中小企業の経営者の場合、個人で持っている資産の大半が自社株や事業用資産の場合が多くあります。

これらを後継者に集中させてしまうと、現金預金や有価証券や自宅不動産などを、他の相続人に分配せねばならず、その結果、後継者が納めるべき納税資金が不足してしまことがあります。

株価の上がってしまった会社では、節税対策で納税税を0にすることはむずかしく、納税資金を別途で用意しておかなくてはいけません。

この記事では、事業承継の後継者が用意すべき納税資金について解説していきます。

生命保険で納税資金を準備

生命保険は、個人で加入する保険も法人で加入する保険も、事業承継対策には有効に使えます。

個人の生命保険

生命保険の利点は相続時の死亡保険金に「500万円×相続人の数」という控除枠があることです。

この控除枠があることで、現金で相続するより納税額を低く抑えられ、その分を納税資金に充てることが可能になります。

さらに、生命保険の死亡保険金は、死亡保険受取人固有の財産とされています。

したがって、相続財産とは別の扱いになりますので、配偶者・子供・親に認められている遺留分の対象とは基本的になりません。

遺留分とは、一定の範囲の法定相続人(配偶者・子供・親)に認められる、最低限の遺産取得分のことです。

遺言や遺贈で相続財産の受取人を指定されていしまい、本来もらえるはずだった財産がもうえない場合、遺留分として最低限の財産を分配するよう請求することができます。

これを遺留分減殺請求といいます。

その割合は、配偶者・子供の場合は法定相続分の1/2、親(直系尊属)の場合は法定相続分の1/3となります。

  • 配偶者・子供:法定相続分1/2×遺留分1/2=1/4
  • 親:法定相続分1/2×遺留分1/3=1/6

遺留分とは

後継者に自社株や事業用資産を取得させると、財産の大変が集中してしまい、他の相続人の遺留分を侵害して、遺留分減殺請求をされてしまう可能性があります。

しかし、生命保険の死亡保険金であれば、受取人固有の財産になります。

ですので、原則として遺留分の算定基礎に入らない、というメリットがあります。

つまり、遺留分として請求されるリスクを回避し、納税資金を用意できることが生命保険ならできるのです。

さらに、他の相続人との公平性を保つため、受け取った死亡保険金で相続財産の代わりに支払うこともできます(これを代償分割といいます)。

ただし、他の相続人との間に生ずる不公平が到底是認するこができないケースでは、受取人固有の財産となってるとはいえ、遺留分の算定基礎に含まれることもありますので注意しましょう。

平成16年10月29日最高裁判決

被相続人を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないが、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、特別受益に準じて持戻しの対象となる。

法人契約の生命保険

1・死亡退職金

死亡保険金の受取人を法人とする生命保険に加入し、それ原資にして死亡退職金を後継者や他の相続人に支払うことができます。

死亡退職金には生命保険とは別枠で、「500万円×相続人の数」の非課税枠があり、現金で残すより、多くの納税資金を確保できます。

2・自己株式取得(金庫株)による納税資金

法人で保険に加入し、受取人を法人とすることで、死亡が発生すれば死亡保険金が法人に入ってきます。

そのお金を死亡退職金の支払いに使わないのであれば、自己株式の取得用の資金として活用できます。

ただし、死亡保険金が入ってくれば雑収入として計上されるため、法人税が発生しますので(その期の利益による)、納税分も計算しておかなくていけません。

また、自己株式の取得に使えるお金の範囲は、分配可能額とされていることにも注意しなくてはいけません。

ですが保険であれば、死亡保険金が雑収入に計上された分だけ、分配可能額が増えますので、自己株式を取得できる範囲が拡がるという効能もあります。

さらに、自己株式の取得の場合には、対価として金銭を受け取る側の個人の税制にも気をつけなくてはいけません。

一般的な自社株を譲渡したときの課税は、資本金額を超える部分について、みなし配当として総合課税され、金額によっては最高55%の税金が課せられます。

しかし、相続税の申告期限から3年以内に会社に自社株を譲渡したときは、みなし配当ではなく、全額を株式譲渡益課税にして20%の税金で済ますことができます。

【完全ガイド】事業承継で金庫株を活用する方法

3・自社株引き下げ対策

法人契約の生命保険には、全額損金や1/2損金(1/2資産計上)となる、損金性の高い保険商品があります。

こういった保険商品なら、毎期の保険料を全額損金や1/2損金にすることで、類似業種比準価額の計算上の、年利益金額、準資産価額を下げることができ、結果として自社株の評価を下げることができます。

事業承継をスムーズにする自社の株価を下げる3つの方法

事業承継に欠かせない生命保険の活用法を解説

死亡退職金・弔慰金で納税資金を準備

死亡退職金・弔慰金とも、一定額は非課税となります。

また、損金にも算入できますので、納税資金確保と株価引き下げの効果があります。

死亡退職金

退職金の算定額は「功績倍率法」で求めるのが一般的です。

功績倍率は次の計算式で求めます。

最終報酬月額×在職年数×功績倍率(+功績加算)

