銀行融資は決算書で8割は決まるといわれています。
近年は事業性評価といって、事業そのものの、収益性、計画性、将来性をみて判断しようという動きも出ていますが、まだまだ決算書での評価が大きいのが現実です。
誤解を怖れずいうなら、決算書を制すれば融資は出たも同然なのです。
ならば、銀行員が決算書のどこをみて、どう評価するのかを知ることができれば、融資においてこれほど優位なことはないでしょう。
この記事では、銀行融資の際の銀行員の決算書の見方について解説していきます。
銀行員が決算書を見る順番
銀行員が決算書を見る順番は
- 貸借対照表の純資産と借入の総額
- 損益計算書の営業利益と経常利益
- 貸借対象表のそれぞれの科目
という順番になります。
1と2は多少後先するでしょうが、見ている点は同じです。
1・貸借対照表
純資産
貸借対照表では、まず右下にある「純資産」を見られます。
純資産がプラスかどうか確認するためです。
純資産は「総資産-総負債」で計算され、これがマイナスだと「債務超過」となります。
債務超過は、計算式からもわかるように、会社の財産をすべて現金にしても、借入している負債を返すことができない状態です。
債務超過になると、融資は極めて不利になります。
・債務超過マニュアル!債務超過で銀行から融資を受ける秘訣とは?
実質債務超過と判定されることも
提出した貸借対照表の数字はプラスでも、銀行はその数字を鵜呑みにしません。
実態を調べ、実質の換金価値にして再計算され、評価し直し、マイナスのときは「実質債務超過」と判定されます。
たとえば、設備機器の貸借対照表上の価値は1000万円あった、しかし調べてみると700万円の価値しかなかった。
この場合、差額300万円を引かれて、価値は700万円とされます。
価値が上がっている場合も同様に再計算され、プラスに再評価されます。
以上のように、銀行は実態を調べます。
そこで出た純資産の数値がマイナスなら、実質債務超過と判定されます。
自己資本比率
純資産の額は、財務体質の健全性も表します。
したがって純資産の額が大きければ、銀行からの評価は高くなります。
具体的には、純資産を総資産の額で割った、「自己資本比率」で見られます。
・自己資本比率=純資産÷総資産
自己資本比率が高いということは、借入が少なく自分で用意できるキャッシュが多いということなので、銀行も安心して融資できるというわけです。
借入月商倍率
貸借対照表では、純資産の次に借入額の総額がポイントになります。
借入の総額が月商の何倍あるか、この数値をみられます。
これを「借入月商倍率」といいます。
・借入月商倍率=(短期借入+長期借入)÷(年商÷12か月)
※総借入は、長期借入と短期借入を足した額
この数値が、2カ月以内だと安全、3カ月~4カ月以内でやや多め、4カ月以上で多いと判定されます。※ただし、業界にもよる
たとえば、年商1億5千万円の会社に5千万円の借入がある場合
・5千万円÷(1億5千万円÷12カ月)=4カ月
となり、この年商にしては借入が多いと判定されます。
ちなみに借入月商倍率が8カ月以上だと危険と判定されます。
2・損益計算書
営業利益と経常利益
銀行が損益計算書でみる項目は、営業利益と経常利益の2つです。
営業利益とは本業の稼ぐ力です。
経常利益とは、本業以外の収益を加味した、その会社が通常の業務で得た利益のことです。
営業利益は本業の儲けなので、それを銀行が重視するのは当たり前です。
本業が傾いていたらアウトです。
