この記事は、中小企業の事業承継を成功させるためのガイドブックです。
事業承継とは、事業を次世代に引き継ぐことです。
事業承継を円滑に進めるためには
- 経営基盤の継承
- 自社株・事業用資産の承継
の2つが大事になります。
1・経営基盤の承継
経営基盤の承継には、「経営ノウハウ」と「経営理念」の2つがあります。
経営ノウハウとは、経営者として必要な業務知識、経験、人脈、技術をいい、経営理念とは、信念や価値観などの承継をいいます。
2・自社株・事業用資産の承継
後継者が安定的な経営を行うためには、自社株と事業用資産を集中的に集めなくてはいけません。
自社株や事業用資産が分散してしまうと、経営権でもめ、会社の方向性が二分され、組織力ももろくなり、経営が上手くいかない可能性が出てきます。
そうかといって、後継者でない相続人にも公平に自社株を分配すればどうでしょう?
上場企業でもない中小企業の株を現金に換えることは困難ですし、会社経営にかかわらないのに、株があるだけで相続税の対象になるという、まさに厄介な財産となるわけです。
また、事業資産も含め相続財産が多いと、相続でもめる(いわゆる争族)元となるため、家族にどう遺産分配するかも考えなくてはいけません。
争族を防止する
相続人となる子供が複数いる場合は、争族防止のため、財産の分割に注意しなくてはいけません。
その方法の一つとして、まず、遺留分を侵害しないように自社株・事業用資産を後継者に集中させます。
そしてその他の相続財産(現金、自宅など)を、会社を継がない子どもに取得させ、相続財産で不平がないようにしておきます。
会社を継がない子どもは、後継者に財産が集中し過ぎると、不公平だと不満がたまります。
そこで遺留分を請求されてしまうというわけです。
遺留分とは?
遺留分とは、相続人に認められる最低限の権利です。
遺産相続をするときには、法定相続人が法定相続分に従って遺産を受け継ぐのが基本です。
しかし、遺言や贈与があると、法定相続人であっても十分な遺産を受け取れなくなることがあります。
このようなときに、相続人が主張できるのが遺留分です。
仮に、自社株・事業用資産を現経営者から遺言で後継者に渡したとしても、後継者でない子供の取得分が遺留分に満たされないときは、その不足分を請求することができるのです。
たとえば、3億円の相続財産がある場合で、相続人となる子どもが2人いたとします。
このとき自社株・事業用資産を2億5000万円で後継者となる子どもAが取得。
それ以外の財産を5000万円で、後継者でない子どもBが相続した場合、Bの遺留分は7500万円になります。(相続財産×1/2×1/2)
したがって不足分の2500万円を、子どもAに請求できるのです。
請求されたAは2500万円を用意しなくてはいけません。
2500万円分の財産がなければ、これは大きな痛手となります。
事業承継の3つの方法
事業承継には次の3つがあります。
1・親族内承継
子どもなどの親族に継がせるパターンです。
メリット
- 従業員からも理解を得られやすく、先代経営者の影響力を残しつつ経営権をバトンタッチできる。
- 後継者は早い段階で決めれば、承継への準備期間を長く取れる。
- 相続により自社株式・事業用資産を渡すことができるため、他の方法に比べ所有と経営権の分離を回避できる可能性が高い。
デメリット
- 親族内に資質と覚悟がある後継者候補が必要。
- 相続人が複数いる場合は、後継者となる相続人に経営権を集中させることがむずかしくなる場合がある。
2・親族外承継
役員・従業員や外部への承継など、親族外の人に事業を承継してもらう方法です。
将来会社を引きつぐ子どもへの中継ぎ的役目の親族外承継のパターンもあります。
メリット
- 親族内に適格者がいなくても、後継者候補を広く探すことができる。
- 社内で認められている役員・従業員を後継者に指名する場合は、内外の理解を得られやすい。
デメリット
- 後継者候補が資金力不足だと、現経営者から自社株を買い取ることができない。
- 後継者候補に会社を背負う覚悟がない場合、事業承継がスムーズに進まない。
- 会社の債務に対する個人保証の理解を得られにくい。
M&A
M&Aは自社株式、または事業の他社への売却です。
これまではあまり馴染みのなかった方法ですが、近年では活発化しています。
メリット
- 後継者がいない場合でも事業承継が可能。
- 現経営者が売却により利益を得ることができる
デメリット
- 希望条件に合う買い手を見つけることがむずかしい
- 赤字や債務超過だと一層困難になる。
- 現経営陣が退くため、社風や経営方針が変わってしまう。
事業承継に必要な資金
