事業承継において遺留分は、ボトルネックとなることがあります。

事業承継の目的は後継者に経営権と経営資源を集中させることですが、これが他の相続人の相続財産を取得する権利を侵害してしまう怖れがあるのです。

事業承継を行う場合は、贈与・相続・譲渡の三つで行うわけですが、譲渡以外の贈与・相続には、必ず遺留分によるリスクが付いていくことになります。

この記事では、事業承継時の遺留分対策について解説していきます。

遺留分とは

民法では、相続人の生活の安定や最低限度の相続人の公平を確保するために、兄弟姉妹とその子供以外の相続人に、最低限の相続の権利を保障しています。

これを遺留分といいます。

民法第1028条

つまり、被相続人の配偶者、子ども(代襲相続も含む)、親には遺留分が認められているということです。

被相続人による財産の処分によって、遺留分を侵害された相続人は、遺留分以上の財産を取得した者に対して、財産の返還を請求できます。

これを遺留分減殺請求といいます。

民法第1031条

遺留分減殺請求は、相続の開始および減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った日から1年以内に行使しなければ、時効によって消滅します。

相続の開始の日から10年経過したときも、同じく時効で消滅します。

事業承継に遺留分対策が必要な理由

遺留分がなぜ事業承継のボトルネックにあるのかというと、上記に挙げた遺留分減殺請求という権利があるからです。

たとえば、後継者に自社株と事業用資産を承継できたとしても、いざ相続になってみれば、贈与や相続で得た財産が他の相続人の遺留分を侵害している可能性があります。

そのとき後継者以外の相続人から遺留分減殺請求を受けてしまえば、せっかく承継した自社株や事業用資産を売却して、その資金を用意しなくてはいけなくなってしまうのです。

しかも、遺留分の対象となる財産は「相続時の時価」です。

贈与時は低くても、相続時に自社株の評価が上がっていたら、想像以上の多額の資金を用意しなくてはいけなくなります。

そうなると、自社株の分散や事業資金の流出により、事業経営に悪い影響を及ぼします。

このようなリスクを避けるため、遺留分対策が必要なのです。


遺留分の計算

遺留分の計算は次の通りになります。

①相続開始時の財産

相続開始時の財産とは、被相続人が相続開始時に有していた財産です

②生前贈与した財産

相続開始前1年以内に贈与されたものに限って算入します。

ただし、相続開始の1年以上前にした贈与であっても、贈与当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したものは、遺留分算定の基礎となる財産に含まれます。

③特別受益となる財産

何年前に贈与されたものであっても、遺留分権利者に損害を加えることを知らない場合であっても、遺留分算定の基礎となる財産に含まれます。

特別受益となる財産は、遺贈された財産、婚姻・養子縁組のための贈与(持参金,支度金など)、生計の資本として受けた贈与(学費、住宅取得財産、事業資金など)です。

④相続開始時の債務

借金などの金銭債務が含まれます。

・計算式:①+②+③-④=遺留分の対象となる財産

遺留分の割合

遺留分は配偶者、子ども、親(直系尊属)にしか認めらていません。

兄弟姉妹とその子には、遺留分はありません。

  • 相続人が子供だけのケース:1/2
  • 相続人が配偶者と子供のケース:1/2
  • 相続人が配偶者と直系尊属のケース:1/2
  • 相続人が直系尊属だけのケース:1/3

