銀行融資と連帯保証人は切っても切れない関係です。
通常会社の借入を申し込めば、社長の連帯保証はセットになります。
しかしこの連帯保証、甘く考えてはいけません。
連帯保証人の責任の重さをご存知な方は多いのですが、実はそれ以上に怖い存在なのです。
この記事では、銀行融資と連帯保証人について解説していきます。
保証人は2つの種類がある
保証人とは、担保の一種で「人的担保」とも呼ばれます。
その保証人には2つの種類があります。
それが、ただの「保証人」と「連帯保証人」です。
保証人
保証人とは、主債務者(借入れしている本人)が万が一お金を返せない場合に、その返済を主債務者に代わって支払う人のことです。
主債務者がお金が返せない場合、代わって返済しなくてはいけませんが、それでも、「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」「分別の利益」という認められている権利があります。
そのため、「主債務者がどうしても返せないとき」と、責任の重さが少し軽くなります。
連帯保証人
連帯保証人は、主債務者がお金を返済できな場合に、代わって債務を返済するという保証については同じです。
しかしただの保証人と違うのは、「主債務者と同等の義務を負う」という点です。
なぜなら、保証人には認められている「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」「分別の利益」の権利が、連帯保証人には認められていないのです。
催告の抗弁権
債権者に対して、まずは主債務者に十分な請求をするよう求めることができる権利
検索の抗弁権
債権者に対して、主債務者に財産があるときは、まずはそちらから請求するよう求められる権利
分別の利益
保証人が複数いる場合、一人の保証人が保証する上限は、債務の額を頭数で割った金額です。
もし1000万円の債務について、4人の保証人がいたら1人の負担は250万円です。
連帯保証人の場合はこの利益がなく、いきなり1人に1000万円請求されても文句がいえないのです。
要するに、連帯保証人になった瞬間、実際にはお金を借りていなくても「借りた本人と同じの扱いになる」ということです。
会社の融資でお金を借りる場合、代表者は銀行から「連帯保証人」になるように求められます。
会社の融資に連帯保証人は基本は必要
最近の銀行の融資の姿勢は、金融庁の方針もあり、担保・保証人に依存した融資ではなく。事業そのものへの見込み(採算が取れる事業かどうか)で融資するというものに変わってきています。
しかしながら、中小企業の融資では、まだまだ「連帯保証人を求められる」というのが現状です。
後で解説しますが、「経営者保証に関するガイドライン」が運用され、経営者の連帯保証を取らない動きもありますが、もうしばらくは「経営者の連帯保証が必要」と見ておいた方がいいです。
ちなみに、雇われ社長の場合も連帯保証を求められます。
連帯保証を保証を求められる理由
銀行がなぜ経営者に連帯保証人になるよう求めるかというと、次のような理由によります。
1・会社と経営者を一体とみなしているため
中小企業の経営者は、個人の資会社に注ぎ込むこともあります。
そのため会社と経営者個人を一体とみなして評価しています。
社長の個人資産が融資の審査の対象になるのもそのためです。
逆にいえば、社長が手取りを増やし、個人資産を貯めておくことは、融資において非常にプラスになるということです。
2・経営者の意識を変えるため
個人保証をすることで、「失敗したらすべての財産を失う」という強い覚悟ができます。
それが経営に対する規律や動機付けになります。
とくに持ち家のある経営者は、この意識が強く働きます(ですから、銀行は自宅を担保に取りたがります)。
ただし、逆にそのプレッシャーが足かせとなって、新たな投資を躊躇してしまうというデメリットがあります。
またこれに関していえば、経営者以外の第三者の連帯保証人がいる場合など、「保証人には迷惑は掛けられない」という責任感から、本来なら廃業してしまった方がリスタートを早く切れるにもかかわらず、赤字でも続けざるを得ないという負の側面もあります。
3・決算書の信用を補完するため
