自社株式譲渡の税金と事業承継対策

事業承継対策

事業承継時には自社株の譲渡を検討しなくてはいけないケースも出てきます。

自社株譲渡の際の課税は、個人に譲渡するのか法人に譲渡するのかで、株価の算定方法が変わり、課税金額にも違いが出てきます。

この記事では、自社の株式を譲渡した場合の税金について解説していきます。

株式譲渡とは

株式譲渡はその名の通り株式を譲渡する手法であり、株式を別の会社に取得させることで経営権を掌握させるものです。

株式譲渡は非常に手続きが簡単であり、取得する株式の対価を現金で支払い、株式名簿の名前を書き換えるだけで完了します。

株式譲渡を行うケース

自社株式の譲渡を行うケースは次の3つです。

  1. 現経営者が後継者に自社株を譲渡する
  2. 現経営者が会社に自社株を譲渡する
  3. 後継者が会社に株式を譲渡する

1・現経営者が後継者に自社株を譲渡する

通常、現経営者が後継者に自社株式の移転を行うときは、贈与がメインになってきます。

現経営者が後継者に自社株式を譲渡するメリットとは、大きくいって2つあります。

メリット1・遺留分対策

1つは「遺留分減殺請求の対象にならない」ことです。

遺留分とは、相続人に法律上確保された最低限の財産で、贈与で自社株の移転を行った場合、後継者以外の相続人から遺留分の減殺請求をされてしまうこともあります。

たとえば1億5千万円の相続財産があったとして、相続人の子どもA、Bの2人のうち、子どもA1人にすべて財産を相続させたとします。

このとき、その他の相続人のBには、遺留分が1/2認められていまます。

子どもBの遺留分の対象となる財産

・法定相続分1/2×遺留分1/2=1/4 1億5千万円×1/6=3750万円

したがって遺留分を請求されると、子どもBに3750万円支払わなくてはいけなくなります。

相続した財産が、現金や換金性の高いものなら良いですが、自社株や事業用資産しかないときは、この3750万円をどうやって工面するかという話になってきます。

仮に生前贈与で資金負担を最小にして株式の移転を終えても、他の相続人から遺留分を請求されてしまえば、後継者に資金負担のしわ寄せがきてしまいます。

しかし自社株を譲渡で移転しておけば、遺留分の対象とはならず、株式の分散や新たな資金負担を防ぐことができます。

ただし、譲渡には買取るための資金が必要で、後継者がその資金を用意しなくていけません。

自社株の評価が高いときは、資金不足から十分な株数を取得できないといったことも考えられます。

場合によっては、後継者が借入を検討する必要もあります。

そのため、株価が低いときに譲渡するのがセオリーです。

なお個人間で売買するときは、契約書を交わし資金の決済を行うことが大切です。

書類が不備だと、贈与とみなされるケースがあります。

メリット2・事業承継対策への自由度

2つ目は、自社株を現金化することで、事業承継対策により自由度を持てることです。

自社株式の譲渡は、株式が現金に換わるだけでそれ自体節税にはなりませんが、流動性の高いキャッシュを持つことで、その後の事業承継対策の自由度を増すことができます。

たとえば現経営者が換金したキャッシュで生命保険に加入し、遺留分対策や相続時の納税対策などに備えておけます。

事業承継に欠かせない生命保険の活用法を解説

2・現経営者が会社に自社株を譲渡する

後継者が自社株の買取資金を用意できないときは、会社に譲渡することも検討します。

現経営者が会社に自社株を譲渡する場合は、発行会社が買取る金庫株か、持株会社が買取るかの2つになります。

このメリットとしては先に書きましたが、現経営者の個人資産の中でキャッシュの割合が増えるので、遺産分割や相続税対策・遺留分対策の資金を確保しやすくなることが挙げられます。

