固定資産の修繕で節税する方法!修繕費と資本的支出の境界線がポイント

節税対策

利益が出た年に固定資産を修繕することで節税できます。

前から修理したいと思っていたものの、利益がなかなか出ず修繕の機会を逃していた、というなら利益の出た年に修繕すれば費用を計上できるので節税できます。

しかしこの固定資産の修繕ですが、「修繕費か資本的支出か」で、税務処理の方法が変わってきます。

修繕費の場合、その事業年度に一括で費用計上することができます。

それに対し資本的支出になると、修繕にかかる費用のうち資本的支出に該当する部分は、固定資産に計上することになり、減価償却として処理しなくてはいけないのです。

経費が一括計上となるか、それとも減価償却として対応年数に応じて費用化していくかでは、資金繰りの状況が変わってきます。

減価償却についてはこちらをお読みください。

固定資産・消耗品の購入で節税する方法を徹底解説!ポイントは減価償却

そして何より、修繕費となるか資本的支出になるか、実は判定が意外にむずかしいのです。

もし修繕費として計上したものが否認されてしまえば、損金計上の金額だけでなく、追徴課税までされるリスクまであります。

判定のポイントとなるのは「修繕したことにより、機能が良くなるか、元に戻るだけか」の違いです。

否認されないように、修繕費と資本的支出の境界線を理解しておくことは重要です。

固定資産と修繕費と資本的支出の違い

建物の壁を修繕した場合、建物を建て替えたわけではないので「これは修繕費用」と思いがちですが、壁を修繕することで建物自体の価値が上がってしまうことがあります。

このようなケースでは、費用は修繕費ではなく資本的支出となりす。

まずは、修繕費と資本的支出の違いを理解しましょう。

修繕費

修繕費とは、破損や故障をした固定資産を、元の状態に修理や改良するためにかかった支出をいいます。

ただし修繕の範囲は決められていて、

  1. 通常の維持管理のための範囲
  2. 壊れた資産の現状を回復するための範囲

にとどまります。

要するに、修理の結果、新たな付加価値加わらないことが修繕費として認められるポイントです。

資本的支出

資本的支出とは、修理によって資産の価値を高める支出のことをいいます。

修理の範囲が原状回復を超えて、機能が良くなったなど新たな付加価値が加わってしまった場合、それは修繕というより新たな資産を購入したとみなされてしまうのです。

修繕の結果、

  • 使用可能年数が延びた
  • 資産価値が増大した

ということがポイントです。

たとえば建物の壁を修繕した場合、損傷部分の修繕だけなら修繕費となるでしょうが、壁全体を張り替えれば、使用可能年数も延び、建物の価値も上がります。

このような修繕を超えた支出を資本的支出といいます。

(資本的支出の例示)
7-8-1 法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額が資本的支出となるのであるから、例えば次に掲げるような金額は、原則として資本的支出に該当する。(昭55年直法2-8「二十六」により追加)

(1) 建物の避難階段の取付等物理的に付加した部分に係る費用の額

(2) 用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用の額

(3) 機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合のその取替えに要した費用の額のうち通常の取替えの場合にその取替えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額

(注) 建物の増築、構築物の拡張、延長等は建物等の取得に当たる。

引用元:第8節 資本的支出と修繕費

修正申告の原因に

資本的支出の定義は例示されていますが、すべて上記のケースに当てはまるわけではありません。

実際の現場はさまざまで、原状回復を超えるものは資本的支出に当たるといえど、長年使っているものを修理すれば使用可能期間が延びるのは当然ということもあり、簡単に判別できるものではないというのが現実です。

どこからが修繕費で、どこからが資本的支出なのか、その判定は微妙なのです。

そのため、納税者と税務署との見解が相違しやすく、修正の申告の原因にもなりやすく注意が必要です。

修繕費と資本的支出の判定基準

修繕費か資本的支出かの判定基準は次の通り行われます。

修繕費となる場合

次の基準のものは、原状回復かそれ以上かにかかわらず修繕費とできます。

1回の支出が20万円未満の支出

20万未満の修理や改良のための費用は全額費用計上できます。

3年以内の周期で行われる修理や改良

おおむね3年以内の周期で行われる修理や改良は、全額損金に計上できます。

ただし、3年周期で修理や改良が行われている実態を証明しなくてはいけません。

そのため、過去の帳簿や領収書、写真などの証拠を残しておきましょう。

修繕費となるものの具体例
  • 老朽化した壁面・タイルの交換
  • 階段の老朽化した部分のみの工事(サビ取り、塗装など)
  • クロスの張替え
  • 外壁の防水補修
  • ソフトウエアのバグの除去な

