事業承継時の自社株評価を算定する方法

事業承継対策

事業承継をする際、自社株の評価がいくらかを算定する必要があります。

算定してはじめて、移転コストがどれくらいか把握できるからです。

株価を引き下げる場合でも、現状把握できていなければ、対策後の効果を正確に見込めません。

この記事では、中小企業の株価(取引相場のない株式)の算定方法について解説します。

取引相場のない株式の評価の流れ

中小企業が自社株を後継者に、贈与で移転する場合も、相続で移転する場合も、「取引相場のない株式」の評価方法により、評価額を求めることになります。

株式相場のない株式の評価の流れは

  1. 評価上の株主の判定
  2. 会社規模の判定
  3. 特定の評価会社の判定
  4. 類似業種比準価格方式及び純資産価格方式の算定

という段階を踏んで行われます。

評価上の株主の判定

取引相場のない株式を評価するとき、はじめに支配株主判定を行い、「原則的評価方式」か「特例的評価方式」のどちらかに決まります。

簡単にいえば、経営権を握るような支配力が強い株主の場合は「原則的評価方式」になり、配当目的で所有しているなどの支配権のない少数株主は「特例的評価方式(配当還元方式)」になります。

自社株式の株価 同族株主など支配関係からみる評価方法の判定

親族内承継の場合は、後継者が取得する自社株については、特例的評価を適用できるケースは稀となります。

議決権割合の判定

議決権の判定の際には、いくつか注意事項があります。

自己株式や無議決権株式があるときは、持株割合と議決権割合が異なってくることがあるため、手持ちの株数で議決権割合を判断してしまうと、「特例的評価方法だと思っていたのに、実は原則的評価方法だった」となってしまいます。

持合会社があるときは、とくに注意が必要です。

自己株式を有する場合の議決権

評価会社が持つ自己株式は、その自己株式にかかわる議決権は認められません。

したがって、会社が持つ自己株式がある場合は、それを除いて議決権の総数を求めます。

議決権に制限がある株式がある場合の議決権総数

株式には、議決権に制限がある「無議決権株式」があります。

その「無議決権株式」には、全部の事項について議決権がない株式(完全無議決権株式)と、一部の事項について議決権を行使できない株式の2種類があります。

この場合の議決権の数、議決権総数の判定は

  • 一部の事項について議決権を行使できない株式→議決権の数に含める
  • 全部の事項について議決権がない株式→議決権の数に含まれない
相互保有会社(持合会社)に係わる議決権の数

株の持合いは事業を円滑に進めていくメリットがありますが、それと同時に経営のもたれあいを招くというデメリットもあります。

そのため株式を持ち合っていて、自社が議決権を25%保有する会社が自社の株主となっている場合は、会社法308条第1項の規定により、その会社が保有する株式は議決権がないものとされます。

第308条 株主(株式会社がその総株主の議決権の4分の1以上を有することその他の事由を通じて株式会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主を除く。)は、株主総会において、その有する株式一株につき1個の議決権を有する。ただし、単元株式数を定款で定めている場合には、一単元の株式につき1個の議決権を有する。

