社長の経費はどこまで認められるか?これは、社長の一大関心です。
何しろ経費で買い物ができれば、自分の財布が傷まなくて済む、会社の法人税を節税できると、社長にとって経済的メリットが大きいからです。
しかし何でも経費と認めてしまうと、わざわざ税金を納める社長はいなくなってしまいます。
そこで、税務署によって経費に「認められる」「認められない」という線引きが行われます。
税務署にとって経費として認められないものは、「ただの税逃れでしょ」という話です。
そう思わせないことが、経費として認められるには大事です。
経費になる大原則
では、会社の経費になるものとはどんなものでしょうか?
その答えは、原則「会社の売上をあげるために使っている」ことです。
直接的であれ間接的であれ、売上に関係していることが、経費として認められる第一のポイントなのです。
まず、この「売上をあげるために必要」という大前提がないと、経費としてはも認められないと考えましょう。
要するに、個人のプライベートな支出なのか、会社のために必要な支出なのか、という違いです。
そして、それだけでは足りません。
「売上に必要」という前提を裏付ける、証拠書類(領収書や株主総会の資料)と、論理的説明も用意しておきましょう。
この2つがあって、はじめて「それって税逃れでは?」という税務署の突っ込みに耐えられることができるのです。
「これは会社の売上に関係しています」とは、誰だっていえる理屈です。
理屈を屁理屈に受取られないためには、確かな証拠と納得させるロジックが必要なのです(それでも認められるかどうかはわかりませんが、手ぶらで応戦するより勝算は高いでしょう)。
経費になるもの
飲食代
原則、取引先や社員と飲食を一緒にした場合は、経費とすることができます。
社長一人で飲食した場合は経費になりません。
この取引先や社員とした飲食代は、「接待交際費」と「会議費」の2つに分かれます。
接待交際費
一人あたり5000円以上の飲食費は接待交際費になります。
資本金1億円以下の企業の場合、接待飲食費の50%の額がを損金算入するか、定額の800万円までは全額損金に算入するかを選べます。※ただし、資本金の額が5億円以上の法人の完全子会社を除く
もし、接待交際費が年間1700万円かかった場合は、定額の800万円までを選ぶより、1700万円×50%=850万円を選択した方が得ということになります。
接待飲食費は、税法上、帳簿書類に次のことを記録しておかなければいけません。
- 飲食のあった年月日
- 事業に関係のある飲食に参加した者の氏名及びその関係
- 飲食店の名称がわかる領収書
接待飲食費として認めてもらうには、証拠と書類が必要です。
ちなみに、法人税法では以下の5つの費用のうち、いずれにも該当しないものを接待交際費といいます
- 専ら従業員の慰安のために行われる運動会や演芸会、旅行などのための費用。
- 飲食やそれに類する行為のための費用のうち、1人あたりの金額が5,000円以下の費用。
※法人税法第2条第15号に規定されている役員または従業員、これらの親族に対する接待などのために支出する費用は除く。 - カレンダー、手帳、扇子、うちわ、手ぬぐいその他これらに類する物品を贈与するための費用。
- 会議の際に茶菓子や弁当などの飲食物を提供するための費用。
- 新聞、雑誌などの出版物や放送番組を編集するための座談会、あるいは記事収集や放送のための取材に必要となる費用。
会議費
一人あたりの飲食費が5000円以下のものは、基本「会議費」として経費になります。
ただし、会議費かどうかは「実態」で判断されます。
仮に一人あたりの飲食費が5000円を超えてしまった場合でも、実態が会議であれば、それは会議費として計上できます。
誤解してはいけないのは、平成18年度に行われた税制改正の「一人あたり5000円以下の飲食費は接待交際費から除外する」という文言です。
これはあくまで、「接待交際費」に対する取り決めで、「会議費」の話でないことに注意が必要です。
会議と接待交際費を兼ねている場合には、5000円基準で判断しましょう。
旅行・レジャー費用
取引先と行ったスポーツ観戦や旅行の費用、コンサートのチケット代などは、交際費に計上できます。
社員の慰安のための旅行は「福利厚生費」に計上できます。
ただし役員のみでの旅行は経費にできないため注意が必要です。
交通費
交通費も原則的には仕事に関連するときのみ経費となります。
取引先の社員の送迎や営業のための移動費などです。
スーツ代
役員報酬でもうらう給与には、「給与所得控除」という控除枠があります。
これはサラリーマンの必要経費とみなされるもので、所得によって決まった額が控除(税金がかからない)されています。
スーツ代は、この給与所得控除の枠に入るので、基本経費として認められません。
生命保険料
経営者が個人的に加入している生命保険ならば、その保険料はもちろん経費にはなりません。
しかし会社が契約者(保険金受取人)、経営者が被保険者となるように契約すれば、保険料の一部もしくは全額を経費として計上することができます。
自宅の家賃
個人的に借りている自宅はもちろん経費に計上できませんが、自宅の借主を会社名義にして契約すると、家賃の50%〜80%を経費に計上できます。
ただし、タダで住むことはできません。
社長が家賃の20%〜50%を支払うことが条件です。
経費で落ちる事例
高級料亭で接待し場合
高級料亭で取引先を接待し、5人で合計20万円(5人×4万円)かかりました。
一人当たり5000円まで会議費として、2万5千円(5千円×5人)を会議費、残り17万5千円を接待交際費とした場合どうなるでしょう?