※「従来と同一の素材を使用したものと交換した場合」や「通常の支出の範囲」といった条件が付くケースがあります。

修繕費か資本的支出か明確でない場合

壁の劣化を防ぐ目的で塗装するときなど、結果として原状回復と耐用年数の伸長化が混ざって、修繕費と資本的支出の境界がはっきりしない場合は、次の判定基準になります。

60万円未満の支出

60万円未満の工事費は、全額修繕費とすることが、その年度に費用計上できます。

ただし、60万円未満の支出が即修繕費となるわけではないことです。

あくまで「資本的支出か修繕費か明らかでない金額」についてのみ適用される基準であることを忘れないようにしましょう。

前事業年度終了時の取得価格のおおむね10%以下の支出

工事費用が、前事業年度終了時の取得価格のおおむね10%以下なら、全額修繕費として計上できます。

ただし、前事業年度終了時の取得価格とは、これまでに新機能追加やバージョンアップを行った資本的支出があるなら、その分も加算しての10%以下になります。

また、「資本的支出か修繕費か明らかでない金額」についてのみの判定基準です。

60万円未満も10%以下の両方に該当しない場合

工事費用が60万円以上で前期末の取得費10%以上となったケースでは、継続的に「割合区分」という方法を採用することで、次の判定基準で修繕費と資本的支出をわけます。

  1. 支出金額の30%相当額
  2. 前事業年度終了の時における取得価額の10%相当額

1と2でいずれか少ない方を修繕費として計上し、残りの額を資本的支出とします。

<例>

前期末取得価格400万円のものを80万円で修理した場合

  • 支出金額の30%:80万円×30%=24万円
  • 前期末取得価格の10%:400万円×10%=40万円

いずれか少ない方が修繕費、残りが資本的支出

したがって、24万円が修繕費として計上でき、残り56万円(80万-24万円)が資本的支出となって固定資産となります。

第8節 資本的支出と修繕費

資本的支出になる場合

次のような、付け加えた性能の高いものに取り換えたなど、明らかに付加価値が加わったものは資本的支出となります。

物理的に付け加えた場合

建物の避難階段の取付けなど、物理的に付け加えた部分の金額は資本的支出になります。

用途を変更した場合

用途変更のための模様替えなど、改造や改装に直接要した金額は資本的支出となります。

部品を性能の高いものに取り換えた場合

機械の部品を品質や性能の高いものに取り替えた場合で、その取替えの金額のうち通常の取替えの金額を超える部分の金額は資本的支出となります。

資本的支出の具体例
  • 階段を別の場所に新たに取り付けた
  • 和式トイレから洋式トイレへの全面改装(3年周期・各工事にかかる金額が20万円未満の場合は例外)
  • 老朽化したタイルを新しい良質な素材に交換(費用が20万円未満の場合は例外)
  • 老朽化した洗面台を新素材・良質素材のものに交換(一台あたりの交換費用が20万円未満は例外)

No.5402 修繕費とならないものの判定

例外的判定もある

修繕費として認められるには、基本的に性能アップのための修理や改良でないことになります。

しかしこれには例外的判定もあります。

たとえば老朽化した社宅の窓枠を、木製からアルミスチールに交換した例です。

窓枠を木製からアルミスチールに交換したことにより、一見すると、価値の増加や使用可能年数の延長に思われます。

しかしこのケースの場合、木製よりアルミスチールの方が安いという状況がありました。

原状回復が目的とはいえ、わざわざ高い木製の窓枠を取り付けるのは、合理的な行動とはいえません。

したがってこの場合、価値向上が目的の修理ではなく、安さを求めたことによる結果論として、修繕費として認められたのです。

引用元:徹底検証!!修繕費と資産の境界線、形式基準を駆使して損金計上

またこのリンク先の記事にもあるように、実質判定について、興味深い事例が掲載されていました。

詳しくはリンク先の記事を読んでいただければわかりますが、

金額の多寡はもちろん、価値の向上があったかどうかも最終的には重要ではなく、それが安価かつ合理的なたった一つの方法であったかどうか、それこそが「修繕費」と認められるための要素だということだ。

ということです。

そこまでしないと修繕費として認められないの?と考えてしまいますが、参考例として基準になります。

修繕費と資本的支出の会計処理の仕方

修繕費となるものは、その事業年度に費用として全額計上できます。

それに対し資本的支出となうものは、固定資産となり、毎年減価償却で処理していくことになります。

少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例

30万円未満の減価償却資産について、「少額減価償却資産の取得価格の損金算入の特例」といわれるものがあります。

これは、青色申告をしている中小企業者等(個人事業主を含む)が 平成26年3月31日までに 取得・制作または建設して事業に使用した30万円未満の減価償却資産は、合計300万円に達するまでは 全額経費にすることができる特例です。

この特例は、30万円未満の「資本的支出」には適用されないで注意しましょう。※一部例外あり

なぜなら、資本的支出は新たな財産の取得には当たらないためです。

資本的支出とは、あくまで「すでにある固定資産」の使用可能期間を延長させるため、新たな機能を付加して価値を高めることにあるからです。

まとめ

修繕費と資本的支出について解説してきました。

修繕費として認めらるには、次の4つのポイントを外さないようにしましょう。

  1. 使用可能期間を延長しない修繕であること
  2. 資産の価値を増加させない修繕であること
  3. 新たな資産の取得(物理的な付加)でない修繕であること
  4. 用途の変更でない修繕であること

修繕費として計上したものが、後々になって否認されては、損金として処理できないだけでなく、申告漏れとして追徴課税までされてしまえば、資金繰りに対するダメージは多大なものになります。

修繕費と取得費の境界線を理解して、税務署と見解の相違を生まない申告で、しっかり節税に役立てましょう。

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