事業承継には資金が必要になります。
事業承継に必要な資金は、後継者が親族内にいる場合と親族内にいない場合では違いがあります。
後継者が親族内にいる場合
- 後継者が他の親族などに分散された自社株式や事業用資産を買い取る資金
- 自社株式・事業用資産の相続や贈与で発生する、後継者に課せられる相続・贈与の納税資金
- 会社が他の親族などから自社株・事業用資産を買取るための資金
後継者が親族内にいない場合
- 役員・従業員が承継する場合で、その役員・従業員が自社株・事業用資産を買取るための資金
- 役員・従業員が承継する場合に、新会社を設立し、その会社が現経営者の自社株・事業用資産を買取るための資金
- 社外の人が会社を買取る(M&A)場合、その資金
これらの事業承継用の資金は、民間の銀行、日本政策金融公庫、信用保証協会の保証を利用して融資を受けることができます。
また事業承継には生命保険の活用は欠かせません。
生命保険を活用すれば、納税資金、遺留分対策、自社株買取資金など、事業承継に必要な資金を効率よく用意することができます。
事業承継を成功させる4つのポイント
親族内承継、親族外承継、M&Aの3つのうちどの承継方法を選んでも、もっとも重要になるのが自社株式です。
株の持ち分割合がどうなるかで、経営権も決まってくるからです。
株式の取得枚数が多ければ、それだけ発言権や決定力が大きなり、株主総会の決定によっては、経営陣の退任も要求できるのです。
それだけに、後継者となる人に、いかに自社株式を渡すかが成功のポイントになります。
1・株式の保有
会社を事業承継するのに大切なのは、後継者となる人に株式を集中させて、経営権を維持することです。
そのために必要なのは、自社株の3分2以上の議決権を持っていることです。
後継者に株式を集中させる方法には
- 贈与
- 相続
- 譲渡
の3つがあります。
それぞれの方法には一長一短があり、どの方法を採るのがよいか、じっくり検討しなくてはいけません。
・自社株承継に使う「暦年贈与」「相続時精算課税制度」を詳しく解説
2・株式の分散を防ぐ
自社株式を後継者に集中させつつ、株式の分散を防ぐ対策も必要です。
株式が分散してしまうと、保有者から高額な買取を要求されたり、関係のない第三者へ売却される可能性があるからです。
株式の分散を防ぐ方法としては、
- 会社の定款で株式の譲渡制限を定める
- 後継者以外の人には、議決権制限株式などの制限株式を渡す
などの方法があります。
それ以外にも金庫株を使って自社株分散を防ぐ方法もあります。
金庫株は後継者が納税資金を作るときにも活用できます。
3・税金対策
会社の株式の価値が高くなると、それに比例して税金も高くなります。
そこで、贈与の非課税枠を利用したり、経営承継円滑法(中小企業の場合)といった法律を利用することで、税金の負担を抑えて事業承継を行うことができます。
また、会社の株式の価値を意図的に落とすことで、税負担を抑えて株式の移転をする方法もあります。
自社株を下げるためには、最初に自社株の評価額がいくらなのか適正な額を算出しておく必要があります。
また自社株を後継者に譲渡した場合の税金対策を考えておかなくてはいけません。
さらに従業員自社株会を作って、相続税の負担を減らす方法もあります。
4・保証債務の対策
会社の借入について、経営者個人が連帯保証をしていることがほとんどです。
新たに後継者が社長に就任する場合、銀行は「経営が定まっていない」などの理由で、後継者に連帯保証人になることを求めてきます。
このとき、現社長の連帯保証まで外してくれるかといえば、そんなことはありません。
新社長の経営手腕が未知数な以上、なるべく担保を取っておきたいというのが、銀行の心情です。
銀行から先代経営者の連帯保証人を外してもらうには、基本交渉しかありません。
そこで交渉を有利に進めるために重要になるのが会社の財務体質です。
会社の財務体質が、スコリングシートで一定以上の得点があることで、銀行は交渉のテーブルに乗ってくれます。
会社の財務体質を良くするということは、債務の圧縮も含まれます。
債務の額が小さくなれば、後継者も連帯保証することに関して、プレッシャーが小さくなります。
いずれにしても、銀行の格付けにおけるスコリング評価を意識した財務改善は、事業承継でも必須の課題といえます。
・銀行融資の8割が決まる「信用格付け(スコアリング)」を制する方法
まとめ
中小企業が事業承継を円滑に行うための方法をまとめました。
まずはポイントを抑えて事業承継を成功させましょう。
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