中小企業の決算書は、大企業に比べ透明性・信頼性に劣るといわれています。
現実問題、意図があるにせよないにせよ粉飾した決算書が提出されることもありますし、役員貸付金や仮払金など、支出に不透明な会計処理があります。
そのため、中小企業の決算書は、信頼性という点が低く見られてしまうのです。
その決算書の信頼性の低さを、経営者の個人保証で補おうというわけです。
決算書に信ぴょう性がないにもかかわらずそれを信じて融資をするので、足りない信用分を経営者の個人保証で補ってね、という理屈です。
4・法人の経営者の責任は出資の範囲にとどまるため
株式会社、有限会社、合同会社、合資会社の一部(有限責任社員)の出資者は、債務の責任の範囲は出資した金額内にとどまります。
仮に1000万円の出資で、借入れ2000万円で倒産すれば、出資者は1000万円までしか返済義務を負わないのです。
中小企業は、経営者がほぼ全額の出資者となっているケースがほとんどです。
そのため、金融機関が出資額を超えた額の融資を行えば、全額回収できないリスクが高まります。
そのため、経営者から個人保証を取り、その融資に対する責任を「無限責任」とすることで、全額回収に備えるというわけです。
ちなみに、個人事業主の場合は、債務の責任の範囲は「無限責任」となります。
わざわざ連帯保証を取らなくとも、借入れた時点で全部の返済義務を負うことになります。
社長の連帯保証を外すための「経営者保証に関するガイドライン」とは?
これまで融資の際は、経営者の連帯保証を取ることは当たり前のようにされてきました。
しかし平成26年2月から適用されている「経営者保証に関するガイドライン」では、経営者保証なしでも融資を受けられるよう指針を定めています。
もちろん条件付きではありますが、連帯保証人にならなくても、融資を受けられる可能性があります。
経営者保証に関するガイドラインの概要は次の通りです。
<経営者保証に関するガイドライン概要>
- 法人と個人が明確に分離されている場合などに、経営者の個人保証を求めないこと
- 多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて100万円~360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること
- 保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること
参照元:経営者保証に関するガイドライン
1の概要でもわかるように、一定の条件を満たせば個人保証を求められないことになります(または交渉できる)。
その一定条件とは
- 法人と経営者の資産等が明確に区分されていること
- 法人に財務基盤の強化が認められること
- 法人から財産状況の正確かつ適切な開示等が行われること
といったことが挙げられています。
これは端的にいって、経営者と会社の公私混同を区別し、経営の透明性を高めること、会社の内部留保を蓄積し借入を返済できる余力を貯める必要があるなど、ハードルとしてはかなり高めです。
役員貸付金や仮払金がある会社などは、公私混同でお金の流れも不透明とみられてしまいます。
これを解消しておかないと連帯保証人を外す交渉なんてできないでしょう。
また、金融機関への決算書、資金繰り表、試算表の提出も求められます。
この条件を満たせる中小企業はそう多くはありません。
しかし、連帯保証人を外すには、この条件に近づけなくてはいけないのです。
社長の連帯保証人を外す方法
1・財務状況を良くする
連帯保証人を外してもらうには、第一の条件として、会社の財務体質が良くなければいけません。
では、何をもって財務体質の良い会社と判断するのか?その基準は何かというと、「信用格付け」の点数です。
信用格付けのスコリング評価が一定以上の点数になることで、連帯保証人を外してくれるよう交渉することができるのです。
反対にいえば、スコリングが一定以下では、交渉のテーブルにつくことはできないのです(そうでなければ危なくて貸せないということです)。
スコリングの点数の付けられかたは、次の記事を参考にして下さい。
2・銀行間で競わせる
そしてここからもポイントですが、財務状況の良い会社には、他行からも営業がかけられます。