相続人が直系尊属だけの場合は遺産の3分の1を相続人の人数で分けます。

相続人が上記以外の場合は遺産の2分の1を相続人の人数でわけます。

相続人の組合せによる遺留分は下記の表のとおりです。

<例>

被相続人Aは「他人Dにすべての財産を遺贈する」と遺言をして亡くなりました。

相続開始時の財産は5億円です。

被相続人Aの死亡後、配偶者Bと子Cは、他人Dに遺留分減殺請求を行いました。

子Cは過去に5千万円の特別受益を受けていました。

遺言により他人Dが相続財産の5億円を相続することになります。

しかし配偶者Bと子Cは次の通り遺留分が認められます。

・遺留分の総額:5億5千万円×1/2=2億7500万円

・配偶者Bの遺留分:2億7500万円×1/2=1億3750万円

・子Cの遺留分:2億7500万円×1/2=1億3750万円

子Cは5千万円の特別受益を受けているため、侵害された遺留分は8750万円になります。

したがって他人Dは、配偶者Bに1億3750万円、子Cに8750万円を弁償しなくてはいけません。

遺留分の基礎財産の評価

先にも書きましたが、遺留分を算定する際の基礎財産の評価額は、すべて相続開始時の時価となります。

そのため次のようなケースが考えれます。

オーナー経営者が贈与で後継者に自社株を譲渡したとします。

贈与で渡した財産は、相続時には遺留分の基礎財産として計算されます。

さらに相続時の時価で算定しますので、後継者の努力で自社株の評価が上がっても、その他の相続人の遺留分が膨らんでしまうということが起こってしまいます。

たとえば、次のような場合です。

  • 先代経営者の財産:不動産3000万円、自社株3000万円
  • 先代経営者の推定相続人:後継者B、非後継者C、Dの3人(BCDはAの子)

先代経営者Aが後継者Bに自社株3000万円を贈与し、その後後継者Bの努力により自社株の評価が1億2000万円に上昇したところで先代Aが死亡した場合のケースで考えてみます。

このとき非後継者C、Dが遺留分を請求してきたときは、遺留分の基礎財産の算定には、上昇した相続時の自社株の価額、1億2000万円で計算することになります。

皮肉にも後継者Bの経営努力で自社株が上昇することによって、CとDの遺留分も膨らんでしまい、そのお金2000万円を後継者Bが用意しなくてはいくなくなるのです。

このような理不尽が起こるのが遺留分なのです。

遺留分に関する民法の特例

遺留分は被相続人が生きているうちに、相続人に放棄してもらうことも可能です。

しかしそれには、家庭裁判所の許可が必要で、さらに家裁への申立ては放棄する人(後継者以外の相続人)から申立てしなくてはいけません。

こんな面倒な手続きを、自らが得られる権利を捨ててまでしてくれるかと、そこには大きな疑問が残ります。

このような問題に対処するため、「遺留分に関する民法の特例」が設けられました。

この遺留分に関する特例には、

  1. 除外合意
  2. 固定合意
  3. 付随合意

の3つがあります。

遺留分に関する民法の特例を受けるための条件

ただし「遺留分に関する民法の特例」を受けるには、次の要件をすべて満たす必要があります。

会 社
  • 中小企業者であること。
  • 合意時点において3年以上継続して事業を行っている非上場企業であること。
現経営者
  • 過去又は合意時点において会社の代表者であること。(※現経営者は法律上旧代表者とされています。)
後 継 者
  • 合意時点において会社の代表者であること。
  • 現経営者からの贈与等により株式を取得したことにより、会社の議決権の過半数を保有していること。 ※推定相続人以外の方も対象となります(平成28年4月1日以降に合意したものに限る)。

さらに上記条件を満たした上で、「推定相続人全員の合意」を得て合意書を作成し、「経済産業大臣の確認」及び「家庭裁判所の許可」を受けることが必要です。

ですから、この特例を受けるハードルはかなり高めとなります。

事業承継を円滑に行うための遺留分に関する民法の特例 – 中小企業庁

ただし他の相続人との合意書が作成できれば、「経済産業大臣の確認」と「家庭裁判所の許可」の手続きは、後継者のみで行うことができます。

除外合意

後継者が贈与等により取得した自社株の価額を、遺留分算定基礎に含めない合意をいいます。

先ほどの例で出した同じ条件で自社株3000万円について、除外合意を行った場合は、下記の図の通り、自社株は遺留分の算定基礎には入りません。

遺留分の対象は、不動産の3000万円だけとなり、非後継者のC、Dの遺留分は500万円ずつになります。

固定合意

後継者が贈与により取得した自社株について、遺留分算定基礎に含める価額をあらかじめ固定できる合意です。

ただし合意の価額は、弁護士等の専門家が証明した金額になります。

仮に自社株を3000万円で固定合意できれば、その後後継者Bの経営努力によって株価が上昇した場合でも、合意時の3000万円で遺留分算定に含まれることになります。

付随合意

除外合意と固定合意に併せて、次の合意をすることができます。

  1. 後継者が旧代表者から贈与を受けた同族株式以外の財産を遺留分の対象から除外できる
  2. 後継者以外の相続人が旧代表者から贈与を受けた財産を遺留分の対象から除外できる

