節税に対する考え方は社長によってそれぞれです。
税金は1円でも安くしたいという方もいらっしゃいますし、節税するより投資に回した方がいいと考える社長もいらっしゃいます。
どちらが正しい考えか、その答えはありきたりですが、社長それぞれです。
しかし大事なのは、社長がどのような財務戦略を持ってその節税を行うかでしょう。
無目的に行う節税は会社の財務を傷めるだけで、プラスの効果はありません。
節税の王道、法人保険に加入する意味はあるか?
たとえば節税といえば、代表的なものに法人保険があります。
法人保険は単なる繰延べ効果しかありませんので、5年後なり10年後なりの解約した年に解約返戻金が雑収入として計上されます。
その結果解約した期にこれまで繰り延べた分の法人税が一気に課せられます。
しかも加入していた法人保険の満期の解約返戻金が80%なら、2割も手元資金が減っていることになり、何のための節税だったかという話になります。
仮に年間100万円の保険料で10年後に解約したとします。
保険料は全額損金に計上でき、解約返戻率は80%、法人税は30%で計算してみます。
・10年後の解約返戻金:100万円×10年×80%=800万円
・法人税:800万円×30%=240万円
・10年後の手元資金:800万円-240万円=560万円
上記の計算の通り、10年後の手元資金は560万円になってしまいます。
これなら法人保険に加入せず、あえて法人税を支払った方が10年後の手元資金は多く残ります。
・10年間の法人税:100万円×30%×10年=300万円
・10年後の手元資金:100万円×(1-30%)×10年=700万円
このように法人保険に加入したより140万円も手元資金は多く残ります。
計算上では法人保険に加入する意味はないということになります。
無駄と決めつけるのは早計
しかしだからといって法人保険が無駄と決めつけるのは早計でしょう。
法人保険の第一の目的は事業保障ですが、来期の売上がどうなるかわからない中小企業にとっては、繰延べ効果しかない保険といえどキャッシュをストックできる安心感があります。
資金繰り的には支払をなるべく遅らすことは、資金繰りを改善する効果がありますので、繰延べといえど意味はあります。
また建設業のように、一過性の赤字でも赤字なら入札に参加できないとなると、いつ来るかわからない大波に備えて、ストックする意味も大きくなります(精神的な安心という意味で)。
というところで考えるなら、保険を必要とする業界もあるということで、一概に繰延べ効果しかない保険に加入するなんてバカだぜといった話にはならないのです。
とはいえストック料が2割以上かかるのは(解約返戻率が80%なら)、高いかどうか考える必要はありますが。
経営者の考えで変わる
その反対にお金をストックするより、投資によって事業を成長させた方が効率的と積極的に投資に回す社長もいるでしょう。
節税目的の保険料を支払うということは、その期間は資金が眠ってしまいますので、その分機会損失を起こす可能性が高くなります。
それなら手元に資金を置いて、チャンスに積極的に投資に回した方が、より多くのキャッシュを得られる可能性があります。
投資は新たな事業を拡大する目的だけでなく、既存事業を回復・維持する役目もありますので、節税よりまずその期の事業計画で投資予算を確保することが大事です。
しかし経営者の判断が「今は投資よりキャッシュのストック」と考えるなら、投資額を少なめにして、保険でストック量を増やすのも一つの財務戦略です。
さらに融資を考えているなら、節税で利益を減らすより利益を厚くして決算書の数値を良くしなくてはいけません。
売上挽回のために融資が必要なら、なおさら節税をするべきではないでしょう。
投資予算を確保して、売上が回復するように投資を積極的に行わなくてはいけません。
売上が減少しているなら、法人保険を解約して手元資金を厚くしたり借入の返済に充てて、企業の財務基盤の強化を考えるべきです。
保険の解約の目安
ちなみに会社が手元に置いておくべき資金の目安は、月商の2ヵ月分といわれています。※業種によります
これが1ヵ月分を切ると危険水域になります。
この場合、保険を解約して手元キャッシュを増やすことを検討しなくてはいけません。
また借入が多いかどうかを見るには、借入総額(短期借入+長期借入+割引手形)を月商で割り求めます。
これを借入月商倍率といいますが、仮に借入総額が5000万円、平均月商が2000万円なら
・5000万円÷2000万円=2.5ヵ月
となります。
この借入月商倍率は、2ヵ月以内で正常値、2~3ヵ月以内で黄色信号、3カ月以上で赤信号となります。※業種による
もし借入月商倍率が3ヵ月を超えているなら、借入が多くなり過ぎているというサインですので、この場合も保険を解約して解約返戻金を返済に充てることで、借入総額を減らすなどの対策を検討しなくてはいけないでしょう。
ただし、保険を解約したときの解約返戻金の額によっては、法人税が発生することもありますので、この点も忘れないようにしましょう。
法人税を必要コストと割り切る
このように節税をするべきかどうか、それは経営環境や社長の考えによって左右されます。
ちなみに付け加えておきますと、事業が順調に伸びて会社に資産が貯まってくれば、今度は事業承継のことを考えなくてはいけなくなります。
その際、コストの負担を抑えて事業承継を行うには、法人保険はなくてはならないアイテムになります。
ですから安易に法人保険は無駄と決めつけてしまうのは、自ら優位な選択肢をなくし、後継者にコストの負担を押し付ける結果となります。
だからこそ経営者がどういった考えに基づいて財務戦略を組み立てるかが大事なのです。
法人税を「なるべく支払いたくない」というお気持ちは理解できますが、社長に財務戦略の具体的ビジョンがあるなら、それは支払わないといけないコストだと割切れるはずです。
まとめ
節税を行うときは、何のための節税なのかしっかり財務戦略を持って行いましょう。
目的のない節税は、ただお金を消費するだけの愚行です。
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