事業承継で自社株式移転を成功させるポイントを解説

事業承継対策

事業承継において要点となるのが自社株の移転です。

自社株式移転には次の問題がネックになってきます。

  1. 経営権の問題
  2. 資金の問題(納税資金・買取資金)

この2つを解決することで、事業承継を円滑に進める下地を作ることができます。

ここでは株式移転にかかわる経営権の問題について解説していきます。

経営権の問題

後継者に安定的な経営権を渡すには、株の割合が大切になります。

株が分散してしまうと、経営の不安定を招きます。

理想の株式の割合

結論から申し上げれば、後継者に絶対的経営権を渡すには、株の3分の2以上が必要になります。

3分の2以上の株式を保有することで、特別決議を「単独」で可決できます。

特別決議とは

  • 定款の変更
  • 会社の解散・合併
  • 事業譲渡
  • 監査役の解任

など、経営にとって重要な決議のことです。

さらに、事業承継対策として活用される「種類株式の発行」や「組織再編」を行うには、特別決議が必要になります。

そのため、後継者への株の割合は3分の2以上の保有をしたいところです。

※注 議決権の過半数を持った株主が出席している株主総会であることが条件

持ち分割合2分の1

ちなみに、2分の1以上の株の保有なら、普通決議が「単独」で可決できます。

普通決議とは、

  • 取締役の選任・解任
  • 決算の承認
  • 配当の額の決議

ができる権利です。

持ち分割合3分の1以上

株式が3分の1以上の保有なら、特別決議を阻止できる権利があります。

自社株を承継しないまま亡くなったらどうなるか?

もし現経営者が自社株の承継対策を行わず、遺言もなしにお亡くなりになってしまったらどうなるでしょう?

現経営者(被相続人)が持っている自社株式は、共同相続人間で遺産分割協議が整うまでは、準共有の状態になります。

そして準共有の状態になると、相続人間で権利行使者1名を決めなければ、会社に対して権利行使することもできません。

会社法第106条

株式が二以上の者の共有に属するときは,共有者は,当該株式についての権利を行使する者一人を定め,株式会社に対し,その者の氏名又は名称を通知しなければ,当該株式についての権利を行使することができない

仮に相続人間で揉めている状態なら、権利行使者1名を決めることもむずかしく、株主総会すら開けない事態になります。

このような状況になれば、会社の経営もままならなく、結果として会社の存続も危うくなります。

自社株の承継対策を行うことは、単に税負担を少なくするだけではありません。

後継者の経営権を絶対的にし、安心して会社経営に取組めようにすることも含まれているのです。

安定的な経営のためには多額の資金が必要なケースも

経営権を安定化させるために、3分の2以上の株を後継者に移転させる必要があることは先述した通りです。

ただし、自社株式の評価額が高いと、それだけ後継者の資金負担が重くなってしまいます。

そこで後継者の資金負担が少なくなるよう、自社株の承継対策も同時に行わなくてはいけないのです。

自社株の移転方法

株式の移転方法は、生前贈与、相続、売買の3つの方法があります。

ただ移転方法といっても、親族内承継と親族外承継ではアプローチが異なります。

事業承継の方法を徹底解説。成功させる4つのポイントとは?

