
資金繰り改善は事業存続に関わる問題です。
一般的に売上を伸ばせば資金繰りは改善すると思われがちですが、黒字倒産という言葉もあるように、会社は売上があっても資金繰りに詰まってしまえばあっけなく倒産してしまいます。
売上を確保することと資金繰りを確保することは必ずしも一致しないのです。
企業経営を順調に行うには、売上を上げると同時に資金繰りを改善にも取り組まないといけません。
この記事では資金繰り改善方法について代表的なの方法を解説していきます。
・CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)を使って資金繰りを改善
資金繰りを改善するの16手法
今日からできる資金繰りを改善する効果的でオーソドックスな手法を16ご紹介致します。
1・売掛金の現金化を早める
売掛金を現金化する日数を短縮すれば資金繰りは改善します。
売掛金を現金取引に変更なら、なお良いです。
または手形で支払いを受けている会社があれば、手形の日数を短くしてもらったり、手形から現金取引へ変更できないか交渉します。
ただ売掛条件の変更は、相手との力関係もありますし、そもそも向こうにとって都合の悪い条件を飲むことになるので、なかなか交渉しづらいということがあります。
そこで交渉時には、「他社さんもそうしてもらっています」と一言入れましょう。
意外にもこの一言が効くようです。
とはいえ、相手に分の悪い条件を飲んでもらうわけですか、こちらから譲歩する部分も交渉相手によっては必要です。
そこで相手にメリットのあるように、次の条件を交渉の材料にします。
- 値引き
- 無料サービス(保守点検など)
このような条件と引き換えに売掛金の短縮や現金取引への変更を交渉しましょう。
売掛金の不良債権を避ける
売掛金は不良債権化することもしばしば起こります。
売掛金の焦げ付きはなるべく避けいたいところです。
それには社内で回収ルールを基準化し、取引先の管理を徹底することからはじまめます。
前払い制の導入
商品やサービスによっては、前払い制や手付金の導入を検討するのも方法です。
先に料金をもらうのは気がひけますが、前払いしてもらえば売掛金の貸倒れリスクを軽減できます。
たとえば保守費用の前払いにすれば、料金をもらえなければサービスを提供することを止めればよいだけです。
ただしトラブルにならないよう、前払い制であることを事前に伝え、それを契約書にして交わしておきましょう。
2・現金払いを買掛にし、支払はなるべく遅くする
売掛金と逆に取引先への支払いは、現金払いを買掛金にし、その支払いをなるべく遅くすることで資金繰りは良くなります。
商売はお金の先出しが基本ですので、その先出しをなるべく遅らせると、キャッシュが貯まるようになります。
売掛金とは違い、支払いの主導権はこちらが握っていますので、交渉を有利に進めることができます。
ただし取引相手とも長い関係になるのなら、あまり無茶な要求はできません。
ここでも値引きやオプションサービスの追加などの交換条件を使って、お互いがWINWINの関係になるように交渉を進めたいところです。
また強気に出れる取引相手なら、「この条件が飲めないなら他の業者を探す」と取引先の変更を示唆するのも強力な交渉手段になります。
カードの導入
見逃しがちですが、支払いをカードにするのも資金繰り改善には効果的です。
法人カードの支払いは、30日~60日後に引き落とされるケースがだいたいで、この支払いのタイムラグが資金繰り改善効果をもたらします。
現金で買うよりカードの支払いを検討しましょう。
回収と支払条件の見直しは速効性のある資金繰り改善法
資金繰り改善といえば売上アップをイメージされる方が多いかもしれませんが、売上アップと資金繰り改善は必ずしも一致しません。
売上アップには経費・人件費・仕入のアップが伴いますし、売上獲得のためのムリな値下げが資金繰りを悪化させることがあるからです。
それに比べ回収・仕入れ条件の見直しは、交渉次第で経費・人件費・仕入をそのままに資金繰り改善を行うことができます。
しかも速効性まであります。
回収・支払条件の見直しは、まさに社内に眠る埋蔵金なのです。
積極的に取組みましょう。
・売上が下がったでもその前に。新規集客よりキャッシュ対策が先な理由
3・仕入・経費の見直し
すでに見直しされているとは思いますが、仕入・経費の削減は資金繰り改善の基本的な方法です。
通常仕入れは変動費、経費は固定費に分けられます。
変動費とは売上の増減によって変わる費用で、固定費とは売上に関係なく一定にかかる費用です。
変動費と固定費の削減で最初に取組みたいのは固定費です。
固定費は売上に関係なくかかる費用なので、固定費が下がれば残る利益は多くなります。
つまり売上に対する損益分岐点が下がるということです。
