事業承継対策で活用できるものに「生命保険」があります。
むしろ、生命保険を利用しないと、高額な納税が発生したり、後継者や会社に資金難が訪れたり、相続後のトラブルに対処できないなど、円滑な事業承継を行うには、「生命保険はなくてはないらい」といえるくらいです。
そこでこの記事では、事業承継対策としての生命保険の活用法について解説していきます。
生命保険の活用法
生命保険のメリットは、現金に近い(現金に変換して使える)、ということです。
このことが、事業承継対策として非常に大きな利点となります。
1・相続税の納税資金の確保
生命保険の死亡保険金で、相続税の納税資金を確保することができます。
相続税が発生しても、納税できる余裕資金が後継者や会社にあれば問題ありません。
しかし、中小企業の経営者の場合、事業用資産や自社株が個人資産の大半というケースが多くあります。
それを後継者に相続させ、その他の財産(預貯金や不動産)を後継者以外に相続させてしまうと、後継者の納税資金が不足してしまうという事態が起きてしまいます。
また会社の業績が好調で、自社株の評価が想定以上に高くなっている場合も、相続税の納税資金確保に苦しむことになります。
相続税の納税の基本は現金です。
そのため相続税の納税資金が不足すれば、不動産や有価証券、最悪のときは相続した自社株を売って納税資金を作らなくてはいけなくなります。
自社株を全部売ってしまったのなら、その瞬間、会社は後継者のものでなくなってしまいますし、一部を売った場合でも、株の分散や会社にとって好ましくない人物の経営参入を招いたり、株が必要以上に安く買い叩かれるなどのリスクもあります。
生命保険を利用すれば、死亡の発生により、ほぼ確実に後継者に納税資金を渡すことができ、上記のリスクを排除できます。
生命保険で納税資金を用意するメリット
生命保険の死亡保険金には、税制上のメリットがあり、相続税自体を低く抑えられる効果があります。
個人契約の生命保険の場合
相続人が受け取る死亡保険金には、相続税の計算において次の非課税限度枠があります。
・500万円×相続人の数(養子については一定の制限あり)
そのため、現金預金より、生命保険の死亡保険金で相続させる方が、納税資金は少なくてすみます。
個人の生命保険の契約形態は
- 契約者:被相続人
- 被保険者:被相続人
- 保険金受取人:後継者
とする必要があります。
上記契約形態にすることで、死亡保険金は後継者固有の財産となり、相続財産とわけて取扱われます。
そうすると、後から解説する遺留分減殺請求の対象から外れ、納税資金をしっかり確保することができます。
※遺留分から外れるといっても、場合によっては特別受益の持ち戻しの計算の対象となることがありますので、絶対ではありません。
※生命保険の死亡保険金の受取人に指定できるのは、原則「二等親内の血族」までです。
法人契約の保険の場合
死亡保険金の受取人を法人にすることで、死亡保険金を「死亡退職金」として後継者やその他の相続人に支給することが可能です。
死亡退職金には、生命保険の死亡保険金の受取りの控除とは別枠で、
・500万円×相続人の数(養子については一定の制限あり)
の非課税限度枠があります。
自社株買取による納税資金の確保
相続税の納税の方法には、後継者が相続で取得した株を、「会社が買取る」ことで納税資金を確保する方法もあります。
後継者が会社から受取った代金で、相続税を納付するというわけです。
そこで利用するのが生命保険です。
法人で下記のような契約形態にしておけば、現経営者の死亡で保険金が会社に支払われます。
- 契約者:法人
- 被保険者:現経営者
- 保険金受取人:法人
その原資を持って、後継者から株を買取るというわけです。
確実に死亡保険金を後継者に渡すなら、終身保険が適しています。
ただし、会社の自己株式の取得は、分配可能額の範囲内でしか行えないという制限がありますので、この点に注意が必要です。
おおまかにいえば、貸借対照表の純資産の部の合計から資本金などを控除して、一定調整を加えた金額が取得財源になります。
それを超えて取得した場合は無効となります。
なお、純資産額が300万円未満の法人の場合は、自己株式の取得はできません。
