自社株承継に使う「暦年贈与」「相続時精算課税制度」を詳しく解説

事業承継対策

自社株の承継には、贈与、相続、譲渡の3種類の方法があります。

この中で真っ先に活用したいのが贈与です。

贈与の利点は、狙った価格(株価の低い状態)で後継者に移転することができる点です。

つまり、資金計画を立てやすいのが贈与による自社株移転です。

その贈与には、「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」の2種類があります。

この記事では、「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」による自社株を承継する方法について解説していきます。

贈与税とは

贈与税とは、毎年1月1日からその年の12月31日までの1年間に財産の贈与を受けた個人は(受贈者)、その贈与を受けた財産について、次に掲げるケースに応じて、贈与税を申告する必要があります。

  • 「暦年贈与」を適用する場合は、その財産の価格の合計が基礎控除の110万円を超えるとき
  • 「相続時精算課税」を選択適用するとき

贈与による自社株移転のメリット

生前贈与で自社株移転をするメリットは、「移転時期を選べる」ことです。

つまり、意図的に株価を引き下げ、資金負担の少ない形にして自社株を後継者へ渡すことができるのです。

事業承継で自社株式移転を成功させるポイントを解説

さらに生前贈与の場合は、暦年贈与と相続時精算課税制度の2種類の贈与方法から、自分にとってメリットのある方法を選ぶことができます。

暦年贈与

1年間に贈与を受けた財産の価格の合計額(1年間に1人の人から2回以上にわたり贈与を受けた場合、または2人以上の人から贈与を受けた場合には、それら贈与を受けた財産の価格の合計額)を基に贈与税額を計算します。

その贈与を受けた財産の総額が基礎控除の110万円を超える場合は、贈与税を申告しなくてはいけません。

贈与を受けた額の総額が110万円以下のときは、原則として申告は不要です。

贈与税の計算は、1年間に受けた財産の合計額から基礎控除110万円を引いた残額に対し、下記の税率によって算出します。

【一般贈与財産用】(一般税率)

この速算表は、「特例贈与財産用」に該当しない場合の贈与税の計算に使用します。たとえば、兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が未成年者の場合などに使用します。

【特例贈与財産用】(特例税率)

この速算表は、直系尊属(祖父母や父母など)から、その年の1月1日において20歳以上の者(子・孫など)※への贈与税の計算に使用します。

※ 「その年の1月1日において20歳以上の者(子・孫など)」とは、贈与を受けた年の1月1日現在で20歳以上の直系卑属のことをいいます。

例えば、祖父から孫への贈与、父から子への贈与などに使用します。(夫の父からの贈与等には使用できません)

<例>一般税率の場合

1000万円の贈与を受けた場合

・1000万円-110万円=890万円

・890万円×40%-90万円=266万円

暦年贈与のメリット

メリット1・年月が長いほど控除額が多くなる

年月をかけて贈与していけば、毎年110万円ずつ積み上がっていきます。

3年では330万円しかありませんが、10年掛ければ1100万円を非課税で贈与することができます。

メリット2・確実に相続財産を減らせる

上記と似ていますが、毎年110万円ずつ贈与していけば、贈与した人の財産を確実に減らしていくことができます。

その結果、相続税の節税になります。

相続時精算課税制度なら、贈与しても相続時に相続財産として持ち戻しされてしまいますので、財産の圧縮とはなりません。

暦年贈与のデメリット

デメリット・短期の贈与には向かない

控除枠が1年間で110万円しかありませんので、短期で大きな額を贈与するのには向きません。

暦年贈与の注意点

せっかく暦年贈与で後継者に財産を移転させても、場合によっては税務署から否認されることもあります。

否認されないよう次の点を気をつけましょう。

1・贈与の際には契約書を作る

契約書は、「いつ」「誰に」「いくら」贈与したかを証明するために作ります。

こういった証拠を残しておくことで、税務署から指摘されてもきちんと答えられるようにしておきます。

さらに贈与契約書には、贈与者(あげる側)と受贈者(もらう側)の両者がそれぞれ自署で署名し、かつ実印で押印し、住所も記載し、かつ贈与契約書に両者が署名した日付も記載しましょう。

正式な書類の体を取ることで、証拠として説得力が増します。

2・贈与の記録を残す

通帳に記帳するなどして、お金の贈与があったことを客観的に証明できるようにしておきます。

3・通帳や印鑑は贈与の相手に渡す必要がある

通帳や印鑑は贈与する相手に渡しておかなくていけません。

通帳と印鑑は預かっておいて、「贈与したことにする」はアウトです。

「贈与したはいいが子どもお金を好き勝手に使ってしまっては困る」という理由で、親が通帳と印鑑を預かり、実質お金の管理をする状態です。

このような「上げたことにする」状態は、贈与されたことになりません。

贈与契約とは、あげた・もらったという関係が、贈与者及び受贈者の間で成立しなければいけないのです。

4・毎年、同時期・同金額の贈与(連年贈与)は要注意

「本当は1000万円を子供に渡したいけど、年間110万円を超えると贈与税がかかってしまうから、100万円ずつ10年に分けて贈与する」

といったことを行った場合には、初年度に「1000万円を10年分割でもらえる権利」を贈与したとみなされ、その権利(1000万相当)に贈与税が課税されてしまう可能性があります。