「接待交際費の5000円基準は、一人当たり5千円以下」になります。
したがって、飲食代が5千円超の場合は、そもそも5000円基準の適用外です。
よって、このケースでの接待費用20万円は、全額、接待交際費になります。
ちなみに、同じ料亭でお土産を取引先に渡した場合、そのお土産代も「飲食代金の一部」となります。
お土産はお土産でも、他店で購入したものは、その分を単独で接待交際費にすることができます。
社長のお宅でホームパーティーをした場合
社長の自宅に取引先を招いて、接待パーティーをした場合、誰を招いて行ったものかがポイントになります。
仕事に関係のない友人・知人であればダメですが、仕事に関係のある「取引先を招いてのパーティー」なら、接待交際費として経費になります。
ただし、社長の自宅ということで、個人の支出を疑われることになります。
したがって、取引先を招いた証拠(招待状や招待メール)をきちんと残しておきましょう。
取引先に手土産を買っていった場合
手土産の場合は、その用途によって、項目が変わります。
会議の合間に食べるようなものは、会議を円滑に進めるためのものとなり、「会議費」で経費となります。
その反対に、「皆さんで食べて下さい」と菓子折りなどを渡す場合は、「接待交際費」となります。
残業したときの食事代
残業した人に支給する食事は、福利厚生費として経費になります。
従業員の負担の有無は関係ありません。
全額会社負担でも経費になります。
理由は、残業というやむを得ない事情であるためです。
ただし、食事代としてお金を渡す場合は、給与となりますので注意が必要です。
疲労回復のためのマッサージは経費になる?
職業によっては、慢性的に肩こりや腰痛を招くものがあります。
これを緩和するためのマッサージは、「福利厚生費」として経費にできます。
ただし、特定の人だけでなく、「従業員全員が受けられること」が前提です。
社員旅行をした場合
社員旅行を福利厚生費として経費にするには、次の3つの条件を満たさなくてはいけません。
- 全従業員の50%以上が参加すること
- 旅行期間が4泊5日以内であること(海外の場合は目的地での滞在日数)
- 会社負担額が高額でないこと
人数の制限
全従業員とは、「役員・正社員」だけでなく、「契約社員・パート・アルバイト」など、会社と直接雇用契約をしている人まで含みます。
成績優秀者のみご褒美で連れていく旅行は、給与所得となり、課税対象になります。
また、役員に限定する旅行も、役員賞与とみなされ、課税対象になります。
誰か特別は認められなく、全従業員平等に扱うということがポイントです。
会社負担の制限
会社が負担するお金は、「一人当たり10万円」が目安になります。
10万円を超えると、給与所得とみなされ課税される可能性があります。
ここで気をつけていただきたいのは、10万円の目安です。
10万円はあくまで会社負担分の金額のことで、旅行費用ではないことに注意してください。
<例>※全従業員の50%以上が参加すると仮定
- 3泊4日、旅行費用18万円、会社負担分9万円。
- 4泊5日、旅行費用25万円、会社負担分10万円。
いずれのケースも、10万円以下の高額でないため、会社負担分が福利厚生費として経費に計上できます。
- 3泊4日、旅行費用20万円、会社負担15万円。
人数、旅行期間とも制限内ですが、会社負担分が10万円を超えているため、高額に該当し、会社負担分の15万円が「給与扱い」される可能性が高くなります。
社員旅行に不参加の人に旅費を支払った場合
社員旅行に不参加の人に、会社負担分旅費相当額を支払った場合は、参加者を含め全員が「給与扱い」となってしまいます。
不参加の人だけでなく、参加者した人の会社負担分も福利厚生費とならないことに注意が必要です。
また、旅行券のようなお金に換金できるものを支給した場合でも、給与扱いとなります。
交通反則金
交通反則金は、税務上は「経費にならない」のですが、会計上は「経費」にすることができます。
ややこしい表現ですが、外回りの営業中にスピードの出し過ぎで交通反則金を支払わなくてはいけない事態になることがあります。
