法人税支払時に資金繰りに詰まる理由

財務改善

利益が出れば法人税を支払うことになります。

しかし、会社の利益は出ているのに、

「肝心のキャッシュがない」

こんな現象が起こることがあります。

逆に法人税の支払いで資金繰りが詰まってしまい、やむなく融資で乗り切ることに。

何とも不思議な現象ですが、それにはきちんとした理由があります。

減価償却というルール

帳簿上は利益が出ているはずなのに、なぜか銀行口座のお金は足りない・・・。

このような現象が起こるのは、「減価償却」というルールが一因しています。

減価償却とは、時間の経過や使用により価値が減少する固定資産(建物や設備)を取得したときに、取得費用をその耐用年数に応じて費用計上していく会計処理のことをいいます。

この処理が、帳簿上の利益と実際のキャッシュの動きを、わかりにくくしているのです。

固定資産の価値は、年数の経過によって徐々に下がっていくもので、一気に下がるわけではありません。

その経過を「耐用年数」という決められた期間で、価値の減少を会計上で行っていきます。

仮に600万円の車を購入したら、1度に600万を費用計上するのではなく、100万円を1年ごとに6年にわけて費用計上していく会計処理方法です。

実際の車の価値も、時間の経過と共に落ちていきますよね。

それを会計上のルールに則って処理するわけです。

何だか説明を読むと、わかったようなわからないような複雑な処理ですが、まさにこの「減価償却」が、資金繰りを狂わせる原因になります。

それが、減価償却費は帳簿上の会計処理で、現実のキャッシュの動きとは違うからです。

減価償却のカラクリ

たとえば、1000万の設備投資を10年の償却期間で減価償却を行ったとします。

毎年費用計上されるのは100万円です。

しかし、設備投資の費用1000万円を、銀行融資で調達した場合、返済期間も10年となるわけではありません。

3年、5年、7年など、返済期間の方が短いケースが多いのです。

仮に1000万円の7年の返済なら、年間約143万円になります。

減価償却費より、返済金額の方が43万円高くなります。

ここで、帳簿上の費用(減価償却費)と実際のキャッシュの流れに違いが出てきます。

そうすると何が起こるか?

帳簿で費用計上されている減価償却費より、借金の返済額の方が大きいので、利益が出ているのに、キャッシュが足らないという現象が起こります。

これが、勘定合って銭足らずの状態です。

この状態に陥ると経営者も何が何やら、頭がパニックです。

「減価償却期間=借金返済期間」であれば、勘定合って銭足らずにはならないのですが、そう簡単にはいかないのが現実です。

もし、帳簿上の額と現実のキャッシュの額を合わせたいのであれば、銀行にお願いして返済期間を10年に延ばしてもらうしかないです(耐用年数は法律で定められているため、勝手に決められない)。

法人税の支払い時にキャッシュがない理由

そしてここからが法人税支払時にキャッシュがない理由になります。

借金の返済は、毎月支払いしなくてはいけません。

その返済金額の中に、税金分のキャッシュも含まれているのです。

借金の返済は先行、税金の支払は期末の後。

ですから、「今期の利益は出ているのに、納税資金が足りない」となるのです。

足りなければ新たな借入をして、納税資金を用意することになります。

季節資金の借入は借金依存体質のはじまり

余談ですが、このような一時的に必要な資金を季節資金といいますが、安易に借り続けるのは危険です。

それは借入依存を招く行為で、早めに脱却しなくてはいけません。

最初のうちは軽い気持ちですが、徐々に徐々に「借入なしではやっていけない体質」へと変貌していきます。

その理由は、季節資金で回さないといけないような会社は、資金繰りもギリギリで回しているからです。

実際問題、借入には金利もかかっているわけで、借入が増えれば利益を圧迫していきますからね。

利益が少なくなれば、借金返済に回せるお金も少なくなり、さらに資金繰りに困っていくことになります。

キャッシュ不足を防ぐには?

減価償却が一因で、法人税支払用のキャッシュがなく、資金繰りが苦しくなるメカニズムは、何となくでもご理解いただけたと思います。

ではこのような状態を招かないためには、どうすればいいのでしょう?

