会社の存続は、一にも二にも「キャッシュのあるなし」で決まります。
こんなのは、あえていわれなくてもお分かりでしょうが、にもかかわらず「会社にお金が残らない」とお嘆きではありませんか?
売上は伸びている、利益も出ている、節税対策はバッチリ、しかし現実は口座にお金が残っていない、まるで神隠しにあっているようですが、それにはきちんとした理由があります。
タネも仕掛けもなく、お金が減っているわけではないのです。
黒字でもお金は残らない
まず最初に、初歩中の初歩ですが、利益とキャッシュは一致しないことを覚えておきましょう。
帳簿の利益は黒字だからといって、お金も同じ額だけ残っているわけではありません。
それを表す典型的な例が「黒字倒産」です。
儲かっているはずなのに、会社が倒産してしまうという現象です。
これは、帳簿の利益だけから考えたら何とも不可思議な現象ですが、キャッシュという視点を加えると、その「当たり前の理屈」がわかります。
通常の商売では、仕入れが先にきて、販売と代金回収は後にきます。
この現金が入ってこない間、自らが資金を立替えておかなくていけません。
その手持ち資金がない期間に、別の支払いが入ればどうでしょう?
金融機関から資金調達を行う、支払サイトの延期を申し込む、売掛金の支払いを早くしてもらうなどの交渉を行いましたが、ことごとく失敗しました。
万策尽きて、支払いをすること能わざれば、事実上会社を継続することができず、倒産してしまいました、、、ざっくりいえば、これが黒字倒産です。
このように、帳簿の利益とキャッシュの流れは違うのです。
消えた利益の3つの行き先とは?
上記の例は、取引が単純で黒字でも倒産する原因がわかりやすいですが、実際の取引は何社もあり、複雑に入り組んでいます。
しかし、帳簿上で黒字なら、利益はどこかに残っているはずです。
にもかかわらず、手元にキャッシュがない。
その消えてしまった利益は、どこにいってしまうのでしょう?
それは、お金ではなく「他のものに形を変えてしまっている」のです。
だから、利益はあるのに口座の残高にはキャッシュがないという現象が起こります。
利益がどんなものに換わってしまったかというと、主に次の3つです。
売掛金
売掛金は、回収できるまでの間、あなたが立替えているお金です。回収までの期間が長くなるほど、手持ち資金が少なくなり、資金繰りを圧迫します。
在庫
在庫は、手持ち資金が商品に換わった状態で、売れ残りが不良在庫になったり、売れるまでの在庫期間が長くなると、その分資金繰りは苦しくなります。つまり、仕入れの代金だけ、お金が足りなくなります。
固定資産
土地、建物、設備、有価証券などの、固定資産にも換わります。固定資産は、大きな投資額がかかります。それだけ手持ち資金が減るので、資金繰りは苦しくなります。また、固定資産自体が収益を生まないと、多額の投資費用によって資金繰りが圧迫されます。
利益が何に換わってしまったかを見るとき使うのが、貸借対照表(バランスシート)です。
BSの左側を見れば、お金が何に換わってしまったのかがわかります。
これ以外にも、保証金、貸付金などに換わっていることがあります。
「いつお金になるか?」の視点でみる
貸借対照表の、
- 売掛金
- 棚卸資産(在庫)
- 固定資産(建物、車両、備品など)
を見る際は、いつお金になるかという視点で見るようにしましょう。
- 売掛金→代金の回収に確実性はあるか?いつ回収できるか?
- 在庫→売れない不良在庫か?それとも売れる見込みのある在庫か?
- 固定資産→売ったときにどれくらい価値があるか?収益を生み出しているか?
このような視点を持つことで、将来お金になるか、なるとしたら増えるかどうかわかります。
もし、その見込みが少なければ、それは「お金が寝ている状態」で、資金繰り悪化のサインです。
資金繰り改善策を打たなくてはいけません。
会社にお金が残らない3代原因をデトックス
会社にお金が残らない原因は、売掛金、在庫、固定資産にお金が換わってしまっているからです。
それを改善するための方法は、次の通りです。
デトックス1・売掛金にメスを入れる
未回収がないかチェック
売掛金がきちんと回収されているかチェックします。
仮に、貸借対照表の売掛金が500万円あれば、その明細を調べます。
数値で調べるなら、「売掛債権回転日数」を前期と比較し、長くなっているようであれば、売掛金が多くなっているサインです。
さらに取引の詳細をチェックします。
入金が遅れている取引先があれば、すぐに督促をし、遅れ気味のところは取引内容の見直しを検討します。
早め早めの対応こそが、売掛回収の最善策です。
回収条件を見直す
資金繰り改善には、売掛金回収までの期間を短縮することが理想です。
とはいえ、それは相手方(取引先)にとっては不利な条件を飲まされることで、そう簡単に納得はしてくれません。
そこで、値引きなど相手にとって有利な条件を提示することで、売掛期間の短縮を打診するのも方法です。
また、交渉の際に、「他の会社もこの条件で納得されてます」と付け加えると、相手が納得しやすい心理状態になります。
回収条件で最高なのは、前金で受取ることです。
貸倒れリスクを減らす
未払いリスクで一番怖いのは、新規の取引先です。
利益は少なくなりますが、新規の取引先は「売掛金の保証会社」を検討してみるのも方法です。
もし保証会社に断られる会社なら、財務状況がよくないサインなので、新規取引を開始するかの判断材料にもなります。
また、支払の悪くなっている会社があれば、取引中止も含めて、現金取引に変えるなど条件の見直しが必要です。
売掛金は帳簿上では資産ですが、回収してはじめてお金になります。
貸倒れリスクを極力なくすことで、資金繰り改善に役立てましょう。
デトックス2・在庫にメスを入れる
在庫管理ができているか
会社の戦略や機会ロスを防ぐために、あえて在庫をしている会社もあります。
