中小企業にとって節税は、大切な資金繰り対策の一環です。
稼いだお金を最大限手元に残しておくこと、これが節税の目的です。
しかし、財務戦略のない節税は、大きなリスクをはらんでいることをご存知でしょうか?
それが銀行融資です。
企業にとって資金調達とは命綱です。
とくに自己資金の少ない中小企業にとってはなおさらです。
節税のやり過ぎは、銀行融資に支障をきします。
この記事では、銀行融資と節税について解説していきます。
節税対策と融資対策は相反する関係
まず、節税対策と融資対策は相反する行為ということを理解しましょう。
節税対策をがんばれば融資対策が弱くなり、融資対策に重点を置けば節税対策は弱くなります。
なぜなら、節税対策とは利益を減らすことであり、融資対策とは利益を最大にして貯めておくことだからです。
利益を減らすことが節税対策で、利益を最大化することが融資対策ですから、必然的に2つの対策は相反することになります。
節税対策の基本とは?
法人税は利益に対して課税される税金です。
そのため法人の節税を行うには、稼いだ利益を少なくするしかありません。
仮に1000万円の売上で、仕入れと経費で800万円かかったなら、実効税率30%で計算すると法人税は60万円になります。
・(1000万円-800万円)×30%=60万円
そこで、経費を意図的に100万円増やして節税すれば、法人税は30万円に減らすことができます。
・(1000万円-900万円)×30%=30万円
これが節税の基本です。
融資対策とは?
これに対し融資対策とは、毎年の利益を最大化することです。
銀行がお金を貸したい相手とはどんな会社でしょう?
第一に「確実に最後までお金を返してくれる会社」です。
では、「確実に最後までお金を返してくれる会社」とはどんな会社でしょうか?
それは、毎年利益をたくさん稼いで、そのお金を多く貯めている企業です。
これは個人の場合をイメージしてみればわかりやすいです。
給料が多くて、無駄遣いせずに貯金をしている人は、お金を貸しても返ってくる可能性が高いですよね?
銀行が喜んで貸したい相手です。
それは企業が相手でも同じなのです。
会社が毎年利益を稼ぐとは、損益計算書の税引き後当期利益のことです。
税引き後当期利益に減価償却費を加えたものを、簡易フリーキャッシュフローといいますが、この金額が多いと、お金を返済しても、余裕で手元にキャッシュが残ります。
したがって、税引き後当期利益が小さくなる節税を銀行は嫌います。
次にお金を貯めている企業とは、貸借対照表の「純資産」の額が大きい会社を指します。
純資産がたくさんあるということは、資産を多く貯めている会社です。
ですから、仮に本業の儲けに赤字が出たとしても、貯金から返済することができるので、銀行も安心して融資することができます。
まさに万が一のときも確実に回収できる相手なのです。
そしてここからが大事なのですが、貸借対照表の純資産を貯めるには、法人税を支払った後の「税引き後当期利益」でしか貯めることができません。
ということは、法人税の節税で利益を少なくしてしまうと、純資産に貯められる金額も少なくなってしまうのです。
節税で財務リスクが増える
先の例で考えてみましょう。
1000万円の売上で、仕入れと経費で800万円、実効税率30%で計算した場合と、経費を900万円にして節税した場合を比べてみます。
・(1000万円-800万円)×(1-30%)=140万円
・(1000万円-900万円)×(1-30%)=70万円
節税をしてない前者は純資産に140万円貯めることができますが、節税をした方は、1/2の70万円しか貯めることができません。
仮にこの状態を5年続ければ、前者は700万円、後者は350万円で、2倍の差がどんどんついていきます。
利益が少なければ純資産の増えるスピードは遅くなります。
企業の売上が順調ならいいですが、もし赤字が続いたりすると、貯金を切り崩さないといけないので、純資産の額も毎年どんどん減ってしまいます。
会社経営には節税だけでなく、融資を考えなくてはいけない場面もでてきます。
つまり、節税だけに力を入れて、融資対策を疎かにしてはいけないのです。
だからこそ節税には、財務戦略を持って融資とのバランスを考えながら臨まなくてはいけないのです。
節税が銀行融資の審査にどう影響するか?