基本的に、役員退職金はいくら支給してもかまわないのですが、法人の損金に算入できる額には限度があります。

それが上記の計算式です。

そのため、「最終報酬月額×在職年数×功績倍率(+功績加算)」が役員退職金の算出方法として使われます。

最終報酬月額

退職前の報酬月額になるのが原則です。

業績が急速に悪くなったなどにより、退職前に減額せざる理由があったときは、最高報酬月額によって計算してもよい場合があります。

理由があって役員報酬を低く設定している場合

現在の判例では、最終報酬月額とは「最終の毎月の給与の額」のことを指します。

役員賞与を含めた総報酬を12カ月で割った額でないことに注意が必要です。

仮に「事前確定給与届出」を使ったスキームを使っている場合、極端に月額の報酬は低く設定されています。

このようなケースでは、「功績倍率法での算出が合理的ではない」と判断され、「同業他社の役員在任1年当たりの役員退職給与の平均額に、その役員の在任年数を乗じる方法で過大額を判断する」ことになります。

もし同業の役員尾退職時の給与の平均額が200万円なら、この額に役員の在職年数を掛けて求めます。

・役員退職平均給与200万円×30(在職年数)年=6000万円 ※役員としての在職年数が30年の場合

「だったら問題ないのでは?」とお感じになるかもしれませんが、この額があなたの給与より低かったら問題ですし、そもそもこの「同業他社の1年当たりの平均額」はデータ自体が少ないのです。

そのため、自身が望んでいる退職金額に満たない可能性が高くなり、「いくら損金に算入できるか?」も見込みが立たないことになってしまいます。

これでは事業承継も計画的に進めないことになります。

だからこそ、役員賞与を除いて最終の報酬となる「月額」を固定しておくことが重要になるのです。

役員報酬を理由があって低く設定している場合は、この点に注意しましょう。

在職年数

役員としての在職年数です。

功績倍率

会社で役員退職金規定を作るときの、役員別に定める倍率です。

一つの基準として次のものがあります。

  • 社長:3.0倍
  • 専務:2.4倍
  • 常務:2.2倍
  • 平取締役:1.8倍
  • 監査役:1.6倍

※絶対にこの数値でなくてはダメというわけではありません。

功労加算

創業者など、会社に対してとくに功労がある人に加算される割合です。

一般的には30%になります。

ガッツリ増やす社長の役員退職金完全マニュアル

弔慰金

彫金にも非課税枠があります。

  • 業務上死亡の場合:死亡当時の普通給与×36ヵ月
  • 業務外死亡の場合:死亡当時の普通給与×6ヵ月

※普通給与とは、俸給、給料、賃金、扶養手当、勤務地手当などの合計

死亡退職金と弔慰金が同時に支払われた場合

死亡退職金と弔慰金が同時に支払われた場合は、上記計算式で求めた金額を超える部分が退職金として相続税の課税対象になります。

<例>

業務外死亡で弔慰金が500万円、死亡退職金が2000万円支払われた場合。相続人は妻と子2人の3人。死亡時の給与は50万円

  • 弔慰金の非課税枠:50万円×6ヵ月=300万円
  • 弔慰金のうち死亡退職金扱いになる金額:500万円-300万円=200万円
  • 死亡退職金総額:2000万円+200万円(弔慰金分)=2200万円
  • 退職金の非課税枠:500万円×3人=1500万円
  • 相続税の課税対象になる金額:2200万円-1500万円=700万円

弔慰金名目で受取った金額でも、実質退職金手当に該当すると認められる部分は、相続税の課税対象になります。

自己株式の取得で納税資金を準備

会社に自社株を買取ってもらうことで、納税資金を用意する方法です。

いわゆる金庫株の実施です。

個人が株式を発行法人に譲渡したときは、法人側で自己株式の取得になり、「みなし配当」として、資本金等を超えた部分に総合課税されます。

金額によっては、最高税率の55%(住民税含む)が課せられます。

それに対し、相続税の申告期限から3年以内に発行法人に譲渡した場合は、他の所得と分離して課税され、譲渡益に対し焼く20%税率で済みます。

詳しくは下記記事をお読みください。

【完全ガイド】事業承継で金庫株を活用する方法

会社からの貸付金で納税資金を準備

会社にキャッシュが豊富にあるなら、会社からの資金を借りて納税資金にするこもできます。

これを役員貸付金といいます。

ただし、会社との貸し借りとはいえ、きっちり返済をしなくてはいけません。

この科目が決算書にあり続けることも、金融機関からの印象は悪くなります。

役員貸付金を帳消しにしようとしても、税務署が認めてくれないなど、何かとデメリットがあることは忘れないでおきましょう。

社長を悩ます役員借入金と役員貸付金のメリット・デメリットを徹底検証!