2 前項の規定にかかわらず、株式会社は、自己株式については、議決権を有しない。

仮に図のようにA社がB社の議決権を30%(25%以上)と保有し、B社がA社に対し5%の議決権を有するときは、B社はA社に対し議決権を行使することはできません。

株主判定においても、5%を議決権から外して計算することになります。

遺産分割が整わない場合

相続が発生して、申告期限までに遺産分割が整わないときは、各納税義務者が全株式を取得したとして申告しなくてはいけません。

その後遺産分割協議が整ったときは、各自の取得した株式の議決権に基づいて判定をやり直すことになります。

会社規模の判定

会社規模により、評価方法が変わります。

会社規模の区分は次のようになります。

  • 大会社
  • 中会社の大
  • 中会社の中
  • 中会社の小
  • 小会社

基本的に、会社規模が大きいと有利な評価方法となります。

評価方法の手順は、はじめに業種を、「卸売業」「小売・サービス業」「卸売業・小売業・サービス業以外」で該当するものを選びます。

次に会社区分を判定します。

会社区分を決める要素は、「従業員数」「総資産価値(帳簿価格)」「取引金額(売上金額)」の3つです。

最初に従業員数をみます。

従業員が70人以上は大会社になります。

従業員数が70名未満の場合は、次の手順で区分が決まります。

  1. 業種区分に従った、自社の総資産価額と、従業員数を比較、表の低い段を選択します。
  2. 次に、業種区分に従った、年間取引額と、手順2の選択結果と比較し、表の高い段を選択し、それが最終的な会社区分となります。

仮に「小売・サービス業」で、総資産8億円、従業員数10人、取引金額3億円だった場合

(1)自社の総資産価額と、従業員数を比較

自社総額は中会社の大で、従業員数は中会社の小に該当します。

したがって低い方の、中会社の小にあたります。

(2)年間取引額と、手順2の選択結果と比較

年間取引額は中会社の中、従業員数は中会社の小に該当します。

どちらか高い方になりますので、取引金額が該当し、この会社は「中会社の中」と判定されます。

会社規模の判定により、評価方法が決まります。

評価方法は次の通りです。

  • 大会社:類似業種比準価格または純資産価格
  • 中会社の大:類似業種比準価格×0.9+純資産価格×0.1
  • 中会社の中:類似業種比準価格×0.75+純資産価格×0.25
  • 中会社の小:類似業種比準価格×0.6+純資産価格×0.4
  • 小会社:純資産価格または、類似業種比準価格×0.5+純資産価格×0.5

類似業種比準価格方式と純資産価格方式で求めた価格の、いずれか低い方を選択できます。

一般的に類似業種比準価格の方が、純資産価格に比べ価格は低くなります。

中会社の大・中・小を比べてみればわかりますが、区分けが大きい会社になるほど、類似業種比準価格の割合が増えるようになっています。

また、株価引き下げ対策も類似業種比準価格の方が比較的容易に行えることから、会社規模が大きいほど金銭面での事業承継対策は有利になるといえます。

類似業種比準価格方式及び純資産価格方式の算定

類似業種比準価格方式と純資産価格方式の求め方を解説します。

1・類似業種比準価格の算定

類似業種比準価格は、国税庁から発表される「類似業種比準価格計算上の業種目および業種目別株価等について」により、類似業種の株価をベースに「配当金額」「年利益金額」「純資産価格」を比準させて計算されます。

類似業種比準価格の計算式は次の通りです。

評価会社の事業内容が類似する上場会社の株価と比較して自社株の評価額を求めます。

比較には、配当金額、年利益金額、純資産価格の3つの比準要素を使います。※それぞれの金額は1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額として計算します。

配当金額

前2年の1株当たりの年平均配当金額(特別配当、記念配当除く)

年利益金額

直前期1年間(選択により2年間の平均)の1株当たりの利益金額(益金不算入となる受取配当金、繰越欠損金控除については加算)

純資産価格

直前期末の1株当たりの純資産価額 (帳簿価額により計算)

2・純資産価格の算定

純資産価格は、原則として課税時期の資産と負債の金額をベースに計算されます。

著しい減額がなければ、直前期末の帳簿価格を基に算出することも可能です。

純資産価格の算定方法

純資産価格方式は、課税時期における各資産の評価から各負債の額を引いて出た純資産額を、発行済み株式の数で割って、1株当たりの株式の評価を求める方法です。

具体的には次の計算式で求めます。

※「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」は、法人税、事業税、道府県民税及び市町村民税の税率の合計に相当する割合により計算した金額とされています。

税率は38%とされていましたが、平成28年度税制改正を受け、平成28年4月1日以後の相続等から37%が適用されることになりました。

※発行済株式数は、直前期末ではなく課税時期現在のものであり、また、1株50円換算ではなく実際の株式数です。

帳簿価格は会計上の簿価でなく、税務上の簿価を使います。

ただし、帳簿価格があっても評価しないものと、帳簿価格がなくても評価するものがあります。

帳簿価格があっても評価しないもの
  • 繰延べ資産、前払費用、繰延べ税金資産など
  • 引当金(貸倒引当金、賞与引当金)

