会社経営には、「勘定合って銭足らず」という現象があります。
利益が出ているのに資金が足りず、最悪、黒字倒産を招きます。
では、勘定合って銭足らずになる原因とは何でしょう?
その原因を探っていきます。
理由1・支払い能力をオーバーしている
次のような状態のPL(損益計算書)の会社のケースで考えてみます。
- 経常利益:175万円
- 法人税35%:61万
- 当期純利益:114万円
※小数点以下四捨五入
一見すると、利益も出ていて、法人税も支払えます。
しかしこの会社は、下記の条件で設備投資を行っていました。
- 設備投資額:1500万円
- 返済条件:5年返済/1年300万円返済
- 減価償却:10年/1年150万円の償却
すると、財務状況は一変します。
設備投資の借入を返済すれば、手元資金はマイナス36万円になってしまうのです。
利益と現金の流れが一致してない、まさに勘定合って銭足らずの状態です。
なぜこのようなことが起こるのか?
ポイントは、減価償却費と借入の元金返済部分です。
減価償却費とは?
ここであらためて減価償却費について解説しておきます。
減価償却費とは、設備投資などの高額なものを、数年から数十年にわたって、毎年一定額ごとに経費に計上していく会計のルールです。
たとえば600万円の自動車を購入したら、買った年に600万円を経費に計上するのではなく、1年に100万円ずつ、6年にわけて費用計上していきます。
そしてここからが物事を複雑にしてしまうのですが、減価償却費は毎年帳簿に経費計上されるとはいえ、実際には「使われていないお金」です。
仮に車を買った年に、支払いは1度に済ませてしまったとします。
帳簿には毎年6年間100万円ずつ経費として計上されますが、実際はすでに代金は支払っているので、1年目以外はお金は動いていないことになります。
つまり、毎年計上される減価償却費は、現実に口座に残っているお金なのです。
だとしたら、それを足してやらないと、実際のお金の残高と合わないということになります。
ですから、税引き後の銀行残高は
・キャッシュ残高=税引き後当期純利益+減価償却費
で、計算されるのです。
こうして資金ショートが起こる
そして、借入の返済のうち、「元本部分」は経費になりません。
経費になるのは、借入の「利息部分」だけです。
したがって、設備投資などの借入の返済(元本部分)は
・税引き後当期純利益+減価償却費
を足した額の中で行われることになります。
例に挙げたPLの会社の場合、
- 当期税引き後利益が114万円
- 減価償却費が150万円
で、手持ち資金は
・114万円+150万円=264万円
になります。
その中から、毎年の返済分300万円を支払わなくてはいけないので、
264万円-300万=-36万円
となって、36万円支払い原資が不足することになるのです。
この36万円を資金調達できなければ、銀行にお願いしてリスケをするかしないと、資金ショートを起こすことになります。
現実的には、36万円くらいなら社長のポケットマネーで何とでもなるでしょうが、不足額が大きくなれば、倒産(黒字倒産)もあり得るのです。
減価償却の未計上は銀行に見破られています
ちなみに、減価償却費は決算書に計上する義務はありません。
そのため、赤字の調整に使われることがあります。
分かりづらいかもしれないので、売上100万円、売上原価50万円、経費30万円、減価償却費10万円の場合で考えてみましょう。
このケースだと、残る利益は
・100万円-(50万円+30万円+10万円)=10万円
になります。
しかし、売上が85万円に減ってしまえば
・85万円-(50万円+30万円+10万円)=-5万円
と5万円の赤字になってしまいます。
そこで経営者は、減価償却費を計上しないことを選択します。
すると、
・85万円-(50万円+30万円)=5万円
となり、5万円の黒字になります。
マイナス5万円なら法人税を支払わなくてすむのですが、なぜわざわざ減価償却費を計上しないで黒字に見せるかというと、銀行融資対策のためです。
赤字を理由に銀行から融資を断られれるのが怖いので、あえて減価償却費を計上しないという選択をするというわけです。
しかしです。
この減価償却費の未計上は、銀行からはバレバレです。
融資の審査の際には、減価償却したものとして再計算されることになります。
そこで赤なら、赤字判定とされます。
バレないと思っているのは、社長と税理士の先生だけで、銀行員は無駄な足掻きと感じていることでしょう。
理由2・フリーキャッシュフローの不足が原因
次に、勘定合って銭足らずの原因になるのが、「経常運転資金の増加」です。
運転資金とは、仕入から販売して代金を回収という営業サイクルの中で、必要になる資金のことです。
会社が売上げを上げてキャッシュを得るのには、まず商品を仕入れます。
その商品が売れるまでの間在庫をし、そして販売して代金を回収します。
販売は、現金取引以外は、売掛金が発生します。
一方、仕入れ代金は、一定期間支払いを待ってもらう買掛取引です。
いい換えれば、商品を在庫している間、売掛金を回収するまでの間は、「資金が出ていった」状態です。
その反対に仕入代金は、支払いを待ってもらっている状態なので、「資金が入ってきた」といえます。
つまり、
・売掛金+棚卸資産-買掛金
という計算式で運転資金を算出し、プラスの値なら、その額だけ「資金が出ていった」状態。