削減効果の大きい固定費
削減効果の大きい固定費には、家賃、法人保険、支払利息があります。
これらを見直すことで、無駄なキャッシュアウトが抑えられ、社内にお金が残るようになります。
4・外注化する
外注化することで資金繰りを改善できます。
外注化をするメリットは、大きくいって次の2つがあります。
- 社会保険料・源泉所得税が掛からない。
- 消費税の節税になる。
社会保険料は年々増え、その負担は会社分は約15%もあります。
しかも社会保険料は赤黒関係なく納めなくてはいけない費用なので、15%の負担が丸々会社の資金繰りを直撃します。
また外注費は消費税の課税取引ですので、預かった消費税から外注費分を引くことができ、結果として納める消費税を少なくすることができます。
したがって、社内に振っていた仕事を外注化することで、資金繰りを改善する効果があります。
ただし外注化は、消費税の節税、源泉所得税に関わることなので、税務署の厳しいチェックが入ります。
ただ単に「外注しました」では否認される怖れが強くなります。
外注化するときは、税務署から否認されないよう対策を取っておかなくてはいけません。
・その消費税節税対策は大丈夫?外注費を給与にされない5つのポイント
5・在庫の処分
不良在庫を処分すれば資金繰りは改善します。
不良在庫は資金繰りを悪化させる大きな原因です。
その理由は
- 売れずに現金化されない
- 資金が長期間眠ってしまう
- 売れない在庫は費用にならず利益を増やしてしまう
ということが挙げられます。
ご存知の通り、売れない在庫はいつまでも現金化されず、その間資金は在庫に化けて眠ってしまいます。
さらに不良在庫は売れないので、費用に計上することができません。
費用に計上できるのは売上に対応したものだけなので、売れない在庫は仕入原価にカウントしてはいけないのです。
そのため売れないのに利益が増えるという現象が起こり、法人税が発生してしまいます。
現金化できないのに、仕入れと法人税を支払わなくてはいけないのです。
不良在庫がどれだけ資金繰りを傷めるか理解できます。
ですから不良在庫は赤字覚悟で処分してしまった方が良いのです。
処分方法は
- 大幅値引きで売却
- 棚卸資産の評価損
があります。
不良在庫を処分することで、どれだけの資金繰り改善効果がるか、たとえば仕入価格300万円の不良在庫を100万円で売ったとします。
このとき不良在庫で眠っていた現金が100万円入ってくることになります。
しかも売却損の200万円(300万円-100万円)が発生しますから、その分だけ利益が圧縮され節税効果が生まれます。
200万円利益が少なくなれば、実行税率30%とするなら、120万円(200万円×30%)のキャッシュが手元に残ることになります。
ですから「もったいない」と考えず、思い切って処分してしまった方が良いのです。
6・投資・借入の返済(元本部分)は営業キャッシュフロー内に収める
営業キャッシュフロー内で投資を行うことで、資金繰りを傷めることなく会社を成長させていくことができます。
営業キャッシュフローとは、「営業利益+減価償却費」の合計金額のことで、いわゆるフリーキャッシュフーのことです。
フリーキャッシュフローは、経費から税金から何から何まですべて支払った後に残るお金のことで、会社が自由に使えるお金です。
この金額内に投資が収まれば、追加資金の必要なく会社を回していけることができます。
また借入の返済(元本部分)も、フリーキャッシュフロー内に収める必要があります。
仮にフリーキャッシュフロー額を超える毎年の返済があるということは、会社がその年に儲けた利益では返済しきれないということなので、さらに借入をして借金を返済しなくてはいけなくなります。
つまり自転車操業状態になり、資金繰りが苦しくなるのです。
ですから、資金繰りを良くするには、投資も借入の返済(元本部分)も営業キャッシュフロー内に収めるようにしなくてはいけないのです。
7・高利益体質に転換する
会社を高利益体質にすることで、資金繰りは改善します。
高利益体質にするには、経費・仕入を削減するか、販売単価を高くするしかありません。
経費・仕入についてはすでに述べました。
販売単価を高くするにはいうほど簡単ではありませんが、やはり取組んでいかなくてはいけない課題です。
とくに資金繰りが苦しい企業が安易に安売りに走るのは、自らの首を絞めるようなもので、採用してはいけない戦略です。
また資金繰りを改善しようとして、売上至上主義に陥ることも危険です。
会社が生き残るには、売上でなく利益こそが重要です。
実際問題、経営問題が出てくるのは粗利が少なくなってきたときです。
たとえば売上があっても、赤字仕事や利益がトントンの仕事を請け負えばどうでしょう?