なので、一概に「在庫を減らす」ことが正しい選択とはいいません。
ただし、適正な在庫数であることは必要でしょう。
在庫自体に税金はかかりませんが、売れない在庫は「売上原価」を減らして、利益を増やし、不良在庫を抱えて税金がかかるという不条理が発生します。
財務諸表から「棚卸資産回転日数」を算出し、前期と比べ日数が増えてないかをチェックしましょう。
不良在庫は処分してしまう
売れ残りの在庫が発生したら、安くても売れるなら売ってしまう、売れないなら処分してしまうなどの処置が必要です。
不良在庫は資金が寝ているだけでなく、
- 在庫をしてる面積分だけ、無駄な家賃が生じている
- 在庫管理による人件費・管理費がかかる
- 新しい商品を置くスペースがなくなる
などの無駄な費用が発生します。
それを処分してしまえば、損失分だけ利益が小さくなり、税金も少なくなります。
一番ダメなのは、いつか売れるかもしれないと、後生大事に持ち続けることです。
売れる時期を逃したものは、相当に条件を譲歩しないと売れないので、何はなくとも安売りなり何なりして処分してしまっても同じです。
デトックス3・固定資産にメスを入れる
必要のない固定資産は処分する
固定資産は、通常、建物や機械など、長期にわたって投資した資金を回収するものになります。
よって、すぐにはお金になりません。
となると、固定資産が増えると資金繰りは苦しくなるということです。
とくに、固定資産自体が収益を生み出さないものにならなおさらです。
ですから、余分な固定資産(自分のビジネスにあまり関係ない資産)は売って処分してしまう方向で検討します。
固定資産の処分により、会社にキャッシュが増え、含み損があれば損失計上することで、税負担も少なくなります。
また、経営指標の観点からみれば、総資産が少なくなることで、経営の効率化になります。
経営の効率化の指標にROAがありますが、これは現在の総資産で、どれだけ利益を獲得したかを見る指標です。
・ROA=当期純利益÷総資産
この式からも明らかなように、少ない資産で、高い利益を獲得した方が、ROAは高くなります。
簡単にいえば、500万円で1000万円の利益を獲得するより、300万円で1000万円の利益を獲得した方が、ビジネスを上手く回しているということです。
だとしたら、無駄な固定資産は、総資産を膨らますだけで、何の役にも立ってないことがわかります。
ですから、必要のない固定資産は処分して、総資産を小さくした方が、効率的な経営をできるということです。
黒字倒産を防ぐには
会社にお金が無くなる原因を解消すれば、キャッシュを重視しした経営になり、黒字倒産を避けることができます。
まとめると
キャッシュを増やす施策
- 現金取引を多くする
- 売掛金を回収する
- 前払い・着手金を設定する
- 在庫を減らす
- 使ってない資産を売る
キャッシュを減らさない施策
- 仕入原価・経費の削減をする
- 節税対策を行う
- 買掛金を増やす
- 新規投資案件を精査して、儲からない案件は行わない
キャッシュが入るのを早める施策
- 取引は、現金または前払い、当月払いにする
- 入金日を過ぎた場合の遅延損害金を設定する
- 入金が早くなるための特典を設ける
- ファクタリングの利用を検討する
キャッシュが出るのを遅くする施策
- 支払期日をなるたけ延ばす(条件が折り合うところで)
要するに、
- 仕入代金の支払いはできるだけ先に延ばす
- 売上はできるだけ早く入金してもらえるよう交渉する
- 無駄な投資や過剰な仕入にならないように注意する
- 前払いビジネスや着手金を取入れらないか検討する
というった施策を行うことで、キャッシュフローを常にプラスになり、黒字倒産を防げます。
簡単ではないですが、会社の財務体質を強くするには避けて通れない施策です。
キャッシュが残らない経営は危ないです
世の中には、赤字であっても潰れない会社もあります。
その違いとは何でしょう?
単純にいえば、キャッシュがあるかどうかです。
赤字であってもキャッシュがあれば潰れませんが、黒字であってもキャッシュを用意できなければ、あっという間に倒産です。
会社の取引は、売ってから現金化するまでタイムラグがあります。
その間、仕入代金の支払いや借り入れの返済はもちろん、予想もしてなかった出費が必要になれば、資金不足に陥ることになります。
また、売掛け先が倒産して、代金を現金化できなければ、これまた資金繰りが苦しくなります。
資金繰りが苦しくなるのは、売上げ減や取引先の倒産以外にも、消費税、所得税などの税金の支払い、さらに社会保険料の支払いも原因になります。
ちなみに、税金は儲かっていなければ支払いは免除されますが、社会保険料は黒字でも赤字も関係なく、一定額徴収されます。
そして、社会保険料は今後ますます負担が大きくなっていきます。
収入は副実なのに、支出はどんどん増えていく方向です。
このような厳しい環境では、一にも二にも現金を残しておくことが大事です。
詰まるところ、現金があれば会社は倒産しないのですから。
倒産しにくい経営体質にするには、利益を多く残すことが第一歩です。
それには、適正単価で売ることもありますし、経費を削減する方法もあります。
販売と経費の両面から見直して、倒産に強い会社体質にしましょう。
まとめ
会社のお金がなくなる原因について解説してきました。
もちろん会社にお金が無くなる原因は、これだけではありません。
しかし、会社のお金が消えてしまう原因は、ほぼこの3つといっても過言ではないのです。
稼いだ利益が、売掛金、在庫、固定資産に大きく換わっていると、売上は順調でも、黒字倒産を起こしかねません。
しっかり管理して、資金繰りに余裕のある会社を目指しましょう。
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