経常利益は、本業以外も含めて企業が毎年どれくらい稼げるかを示す指標なので、こちらも銀行は重視します。
極端なことをいえば、税引前の利益が赤字でも、営業利益と経常利益で黒字を確保できれば、銀行からの評価はそれほど下がらないのです。
ですから、まず営業利益と経常利益が黒字かどうかを銀行員は見てきます。
なおかつ、営業利益と経常利益が大きいほど、返済能力は高いので、銀行の評価は高く、審査も通りやすくなります。
ちなみに、銀行が返済財源としてみる数字は次の通りです。
・営業利益+減価償却費-法人税 ※営業利益を経常利益で求める銀行もあります。
これを「収益弁済」といいます。
上記数値より返済元本の方が多い場合は、資金繰りは回らないことを意味します。
銀行に提出する事業計画は、
「営業利益+減価償却費-法人税>返済元本」
という図式になっていなくてはいけないことに注意しましょう。
売上高に対する率
営業利益と経常利益は、それぞれ売上高に対して何%あるかもみられます。
もちろん、高い方が評価は高くなります。
売上高営業利益率は5%以上、売上高経常利益率は3%以上が理想です。
3・貸借対照表の科目
貸借対照表の科目から、実態の資産価値を調べられます。
実態調査で再計算され、マイナス評価をされれば実質債務超過と判定されることもあります。
売掛金・受取手形
売掛金の額が適正かをみられます。
具体的には、売掛金・受取手形の額を月商で割って、多いか少ないかを計算します。
これを売掛債権回転期間といいます。
・売掛債権回転期間=(売掛金+受取手形)÷(年商÷12カ月)
仮に月商1200万円、売掛金2000万円なら
・2000万円÷1200万円=1.67ヵ月分
となります。
もし経営者からのヒアリングで、売掛金の流れが月末締めの翌月末回収と聞いていれば、売掛金の額が多いとなります。
そこで未回収の売掛金や架空の売掛金が存在しないかを疑います。
貸倒れとなった売掛金を計上している場合は、勘定科目明細書から売掛先を調べ、何年も同じ額の取引先があれば、資産価値のないものとして引かれます。
売掛金が多くなっているのであれば、それをきちんと説明しないと、余計な疑いをもたれることになります。
棚卸資産
棚卸資産も売掛金同様、月平均や業界平均と比べ多すぎないかチェックされます。
具体的には、棚卸資産を月商で割ります。
これを棚卸資産回転期間といいます。
・棚卸資産回転期間=棚卸資産÷(年商÷12カ月)
仮に棚卸資産が3000万円、月商が2000万円なら
・3000万円÷2000万円=1.5ヵ月
となります。
これが業界平均や前年と比べ、多いか少ないかを見られます。
不自然に多いのであれば、不良在庫の存在を疑われます。
なぜ在庫が増えたのか、しっかり理由を説明しましょう。
貸付金・仮払金
貸付金と仮払金については、銀行員の目は厳しくなります。
その理由や理由を説明しきれないと融資を断られる勘定科目です。
なぜなら仮払金は粉飾によく使われる項目で資産価値なし、貸付金は返ってくる見込みのないお金で資産価値はなく、さらに私的流用も疑われる科目だからです。
・粉飾決算で銀行からの融資はどうなる?!粉飾のリスクと見破られ方とは?
要するに、貸付金・仮払金があると、不正の温床となりやすく、お金の使い道も不明、こんな杜撰な会計をする会社にお金は貸せません、というわけです。
もしこの科目があるなら、
- なぜ貸付金・仮払金が発生したのか?
- その内訳は?
- 今後、どうやって処理していくのか?