また、相続された自社株を「強制的に買い取る」ためには、会社の定款に「強制取得条項」をしっかり定めておく必要があることも忘れないようにしておきましょう。
2・自社株の引き下げ
生命保険は、自社株の引き下げに役立ちます。
業績が好調でその時期が長く続いた企業は、設立時の株価より何十倍も高くなっているケースがあります。
これをそのまま後継者に移転してしまうと、高額な相続税・贈与税が発生します。
そこで生命保険で自社株の価値を下げ、株の移転を行うことにより、税額を圧縮するというスキームです。
株価を意図的に下げて時期をみて移転を行えることから、贈与で使われる方法です。
中小企業の株価の評価(取引相場のない株式)は、
- 純資産価格方式
- 純資産価格方式と類似業種比準価格方式の併用
のうちどちらかで判定されることになります。※原則的評価形式の場合
この2つのうちどちらに振分けられるかは、会社規模によりますが、いずれにしても自社株の価格を下げるには、
- 利益の圧縮:類似業種比準価格方式において有効
- 資産の圧縮:純資産価格方式において有効
といことが必要になります。
そして生命保険商品は、
- 損金に計上して(全額損金、1/2損金、1/3損金、1/4損金)利益を圧縮できる
- 保険会社に簿外資産を作って資産を圧縮できる
ということができるので、利益と資産を圧縮して自社株を下げ、税負担の少ない形で後継者に移転できるというわけです。
保険会社に貯めた簿外資産は、現経営者の役員退職金という形で受取ることで、会社も個人も税負担を少なくすることができます。
3・争族対策
後継者とその他の相続人で揉めないために、死亡保険金を使い、代償分割を行います。
代償分割とは、たとえば遺産が自宅だけで他にまとまった資産がない場合、相続人のうちの一人が自宅を相続する代わりに、他の相続人に現金を支払うことで財産分与を調整する方法です。
要は、後継者に自社株や事業用資産を相続させ、それ以外の相続人には後継者が代わり現金を支払い、不満の残らないようにして相続をスムーズに行うための調整法です。
仮に、不満を持つ後継者以外の相続人から遺留分の請求を受けてしまうと、後継者はその分を支払わなくてはいけないため、場合によっては、相続した資産などを処分して現金を用意しないといけなくなります。
また、相続をめぐって裁判でも起こされようものなら、物的・金銭的負担はもちろん、心的にも大きなストレスを負うことになります。
このような状態では、経営に集中できないことも十分に考えられます。
そのため、現金を後継者以外の相続人に支払って、後々のトラブルを未然に防いでおくことはとても重要なのです。
4・事業資金の確保
現経営者が現役のままお亡くなりになった場合、事業の業績に影響が及びます。
売上は減ることが予想され、さらに現在の取引先との条件が悪くなる可能性もあります。
たとえば、新社長との取引実績がないことなどを理由に、
買掛金の場合
- 支払いサイトの短縮
- 手形取引から現金取引への変更
売掛金の場合
- 支払サイトの長期化
- 現金取引から手形取引への変更
などが行われ、資金繰りが厳しくなることも想定されます。
また、会社の業績が良かったり、資産が貯まっていれば、相続税が発生するかもしれません。
ちなみに、会社の借入について、団体信用保険で保証していることがあります。
経営者が亡くなれば、債務自体は団信から支払われますが、債務免除益が発生することになり、多額の法人税を支払わなくてはいけないこともあります。
そのようなときに、事業保障として掛けていた保険があれば、キャッシュを受取ることができ、当面の資金不足を補うことや納税資金を確保できます。
生命保険を事業承継に使うメリットまとめ
1・納税資金を確保できる
生命保険は、契約で死亡保険、解約返戻金が確約されるため、将来の納税資金を契約した時点で確保できます。
2・500万円×相続人の数という非課税枠がある
生命保険の死亡保険金には、「500万円×相続人の数」という非課税枠があり、現金で相続するより、相続税額は安くなります。
3・受取人を指名できる確実に渡せる
死亡保険金は、死亡保険金の受取人を指名することができます。
保険会社は、死亡保険金受取人に指名された人以外は、お金を渡しません。
ですから「確実にこの人に渡したい」という場合は、その人を指名することで、財産を確実に移転することができます。
