事業承継において自社株の価格は一つのハードルになります。
株価が高ければ相続・贈与時に、移転コストが大きくなり、後継者の資金負担が大きくなるからです。
ですから、事業承継の計画を立てるときは、いかにして株価を下げるかがポイントになります。
この記事では、事業承継対策としての株価を下げる方法について解説します。
事業承継時の自社株の算定方法については下記記事でおさらいしてください。
評価が高い要因をチェックする
自社株の評価方法は、財産評価基本通達で決まっています。
したがって、通達のルールに基づいて株価を下げる必要があります。
自社株の評価を下げるには、次の3つの方法があります。
- 評価方法の仕組みを使って株価を下げる方法
- 類似業種比準価額を下げる方法
- 純資産価格を下げる方法
以上の方法の中から、優先順位を決めて対策を行います。
そのため、どの方法が自社に取って有効かを最初にチェックしていきます。
会社区分をチェック
自社株の評価では、会社区分を、
- 大会社
- 中会社の大
- 中会社の中
- 中会社の小
- 小会社
という5つに分けられます。
そして会社の規模が大きくなるほど、評価額が低くなるようにできています。
つまり株価を低く評価されるためには、会社区分を一つでも順位を上ることが遊行なのです。
この会社区分は、従業員数、純資産価額、取引金額の規模(売上)の3つの要素で決まります。
そこで、会社区分が上にランクアップできないか、従業員数、純資産価額、取引金額をチェックします。
類似業種比準価額をチェック
類似業種比準価額は、類似業種の株価、1株あたりの配当金額、1株あたりの年利益金額、1株あたりの純資産価額を、それぞれ乗じて評価を求めます。
そのため、いずれか一つでも大きな値があると類似業種比準価額は高くなってしまいます。
したがって、自社の配当金額、年利益金額、純資産価額を下げることができないかチェックします。
純資産価額をチェック
これまでの利益の蓄積となる内部留保が多く貯まっている場合や、土地や有価証券の含み益があると評価額が高くなります。
資産価値を下げることができないかチェックします。
1・評価方法の仕組みを使って株価を下げる方法
会社区分を決める要素は、従業員数、純資産価額、取引金額の3つで決まります。
つまり、一つ上の区分の基準を満たす数値にすることができれば、会社の区分はランクアップします。
これが、評価方法の仕組みを使って株価を下げる方法となります。
ただし、評価額を下げることが目的となって、意味のないランクアップをしても、会社の業績を悪くするだけになってしまいます。
本末転倒にならないようにしましょう。
会社の区分をランクアップする方法
従業員数を増やす
たとえば従業員数が67人~69人といった場合、従業員数をあと少し増やせば70人となり、大会社へ区分されます。
他の区分でも同様で、境界付近であれば従業員数を増やすことで、会社規模が上位となります。
その人数を維持すれば、自社株は有利な評価になります。
総資産価額の引き上げ
借入をして新規投資をすることで、総資産が大きくなり、会社の区分が上位になります。
ただし、ここで注意点があります。
新規投資が土地や株式の場合、総資産に占める土地や株式の割合が増えてしまいます。
その割合が一定数を超えると、「特定の評価会社」に該当してしまい、評価額は高く算定されます。
資産を増やして区分を上げるときには、土地や株式の割合がどれくらいになるか気をつけましょう。
取引金額を増やす
M&Aや事業を譲渡してもらうなどすれば、取引金額が増加し、会社区分が上位になります。
特定の評価会社にならないようにする方法
前述したように、特定の評価会社に該当してしまうと、評価額が高く算定されてしまいます。
特定の評価会社は、会社規模の区分に関係なく、主に純資産価額方式によって評価され、一般的に自社株が高く算定されます。
そこで、特定の評価会社にならないように対策を行う必要があります。
比準要素を1にしない
比準要素が1(配当金額、年利益金額、純資産価額のうち2つが0)の場合、「比準要素1の会社」となり、特定の評価会社に該当してしまいます。
このとき会社規模は関係なく、大会社でも上記条件に該当すれば特定の評価会社となります。
したがって、配当金額、年利益金額、純資産価額のうち2つが0にならないよう対策を行わなくてはいけません。
ただし注意点が一つあります。
事業承継の株価引き下げ対策として、仮に、毎年の配当0の会社が、利益を下げるために年利益金額を0にしてしまった場合、比準要素3つのうち2つが0で「比準要素1の会社」に該当してしまいます。
その結果、目的とは裏腹に自社株の評価を高めてしまいます。
事業承継対策は、部分部分で考えるのではなく、全体のバランスをみて進めましょう。
土地・株式の保有割合を下げる
会社の総資産に対して土地の割合が一定数以上の会社は、土地保有特定会社に該当してしまいます。
該当した場合は、「純資産価額」で評価され、株価の評価は不利になります。
株式も同じです。
保有割合いが一定数を超えると、株式保有特定会社となります。
特定の評価会社にならないようにするためには、総資産に対して、
- 株式の割合を下げる
- 土地の割合を下げる
という方法しかありません。
その有効手段は
- 保有している土地や株式を売却する
- 保有している土地や株式を関係会社に移転する
- 借入をして土地や株式以外の資産を増やし、純資産価額を大きくする
といった対策になります。
2・類似業種比準価額を下げる
類似業種比準価額を下げるには、次の2つの方法があります。
- 類似業種の株価が下がったタイミングで贈与する
- 比準要素の「1株あたりの配当金額」「1株あたりの年利益金額」「1株あたりの純資産価額」のいずれか、または全部下げる
現実的にいって、類似業種の株価が下がるのがいつになるかわかりませんし、他力本願で事業承継を進めるのは危険です。