ではここで、融資の審査に大きく響く「純資産」と「毎年の稼ぎの利益の大きさ(これを営業利益といいます)」について解説していきます。
※税引き後利益の元は、営業利益になりますので、税引き後利益を大きくするには営業利益が大きくなければいけません。
銀行が融資の審査に使うのが、企業への「格付け」です。
格付けは、正常先、要注意先、要管理先、破綻懸念先、実質破綻、破綻先の6段階に区分され、正常先と要注意先以外は、融資を受けることが基本出来ません。
この格付けは8割が決算書で決まるといわれています。
・銀行融資の8割が決まる「信用格付け(スコアリング)」を制する方法
決算書は、決算書の数値を使って算出した財務分析の各数値の得点を合計し、その総合得点で企業の評価が決まります。
これを定量分析といいます。
要は、定量分析の総合得点で、8割方融資が出るかどうかが決まるのです(つまり、格付けの区分先が8割方決まるということです)。
ここで何がいいたいかというと、それだけ融資では決算書の数字が大事になるということです。
そして、定量分析の得点項目で配点が高いのは、
- 自己資本額
- ギアリング比
- 自己資本比率
- 債務償還年数
- インタレスト・カバレッジ・レシオ
- キャッシュフロー額
になります。
この6つの項目について、「純資産」と「営業利益」が関わっているのです。
つまり、純資産と営業利益の数値を改善できれば、銀行の定量分析の総合得点は「高くなる」ということです。
この事実からも、無目的に節税をしてはいけないことがわかります。
節税の真の目的は、無駄な納税を回避して、手元キャッシュを最大化することです。
しかし節税が目的になると、利益を減らして返ってキャッシュを減らすばかりか、銀行からの評価まで下げてしまいます。
これではいったい何が何やら、目先のお金ほしさに、会社のリスクをただ広げただけということになってしまいます。
借入すると節税できる
最後に「借入すると節税できる」について解説します。
結論からいいますと、「支払利息の分だけ節税」できます。
しかし、節税目的でお金を借りるのは愚の骨頂と付け加えておきます。
融資を受けると利息を支払わなくてはいけません。
この銀行に支払う利息は経費になります。
支払利息があるなら、損益計算書の営業外費用の項目に記載されています。
仮に1000万円借りて3%の利息の場合、年間30万円が支払い利息になります。
この30万円が経費になって利益を減らせるので、その分節税になるというわけです。
この場合の節税効果は、実効税率30%で計算すると9万円の節税効果です。
・30万円×30%=9万円
しかし、借入をすることで手元資金は21万円キャッシュアウトすることになります。
・30万円-9万円=21万円
これって本当に借入する意味あるのでしょうか?
もちろん借入する理由がなくても、あえて借入をして手元資金を増やしておきたいという財務戦略上の目的があるのなら別ですが、節税目的で借りて逆に手元キャッシュを減らしてしまうなんて、まさに節税が目的化した節税のための節税です。
ちなみに、借入の返済の元本部分は経費にはなりませんので、支払い利息と混同しないようにしましょう。
元本の返済は、税引き後当期利益のお金で支払うことになります。
その意味でも、銀行が税引き後当期利益を重視していることがわかります。
まとめ
銀行融資と節税の関係についてい解説してきました。
節税を行えば、目の前のキャッシュの目減りを減らすことができます。
人間は目に見える痛みには弱いので、何とかしてキャッシュの目減りを減らしたい気持ちは重々ご理解致します。
それでもあえていいますが、節税を第一に考えてはいけません。
会社は、節税でキャッシュの流出を防げば、上手く回るというものではないからです。
資金不足というリスクに備えて、やはり資金調達まで視野に入れておかなくてはいけません。
「節税、節税」で考えてしまうと財務戦略を誤ります。
自社の状況を良く踏まえて、利益を優先させて融資対策を行うのか、当面融資が必要ないから節税対策を行うのか、しっかりした戦略を持って行いましょう。
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