これを連年贈与といいます。

国税庁のタックスアンサーには次の通り記述していあります。

Q1・親から毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受ける場合には、各年の受贈額が110万円の基礎控除額以下ですので、贈与税がかからないことになりますか。

A1・定期金給付契約に基づくものではなく、毎年贈与契約を結び、それに基づき毎年贈与が行われ、各年の受贈額が110万円以下の基礎控除額以下である場合には、贈与税がかかりませんので申告は必要ありません。

ただし、毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受けることが、贈与者との間で契約(約束)されている場合には、契約をした年に、定期金給付契約に基づく定期金に関する権利(10年間にわたり100万円ずつの給付を受ける契約に係る権利)の贈与を受けたものとして贈与税がかかります。

No.4402 贈与税がかかる場合

こういった指摘を税務署から受けないためには、

「毎年贈与契約を結び、それに基づき毎年贈与が行われ、各年の受贈額が110万円以下の基礎控除額以下である場合には、贈与税がかかりません」

と上記タックスアンサーあるように、贈与する人と贈与される人で、毎年契約書を交わし、その額をきちんと贈与することが大事です(通帳などに証拠も残して)。

さらに余計な突っ込みを入れられたくないなら、贈与をする時期や金額は毎年変えておくといった工夫をするのも方法です。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度とは、生前贈与をした場合に納めなければならない贈与税の代わりに、相続の際に相続税を納めるという税金の制度です。

生前贈与には2500万円の非課税枠があり、それを超えたときは20%の贈与税が課税されます。

何のことだかよくわからない制度ですが、要は贈与税は2500万円までは免除しますが、その財産も相続時には相続財産とし課税しますよ、という制度です。

たとえば、5000万円の財産を持つ父親が、息子に相続時精算課税制度を使って、2500万円まで贈与したとします。

2500万円までは非課税ですので、贈与税は発生しません。

父親の手元の財産は、5000万円から贈与分2500万円を引いた2500万円が残ります。

そしてその後父親がお亡くなりなったとき、相続税の対象となるのは手元に残った2500万円だけではありません。

相続時精算課税制度を利用して息子に贈与した、2500万円も対象になります。

つまり、生前息子に相続時精算課税制度を使って贈与した2500万円と、手元にあった2500万円を足した5000万円が相続税の対象となるということです。

この制度は、贈与時は2500万円まで非課税になりますが、結局のところ相続時に相続税が発生するので、節税というわけではなく、税金の先送りというのが実態です。

贈与を受けた側からしてみれば、贈与税で支払うか、それとも相続税で支払うかということになります(相続時精算課税制度を選択していれば相続で支払うことになります)。

相続時精算課税制度を使って2500万円以上贈与した場合

では、相続時精算課税制度を使って2500万円以上を贈与した場合はどうなるでしょう。

先述した通り、2500万円を超える部分には、一律20%の贈与税が適用されます。

この支払った贈与税は相続時に控除することができます。

先ほどの例を使って説明すると、仮に父親が生前時に3000万円の贈与をしたとします。

このときの贈与税は、非課税枠を超えた500万円に対して20%で、100万円となります。

・(3000万円-2500万円)×20%=100万円

相続時には相続時精算課税制度を利用して贈与した3000万円は、持ち戻しとなりますが、贈与税分100万円を相続時に控除することができます。

したがって、相続税の対象となる財産は4900万円になります。

・5000万円-100万円=4900万円

相続時精算課税制度の適用対象者

贈与者は贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母又は祖父母です。

受贈者は贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の者のうち、贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人又は孫です。

なお、贈与により「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例(措法70の7の5)」の適用に係る非上場株式等を取得する場合、贈与者が贈与をした年の1月1日において60歳以上であれば、受贈者が贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人以外の者(贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の者に限ります。)でも適用できます。

No.4103 相続時精算課税の選択

推定相続人とは、贈与をした日現在において、贈与をした人の直系卑属のうち、最も先順位の相続権(代襲相続を含む)のある人のことです。

したがって、養子縁組をしない義父母からの贈与は、相続時精算課税制度の適用を受けられません。

推定相続人の判定は、その贈与の年において行います。

年齢の判定時期は、贈与した年の1月1日現在によります。

相続時精算課税制度の手続き

相続時精算課税制度を選択しようとする受贈者は、その選択に係わる最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間(贈与税の提出期限)に納税地の所轄税務署長に対して「相続時精算課税選択届出書」を受贈者の戸籍謄本など一定の書類と共に、贈与税の申告書に添付して提出しなくてはいけません。

