無計画な節税が資金調達を狂わす理由

融資対策

節税のし過ぎは資金調達にも影響を及ぼします。

節税で利益が圧縮され、企業の返済能力が小さくなり、その結果借りられる枠も縮小してしまうからです。

節税は何のためにするのか、今一度冷静に考えましょう。

当たり前ですが、納める税金を少なくするためのものではありません。

節税とは、無駄なキャッシュアウトを減らし、手元資金を最大化することで、いざというときに備えておくためにするものです。

逆に、資金繰りを悪影響を与えるなら、返ってしない方が良いくらいです。

銀行の借入限度額をみる4つの指標

銀行が融資の判断に使う基準には以下のものがあります。

  • 債務償還年数
  • 借入金月商倍率
  • 借入依存度
  • インタレスト・カバレッジ・レシオ

です。

銀行融資はいくらまで?借入れ限度額を算出する4つの方法

借入金月商倍率とは、借入金の総額が月商の何倍かを見て、返済財源の限度額を求める指標。

・計算式:(短期借入金+長期借入金+割引手形)÷月平均売上高

借入依存度は、総資本に対して借入が何割あるかで、その企業の安全度を計る指標です。

・計算式:借入総額÷総資本

この2つの指標に関して、企業の支払能力が、係数になっているわけではありません。

しかし、「債務償還年数」と「インタレスト・カバレッジ・レシオ」の2つは違います。

企業の稼ぐ力が、係数になっているため、利益が減ってしまうと借入に支障が出てきます。

債務償還年数から考える銀行の融資枠

債務償還年数は、企業の毎年稼ぐ利益で、貸したお金が何年で返せるかを見る指標です。

・計算式:総借入÷(税引き後利益+減価償却費)

この指標の基準は10年が目安です。

毎年の利益で、10年内に返せるかを見られます。

10年内なら、借入限度額の安全圏であり、安心して融資できるというわけです。

ということは、毎年稼ぐ利益が大きくなれば、それだけ融資の枠が広がるということです。

仮に、「税引き後利益+減価償却費」の合計が100万円の会社なら、1000万円まで貸しても安全と銀行は見てくれるわけです。

・1000万円÷100万円=10年

では、「税引き後利益+減価償却費」の合計が2倍の200万円ならどうでしょう?

2倍の2000万円まで貸し出しても、安全ということになります。

となると、です。

節税で無駄に利益を圧縮してしまうと、「税引き後利益」も縮小してしまうことになります。

その結果、融資の枠も一緒に縮んでしまうということです。

たとえば次のような状態の会社があったとします。※実効税率30%で計算

  • 税引き後利益:105万円
  • 減価償却費:50万円

債務償還年数から見る借入限度額

・(105万円+50万)×10年=1550万円

しかしこれを、節税目的で経費を増やし、「一般管理費及び販売費」を50万円多い350万円にしました。

するとどうなるでしょう?

たしかに、法人税は30万円に減りましたが

  • 税引き後利益:70万円
  • 減価償却費:50万円

となり、債務償還年数から見る借入限度額は

・(70万円+50万)×10年=1200万円

まで減ってしまいました。

無駄な節税が資金調達にどう影響するかよくご理解いただけると思います。

インタレスト・カバレッジ・レシオから考える銀行の融資枠

次に「インタレスト・カバレッジ・レシオ」です。

インタレスト・カバレッジ・レシオとは、どの程度余裕を持って営業利益で借入金の利息をまかなえているかを示す指標です。

計算式は

・営業利益÷支払利息

で求めます。

この指標は10倍以上が理想で、この倍率が「1」だと、稼いだ利益が支払利息でそのまま飛ぶということなので、銀行からの融資は厳しくなります。

仮に次のような会社の場合

インタレスト・カバレッジ・レシオは3倍になります。

・150万円(営業利益)÷50万円(支払利息)=3倍

しかしこれが、同じように節税目的で無駄なキャッシュアウトをした場合どうなるでしょう?

経費を50万円増やしたケースでシミュレーションしてみます。

法人税は半分の15万円に減りましたが、インタレスト・カバレッジ・レシオは2倍に減ってしまいます。

・100万円(営業利益)÷50万円(支払利息)=2倍

ここでも節税が、融資の審査に悪影響を及ぼすことがわかります。

もちろん、節税しないより手元資金は少なくなりますので、資金繰りも同時に苦しくもなります。

これって本当に節税すべきでしょうか?

資金調達できない恐怖

企業の存続は、キャッシュのあるなしで決まります。

必要なときに、必要な額を資金調達できれば、倒産のリスクは一気に下がります。

ということは、融資枠や審査の点数が悪くなるということは、企業にとってリスクを負うと同じことです。

もし、2000万円借入が必要なときに、1000万円しか貸せれないといわれれば?

もし、1000万円必要なときに、融資が出ませんといわれれば?

まさに、企業の命を左右しかねない出来事です。

これでもまだ、節税をして、無駄に法人税を圧縮したいですか?

節税で無駄なキャッシュアウトが増えて、会社の財務体質は弱くなり、その上資金調達まで支障をきたすようなら、何が何やら。

節税とは何の目的でするべきものか、本末転倒にならないようにしなくてはいけません。

まとめ

節税を行うためには、利益を減らさなくてはいけません。

一方資金調達は、残る利益を増やさないと、融資の条件が悪くなります。

節税→利益を減らす

資金調達→利益を増やす

この2つはまったく別のベクトルに向いているのです。

ですから、一方的に節税対策だけ考えてしまうと、資金調達で不利になるのも必然の話です。

あなたのその節税対策は、本当の意味で会社にとって必要なことなのか、トータルで考えてみなくてはいけません。

検証してみれば、逆効果の場合もあるのです。

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