ここでは、親族内承継の場合の移転方法について解説します。

1・生前贈与

生前贈与による移転のメリットは、移転時期を選んで後継者に渡せることです。

移転時期を選べれば、株価も一定のコントロールをすることができます。

生前贈与の方法には、

  1. 暦年課税贈与
  2. 相続時精算課税制度
  3. 贈与税の納税猶予

の3つがあり、この中で状況に応じてどの方法を選択するかを決めなくてはいけません。

暦年課税贈与はとくに要件は必要ありませんが、相続時精算課税制度と贈与税の猶予は適用要件があり、適用要件を満たしているかを調べなくてはいけません。

2・相続

遺言などの相続により、自社株を後継者に相続させます。

相続税には非課税枠があり、その点でいえば税額を低くして移転できる可能性はありますが、この方法の一番の問題点は、移転の時期を選べないことです。

中小企業のような非上場の株式の相続税評価額は、直前の決算書の数値などを元に算出されます。

そのため、前年がたまたま好調で株式の価値が高くなってしまい、過大な納税額が生じることがあります。

3・売買

現経営者から後継者への株式の売買による移転は、そのタイミングを選ぶことができるため、意図的に株価を下げて行うことができます。

しかし、後継者が買取り資金を用意せねばならず、現経営者も株式の譲渡益に対し20%の課税が課せられます。

後継者が資金を用意できること、現経営者の納税負担が贈与に比べて少ないことなどを検討しなくてはいけません。

遺留分

後継者に経営権や事業用資産を集中させ、事業を安定化させることが事業承継の重要なポイントになりますが、民法には遺留分という権利があります。

遺留分とは、民法1028で定められている一定の相続人が最低限相続できる財産のことをいいます。

遺留分とは?

後継者に贈与や遺言で自社株・事業用資産を集中させても、それに不満を持ったその他の相続人がいれば、遺留分の減殺請求をされてしまうこともあります。

そなるとせっかく集中させた後継者の財産の一部が、分散されてしまう事態も想定できます。

こういった事態を避けるため、遺留分についての配慮が必要です。

遺留分の計算

遺留分の計算は、相続人の財産の1/2に(直系尊属のみが相続人のときは1/3)、法定相続分を乗じて求めます。

<例>

相続人が配偶者、子どもA・Bの2人の場合、子どものAの遺留分は

・1/2(法定相続分)×1/2(遺留分)=1/4

となります。

遺留分減殺請求

遺留分減殺請求とは、遺留分を侵害されている相続人が、遺留分を侵害している受遺者や受贈者に対してその侵害額を請求することです。

遺留分減殺請求とは

中小企業の経営者の場合、資産のほとんどが自社株・事業用資産となっていることがケースが多くあります。

そのため相続人が複数いる場合、後継者に自社株・事業用資産を集中させようとすると、他の相続人の遺留分を侵害してしまうことがあります。

これを避けるための一つの方法として生命保険があります。

現経営者を被保険者、保険金受取人を後継者とすれば、現経営者がお亡くなりになったとき、生命保険金を原資にして、その他の相続人に代償金を支払います。

そうすれば遺留分を侵害するこことなく、後継者が自社株・事業用資産を相続することがでるのです。

自社株を分散させないための株対策

相続が発生し、自社株・事業用資産が他の相続人に分散されてしまうと、後継者や会社が資金を出してそれを買戻さなくてはいけません。

このようなケースでは、後継者や会社に買取資金が必要ですし、株主からの高額買取の要求や、価格交渉の難航など、事態が悪い方へと進んでしまう可能性もあります。

そこで会社法を利用し、後継者以外へ自社株の分散を防ぐ措置を取ることができます。

具体的には

  1. 譲渡制限株式の整備
  2. 相続人に対する売渡請求制度の活用
  3. 種類株式の発行

です。

1・譲渡制限株式の整備

会社法では、会社にとってのぞましくない人が株式を取得できないよう、株式の譲渡を制限することができます。

たとえば、ある株主が株式を誰かに譲渡しようとしても、定款で定めておけば、株主総会、または取締役総会の承認を得なければ譲渡するこことができないのです。

株式の譲渡を制限するため、定款には「当会社の株式を譲渡によって取得するには、株主総会、もしくは取締役総会の承認を得なくてはいけない」という規定を加えます。

この定款を定めるには、特別決議をする必要がありますので、やはり自社株を後継者が2/3以上持っておくことが望ましいです。

2・相続人に対する売渡請求制度の活用

上記の譲渡制限株式は、相続による後継者以外の相続人への自社株の移転のときは、譲渡を制限することができません。

万が一その相続人が会社の望まない相手であると防ぎようがないのです。

そこで会社法では、会社が定款に定めることとにより、相続で後継者以外の相続人が取得した譲渡制限株式を、その取得した者に対し売り渡すよう請求して、強制的に買戻すことができます。