不足分を手元のキャッシュから引き出すことになり、余計に資金繰りが苦しくなります。
高利益体質への転換が必要です。
8・無理な設備投資はしない
設備投資は会社の収益を伸ばすために必要なことですが、その反対に
- 大きな資金を投入しないといけない
- 減価償却に時間がかかる
というデメリットがあります。
そのため設備投資後は、会社のキャッシュフローが悪化します。
資金繰りの悪化を避けるには
- 設備投資がもたらす売上増を高く見積もらない
- 長期の返済計画を立てる(可能なら減価償却期間と同じにする)
- 短期の返済は避ける
ということが必要になります。
9・金利交渉、返済期間、返済額の借入条件の見直し交渉をする
銀行に借入がある場合は、金利交渉、返済期間、返済額などの条件の見直しの交渉をしましょう。
条件の見直しで資金繰りは改善します。
支払が苦しいときはリスケ交渉ですが、資金繰りの余裕のあるときでも銀行と交渉を行い、支払い条件を自社に有利にしましょう。
銀行とて取引先の一部です。
特別視しないで交渉を積極的に行いましょう。
10・貸付金・仮払金を無くす
会社から社長や役員に貸付金があるなら、必ず解消しておきましょう。
役員貸付金が発生したときは、1~2ヵ月の短期間で返済してしまうのが基本で、ズルズルと延ばしたり、さらなる借入をするのはご法度です。
役員貸付金は銀行が嫌う科目で、これがあることで融資を受けられない可能性が出てきます(あればどのように解消するか返済計画を聞かれます)。
仮払金についても、一時的な立替払いにしかすぎませんので、そもそも資産としてみてくれませんし、仮払いのような不明瞭なお金の流れがあることを銀行は良しとしません。
融資が必要な企業の場合、貸付金や仮払金が発生することは避けなくてはいけないのです。
赤字決算を避けるため、賞与を貸付金や仮払いで支払うような、不自然な流れはやめましょう。
・社長を悩ます役員借入金と役員貸付金のメリット・デメリットを徹底検証!
11・節税に偏らない
節税の基本は利益を減らすことです。
法人税は利益に対し課せられる税金だからです。
利益を減らせば納税額も減りますが、同時に残るキャッシュも減ってしまいます。
仮に1000万円の利益があり、これを節税で500万円に圧縮すれば※法人税30%で計算
・500万円×(1-30%)=350万円
手元資金は350万円になっていしまします。
それをはじめから1000万円で納税していればどうでしょう?
・1000万円×(1-30%)=700万円
となり、節税する前より2倍もキャッシュが手元に残ることになります。
節税のし過ぎが資金繰りをどれだけ傷めるかご理解いただけるでしょう。
資金繰りを改善するには、節税のし過ぎをしないようにします。
12・資産の売却
固定資産の中に、使わないものや収益を発生させないものがあれば、売ってキャッシュ化することで資金繰りを改善できます。
売ることができず廃棄したときは「除去損」といった処理をすることができまます。
固定資産を売却したり除去損として税務処理することは、資金繰り改善効果もありますが、経営のスリム化にも効果があります。
仮に5000万円の資産で1億円の売上を作るより、1000万円の資産で1億円の売上を作れる方が効率的な経営といえます。
無駄な資産を抱えることは、無駄なコスト(修繕・維持費)も発生させることにもなるわけで、それは効率的じゃないだろうという話です。
事業の一部を売却
資金繰り改善には固定資産の売却もありですが、昨今では中小企業のM&Aも活性化しています。
つまり、事業の一部を売却して資金を調達し、その上事業経営の効率化も図れるというわけです。
資金繰り改善にはM&Aも考慮に入れましょう。
13・利益とキャッシュの違い
帳簿上の利益と実際のキャッシュの流れには違いがあります。
このことを認識してないと、仕入や借入の返済、税金の支払い時に資金繰りに詰まることになります。
利益とキャッシュの違いは、売上がキャッシュに換わるまでの時間差によるとこが大きいです。
また減価償却費の存在も、利益とキャッシュの流れが違う原因にもなっています。
資金繰りを正確につかむためには、損益計算書だけでなく、資金繰り表を付けることをお勧め致します。
14・資金繰り表を作る
資金繰りが苦しい会社は、資金繰り表を作ることをお勧めします。
資金繰り表は、予定資金繰り表と実態資金繰り表の2種類を作ります。
資金繰り表を作る効果は、先々の支払予定がわかるので、そのときにどくらい資金が必要かもあらかじめ知っておくことができることです。
資金不足を予測できれば、その穴を埋めるための資金調達が必要で、事前に用意できます。
そうすれば資金ショートするリスクが軽減できます。
15・役員報酬を減額する
経営責任ということでは、社長の役員報酬を減額して、資金繰り改善に取り組む必要があります。
会社が赤字でも続けていくには、どの道社長個人の資産から補てんするしかありませんが、社長が役員報酬を減額することで、銀行などには経営改革の本気度が伝わります。
役員報酬を減額することで、決算書上では黒字になることもありますし。
ちなみに赤字で役員報酬を支払い続けるときも、役員借入金が増える原因になります。
役員報酬を損金扱いにするには、決まった額を定期的に支払わなくてはいけません(定期同額給与)。
そのため一旦役員報酬を支払い、定期同額給与になるようにします。
その上で会社に資金が不足していますので、社長が受取った役員報酬から会社に貸付けることになります。
こうして役員借入金がどんどん膨らんでいくことになります。
16・人件費の生産性を高める
人件費は経費の中でも大きなウェイトを占めます。
では、その人件費に見合うだけの利益を上げられているのでしょうか?
