知らないと危ない社長のキャッシュ対策

社長の手取りを増やす方法

「社長の給料は、個人と法人、どちらに残した方が得か?」社長であれば必ず考える悩みです。

「率」で考えるなら、個人より法人に残した方が手元キャッシュは増えます。

しかし、法人のお金には、基本「法人のことにしか使えない」という制限があります。

実は、この制限の突破方法を知らない限り、個人と法人どちらに残すのがお得か?はあまり意味のないことなのです。

「率」では個人が高い

個人の税・社会保険料の負担は、どんどん増しています。

社会保険料の負担は30%を超え、ひとまず止まりましたが、今後上がらない保証はどこにもありません。

むしろ上がると考えていた方が無難です。

個人の所得税も、1000万以上の高所得者を対象に、年々増税してきています。

それに比べ、法人税は下がる傾向にあります。

たとえば、社長の役員報酬が960万円の場合、税金と社会保険料の負担は約246万円で、負担率で考えると25.6%です。※40歳以上、扶養控除一人で計算。その他の控除は考慮なし。

それに対し法人の税率は、800万円超で23.4%です。※実効税率は約30%

この状況を鑑みれば、個人の所得を増やすより、法人にお金を多めに残した方が、トータルの手元資金は増えることになります。

しかし、です。

個人のお金と法人にあるお金では、決定的な違いがあります。

それが「自由度」です。

個人のお金の使い道は自由

社長が役員報酬として会社から受け取った個人のお金は、基本的に何に使ってもかまいません(もちろん、違法なものを購入してはダメですが)。

それゆえ、万が一会社が資金ショートを起こしそうなときなどは、自分の財布から持ち出して、資金補填することもできます。

銀行がピンチのときに必ず貸してくれるわけではないことを考えれば、これは確実な資金調達の方法です。

だから、社長が個人の所得にこだわって、手元資金を増やそうとすることは、必然とさえいえます。

ちなみに社長が会社にお金を貸すことを、「役員借入金」といいます。

これは、利息も付かない督促もないお金で、社長が会社に返済を要求しない限りは、金融機関からは「資本金にみなしてもいいお金」とされています。

会社のお金には制限がある

これとは逆に、法人に残ったお金は、基本的に法人のことにしか使えません。

もし、社長が会社のお金を勝手に持ち出せば、それは「役員貸付金」となり、会社は利息をつけて社長に返済をしてもらわなくてはいけません。

会社がもらった利息は収益になりますので、法人税がかかります。

社長と会社は実質一体で、その張本人たる社長に、会社が利息付きで返済を要求するというのも冗談のような話ですが、利息なし返済期限なしの借金を認めてしまえば、いくらでも税金を回避して、社長へと資金を移転することができてしまいます。

そのため、役員貸付金に対しては、きびしい制限があります。

さらに、役員貸付金を毎期毎期計上していると、融資の際に大きなマイナス評価となります。

金融機関が融資の判断材料にするのは、「使途資金」と「返済能力」です。

返済能力はいうに及ばずですが、役員貸付金があると使途資金を疑われてしまうのです。

たとえば、融資したお金を社長個人が使ってしまうのではないか(その証拠に、毎年毎年、会社からお金借りてますよね)、あるいは、別の誰かにまた貸ししてしまうのではないか等々、要するに事業目的以外に使われてしまえば、そこれこそ返済の目途が立たなくなってしまうので、役員貸付金があると非常に嫌うのです。

したがって、役員貸付金があると、資金調達において非常に不利になります。

余談ですが、役員貸付金を帳消しにしようと、会社が社長への債権を放棄すればどでしょう?

税法では、「貸倒れ損失」で損金算入できるケースはきびしい要件があります。

その相手が社長となると、まず役員賞与とみなされ、課税されることになるでしょう。

こうなると、法人では法人税が課税され、個人でも所得税が課税されるという、まさに往復ビンタを喰らうはめになります。

長々と書いてきましたが、要するに会社にお金が残ったとしても、そのキャッシュはいろいろ使い方に制限があり、その上放っておくと後々面倒になるという、使い勝手がとても悪いお金ということです。

【追記】

役員貸付金は、経営者の「連帯保証」にも関係してきます。

中小・零細企業の社長は、会社の借入の際、個人保証をしているケースがあります。

この個人保証を外してもらうことは、なかなか難しいのですが、「『経営者保証に関するガイドライン』の活用に係る参考事例集」によりますと、「営業資産はすべて法人の所有であり、社長への貸付も一切ないこと」を一つの理由(その他の要件も、もちろんあります)に、連帯保証人を外してもらったという事例が出ています。

引用:「経営者保証に関するガイドライン」の活用に係る参考事例集事例。32.ガイドラインに基づき制度融資の保証人に関する要件の見直しが行われた事例

要するに、会社に収益力があるのはもちろん、会社と経営者の間がきちんと区分けされ、財務の透明性のある会社なら、連帯保証の地位を外しても大丈夫だろう(きんちと返済が行われる)と判断されたということです。

連帯保証の面からも、役員貸付金はご法度ということです。

詰めの甘いキャッシュ対策は無意味

付け加えておきますが、財務戦略でお金を会社に残す場合は別です。

毎年残る利益を利益剰余金として内部留保していけば、自己資本比率が高くなり、会社の財務基盤は強くなります。

貯金のある家と貯金のない家を考えてたらわかりやすいです。

さらに、自己資本比率の高い会社は、融資の評価ポイントになりますので、資金調達も楽になります。

ですから、財務戦略として会社にお金を残すのは、何も問題はありません(むしろ必要なくらいです)。

しかし、財務戦略でもなく、ただ単に手元キャッシュを増やすため会社に多めに残したということであれば、「お金の移転の仕方」まで考えておかないと、無駄な足枷をされてしまうことになります。

これでは、何のためのキャッシュ対策かということです。

社長の所得を増やす2つの方法

そうかといって役員報酬を増やせば、税金と社会保険料はアップします。

会社のお金を個人に所得移転するには、必ず税金と社会保険料というゲートを潜らなくてはいけないのです。

では、会社に残ったお金をどうすればいいのでしょう?

このジレンマを解決るには次の2つの方法が考えられます。

  1. 税金と社会保険料のがかからないで形で、法人から個人に資金移転する。
  2. 個人で使うお金を、法人で支払うことができないかを考える。

この2つの経路を確保することで、社長の手取り収入は増えるのです。

ただ単に、「率」で個人にお金を残すのが得か?法人にお金を残すのが得か?を考えて意味ないのです。

「社長の手取りを増やす方法」の記事一覧はこちら

まとめ

社長は常に、キャッシュのことが頭にあります。

それゆえ、近視的物事の見方になってしまうことがあります。

しかし詰めの部分を誤ると、得られる効果も半減してしまうのです。

しっかり最後までプランを考えて、手元キャッシュを最大化しましょう。

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