ですから、1の方法は実践向きとはいえず、2の方法で確実に株価を下げるようにします。
1株あたりの配当を下げる
類似業種比準価額方式では、配当金額は直前期末以前の2年間の平均を用います。
このときの配当金額からは、非経常的(その期だけの)な配当は除かれて計算されます。
したがって、毎年配当される普通配当を減額して、記念配当・特別配当などの臨時的な配当をすれば、1株あたりの配当金額を下げることができます。
ただし、特別配当と称して配当しても、とくに理由もなく毎期のように支払っている場合は、経常的な配当とみなされてしまいますでの注意しましょう。
無配当の会社の場合
同族会社の場合、配当はしないで無配当ということが多いです。
そのため赤字が続くと、すぐに比準要素1の会社に該当してしまうケースが出てきます。
該当してしまえば特定の評価会社となりますから、利益が出てないのに株価だけは上がってしまうという現象が起きます。
そのため決算前に配当を行うことで、比準要素1の会社にならないよう対策するわけですが、その原資が「その他資本剰余金」であったり、その期だけ特別に配当するような場合は、配当したと認められません。
きちんと認められるためには、
- 利益剰余金を原資とすること
- 経常的に配当すること
という2つを守る必要があることを忘れないようにしておきましょう。
1株あたりの利益金額を下げる
利益金額を下げるには、簡単にいえば損金を増やすか、益金を減らすということになります。
- 不良債権・不良在庫・有価証券の含み損、固定資産の除去など、損金処理できる資産がないか確認する
- 含み損のある不動産を売却する※100%グループ内の法人への売却は損金処理はできません。個人なら可
- 経営力向上設備投資等の即時償却やオペレーティングリースなどの損金性の高い投資を行う
- 社長に退職金を支給する
- 役員に昇格した人や子会社へ転籍した従業員に退職金を支給する
- 従業員に賞与を支給する
- 古い機械を新しい機械に買い替える
- 高収益部門を分社化する
これらの方法で利益金額を下げることができます。
なお、利益金額からは、非経常的な利益は除かれるため、固定資産の売却や現物分配にによる受取配当が生じても利益金額は増加しません。
純資産価額を下げる
純資産価額は簿価価額(税務上の数値)で計算されますので、上記の利益金額をを下げることで、純資産価額も同時に下げることができます。
また、簿価純資産であれば含み益が生じても評価に影響しません。
そのため、たとえば損金性の高い生命保険に加入することで、利益金額と純資産価額を抑えつつ、含み益を生じさせることができます。
3・純資産価額を下げる
純資産価額を下げるためには、会社が持つ資産の評価を下げるしか方法がありません。
借入をして自社ビルや工場などを新築する
純資産価額方式は、資産・負債を時価で評価して、それがそのまま純資産価額となります。
借入金については、それがそのまま負債として認識されますので、借入があれば純資産価額は低く抑えられます。
それに対し建物の時価(相続税評価額)は、固定資産税評価額をもとに計算された金額となります。
そのため取得した価格より、低い金額で評価されます。
ただし、土地や建物は、取得してから3年以内のものについては、取得価格をもって評価額となってしまいます。
ですから、実際には取得して4年以降から株式の評価に反映されるため、この3年を見越して計画を立てる必要があります。
資産の評価方式を活用した対策を行う
よく用いられる対策で、不動産の購入で資産価額を下げることができます。
土地の相続税評価額は、路線価による評価か、固定資産税評価額に一定の割合をかけたものによる評価のいずれかとされていて、建物についても固定資産税評価額となるため、相続税評価額が低くなるように設定されています。
さらに、取得した物件を賃貸すれば借家権生じるため、
- 土地→貸家建付け地:借地権割合×借家権30%の減額
- 建物→借家権:借家権×30%の減額
と、それぞれ評価を下げることができます。
ただし、個人で取得した場合と異なり、法人で取得した場合は、取得日から3年間は取引価格(帳簿価格)で評価されることになります。
評価を下げるには、取得日から3年経過後、ということを忘れないようにしましょう。
また、会社を分割して含み益のある資産を移転する方法も有効です。
偏った税金対策は危険
株価を下げるということは、それすなわち税金対策となります。
それだけに税金対策に偏り過ぎないようにしなくてはいけません。
過度な税金対策は、事業に支障来たすばかりか、場合によっては租税回避行為として、税務署から否認を受ける可能性も出てきます。
また、相続税だけに目をとらわれるのも良くありません。
相続税を軽減しようと思えば、法人税や所得税にも影響してきますし、不動産を取得するなどすれば、不動産取得税や登録免許税などのコストも発生します。
さらに、事業承継を目的に金融機関から融資を受ければ、返済スケジュールや金利など、本業の事業にどう影響してくるかも考慮しなくてはいけません。
それら会社の財務全体を見つつ、事業承継の株価引き下げを考えるべきなのです。
税金対策に偏れば、事業承継は上手くいっても、肝心の本業に支障を来たす怖れがあります。
その点に留意して、事業承継株価引き下げ対策を組み立てましょう。
まとめ
この記事では、事業承継対策としての株価を下げる方法について解説してきました。
安易な株価引き下げ対策はダメですが、自社株の評価を下げることで、事業承継がスムーズに行えることはたしかです。
それには、株価引き下げの基本を理解しておくことは大事です。
株価を適切に下げて、後継者へスムーズなバトンタッチを行いましょう。
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