個人の不動産を会社に貸すことで、節税することができます。
不動産を所有しているなら、それが節税に活用できないか検討してみましょう。
会社に個人の不動産を賃貸することは、節税はもとより、それ以外にもさまざまなメリットがあります。
まずは、会社と個人で、どのようなメリットがあるか検証していきます。
社長不動産を会社が借りる3つのメリット
会社が社長から不動産を借りることで得られるメリットは次の3つです。
部外へのキャッシュアウトを防げる
第三者から会社が不動産を借りると、賃料は他人へとキャッシュアウトしてしまいます。
それが社長から借りるなら、同じキャッシュアウトでも、社長の収入になり、実質外部へのお金の流出を防げます。
内輪である社長の手元にお金が残るなら、これほど安心なことはありません。
更新を継続して続けられる
他人から不動産を借りると、貸主の都合で契約の解除ということもあります。
それが社長個人の持ち物なら、更新を断られることはまずありません。
仮に社長が契約を更新しない場合は、それ以上のメリットがあるときでしょう。
賃貸契約を他人の都合に左右されることがなくなります。
費用を抑えることができる
契約の更新時に揉める原因になるのが、原状回復です。
思いもしない費用を請求され、保証金や敷金から充当されてしまうケースもあります。
社長の不動産であれば、必要以上に原状回復費用を請求されることはありません。
また不動産に付きものの、原状回復トラブルを避ける意味も大きいです。
社長が会社に不動産を借りる4つのメリット
次に社長のメリットを見ていきます。
精神的に安心
借主が自分の会社なので、精神的に安心です。
もし他人に貸す場合なら、
- 借主の支払い
- 借主の素行
- 借主の使用状況
- 退去時のトラブル
などなど、何かと心配の種が消えません。
それが自分の会社が借主なら、そのような不安はありません。
損益通算で節税できる
所得税法では所得を、不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得、給与所得、退職所得、利子所得、配当所得、一時所得、雑所得の10種類に分けています。
このうち「フジサンジョウ」と呼ばれる、不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得に生じた赤字(損失)は他の所得から引くことができます。
これを「損益通算」といいます。
たとえば、社長の給与所得が1000万円、不動産の赤字が200万円出れば、この場合の総所得金額は800万円となります。
このとき、給与から源泉徴収された所得税を戻してもらえる可能性があります。
※不動産所得が赤字の場合は、赤字のうち土地等を取得するために要した借入金利子部分は必要経費には算入できませんので注意が必要です。
青色申告の節税効果
不動産所得も、複式簿記での記帳が条件になりますが、青色申告で行うことができます。
青色申告には、「青色申告特別控除」があり、その控除額は10万円と65万円の2つがあります。
仮に不動産所得が15万円で、控除枠が10万円なら、
15万円-10万円=5万円
となり、5万円で申告することになります。
なお、青色申告の65万円の特別控除を受けるには、
- 独立家屋は、概ね5棟以上の貸付け
- アパートなどは、賃貸が可能な独立した部屋が概ね10室以上
と、不動産の貸し付けを事業的規模で行っていることが条件になります。
詳しくは下記記事をご覧ください↓
青色事業専従者の節税メリットはこちらをご覧ください↓
また、不動産所得を青色申告で行うと次のメリットがあります。
青色申告特別控除
65万円 / 55万円 / 10万円の特別控除が利用できます。
専従者控除
家族を従業員にして給料を支払った場合、その額を必要経費にすることができます。
赤字の繰越し
不動産所得が赤字になった場合は、3年以内であれば赤字分を繰り越しできます。
その赤字分は、黒字になった年にその課税所得から差し引ける、繰越控除を受けられます。
少額減価償却資産の特例
30万円未満の資産であれば、毎年減価償却にせずに取得した年に全額経費にすることが可能です。
貸倒れ損失の計上
回収できない賃貸料が発生した場合、貸倒損失もその年の必要経費として計上することができます。
相続時の節税になる