しかもその死亡保険金は、「受取人固有の財産」となり、相続財産から外れますので、他の相続人と財産を巡って争うことも避けられます。※例外は有り
また、受取人の名義変更は何度でできますので、気持ちが変わった場合でも、簡単な手続きで変更できます。
4・争族対策に有効
後継者に自社株や事業用資産が集中してしまう場合、他の相続人からみれば不公平となりかねません。
そこで死亡保険金を使うことで、後継者以外の相続人に公平に分配できたり、後継者が保険金を受け取り、代償分割をすることもできます。
その結果、争族を防ぐことができます。
5・管理コストがかからない
生命保険は、一度契約してしまえば、管理のためのコストはかかりません。
これに対し、相続税対策で賃貸アパートなどの不動産を購入すると、管理費用や登録免許税などの税金が発生します。
6・現金化しやすい
生命保険は換金性があり、ほぼ現金と同じです。
死亡保険金は死亡事故が発生しないと受取れませんが、解約返戻金があるタイプなら、簡単な手続きで数日内に入金されます。
さらに、契約者貸付けという制度を利用すれば、お金を借りるこもできます。
生命保険は流動性の高い、現金に近い金融商品です。
7・法人での活用方法が多彩
法人で生命保険に加入すると、いくつかの活用方法持つをことができます。
- 損金に計上できる
- 保険会社に簿外資産を貯めておける
- 個人と会社で名義変更を利用できる
これらを使うメリットが享受できます。
8・緊急用資金をプールしておける
生命保険は、損金計上しながら保険会社に簿外資産を貯めておくことができます。
生命保険の加入が事業承継対策とはいえ、保険会社にプールされている期間は、そのお金を緊急用資金として使うこともできます。
大企業のように経営が安定してない中小企業にとっては、これは大きなリスク対策になります。
事業承継対策として保険を利用する場合の注意点
生命保険は事業承継対策として、なくてはならない商品ですが、理由する際は注意点もあります。
1・加入目的に合った商品を選び、保険金額と保険期間を適切に設定する。
たとえば、相続で株式移転を行う場合と、贈与で行う場合とでは、それに合う保険商品は違います。
またどのタイミングで自社株の移転を行うかにより、適切な保険金額も保険期間も変わります。
それぞれに合った設定を行わないと、何のために保険に加入したかということになってしまいます。
2・キャッシュアウトが発生するので、加入が経営の負担にならないようにする。
保険料の支払いが発生しますので、その分、資金繰りが悪化します。
保険の種類によっては、高額となることもあるため、会社にとって大きな負担になることもあります。
事業承継のために、本業に支障を来たしてしまうのは本末転倒です。
経営の負担にならないような、保険の加入が必要です。
3・経営者の健康状態によっては加入できないケースもある
経営者の健康状態によっては、保険に加入できないこともあります。
事前に問合せて、保険に加入できるか確認しましょう。
4・損金算入が否認されないよう、税務面の事前確認を行う。
税負担が少ない形で事業承継が行えたとしても、後々税務署から否認を受けてしまっては元も子もありません。
やはり専門家のアドバイスを受けながら、否認されないようスキームを組むべきです。
5・生前退職金として利用する場合は、出口対策をしっかり計算しておく。
生命保険を退職金の原資として使う場合は、その出口となる「退職時期がいつになるか」が大切なポイントになります。
生命保険の解約返戻金にはピークがあり、それを超えてしまうと、戻ってくるお金は目減りしてしまいます。
だからこそ、退職するのがいつになるかが大事になります。
退職時期をしっかり設計しておきましょう。
まとめ
事業承継対策としての生命保険の活用法について解説してきました。
事業承継時における生命保険の活用は、なくてはならないくらい重要です。
経営者の中には、保険を毛嫌いする人もいらっしゃいますが、好き嫌いの問題でなく、利用しないと税負担が増えたり、相続の揉め事が起こる可能性もあるのです。
生命保険を活用して、スムーズな事業承継を成功させましょう。
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