その場合、新規融資や借換え案件には、既存の銀行よりも好条件を提示する必要があります。
そうでなければ、会社側も交渉のテーブルに乗る理由がないからです。
となれば、「連帯保証を外すこと」も融資の条件として交渉することもできます。
新規に営業を仕掛けてきた銀行には、「連帯保証をしなければ融資を受けてもいい」といえ、既存の銀行には「連帯保証人を外してくれないなら他行での借換えを検討する」と、交渉できるということです。
3・保証人解除料で交渉
保証人を外すのに、解除料を支払って交渉するという方法もあります。
解除料の相場はありませんが、例えば5000万円の保証人に対し、200万円支払って、相手がどう出るかを見て、その後の解除料をきます。
4・保証限度枠の交渉をする
5000万円の保証をしているなら、3000万円までの保証契約に減額できないか交渉します。
強気の交渉をするためには、会社の財務状況が決め手となります。
会社の財務状況が悪ければ、そもそもの交渉のテーブルにさえ乗ってもらえないでしょう。
保証人が必要ない融資もある
融資と連帯保証人はセットと思われがちですが、連帯保証人を必要としない融資もあります。
日本政策金融公庫の行う創業融資には、一定額までは無担保・無保証で融資を受けられるものもあります。
これは国の政策の一環で、創業間もない信用の少ない人でも借りられやすくするための制度です。
本当に怖い連帯保証人の真実
ここで連帯保証人の意外に知られてない真実についてお話します。
保証人はさまざまなことで足かせとなります。
一言でいうなら、連帯保証人になるということは、いつか爆発してもおかしくない時限爆弾を抱えているようなものです。
事業承継と連帯保証人
事業承継時、社長の連帯保証は間違いなくネックになってきます。
後継者に会社を引き継いでもらう場合、銀行はその後継者に現在ある借入の連帯保証人になるよう求めてきます。
そのとき現社長の連帯保証を外してくれるかといえばそんなことはありません。
担保もまた然りです。
簡単に応じてくれない理由は、社長が実質的に経営に大きな影響力を持っていることはもちろん、後継者の経営手腕がいかほどなのかはかり兼ねているからです。
どうやって保証人を外していくかといえば、それは交渉です。
粘り強く交渉していく、これが基本です。
その交渉を優位に進めるためには、会社の財務力アップが不可欠になります。
銀行が連帯保証人を求める主な理由は、倒産などの万が一のリスクに備えてです。
ならばそのリスクを可能な限り低くすることができれば、連帯保証を外しても安全と考えることができます。
ですから、連帯保証を外す基本は、会社の財務力を高めることしかないのです。
死亡した場合のリスク
会社の連帯保証人である社長がお亡くなりになった場合は、その連帯保証人の地位は相続人が引き継ぐことになります。
引き継ぎたくない場合は、3カ月以内に相続を放棄しなくてはいけません。
相続の放棄は、プラスの財産も放棄することになります。
マイナスの財産だけ放棄することはできない、ということに注意しましょう。
※プラスの財産の一部だけ相続できる限定承認という方法もあります。
相続を放棄しないまま3カ月を過ぎてしまうと、単純承認したとみなされ、連帯保証人の地位も引き継ぎます。
また、被相続人(この場合はお亡くなりになった社長)の財産を勝手に使ったり、処分したり意図的に隠したりすると、単純承認したとみなされます。
※相続放棄をすれば、最初から相続人でなかった扱いになるため、後順位の人が相続人になる可能性があります。
第一順位の子が相続を放棄した場合は、第二順位の直系尊属(親・祖父母など)が、直系尊属が相続を放棄すれば第三順位の兄弟姉妹が相続人となります。
つまり、知らないうちに連帯保証人になってしまう可能性もあるのです。
相続人が相続税を支払うことに?!
相続税には「債務控除」というものがあります。
これはプラスの相続財産の中から、マイナスの相続財産を引くための控除枠のことです。
借金があればそれは相続財産から引いておかないと、プラスの財産だけに相続税が課せられるのはおかしいですよねという話です。
では、連帯保証している債務は、相続財産の中から引く(控除)ことができるのでしょうか?