相続時精算課税制度のメリット

メリット1・2500万円の非課税枠があり早期に財産を移転できる

2500万円までの非課税枠があり、その金額までは贈与税は掛かりません。

暦年贈与だと毎年110万円までなので、早期に渡したいときはこの枠を使って一気に贈与できます。

※ただし、贈与税は免れても相続税が発生する可能性はあります。

メリット2・値上がりする財産の場合、相続税対策になる

贈与した財産が相続財産に持ち戻されるときは、「贈与時の価格」になります。

そのため、自社株が低いときに後継者にこの制度を使って贈与すれば、相続時の相続財産も低く抑えることができ、その結果として相続税の節税になります。

また、収益物件のような財産を子に贈与することで、賃料収入が親の財産に蓄積されず、子の財産になりますので、相続税を抑えると同時に、納税資金を作りこともできます。

相続時精算課税制度のデメリット

デメリット1・贈与税としての節税効果がない

相続時精算課税制度は、贈与時は2500万円以内なら非課税ですが、この財産は相続時に持ち戻しとなって相続税の対象となります。

もちろん2500万円の非課税枠をオーバーした際の贈与税分は、相続時に控除することで還付されますが、暦年贈与で使える110万円の基礎控除がないため、贈与税の節税効果はありません。

デメリット2・一度選択すると二度と通常の贈与税に戻れない

相続時精算課税制度は、一度選択すると通常の暦年贈与には戻せません。

そのため、基礎控除枠の110万円を今後利用することができなくなります。

暦年贈与の場合、非課税枠は110万円しかありませんが、毎年贈与を行えば、贈与者の財産を確実に減らすことができ、その結果として相続税を低くすることができます。

それに対し相続時清算課税制度は、贈与した財産が持ち戻しで計算されるため、相続税を減らす効果はありません。

相続時精算課税制度を選択してしまうと、暦年贈与のメリットを受けられなくなります。

デメリット3・遺留分の対象になる

事業承継対策に相続時精算課税制度を使って自社株を贈与しても、遺留分の対象となります。

たとえば、自社株を低い金額で贈与をした場合でも、その後業績が好調で株の評価が上がった場合を考えみます。

遺留分の対象となる財産は、「相続開始時の時価」で算定されることになります。

そこで遺留分を請求されてしまうと、相続時の株価を基に、遺留分減殺請求をされてしまうことになります。

仮に、贈与時は1000万円の価値だったとしても、相続時に1億円になっていれば、1億円に対して遺留分は計算されるのです。

がんばって業績を上げた後継者にとっては、快く思えるわけがありません。

相続時精算課税制度を利用して自社株を贈与しても、遺留分の請求されるリスクがあります。

デメリット4・納税資金を用意しなくてはいけない

相続時精算課税制度は、2500万円を超えると、超えた部分に一律20%課税されます。

そのため、贈与する金額によっては、贈与を受けた側が、多額の納税資金を用意しなくてはいけません。

仮に5000万円の財産を相続時精算課税制度で贈与した場合、

・(5000万円-2500万円)×20%=500万円

500万円の納税資金が必要になります。

相続時には返ってきますが、贈与時に結構な資金を用意しなくてはいけません。

贈与税の申告書の提出期限

贈与税の申告書は、贈与を受取った年の翌年の2月1日~3月15日までの間に受贈者(財産を受取った人)の住所地の所轄の税務署に提出しなくてはいけません。

贈与税の納付法

贈与税の納税は、原則として贈与を受けた年の翌年の3月15日までに金銭で一括納付する必要があります。

納期限までに一括納付できないときは、一定の要件を満たせば例外的に延納が認められています。

ただし、延納を適用するには延長している期間に応じて利子がかかり、延納に伴う手続きもいります。

なお、贈与税には物納制度はありません。

まとめ

この記事では、「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」による自社株を承継する方法について解説してきました。

暦年贈与と相続時精算課税制度は、それぞれにメリットとデメリットがあります。

贈与による事業承継は一つの有効手段ですので、しっかり理解して、自社に合った贈与の方法を選びましょう。

関連記事

この記事へのコメントはありません。

マニュアル・書籍


最近の記事

  1. 最高裁の判例から考える誤魔化しの残業代は通用しない時代

  2. 就業規則にない事由で従業員を懲戒処分にはできない

  3. 髭や金髪はあり?!社員の身だしなみはどこまで制限できるか?

  4. 業務命令を拒否する社員を業務命令に従わせることはできるか?

  5. 定められた手続きを踏まない36協定は無効になる

  6. 能力のない社員を解雇できるか?判例から読み解く解雇前に必要な準備

  7. 連帯保証解除に無借金と節税が「妨げ」になる理由

  8. 自宅謹慎を命じた社員の「謹慎中の賃金」は支払わなくてはいけないか?…

  9. 懲戒解雇・競業避止で社員の退職金は減額・不支給にできるか?

  10. 不祥事を起こした社員の退職金は損害賠償と「相殺」できるか?