この反則金の取り扱いについては、税金の計算では経費に認められていません。
よって、仮に経費として計上されていても、除いて計算されることになります。
しかし、会計上は経費とすることはできます。
どういうことかというと、たとえば、業務規程の中で「勤務中の交通違反については会社が負担する」という規定があった場合は、本人ではなく会社が交通反則金を負担して、それを「公租課税」とし経費に計上できます。
ただし、先にもお話ししたように、税金上は経費に認められないので、税金の計算の際は除いて計算されるというわけです。
業務外での交通反則金を負担した場合
業務外での交通反則金を会社が負担したときは、給与扱いにされてしまいます。
経費にできるのは、「仕事に関係ある」ことに限られますので、当然といえば当然です。
税務署に目をつけられやすい4つの領収書
税務調査では、次のような点に注目して領収書のチェックが行われます。
金額が大きな領収書
金額の大きな経費を否認できれば、上司からの評価も高くなります。また、小さな額を否認したところで、徴収できる税額はしれています。したがって、大きな額の領収書はチェックされやすいといえます。
業種と関係のない領収書
あなたの業種とは関係ない領収書があると疑られます。たとえば、介護施設なら、利用者が寝るベットのシーツを換えることはそれなりにあるでしょう。しかし、飲食店でシーツを買うということは、イメージがつきません。これは極端な例ですが、業種と関係のない領収書は、架空の経費や無理やり経費にしようとしているのでは?と疑われる元です。
遠方のお店の領収書
通常、地場企業なら、取引先は地元の近く企業がメインになります。それが遠方の領収があると目立ちますし、実際に取引があったかどうか疑られます。
頻度が多い領収書
同一のお店の領収書が頻繁に出てくる場合、個人的なものを購入しているのではないかと疑われます。
領収書のよくあるQ&A
Q・領収書は必ず必要ですか?
A・領収書は「実際に支払った」証拠になります。証明するものがなければ、本当に支払ったかどうか疑われてしまいます。ですので、基本は「あったほうがいい」です。
Q・領収書をもらい忘れたら、経費として認められない?
A・人間ですから、ついうっかり領収書をもらい忘れることはあるこです。こんなとき、「領収書がなければ経費で落ちない?」と思われるかもしれませんが、大丈夫です。「領収書はあったほうがいいが、絶対条件ではない」のです。もし領収書をわすれたときは、支払先、金額、内容等をメモに残しましょう。そして出金伝票や会社所定の書類にその内容を記載して、経理処理すれば、それが事実であると認められる場合に限り、税務上も経費処理することができます。
Q・領収書の字が薄くなってきたら、自分で上書きしてもいいですか?
A・字が薄くなってきても、絶対に上書きはしてはいけません。税務署の調査が入った場合、領収書の改ざんなど、あらぬ嫌疑をかけられます。字が薄くなってきたときは、出金伝票など別の紙に内容を書いて、それを領収書にホッチキスで止めておきましょう。
Q・白紙の領収書をもらったのですが・・・
A・白紙の領収書に、後で好きな金額を書いてしまったら、「脱税」になりますので、注意してください。正しい金額を自分で書いたとしても、筆跡が自分のものなので、これも金額を疑われます。白紙で受取らず、きちんと先方に記入していただきましょう。
Q・レシートは領収書の代わりになりますか?
結論からいいますと、レシートでも代用できます。ただし、レシートでも、入金額しか書いてない(商品名の詳細がない)、簡易的なレシートは代用になりませんので、注意が必要です。そうでなければ、極端な話、友達が持っているレシートでも使えてしまいますよね?
Q・ネットで購入した「注文確認メール」は領収書の代用になる?
A・注文メールの記載内容が、領収書と同等の内容であれば、領収書の代用になります。
Q・納品書や受領書は領収書の代用になりますか?
受領書や納品書は、領収書の内容と同等ではないので、代用できない場合が多いです。領収書と同等の内容であれば、代用できるということです。
Q・クレジットカードで買い物したものはどうなりますか?