除外合意も固定合意も後継者のみにメリットがあって、非後継者にはメリットはありません。

そこで、非後継者が贈与で得た財産も遺留分の算定基礎に含めないことを条件にすることで、合意を得やすくするものです。

なお付随合意は除外合意又は固定合意と併せて行うものであるため、付随合意のみを行うことはできません。

また、除外合意と固定合意は併用することもできるため、自社株の一部を固定合意、一部を除外合意を行うことも可能です。

合意の効力の消滅

次のケースになると合意の効力がなくなります。

  • 経済産業大臣の確認が取り消された場合
  • 先代経営者の生前に後継者が死亡または後見開始もしくは保佐人開始の審判を受けたとき
  • 合意の当事者以外の者が新たに先代経営者の推定相続人になったとき(再婚、新たな子供の出生など)
  • 合意の当事者の代襲者が旧代表の養子となったとき

このような場合は、もう一度合意の手続きを行って、一連の手続きをやり直さなくてはいけません。

遺留分対策

遺留分対策として、生命保険と種類株式の活用があります。

生命保険による遺留分対策

生命保険の死亡保険金は、受取人を指定してあれば、原則「その受取人の固有の財産」となります(みなし相続財産として相続税の対象にはなります)。

したがって、

  • 契約者:被相続人
  • 被保険者:被相続人
  • 保険金受取人:後継者

のような契約形態にすることで受取った死亡保険金は、遺留分の対象とはならず、後継者が受取ることができます。

そのお金があれば、非後継者から遺留分を請求された場合でも、後継者が自社株や事業資産を売却して資金を用意しなくて済みます。

ただし、他の相続人との間に生ずる不公平が到底是認するこができないケースでは、受取人固有の財産となってるとはいえ、遺留分の算定基礎に含まれることもありますので注意しましょう。

平成16年10月29日最高裁判決

被相続人を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないが、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、特別受益に準じて持戻しの対象となる。

事業承継に欠かせない生命保険の活用法を解説

種類株式による遺留分対策

固定合意や除外合意がむずかしい場合、種類株式で遺留分対策を行うことができます。

具体的には、後継者には普通株式を取得させ、それ以外の相続人には、配当優先の無議決権株式を取得させます。

こうすれば、非後継者の遺留分を侵害せずに、後継者に経営権を集中させることも可能になります。

事業承継を円滑にする種類株式を活用する方法

自社株売買で遺留分対策

自社株を贈与ではなく「売買」で譲渡してしまえば、そもそも遺留分の対象なりませんので、遺留分減殺請求のリスクをなくすことができます。

自社株が低いときに後継者へ譲渡すれば、後継者の資金負担も少なくて済みます。

<事例>

  • 被相続人:現経営者
  • 相続人:配偶者B、子CとD

現経営者Aは、業績が悪く時価純資産評価がほぼ0円の自社株式の大半を、5年前に後継者の子Cに譲渡しました。

現経営者Aに相続が発生したときには、後継者Cの経営努力により、時価純資産評価は3億円になっていました。

子Cは子Dに遺留分減殺請求を受けた場合、後継者の子Cは遺留分相当額を支払わなくてはいけません。

自社株を評価の低いときに後継者へ贈与することは、承継対策としては有効です。

しかし遺留分算定時の評価は「相続時の時価」になりますので、たとえ贈与時0円の価値だったとしても、遺留分算定時は3億円と評価されてしまいます。

ですが、5年前に贈与でなく「子Cが購入」していれば(評価額0円のときは1円)、この会社の売買で子Cが受けた利益はないため、遺留分算定に含まれないことになります。

まとめ

遺留分は事業承継において意外に大きなリスクを秘めています。

対策を怠れば、後々後継者が資金的にも精神的にも苦しむことになります。

相続人間で揉める前に対策しておくことが重要です。

遺留分対策をしてしっかり事業承継に備えましょう。


<社長におススメの【資金繰りに役立つ】記事>

【2019年最新】働き方改革推進で活用したい助成金大特集

顧問税理士を変えるだけで「年間400万円の節税」に成功した理由とは?

【緊急レポート】今すぐ節税・社保削減したい社長のための極秘マニュアル

【保存版】マイルも無料で手に入る10倍得する社長の法人クレカ徹底活用術



<おススメサービス>

5年で1000万円増やす社長の役員報酬最適化コンサルティング

【求人革命】Webで人手不足を解消するサービス

【ランディングページが0円】リスティング広告代行サービス

【店舗ビジネス専門】集客できるLP型ホームページ制作サービス