など

帳簿価格がなくても評価するもの
  • 無償取得による借地権、特許権、営業権
  • オフバランスになっている生命保険金
  • 確定した死亡退職金
  • 帳簿になくても確実な債務
  • 未払いになっている法人税、固定資産税

など

課税時期開始前3年以内に取得または新築した土地等・家屋等の価額は、課税時期における通常の取引価額相当額(帳簿価額が通常の取引価額に該当する場合は帳簿価額)で評価します。

特定の評価会社の判定

特定の評価会社と判定されると評価が高くなってしまいます。

そのため、特定の会社に該当しないようにする必要があります。

特定の評価会社とは、評価会社の資産状況、営業状態などが一般の評価会社と異なるものをいい、それぞれの状況に応じた評価方法が決められています。

特定会社の評価方法

1・比準要素1の会社

類似業種比準方式の3つの比準要素のそれぞれの金額のうち、いずれか2か0であり、かつ直前々期末を基準にしてそれぞれの計算をした場合に、それぞれの金額のうち、いずれか2以上が0である会社(次の2~6に該当する会社は除きます)。

評価方法:純資産価格方式、または純資産価格=0.25とする併用方式

2・株式保有特定会社

課税時期において評価会社の総資産に占める株式等の保有割合が50%以上の会社(次の3~6に該当する会社を除きます)。

評価方法:純資産価格方式(「S1+S2」方式選択可)

3・土地保有特定会社

課税時期における評価会社の総資産に占める土地等の保有割合が70%(中会社および一定の小会社は90%)以上の会社(次の4~6に該当する会社を除きます)。

評価方法:純資産価格方式

4・開業3年未満の会社等

次のいずれかに該当する会社(次の5~6に該当する会社を除きます)

課税時期において開業後3年未満である会社

比準要素0の会社(直前期末を基とした1株当たりの「配当金額」「年利益金額」「純資産価格」がいずれも0の会社)

評価方式:純資産価格方式

5・開業前または休業中の会社

開業前の会社とは、会社設立の登記は完了してが、現に事業活動を開始するまでに至ってない会社をいいます。

休業中の会社とは、課税時期において相当期間にわたって休業中の会社をいいます。

評価方式:純資産価格方式

6・清算中の会社

解散手続きが完了し、課税時期において清算段階に入っている会社

評価方式:清算分配見込み額の複利現価による評価方式

配当還元方式

配当還元方式で株価が評価されると低い価格となります。

ただし配当還元方式に該当するためには、配当目的で株を所有しているなどの支配権のない少数株主でないと認められません。

そのため、後継者が事業承継で株を取得する場合は、配当還元方式を選択できる可能性は低いといっていいでしょう。

配当還元方式を選択できる株主は

  • 後継者以外の親族で無議決権株式を取得する場合
  • オーナー経営者の保有する株の一部を従業員に持たせる場合

など、限られたケースになります。

配当還元価格の計算法方法

同族株主以外の株主、同族株主のうち少数株式所有者が取得した株式は、その「株式の発行会社の会社規模にかかわらず(大会社・中会社・小会社)、配当還元方式で計算した金額で評価されます。

計算方法は次の通りです。

なお無配であっても2円50銭の配当があるものとして計算されます。

したがって、株式交換などで発行株式が増加しないのに、資本金が数倍や数十倍になると、1株当たりの配当還元価格も比例して高くなります。

このようなケースになる場合は、事前に対策が必要になります。

まとめ

この記事では、中小企業の株価(取引相場のない株式)の算定方法について解説してきました。

事業承継のコストを最小限にするためには、自社の株価がどれくらいかを把握することからはじまります。

自社の株価を算定して、スムーズな事業承継計画を立てましょう。

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