社長が会社に貸している不動産は、相続時、建物は貸家評価、土地は貸家建付け地の評価になります。
他人に貸している建物や土地の評価は、相続税の評価でも低くなります。
なぜなら、土地や建物を明け渡してもらうには、借主に立ち退いてもらわないといけないため、その分、不動産の評価が低くなるのです。
- 貸家(建物) = 建物の固定資産税評価額 × (1-借家権割合(通常30%)×賃貸割合)
- 貸家が建てられている土地の評価額 = 更地の評価額 ×(1-借地権割合×借家権割合)
※相続税評価額計算上の借地権割合は地域によって異なっていますが、60~70%の地域が多くなっています。 借家権割合は、30%となっています。
これに対し、社長が個人で所有し、空き家となっている不動産は、相続税では、建物は自用建物評価、土地は自用地評価となって、第三者に貸した場合に比べ評価額は高くなります。
ここに注意!会社に貸すときは「賃料」がポイント
会社とオーナーである社長個人の取引には、「同族会社の行為計算の否認」という問題が出てきます。
あまり高い家賃を設定してしまうと、法人の利益を過度に減少させる行為として、税務調査で問題になる可能性があります。
近隣の似たような不動産賃料を参考にし、第三者から見て、妥当と思えるような家賃設定が必要です。
この点を気をつけて、次の社長所有の自宅と土地を手元キャッシュを最大化する方法をお読みください。
山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産を法人に対し時価の2分の1以上の対価で譲渡した場合には、法第59条第1項第2号の規定の適用はないが、時価の2分の1以上の対価による法人に対する譲渡であっても、その譲渡が法第157条《同族会社等の行為又は計算の否認》の規定に該当する場合には、同条の規定により、税務署長の認めるところによって、当該資産の時価に相当する金額により山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額を計算することができる。
社長の不動産(自宅・土地)でキャッシュを増やす手法
次は社長の自宅と土地、それぞれを会社に貸して手持ちキャッシュを増やす方法につていみていきます。
社長の「自宅」を会社に貸す方法
自宅を会社に貸す場合、賃貸と持ち家では、社長の不動産収入に対する税法上異なる点があります。
自宅が賃貸の場合
社長の自宅が賃貸の場合、物件の一部を会社に転貸という形になります。
したがって、まず、家主さんに会社に転貸可能かどうか、確認を取っておかなくてはいけません。
会社から徴収した家賃は、そのまま家主さんに支払われますので、社長の収入として確定申告する必要はありません。
会社が負担する家賃は、賃貸物件の面積のうち、会社が使用する部分の割合で求めると合理的です。
たとえば、15万円の家賃で、同じ面積の部屋が3部屋あり、その中の一部屋を事務所として使用していたなら、毎月の会社の負担は5万円ということになります。
この額を会社は経費として計上できます。
自宅が持ち家の場合
社長の持ち家を会社に貸す場合は、社長の不動産所得になりますので、確定申告が必要になります。
確定申告にあたっては、会社の使用割合によって、次のものを経費として計上できます。
- 固定資産税
- 建物の減価償却費
- 火災保険料
- 借入の金利
- 電気、水道代など
個人の持ち物の場合、社長の個人マネーで支払われることを考えれば、それだけも社長の手取り収入が増えることがわかります。
ただし、社長個人が「住宅ローン控除」を受けている場合は、事業割合が2分の1を超えますと、ローン減税が受けられなくなったり、事業割合に応じて減税額が減ってしまいます。
注意しましょう。
消費税の取り扱い
会社が消費税の課税取引業者に該当する場合、社長に支払った家賃は控除することができます。
居住用の賃貸契約の場合、消費税の非課税取引になりますが、事業用の家賃であれば課税取引となります。
消費税の計算は
・納める消費税=預かった消費税-仕入に支払った消費税
になります。
消費税の課税取引に該当するということは、それだけ納める消費税が少なくて済むということです。
2019年10月には、消費税が10%になることを考えたら、消費税の課税取引該当する意味は大きくなります。
一方、社長は不動産収入が1000万以下なら、消費税課税事業者にならず、消費税を収めなくてもよいことになります。