それは、「経常利益+減価償却費-法人税」の額内に、借入の返済額(1年間の返済額)を収めることです。

1年間の借入返済額(元本部分)がこの額を超えると、資金繰りはとたんに苦しくなります。

上記のような損益計算書のケースだと、

・480(経常利益)+100(減価償却費)―160(法人税)=420

420が年間の返済可能金額になります。

毎月に直すと、420÷12カ月=35で、35万円が返済の限度額です。

返済額が35万円以上になると、外部から資金を調達してこねばならず、資金繰りが悪くなります。

ここでも「減価償却費」が出てきましたが、「減価償却費」とは帳簿上の処理の話だけで、実際にお金が出ていくわけではありません。

つまり、現実には口座に残っているお金です。

ですから、税引き後の利益と減価償却費を足したお金が、会社に残っているお金となるわけです。

よって、「税引き後利益+減価償却費」の範囲に借入金を収めておけば、毎年のキャッシュフロー内でやりくりできるのです。

資金繰りが苦しくなったというときは、毎年の借金の返済額(元本)が、「税引き後利益+減価償却費」を超えてないか調べてみてください。

バレてます

減価償却について注意点。

法人税法上、減価償却費は、税法が定めた期間の範囲内でなら、会社が自由に決めることができます。

これはつまり、減価償却費を意図して少なめに計上しても、税法上は問題ないということです(少なければ、取れる税金は多くなりますからね)。

そのことに着目し、赤字の中小企業では、減価償却費を計上しないことがあります。

しかし、その意図するところは、銀行にバレバレです。

仮に減価償却費を計上したりしなかったりしていると、「赤字隠し」を疑われる原因になります。

よしんば赤字隠しを疑われなくとも、「会計処理がいい加減」「隠ぺい体質」といったレッテルを貼られることにもなります。

「バレない」などと思っていると、後でしっぺ返しを喰らいかねませんので気をつけましょう。

借入で資金繰りが詰まるメカニズムをシミュレーション

借入れすると資金繰りが苦しくなるのは誰でもわかることですが、そのメカニズムまで理解している人は少ないです。

きちんと理解すれば、借金で資金繰りが詰まる理由がわかります。

なぜ利益が出ているのにキャッシュが足らなくなるか、理解を深めるためシミュレーションしてみます。

元本と利息の取り扱いに注意

まず、借金の返済額には「元本」部分と「利息」部分があります。

この2つには、「利息は経費として認められるが、借金返済の元本は経費として認められない」という違いがあります。

利息は、貸し手が融資したお金の手数料としてもらうお金です。

つまり、事業性のあるお金です。

事業で発生した手数料を借り手は払うわけですから、利息は経費になるのです。

これに対し返済の元本部分は、借りたお金を返しているだけなので、経費にはなりません。

損益計算書の構造から考える

損益計算書(PL)の構造から考えてみるとよくわかります。

借金の利息は経費になりますので、その項目は、損益計算書の「営業外費用」の欄に記載されます。

対して、返済の元本部分は経費になりませんので、法人税を引かれた後の「当期純利益」で支払わなくてはいけません。

ということは、借金額が増え、支払い利息も増えると、経常利益が圧迫され、その結果、税引き後の当期純利益は下がることになります。

当期純利益は下がったのに、借金返済の元金は増えるわけですから、返済が厳しくなることは目に見えて明らかです。

こうして借入が資金繰りを圧迫する

よく理解できるように、次のような状態の会社のケースを考えてみます。

  • 借入の支払い利息が年間30万円
  • 返済額の元金が年間80万円
  • 手元に残るお金が30.5万円

※ここで出した元金と利息の額は、あくまでわかりやすくするための設定であり、厳密に計算して出したものではありません。

売上や粗利益がこのままの状態だとして、支払い利息が10万円増の40万円、返済元金が20万円増の100万円になったとします。

すると、借金返済後に残るお金は4万円になってしまいます。

※ここでは出しておりませんが、この4万円に、減価償却費を加えたものが、実際のキャッシュの額に近いものになります。

支払利息は経費になって法人税を圧縮してくれますが、その分、返済の元金が増えるので、実際の資金繰りは苦しくなります。

これ以上借金が増えたら、手元資金が間違いなくなくなるので、どこからかお金を調達してこないと借金が払えない状態になります。

こうして、自転車操業(いわゆるチャリンカー)まっしぐらになるのです。

現実の流れはもっと複雑

損益計算書で見るのは、あくまで1年間という期間が終わった後です。

現実には、毎月毎月、返済をしています。

するとどうなるか?

繰り返しになりますが、法人税の支払いは決算後になりますので、毎月支払いが発生するわけではありません。

よって、法人税分(納める予定額)を返済に回すことになります。

すると、法人税支払い時に、帳簿上では残っているはずのキャッシュがないことになります。

こうして、法人税を納付するときには、またどこかで資金を調達してこないと回らなくなるわけです。

ここでは法人税だけを取り上げてますが、現実にはいろいろな要因が絡んでいますので、さらに帳簿とキャッシュの残高は違うものになってくるでしょう。

法人税より消費税の支払いが負担に

余談ですが、法人税より厄介なのが消費税です。

法人税は赤字なら納めなくてもよいですが、消費税は赤字黒字関係なく納めなくてはいけない税金です。

消費税は、消費者から預かっているお金を国に納める税金なので、赤字だから納税しなくても良いとはならないからです。

したがって、常に納税義務が生じるという意味で、法人税より資金繰りを直撃するといえます。

消費税は、売上と同時に入ってくるお金で、普通に考えれば、会社の損益とは関係ありません。

しかし、納税資金と売上のお金を別々に管理できていればいいのですが、運転資金に使ってしまい、納税に困るというケースがあるのです。

その場合、どこからか納税資金を用意しなくてはいけないので、資金繰りが苦しくなるのです。

所費税対策としては、基本、お金を消費税用にプールしておくしかないわけですが、2019年10月には消費税は10%になる予定です。

10%もの消費税分を、もし運転資金に使ってしまったとしたら、納税資金を用意するのは今以上に大変になります。

消費税額を予測して、きちんと管理する習慣をつけておきましょう。

まとめ

銀行は、税金・社会保険料の滞納のある会社に、融資をしてくれません。

よって、融資が必要な会社は、納税に困らないよう対策しておく必要があります。

その点からも、資金繰りの管理は大切になります。

利益が出ているのに、「法人税分のキャッシュがない」tならないよう、しっかり資金繰り対策をしておきましょう。

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