なくて済みますので、納税資金を用意するには保険の方がメリットがあります。
相続税は現金納付が原則ですので、現金がないとご家族が金銭的に困ることになります。
以上のように、会社との貸し借りは経営者にとって不利な面が多く、可能な限り会社は会社のお金で回せるようにしておくのが理想です(事業には波があり、理想通りにいかないのが現実ですが)。
会社の資本政策を考える
そしてもう一点大事なのが、経営者の役員報酬が会社の財務戦略に影響してくることです。
会社が収益を上げ続けるために必要な資金や、ピンチのときにも耐えられる資金を会社内で残しておかないといけません。
いわゆる「自己資本比率」を高める政策です。
自己資本比率とは、総資産に占める自己資本の割合のことで、次の計算式で求めます。
・自己資本÷総資本
自己資本とは株主からの出資(資本金)と、会社が事業活動から貯める内部留保によって構成されています。
内部留保は毎年の利益剰余金からしか貯めることはできません。
つまり、社長の役員報酬を含め、過剰なキャッシュアウト(節税や無駄な経費)があると、利益剰余金は少なくなり、結果として内部留保も貯められなくなってしまうのです。
内部留保が少なければ、社長が出資するか、他から出資を募って増資する以外は、自己資本比率を高めることはできません。
自己資本比率の少ない会社は、他人資本(銀行の借入等)の割合が高くなり、経営基盤は脆弱になります。
したがって自己資本を戦略的に大きくしていくことは、会社の経営基盤を強くするために必要なことなのです(ただし、固定資産でなくキャッシュで持つことが重要です)。
そのような財務戦略のない会社の基盤は脆弱で、不況の波が来れば会社がすぐに潰れてしまいかねないのです。
であるなら、社長の役員報酬も、個人の手取りが増えるようにMAX取ればいいとはならないでしょう。
だからこそ会社の財務戦略と合わせて、会社にお金が残るよう役員報酬の額を設定すべきなのです。
極端な話、会社が無くなってしまえば、手取りも何もないのですから。
まとめ
会社の財務戦略には、必ず社長の意思が入っていなくてはいけません。
むしろ入ってなくてはおかしいでしょう。
どんな会社にするために、いくらのお金を会社に残すべきなのか?
そこまで未来像を考えて、自身の手取りを決めましょう。
手取りの多寡だけで決めるのは、策なしと一緒です。
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