このポイントになるのが、「債務が確定しているかどうか」です。
連帯保証債務は会社が返済し続けている限り、その額は確定していません。
社長がお亡くなりになっても、会社を存続させていく意向なら、返済は続いていきますので、債務は確定せず、債務控除の対象とはなりません。
したがって、相続税の基礎控除以上の相続財産があるなら、相続税が発生する可能性があります。
それに対し、社長がお亡くなりになり会社を廃業する場合には、返済がそこでストップすることになりますので、債務が確定し、社長のマイナス財産として債務控除の対象となります。
下記リンク先の記事は、債務控除が認められた事例です。
しかしこの場合でも、残された相続人は連帯保証の債務を返済しなくてはいけません。
債務を引き継ぎたくない場合は、相続の放棄を選択しなくていけなくなります。
社長としては、保険で債務を解消できるようにしておかないと、ご遺族に多大な経済負担を強いることになります。
死亡保険金で債務を返済するならこれを忘れてはいけません。
生命保険に加入していると、社長がお亡くなりなれば死亡保険金が支払われます。
社長の中には、この死亡保険金で借入を精算すればそれで済むとお考え方もいらっしゃいます。
だから連帯保証人になっていても怖くないと。
たしかに借入を死亡保険金で精算することはできますが、それで終わりとならないところが怖いところです。
まず会社が死亡保険金受取人になっている契約の場合、いわゆる法人保険です。
・契約者:法人 被保険者:社長 死亡保険金受取人:法人
この場合会社に入ってくる死亡保険金は、益金として雑収入に計上されます。
そしてこの入ってきたお金で借入を返済するというわけです。
しかし借入の元本の返済は経費に計上できません。
つまり法人税を支払った後のお金で借入を返済することになるのです。
仮に3000万円の借入があり、死亡保険金が3000万円入ってくるのなら、死亡保険金は雑収入として計上されますので、法人税が30%とすると、法人税が900万円、税引き後の手取りは2100万円となります。
後に残された家族は、借入を精算できるどころか、法人税で900万円支払い、借入も900万円残ることになります。
これを踏んだり蹴ったりといわずして何というのでしょう。
個人保証の借入を死亡保険金で返済するなら、法人税が発生することも忘れてはいけません。
保険で借入を返済して終わりではない
会社の連帯保証をしている場合は、会社を存続させる場合でも、会社を廃業する場合でも、しっかりしたプランを立てておかないと、相続人となるご遺族は、連帯保証人という地位によって、苦しめられることになります。
間違っても、「自分が死んだら保険で借入を返済して終わり」でないことに注意しましょう。
保証債務を社長所有の土地建物で返済したときの特例とは
会社に返済能力がなくなり、社長が個人で所有する土地・建物を売却して返済した場合は、所得税の計算において「譲渡益がなかったもの」とされる特例があります。
個人資産を売却して保証債務を弁済したにもかかわらず、土地や建物の売却益にまで税金が発生すれば、二重のダメージを受けることになります。
それはあんまりだということで、所得税法第64条2項では、土地建物を売却したときの「譲渡益がなかったもの」として取り扱ってくれます。
詳しくは下記リンク先の記事に書きましたので、ご興味ある方はご覧ください↓
まとめ
銀行融資と連帯保証人の関係について解説してきました。
中小企業の社長が銀行から融資を受けるときは、連帯保証人になることがほぼセットです。
そして連帯保証人は、事業を行っているときだけでなく、事業承継やお亡くなりになった後も大きく関係してきます。
連帯保証人が怖いというは漠然と知っている人は多いですが、実は思っている以上に怖いのが連帯保証人なのです。
しかし現在は、「経営者保証に関するガイドライン」もあるように、財務状況の良い会社は保証人を外してくれる動きになっています。
会社の財務状況を良くしておくことは、どんなときもプラスに働きます。
銀行融資と連帯保証人を理解して、保証人が足かせにならないよう、上手に立ち回りましょう。
コメント