A・クレジットカードは、毎月送られてくる「利用明細書」で領収書の代用ができます。紙ではなく、ネットで送られてくる場合は、プリントアウトして保存しておきましょう。
Q・領収書はいつまで保存しておけばいいの?
A・法律による違い、法人、個人で違いますが、「法人は10年、個人は7年」保存しておけば間違いないです。
Q・保存は紙でないとダメですか?
A・スキャンして保存することも認められていますが、要件がありますので、注意が必要です。
行き過ぎた経費の使い過ぎは会社の寿命を縮める
会社の経費で商品を購入することができれば、社長の個人の財布から出さなくて済む、会社の損金になって節税になる、という大きな経済メリットがあります。
それゆえ、強力な魔力があるわけですが、この魔力に負けて、何でも経費で落とそうとするのは危険です。
それは、資金面において
- 資金繰りを圧迫する
- 銀行融資に不利になる
という2つのデメリットがあるからです。
資金繰りを圧迫する
たとえば、売上3000万の会社で、経費が2000万円かかっていたとします。
実効税率を30%だとすると、このときの法人税とキャッシュは
- 法人税:(3000万円-2000万円)×30%=300万円
- キャッシュ:3000万円-2000万円-300万円=700万円
になります。
ではここで、経費を2500万円使った場合はどうなるでしょう?
- 法人税:(3000万円-2500万円)×30%=150万円
- キャッシュ:3000万円-2500万円-150万円=350万円
たしかに法人税は150万円に節税できましたが、肝心のキャッシュは半分の350万円まで減ってしまいます。
節税の目的とは何でしょう?
当たり前ですが、節税ではありません。
節税をして無駄なキャッシュアウトを減らし、手元キャッシュを最大化することです。
しかし、上記のケースでは、資金繰りを圧迫するという、まったく逆のことが起こっています。
銀行融資に不利になる
銀行が融資の判断材料にするのに、「債務償還年数」があります。
銀行の評価では、おおむね10年以内が基準です。
極端なことをいえば、10年以内ならOK、10年超ならアウトということです。
で、債務償還年数は、「営業利益+減価償却費」で足した数字で、会社の借入額を割ります。
仮に、借入が3000万円、営業利益250万円、減価償却費50万なら300万円となり、債務償還年数は
・3000万円÷300万円=10年
となります。
となると、です。
節税で、営業利益が100万円になればどうでしょう?
・3000万円÷150万円=20年
となってしまいます。
もし、営業利益+減価償却費=150万で融資を受けたいなら、融資枠は
・1500万円÷150万円=10年
で、1500万円まで減ってしまいます。
資金調達は会社の生命線に関わることです。
無理な節税をして、資金調達に支障が出るなら、何のための節税かという話です。
経費は公私混同できない
中小・零細企業の中には、「会社の金は俺の金。俺の金は俺の金」とマンガキャラさながらの考えをお持ちの社長が少なからずいらっしゃいますが、税務の世界でこれはアウトです。
「社長の財布と会社の財布は別」と区分しなくてはいけません。
経費を公私混同して使っても、決算書で仕分しなくてはいけません。
社長が役員報酬で受取ったお金の使い道は、違法なもの以外は何に使っても自由です。
しかし、社長が会社のお金を持ち出して、個人のプライベートな支出に使ったときは、経費ではなく、「役員貸付金」として処理されます。
これは、会社が社長(役員)にお金を貸した、という処理になります。
もし、役員貸付金ではなく、経費で処理したとしても、税務調査で指摘され、後々課税されることになるでしょう。
それとは逆に、社長個人が自分の財布で会社の経費を立替えた場合は、経費として処理できます。
すぐに精算できないときには、「役員借入金」として処理されます。
会社が社長(役員)からお金を借りたという形です。
このように、社長によって「会社から出るお金」も、「会社に入るお金」もしっかり仕分けして、区別がつくように処理されてしまいます。
なおかつ、役員貸付金、役員借入金共々、きちんと清算しておかないと、税務上の別の問題を起こすことになります。
けっして、公私混同して経費を使っていいものではないのです。
まとめ
何が経費で落ちるかを理解しておくと、無駄な出費を止められます。
そして、無駄な出費を止めることこそ、確実にキャッシュを残す方法です。
入ってくる方は自分でコントロールできませんからね。
経費を理解して、賢く(認められる範囲で)経費で落としましょう。
コメント