こうした定款をあらかじめ定めておくことで、もし相続で譲渡制限株式が後継者以外に移転されても、自社株を発行した会社が強制的に株を買取ることで、後継者に株を集中させ、安定的経営権を取得できるようになります。

注意点

ただし注意点もありますので、気をつけて運用しなくてはいけません。

  • この制度を利用できるのは譲渡制限株式
  • 相続があったこと知った日から1年以内に、株主総会の特別決議を経て請求しなくてはいけない。
  • 株式の売価は当事者間によって決められる
  • 協議が整わなかったときは、会社または売り渡す株主の一方が、売渡し請求の20日以内に裁判所に対して売買価格決定の申立てをすることにより、裁判所に売買価格を決めてもらうことも可能。

3・種類株式の発行

株式会社は複数の種類の株式を発行でき、一般的なものを普通株式と呼びます。

この普通株式とは別に、「株式の内容が異なる株式」を発行することもでき、これを「種類株式」といいます。

種類株式の中には、事業承継時に活用することで、後継者に株を集中させ、後継者以外の人の参入を阻むことができるものがあります

その代表的なものが、

  1. 議決権制限株式
  2. 黄金株

の2つです。

議決権制限株式

議決権制限株式とは、株主総会において議決権を行使することの事項について、制限のある種類の株式のことです。

この議決権制限株式の使い方として、最初に後継者へ、議決権のある普通株式と議決権のない「完全無議決権株式」の2つを保有させておきます。

そして相続が発生した際は、「普通株式」を後継者へ、「完全無議決権株式」を後継者以外の相続人に相続させる旨の遺言を書いておきます。

このような方法をとることで、後継者に経営権を集中させることができます。

ただし、あからさまにえこひいきに思われかねないので、後継者以外の相続人に対する配慮が必要です。

たとえば、「完全無議決権株式」について、買取を請求できる権利を付けたり、配当の支払いに関して、普通株式よりも優先的に取り扱われる株式などの優遇をつけることで、相続で争いがないようにしておきます。

黄金株(拒否権付種類株式)

黄金株とは、株主総会で会社の合併などの重要議案を否決できる特別な株式のことで、株主総会や取締役会で決められた決議でも、黄金株を持つ株主はこれを拒否することができます。

そのため拒否権付き株式ともいわれます。

黄金株の使い方としては、後継者に不安がある場合などに利用します。

仮に後継者に自社株を集中させたとてしても、まだ経験が浅くすべてを任せるには心もとないときなど、黄金株を発行し、先代経営者が保有しておくことで、重要な事項(合併、株式交換、組織再編など)の判断の際には、事業承継後でも先代経営者の意思を反映させることができます。

それだけ強い効力があるだけに、後継者と意見が対立した場合は、意思決定ができなくなってしまう怖れがあること。

さらに、黄金株を保有したまま先代経営者が亡くなった場合、会社にとってのぞましくない人物がこの株を相続してしまうと経営の混乱を招きます。

このような事態を避けるために、黄金株を発行するときには、黄金株の株主が死亡したことを条件として、会社が黄金株式を取得できることを定めた「取得条項付株式」にしておく必要があります。

まとめ

自社株式の移転を成功させるためには、後継者に株を3分の2以上集めることがポイントになります。

3分の2以上の株式保有で特別決議を単独で決めることができ、それが事業承継後の経営権の盤石化になるからです。

また、株を分散させないための対策も、あらかじめおこなっておくことが、経営権の安定した移行につながります。

しっかり対策を立てて、後継者の憂いをなくす事業承継を行いましょう。

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