ただし現経営者が金庫株(会社が自社株を取得すること)を行うと、みなし配当課税とされ、最高で55%課税される可能性があります。

これは持ち株会社に譲渡したときよりも、不利な課税となります。

また、金庫株買いで株主のシェアが変わり、支配権が別の株主へ移ってしまうリスクもありますので注意が必要です。

持株会社へ譲渡する場合は、確実に後継者に自社株を移転できるメリットがあります。

課税については後ほど解説致します。

3・後継者が会社に株式を譲渡する

納税資金を確保するため、後継者が会社に自社株を譲渡して資金を作ります。

こちらも金庫株ですが、後継者が自社株を発行会社に譲渡する場合は、特例が設けられていて、通常より課税価格が抑えられます。

前述したように、自社株を発行会社へ譲渡する場合は、資本金額を超えた部分に対してみなし配当として、他の所得と合算して、金額によっては最高税55%が課せられます。

しかし、相続税の申告期限から3年以内に譲渡した場合に限り、株式譲渡益として分離課税20%で済みます。

また、相続財産を取得した場合の譲渡所得の取得費加算の特例も受けることができます。

【完全ガイド】事業承継で金庫株を活用する方法

譲渡したときの納税価格

税務上、自社株の売買価格は、その譲受人・譲渡人が個人間か、個人と法人かで異なります。

親子間での売買の場合

親子間での売買の場合は、基本的には相続税評価額になります。

具体的には、財産評価基本通達における評価規定に基づいた評価を行うことになります。

売却を行った側には、譲渡所得税が課税され、申告分離課税で約20%の税率です。

売却側の現経営者にとっては、取得価格(額面価格)よりも売却価格の方が大きくなっているため、譲渡所得税がかかってしまいます。

そのため売却価格をなるべく抑えて譲渡する必要があります。

そうすれば譲渡される後継者側も資金面の負担が少なくなります。

事業承継をスムーズにする自社の株価を下げる3つの方法

なお、株式を評価額よりも著しく低い価額で譲渡した場合には、株式の譲受人が株式の時価と支払った対価との差額相当額を贈与により取得したものとされ贈与税が課税されるので注意が必要です。

また、非上場株式等の譲渡所得と上場株式等の譲渡損失や譲渡損失の繰り越し控除との通算はできなくなっていますので、こちらも気をつけましょう。

法人に譲渡した場合

法人に譲渡する場合は、以下の自社株の評価方法になります。

  • 株式を売却した人が「中心的な同族株主」の場合は、会社規模は「小会社」として評価(純資産価額方式または、「(純資産価額×0.5)+(類似業種比準価額×0.5)」)
  • 会社所有の土地や上場株式は、譲渡時の価格(時価)にて評価
  • 1株あたりの純資産価額(相続税評価額)において、評価差額に対する法人税相当額は控除しない

法人に譲渡する場合、個人に比べると自社株の価格が高くなり、税負担も重くなります。

これは先ほど説明しましたが、個人が所有している自社株式を金庫株制度を利用して、発行会社に買取ってもらった場合、その株式に対応する資本金等の額を超える部分には、みなし配当として総合課税されます。

その年の所得によっては、最高税率の55%が課せられます。

ただし、相続税の申告期限から3年以内に発行会社へ譲渡した場合は、みなし配当ではなく、譲渡所得課税となります。

この場合は、「相続財産を譲渡した場合の譲渡所得の取得費加算の特例」も適用できます。

まとめ

この記事では、自社の株式を譲渡した場合の税金について解説してきました。

自社株は意外に評価が高くなっているケースがあります。

その株を譲渡する場合、やはり税金も高額になってきます。

税金のことだけ考えて事業承継をするべきではありませんが、後継者の資金負担を考えれば、なるべく税負担を抑えて行いたいものです。

そのためには譲渡方法によって、課税のされ方が変わることを理解しておきましょう。

税金も事業承継に与える影響は大きいです。

しっかりしたプランを組んでおきましょう。

関連記事

この記事へのコメントはありません。

<無料コンテンツ>

<マニュアル>


最近の記事

  1. 最高裁の判例から考える誤魔化しの残業代は通用しない時代

  2. 就業規則にない事由で従業員を懲戒処分にはできない

  3. 髭や金髪はあり?!社員の身だしなみはどこまで制限できるか?

  4. 業務命令を拒否する社員を業務命令に従わせることはできるか?

  5. 定められた手続きを踏まない36協定は無効になる

  6. 能力のない社員を解雇できるか?判例から読み解く解雇前に必要な準備

  7. 連帯保証解除に無借金と節税が「妨げ」になる理由

  8. 自宅謹慎を命じた社員の「謹慎中の賃金」は支払わなくてはいけないか?…

  9. 懲戒解雇・競業避止で社員の退職金は減額・不支給にできるか?

  10. 不祥事を起こした社員の退職金は損害賠償と「相殺」できるか?