役員貸付金を解消するには、役員報酬を増額するのが一般的な方法です。

役員報酬で増額した部分を返済にあてるわけですが、以下の2つの理由により、資金効率が悪くなります。

  1. 会社は後継者から利息を受け取らなくてはいけないが、その利息は後継者側で所得金額から控除できない
  2. 役員報酬を増額すると、税金と所得税がアップするため、金額によっては2倍以上増額しなくてはいけなくなる

個人所有の不動産を会社が買取って納税資金を準備

被相続人が所有していた不動産を、後継者が相続で取得し場合、その不動産を会社に買取ってもらい資金化することができます。

相続税の申告期限から3年以内の譲渡だと、取得費加算の特例を受けられます。

なお、被相続人が所有する不動産が一定の法人の事業の用に供されていた宅地等に該当し、次の要件を満たしたときは、特定同族会社事業用宅地等として、土地の相続評価について400㎡まで80%の減額が受けられます。

相続開始の直前から相続税の申告期限まで一定の法人の事業(貸付事業を除きます。以下同じです。)の用に供されていた宅地等で、次表の要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいいます(一定の法人の事業の用に供されている部分で、次表に掲げる要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得した持分の割合に応ずる部分に限られます。)。
なお、一定の法人とは、相続開始の直前において被相続人及び被相続人の親族等が法人の発行済株式の総数又は出資の総額の50%超を有している場合におけるその法人(相続税の申告期限において清算中の法人を除きます。)をいいます。

法人役員要件:相続税の申告期限においてその法人の役員(法人税法第2条第15号に規定する役員(清算人を除きます。)をいいます。)であること。

保有継続要件:その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。

特定同族会社事業用宅地等の適用を受けることができれば、相続税額そのものを低く抑えることができます。

自社株物納で納税資金の代わりにする

納税資金がどうしても調達できない場合は、自社株を物納することもできます。

自社株の物納ができる要件

相続税の納税方法は、金銭による納付、延納、物納の3つの方法があります。

ですが、この3つの中から納税者が自由に選べるわけではありません。

原則は金銭による納付になります。

金銭による納付がむずかしい場合は延納、さらに延納でも厳しいときが物納となります。

物納はそれ以外の納付方法がない最後の手段となります。

また、物納は何でもよいというわけではありません。

納付すべき相続税の課税価格の基礎になった相続財産で、次に掲げる財産及び順位で、その所在が日本国内にあるもの、という制限が付きます。

  • 第一順位:国債、地方債、不動産、船舶、上場株式
  • 第二順位:非上場株式
  • 第三順位:動産

さらに、「管理、処分するのに適切なもの」という条件も付きます。

非上場の株式については次の要件を満たす必要があります。

1.譲渡に関して金融商品取引法その他の法令の規定により一定の手続が定められている株式で、その手続きがとられていないもの

2.譲渡制限株式

3.質権その他の担保権の目的となっているもの

4.権利の帰属について争いがあるもの

5.共有に属するもの(共有者全員がその株式について物納の許可を申請する場合は除きます。)

6. 暴力団員等によりその事業活動を支配されている株式会社又は暴力団員等を役員とする株式会が発行した株式

自社株のでの物納は第二順位になります。

自社株での物納が認められるには、かなり条件は厳しいですが、これが認められれば譲渡課税益も発生しませんし、税負担や資金調達面でも後継者や発行会社にとっては有利になります。

物納後の株主としての国の権利行使

物納後、国は株主として会社経営にどう関与してくるのか、気になるところですが、商法上の特別決議が必要な場合や、配当が適正に支払われなかった場合など、一定の事柄に限り、その権利を行使するとされています。

そのため、通常の会社経営を行い、適正な配当を払っていれば、国から経営に口を出すというこにはなりません。

自社株物納の注意点

物納した自社株式は、会社が買い戻しをすることが出来ます。

会社は物納された株式を計画的に買い戻し、会社の経営を維持することが出来るようになりますが、買戻しには資金が必要になります。

また、物納した非上場株式は、発行会社などの随意契約適格者から買受意向が示されているものを除き、すみやかに一般競争入札により処分されるとなっています。

そのため、随意契約により買い戻しができないと、一般入札により第三者が株主となってしまうというリスクがあります。

まとめ

この記事では、事業承継の後継者が用意すべき納税資金について解説してきました。

納税資金の用意の仕方としては、やはり生命保険がメリットも多く合っています。

生命保険を毛嫌いする人は多いですが、事業承継時においてはなくてはならないアイテムとなります。

とくに自社株の評価が高い会社においてはなおさらです。

事業承継時においては納税資金対策も重要な施策になります。

しっかり計画を立て納税資金を準備し、後継者や会社が資金繰りに苦しまないようにしておきましょう。

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