ただし、賃貸借契約書で居住用として契約した物件を、借主が勝手に用途変更し賃貸人に伝えずに事業用として使用していた場合、原則として、貸主との間で契約変更をしない限りは、最初の契約通りに非課税取引になりますので注意が必要です。
社長の「土地」を会社に貸して節税する方法
社長が個人で所有している土地に、会社名義の建物を建てているケースがあります。
会社が社長からタダで土地を借りている場合は、「使用貸借」となり、地代は無料ですので、節税にはなりません。
※使用貸借として課税されないのは、大まかにいうと貸主が「個人」だからです。貸主が法人の場合は、使用料相当額の収入があったとして課税されます。
そこで、無償返還方式という土地の借り方をすることで、節税することができます。
土地を貸す場合の4つのパターン
社長の土地を会社で借りるときのパターンは4つあります。
- 使用貸借方式
- 権利金方式
- 相当の地代方式
- 無償返還方式
それぞれの方式について解説していきます。
1・使用貸借
使用貸借の場合は、地代は無償ですから、経費も発生せず、節税になりません。
2・権利金方式
通常の土地取引の場合、建物の利用を目的とした土地の賃貸借契約を結ぶときは、借地権相当額の「権利金」を貸主に支払うことになります。
借地権は借地借家法で強く守られた権利です。
いったん土地を借主に貸してしまうと、毎月のわずかな地代を支払うだけで、事実上借主のもののようになってしまいます。
それならそれに見合うだけの代金を頂戴しないと割に合わないということで、地代の他に、借地権相当額の「権利金」を貸主に支払うわけです。
これは、社長と自分の会社の取引でも同じです。
社長個人の土地に、会社の建物を建てて地代を支払えば、借地権が発生し、それに伴う「権利金」を支払わなくてはいけないのです。
もし、土地を借りた会社から権利金の支払いがないと、税務署も黙っていません。
借地人である会社は、土地所有者から権利金に相当する金額の贈与を受けたとみなされ、「権利金の認定課税」をされます。
権利金の金額は、土地の更地価格の70%~90%とにもなります。
権利金方式を選んだ場合、節税どころか、多額の資金が必要で、この方法は現実的ではありません。
3・相当の地代方式
この方法は、権利金の支払いをしない代わりに、それ相当の地代を支払うというものです。
相当の地代の額とは、「土地の更地価格の年6%」とされています。
仮に5000万円の評価額なら、6%で300万円の支払いです。
たしかに、会社は経費になりますが、会社によっては資金繰りが苦しくなる場合もあるでしょう。
また、地代を受取った社長個人は、その分地代収入として確定申告せねばならず、トータルでの納税額が増えてしまえば元も子もありません。
4・無償返還方式
そこで使うのが、無償返還方式です。
権利金も支払いもできない、相当の地代も支払えない、というときに使います。
この方法は、借主は土地を明け渡すときは、立ち退き料などを要求せず、無償で返還を約束するものです。
それを税務署に届け出ることで、権利金を支払わなくても、相当の地代を支払わなくても、また、それによる認定課税を受けなくて済むことができるのです。
この無償返還方式は、個人と個人の取引には適用できませんが、個人と法人では適用することができます。
したがって、社長の土地を会社に貸してその上に建物を建てる場合でも、適用できます。
社長個人の側では、不動産所得として確定申告をする必要がありますが、土地の固定資産税は経費にすることができますので、大きな負担になることはないでしょう。※利益を保証するものではありません。
なおこの方式を採用する場合は、「土地の無償返還に関する届出書」を遅滞なく、税務署に届けることが必要です。
まとめ
社長所有の不動産を使って、キャッシュを最大化する方法について解説しました。
不動産はあるだけでは、収益を生みません。
活用すれば、社長の手元キャッシュを増やせるかもしれません。
国は、年々、税金と社会保険料の負担を求めてきています。
活用できるものは活用しないと、取られるだけで損になってしまいます。
誰もが不動産を持っているわけではありませんが、もしあるなら、活用できないか検討してみましょう。
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