外したいのに外せない連帯保証人なしで事業承継する方法

事業承継対策

中小企業の多くは、会社の借入に際し、現経営者が個人で連帯保証をしていることがほとんどです。

しかしこの連帯保証が事業承継の妨げとなって、承継そのものがとん挫してしまう危険があります。

そのような事情を受けて国は「経営者保証に関するガイドライン」を定めました。

このガイドラインにより、現経営者の保証が外されたり、後継者にも新たな保証を求めないなど、これまでとは違った動きを見せています。

この記事では、事業承継と連帯保証について解説していきます。

経営者保証に関するガイドラインとは?

「経営者保証に関するガイドライン」は2013年に公表されたものです。

このガイドラインは、一定の条件を満たした場合は

  • 経営者の個人保証を求めないこと
  • 多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて100万円~360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること
  • 保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること

などを定めています。

経営者保証に関するガイドライン

「経営者保証に関するガイドライン」を受け、最近の融資では経営者から個人保証を取らない流れにはなってきていますが、実際は会社の借入の際に経営者が連帯保証をしているケースはまだまだあります。

この連帯保証人が事業承継時に妨げとなってきます。

事業承継を妨げる連帯保証人

これから後継者に事業を承継しようとする現経営者にとっては、いつまでも会社の債務の連帯保証人でいることは心的物的負担となります。

連帯保証人であり続けるということは、一線を退いて経営権もないのに、会社に万が一のことでもあれば、現経営者自らの個人資産で会社の債務を弁済しなくてはいけないことを意味します。

これではご本人にとってもご家族にとっても、心配の種は尽きません。

とはいえ、銀行も貸しているお金の回収を考えるのが仕事です。

後継者にどれほど経営能力があるのか未知数なうえ、個人資産も少ないとなればどうでしょう。

銀行としては貸付残高があるのに連帯保証を外すことは、大きなリスクを伴います。

そのため無理を承知で、現経営者に連帯保証人のままでいることを求めざるを得ない事情があります。

連帯保証人外しは基本交渉あるのみ

事業承継時、現経営者の連帯保証人を外すためには、基本銀行との交渉になります。

しかしながら銀行が一方的に不利になる条件を、そう簡単に飲んでくれるわけがありません。

銀行が求めるのは「貸したお金が最後まできちんと返ってくるか?」この一点です。

そこでよく使われる方法が、後継者を新たな保証人として追加することです。

後継者は今後会社の経営について全責任を負って遂行することになります。

それゆえ会社の債務について連帯保証人を求められることは、当然といえば当然ですが、それが後継者に大きなプレッシャーを与えるのも事実です。

後継者にしてみれば、自分で作った借入でもないにもかかわらず、数百万から数千万、多ければ億という単位の債務をいきなり負うことになるのです。

ご本人は元より、その奥様も含めて事業承継に躊躇してしまう心理も理解できます。

後継者を連帯保証人にするも

また後継者が連帯保証人になることを承知しても、借入残高に見合う個人資産を持ち合わせていなかったり、経営能力が不透明な現状を考えれば、銀行としても後継者のみの保証人では不足と考えることは十分予測できます。

そんなときは、後継者が経営を安定させ銀行から信用を得るまでは、現経営者が期間限定の連帯保証人になることを交渉したり、新たな担保を差し出して保証を負わなくて済むよう交渉していくことになります。

いずれにしても、銀行との交渉が難航することはもちろん、連帯保証人という足かせが事業承継をむずかしくしてしまう現実があります。

そこで利用したいのが「経営者保証に関するガイドライン」なのです。

このガイドラインにある要件を満たすことで、現経営者の連帯保証人が外れるだけでなく、後継者にも連帯保証を求められないケースも出てきています。

連帯保証人を外せる要件とは?

「経営者保証に関するガイドライン」で求められるの要件とは、大きくいって次の3つです。

  1. 法人と個人の経理・資産が分離されていること
  2. 財務基盤が強化されていること
  3. 財務状況の正確な把握と、金融機関への適時適切な情報開示があり、経営に透明性があること

この要件を満たす(全部でない場合でも外れたケースあり)ことで、金融機関は連帯保証を求めないことを

・法人と個人の分離

役員報酬・賞与・配当、オーナーへの貸付など、法人と経営者の間の資金のやりとりを、「社会通念上適切な範囲」を超えないようにする体制を整備し、適切な運用を図る。

・財務基盤の強化

財務状況や業績の改善を通じた返済能力の向上に取り組み、信用力を強化する。

・情報開示

融資を受けたい企業は、自社の財務状況を正確に把握し、金融機関などからの情報開示要請に応じて、資産負債の状況や事業計画、業績見通し及びその進捗状況などの情報を正確かつ丁寧に説明することで、経営の透明性を確保する。