<例> 300万円+100万円-200万円=200万円
運転資金200万円が出ていった状態
マイナスの値なら、その額だけ「資金が入ってきた」状態なのです。
<例> 200万円+50万円-300万円=-50万円
手元に50万円残った状態。小売店など現金商売のパターン
運転資金の計算は、貸借対照表から求めます。
下記は、先の例で出した会社の貸借対照表です。
運転資金の計算は
・売掛金+棚卸資産-買掛金
です。
したがって上記の会社の運転資金は
・600万円+200万円-400万円=400万円
になります。
これはつまり、400万円資金が不足している(必要)ということです。
そして次に、会社のフリーキャッシュフローを求めます。
フリーキャッシュフローを算出することで、実際のお金の残高がわかります。
フリーキャッシュフローは、「税引き後利益+減価償却費」に、運転資金の増加分を引いた額で求めます。
・キャッシュフロー=税引き後利益+減価償却費-運転資金
先ほどの損益計算書から
- 税引き後利益:114万円
- 減価償却費:150万円
よって、
フリーキャッシュフロー=(114万円+150万)-400万円=-136万円
で、136万円の資金不足に陥ることがわかります。
損益計算書(PL)では利益が出ているのに、現実のキャッシュは不足する、まさに勘定合って銭足らずの状態です。
売上は増えても資金繰りは楽にならない
売上が増えることは、会社にとって喜ばしいことですが、売上の増加は、在庫、売掛金、買掛金も同時に増えます。
そして傾向として、「売掛金+在庫」の方が、「買掛金」より多くなるので、それに合わせて必要な運転資金も大きくなります。
仮に、売掛金500万円、棚卸資産300万円、買掛金400万円なら、運転資金は400万円です。
これが全部2倍になったとしたら
売掛金1000万円+棚卸資産600万円-買掛金800万円=800万円
と、運転資金も2倍になることがわかります。
この増えた運転資金を賄うため、金融機関から資金調達を行います。
そのため、売上増加時には、借入も同時に増えてしまうのです。
経営者は、「売上を伸ばせば資金繰りは楽になるだろう」と考えがちですが、実際はその逆の現象が起こるのです。
すなわち、売上は伸びるほど、資金繰りは苦しくなるです。
ただし、売上げ増加による運転資金のことを、「増加運転資金」といい、銀行は「増加運転資金」への融資は前向きにとらえてくれます。
ですが、運転資金増えれば、資金ショートした場合のリスクも大きくなります。
やはり、すぐにキャッシュ化できるよう、資金繰り改善の取組が必要になります。
同じ売上アップでも深刻な勘定合って銭足らずパターン
同じ売上アップでも、利益が少ない状態での売上アップは危険です。
上記で解説した売上アップが前向きなら、これからお話しするのは後ろ向きな売上アップで起こる勘定合って銭足らずの恐怖です。
売上を作るには、先行してお金が必要なのは、上記で述べた通りです。
そこで、売上が減ってしまった場合を想定してみましょう。
良くあるパターンは、売上減を挽回しようと、利益をギリギリ安くして、仕事を受注しようとすることです。
たしかに、安さにまかせて仕事は受注できるかもしれませんが、業績の悪化から、手元キャッシュも減少しています。
しかし、売上を挽回しようとすれば
- 多額の仕入れ資金が発生する
- 人件費の支払いが多くなる
- 大量の在庫により、資金が寝てしまう
といったことが、売上代金の「回収前」に起こります。
売上はたしかにあるのに、勘定合って銭足らずが、手持ち資金が少ないため、より深刻な形で襲ってくるのです。
売上アップというのは、どのような形でも運転資金の不足を招きます。
勘定合って銭足らずを起こさないためには、慎重な資金調達計画を立てておかなくてはいいけません。
勘定合って銭足らずを防ぐ方法
勘定合って銭足らずを防ぐには、やはりお金の流れを可視化して管理することが大事です。
そのために必要なのが「資金繰り表」です。
資金繰り表を作る意味は、ズバリいって未来予測です。
- 入金予定や支払予定を見て、今後の支払いに問題がないか予測しておく。
- 本業の儲けより、借入の返済額が上回っていないか把握しておく。
- 万が一、資金繰りが詰まる状態がきそうであれば、先手を打って対策をしておく。
- 資金繰り表の全体の収支を見て、会社の預金残高がどれくらいあるか把握する。十分でなければ、資金調達を計画する。
- 設備投資を予定しているが、それが運転資金にどう影響するか予測しておく。
など、経営にとって重要な問題を未来予測することができます。
予測すればこそ、適切な対策を立てておくことができます。
ただし、資金繰り表には、「間近の資金繰りの予定を把握できる代わりに、1年や中長期の資金繰りが見えにくい」という欠点があります。
中長期で投資計画を考える際は、損益計算書をベースにしたキャッシュフロー計算書で求める必要があります。
まとめ
会社の存続は、キャッシュのあるなしで決まります。
帳簿上の黒字赤字ではありません。
たとえ黒字でも、資金ショートを起こせば会社は倒産します。
それを引き起こすのが、勘定合って銭足らずの状態です。
「利益は出ているのに、支払うお金がない」と慌てないためにも、それが起こるメカニズムと、資金繰り管理をしっかり行いましょう。
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