これを銀行が納得のいくように説明しなくてはいけないのです。
固定資産
有形固定資産には、土地、建物、建物付属施設、車両運搬具、機械装置などがあります。
無形固定資産には、ソフトウエアがあります。
固定資産は、現金が資産に変わった状態です。
そのため、固定資産が多い会社では、当座比率と流動性比率が悪くなります。
・当座比率:当座資産÷流動負債
・流動性比率:流動資産÷流動負債
要するに、資産はあるけどキャッシュの少ない、倒産しやすい会社ということです。
経営効率の観点からも、固定資産の大きな会社は効率が悪いとみなされます。
・総資産利益率(ROA):当期純利益÷総資産×100
総資産を小さくし、現金・預金の比率や経営効率を高めるためにも、無駄な固定資産(利益を生み出さない資産)は売ってしまった方が得策です。
買掛金
買掛金は、月平均に比べ小さいか多いかをみられます。
具体的には、買掛金を月商で割って見比べます。
・買掛金回転期間:買掛金÷(年商÷12カ月)
銀行員があらかじめヒアリングした締め日と支払日の日数と比べて、少なければ買掛金を過少に計上しているのではないかと疑います。
反対に多い場合もきちんと説明しましょう。
単純に、理由があって仕入れが多くなったのなら良いのですが、資金繰りが苦しくて取引先に支払いを待ってもらっているとなると、銀行の目は厳しくなります。
未払い費用
ここでみられるのは、社会保険料、法人税、消費税などの未払いです。
公的な支払いが未払いだと、それだけで融資を断られる理由になります。
滞納のないようにしたいものです。
短期・長期借入金
銀行や個人からの借入はここに計上されます。
1年以内に返済される借入れを短期借入金。
1年を超えて返済されるものを長期借入金といいます。
この科目で気をつけないといけない点が3つあります。
一つ目は、短期の借入は短期に入れ、長期借入は長期に正しく入れるということです。
なぜなら、長期の借入を短期に入れてしまうことで、信用格付けの指標となる、流動比率が下がってしまうからです。
また、返済を求めてない役員借入金を短期借入に入れてしまうことで、銀行から資本金にみなしてもらえないという弊害も起こります。
しっかり区分けしましょう。
・社長の頭を悩ます役員借入金と役員貸付金のメリット・デメリットを徹底検証!
2つ目はノンバンクからの借入がある場合です。
銀行、信用保証協会、日本政策金融公庫は、ノンバンクからの借入があると、審査が厳しくなります。
ノンバンクから借入があるときは、決算日時点だけでも返済ができなかを検討します。
やむなく借りる場合でも、会社ではなく個人名義で借りて、そのお金を役員借入金として会社に貸すようにします。
3つ目は、ほかの会社や個人から借入をしている場合です。
他の会社や人から借入がある場合、どんな会社や人から借りたかを聞かれます。
仮にその会社や個人が反社会勢力であったり、社会的問題を起こしているようなようだと、それだけで融資を断られる可能性が高くなります。
純資産
貸借対照表の純資産は、最初にみられる科目ですが、ここでは純資産を増やす方法をご説明いたします。
純資産がマイナスだと債務超過となって、融資を受けることが厳しくなります。
そこで、純資産を厚くして、債務超過にならないようにします。
方法は、社長が会社に貸付けている「役員借入金」を資本金に振り替えます。
仮に300万円の債務超過で、役員借入金が500万円あったとします。
この役員借入金500万円を資本に振り替えると、純資産はプラス200万円となります。
役員借入金は、銀行によってはあるだけで「資本金とみなす」場合もあります(ただし、1年ルールが適用され、役員借入金が長期借入に入ってないといけません)。
しかしそれは、銀行よってのルールであり考え方の一つなので、絶対というわけではありません。
ですから、確実に純資産を増やすには、役員借入金を資本に振り替えておいた方がよいのです。
※ただし増資した場合は、税金が発生することもありますので、実行の際は税理士の先生に相談しましょう。
税金の節税とは銀行融資は真逆
過度に節税を行った決算書は、銀行員から見ると評価は低くなります。
銀行員は決算書から、利益をどれくらい確保して、その利益を会社に着実にプールしているかをみています。
そのような企業だと、安全確実に融資したお金を返済してもらえるからです。
節税とはその逆の現象を起こすので、銀行は節税の過ぎた決算書を嫌います。
節税の基本とは、利益を減らすことです。
しかし、利益が減れば返済原資は減って、会社にお金を貯めるスピードは遅くなります。
つまり、過ぎた節税を行う会社は、利益が小さく、会社にも利益をプールできてない、まことに返済が危ぶまれる会社になってしまうのです。
銀行融資対策には利益を大きくすること、これに対し節税対策は利益を小さくすることです。
お互い真逆な方向を向いているというわけです。
銀行融資と節税は、相反する行為だと認識しておきましょう。
・知らないとマズい銀行融資と節税の関係とは?優先させるのはどっち?!
まとめ
この記事では、銀行員が決算書をどう見るかについて解説してきました。
しっかり対策を立て(粉飾のことではありません)、万全の準備で融資に臨みましょう。
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