情報開示は、公認会計士・税理士など外部専門家による検証結果と合わせた開示が望ましい。

経営者保証に関するガイドラインのご案内(中小機構)より

事業承継に伴い保証契約を見直した事例

どのようなケースで事業承継時に連帯保証人を外すことができたか、次のような事例が紹介されています。

建築資材を中心に食料品も取り扱うホームセンターで、50 年以上の業歴を有する老舗企業がありました。

財務内容も良好です。

代表取締役(旧経営者)は高齢であったことから、子息(新経営者)への事業承継に向けて、顧問税理士による指導の下、株式譲渡への準備や代表者が交代した後も事業が継続できるよう、事業内容の更なる改善に取り組んいました。

そして事業承継を機に、銀行への既往の貸付について、代表取締役(旧経営者)1名から個人保証を「経営者保証に関するガイドライン」を活用して、個人保証を解除したいと銀行へ相談しました。

現状においては、法人と個人の資産の分離が明確に行われてないなど、経営者保証ガイドラインの適用要件を一部満たしていませんでした。

しかし次の点を考慮して、代表取締役(旧経営者)の個人保証を解除するとともに、事業承継予定者である子息(新経営者)からも、個人保証を徴求しないことになりました。

  1. 現状は、法人と個人の資産の分離が明確には行えていないが、銀行及び顧問税理士が指導を行うことで、法人と個人の資産を分離することの必要性を新・旧の経営者が十分に認識している。
  2. 顧問税理士による外部の適切な指導の下、法人と個人の一体性の解消に向けて取り組んでいること。
  3. 財務内容が良好で、返済力に懸念がないこと。
  4. 銀行への適時適切に情報の開示・説明が行われ、経営の透明性が確保できており、銀行と良好な関係性が構築できていること。
  5. 事業承継を検討しはじめた早期から、企業側と銀行は円滑な事業承継に向けて、今後の事業計画の共有を含めた連携を図ってきたことで、事業承継後に、当該代表取締役(旧経営者)が経営から離れても、新経営者の下で事業の継続性に問題がないと判断できること。

けっして低くはないハードルですが、条件を満たせば銀行は連帯保証を求めないことに応じてくれるのです。

事例では驚くべきことに、かつて債務超過に陥った企業にも、連帯保証を求めないこととしたものあがります。

「経営者保証に関するガイドライン」の活用に係る参考事例集(平成29年月12改訂版)(PDF:860KB)

「経営者保証に関するガイドライン」が破綻から経営者の身を守る

また、経営者保証に関するガイドラインでは

  • 多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて100万円~360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること
  • 保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること

も定められています。

もし事業に失敗した場合、これまでは経営者の個人財産すべて差し出さなくてはいけない状況でしたが、

  • 一定の財産を残せる
  • 自宅を失わないで済む(豪華な家は例外)
  • 返済できない債務の一部は免除される

などのことが認められるようになりました。

「経営者保証に関するガイドライン」は、経営者の身を守るために、しっかり利用したいところです。

本当に怖い連帯保証

「経営者保証に関するガイドライン」を利用した例は、現経営者が存命のうちに事業承継を行ったことで可能になった事例です。

しかしこれが現経営者が、事業承継をしないまま亡くなって場合にはどうなるでしょう?

後継者が奥様やご子息の場合、相続の開始から3ヵ月以内に、事業を継ぐか廃業するかを決めなくてはいけません。

相続の放棄ができるのは、相続の開始3ヵ月以内だからです。

3ヵ月を過ぎて何もしなければ、「単純承認」したとみなされ、プラスの財産もマイナスの財産も相続することになります。

そのマイナスの財産には、「連帯保証人」の地位も含まれます。

先代が亡くなり、バタバタと3カ月が慌ただしく過ぎる中、否応なしに会社の債務の連帯保証人となってしまうのです。

さらに、連帯保証で引き継いだ債務は、相続税の債務控除の対象にはなりません。

債務とはその時点で確定したものであって、会社が存続して返済を続けている限り、債務が確定しないからです。

したがって、連帯保証で会社の債務を引き継いだにもかかわらず、場合によっては相続税を納めなくてはいけないケースも出てくるのです。

連帯保証人は本当に怖いものなのです。

銀行融資と社長と連帯保証人。その知られざる本当の怖さとは?

まとめ

事業承継において連帯保証人が阻害要因になることは間違いありません。

しかし「経営者保証に関するガイドライン」を利用することで、その障害を最小限にすることができます。

しっかり活用して、円滑な事業承継に役立てましょう。

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