仮に人件費20万で100万売り上げるのと、効率を高めて120万売り上げるのとでは、1.2倍の差が開くわけで、2つの間にはあきらかに生産性の違いがあります。
その差の原因が何のか、客観的な数値を用いて評価します。
もちろん数字がすべてではありませんが、数字にしないと適正な判断はできません。
売上は人から生み出されるものですから、設備投資や仕事の方法を変えて人的生産性を上げないと、利益率はアップしないでしょう。
人件費が効率的かどうか計る数値は
- 売上高人件費率
- 労働分配率
- 人時生産性
の3つがあります。
売上高人件費率
売上を作るのにいくらの人件費が使われたかを表す指標です。
・人件費率=人件費÷売上高×100(%)
この数字が少ないほど、効率的に売り上げを作っていることになります。
労働分配率
先ほどの売上高人件費率は、売上を生み出すのに使った人件費の割合でしたが、労働分配率は「粗利益」に対する指標です。
すなわち、「その粗利益を生み出すのにどらくらいの人件費がかかっか?」です。
・労働分配率=人件費÷粗利益×100(%)
ただし、この数値には弱点があり、単純に人件費を抑えれば数値上は効率が上がったことになります(売上高人件費率も同じです)。
たとえば、正社員から労働賃金の安いパートに変更したり、サービス残業や賃金カットを行えば、簡単に人件費は下がります。
牛丼チェーンの、アルバイトを使った深夜の一人シフトが思い出されます。
ただ単に、人に負担を押し付けているだけです。
しかしこれでは、本当の意味での効率性は上がったことにはなりません。
そこで「人時生産性」を使って、「時間」を指標に効率性を測ります。
人時生産性
人時生産性は、人件費ではなく時間で「どれくらいの粗利益が生み出されたか?」を見る指標です。
・人時生産性(円)=粗利益÷延べ労働時間
時間が基準なので、賃金の高い低いは関係なくなります。
許容人件費
余談ですが、使える人件費をあらかじめ計算しておけば、確実に利益を確保できます。
そこで許容できる人件費を次の計算式で算出します。
・許容人件費=粗利益×労働分配率
たとえば、売上が200万で、粗利益50万円、労働分配率30%なら
・50万×30%=15万円
になります。
この場合、200万(粗利益50万)を売り上げるのに使える人件費は15万円ということです。
そして、この15万円を時間給で割れば、必要な延べ時間が求められます。
1500円が平均時間給なら
・15万円÷1500円=100時間
以上の計算から、100時間以内で仕事を片付けて、はじめて目標の利益を達成できることがわかります。
もし100時間以上かかるようであれば、仕事の仕方が、現状の売上と粗利益に見合ってないことになります。
人件費は売上にかかわる大きな分部ですので、ここを改善できるば資金繰りの改善にもつながります。
それには上記の数式を使って、きちんと計測しなくていけません。
まとめ
黒字倒産という言葉があるように、会社が潰れるかつぶれないかは、赤字か黒字かではありません。
キャッシュが詰まるか詰まらないかで決まります。
赤字でもキャッシュが用意できれば会社は潰れません。
ですから、1円でも多く銀行口座に残るようにしておくことは大切です。
それすなわち、会社の防衛対策です。
この記事で紹介した方法で、
資金繰りを良くして、経営強化を図りましょう。