本当は怖い無借金経営!メリット・デメリットを大解剖

融資対策

「借金はよくないこと」

子供のころから借金ついて、たいがい親からはこんなふうに教わってきました。

借金すれば借金が借金を呼び、いづれお金が返せなくなる、我が子のことを想う親であればこそ、借金で人生を棒に振ってほしくないから、そう教育したのかもしれません。

しかし、借金とはそんなに悪いものなのでしょうか?

借金が怖いのは、「借金が返せなくなる」こと、つまりは、身の丈以上に借りて詰まってしまうことであって、借金を計画性を持って返せる分には問題はないでしょう。

これは会社も同じです。

会社が借金をしても、返せる目途があれば、悪いものではありません。

むしろ、手持ち資金が厚くなることで、会社の財務基盤は強くなります。

もしあなたが、借金を悪と捉えているのであれば、考えをあらため直す必要があります。

あえて借金を選択することも、経営を考える上では大事です。

それでは最初に、無借金経営のメリットとデメリットについて解説していきます。

会社の財務基盤を強くする利益計画。会社はいくら利益を稼げば良いのか?

無借金経営のメリット

メリット1・利息を支払わなくてすむ

支払利息を支払わなくて済みます。

低金利の昨今、支払利息も低くなっていますが、無借金経営なら利息を支払わなくてよくなります。

借入れが多い場合は、低金利といえど金額は多くなりますし、金利の高いところからの借入も、支払い利息を大きくしてしまいます。

その利息が発生しないという点では、メリットになります。

メリット2・借金返済を考えなくてすむ

会社経営が順調なときは、借金返済もプレッシャーになりませんが、資金繰りが苦しくなると、借金返済は重荷になります。

無借金経営なら、こういったプレッシャーとは無縁になります。

メリット3・外部の取引先からも信用される

借金がない状態は、財務状況や売上の安定など、経営に大きな問題がないことを示しますので、外部の取引先から信用されます。

メリット4・私財を失うリスクが減る(オーナー経営者が保証債務を負っている場合)

会社オーナーは、融資の際、自らの個人保証を求められます。

よって、もし会社が倒産してしまうと、オーナー経営者の私財も失われてしまいます。

このようなプレッシャーからも解放されることは大きいです。

私財がなくなると思えば大胆な投資も控えてしまいますが、会社の財産と個人の資産が別となれば、投資に積極的になれます。

メリット5・金融機関の影響を受けない

銀行への借入依存度が高くなるほど、その銀行の顔色を伺うことになります。

メインの銀行が融資してくれないとなったらと、借入に依存している企業ほど、そのような状況を避けたい心理が働き、銀行の意向を無視できなくなります。

無借金経営なら、銀行の意向は関係なく、経営者の自由意志で物事を決められます。

メリット6・財務諸表の見栄えが良くなる

無借金経営の企業は、借入がありませんので、自己資本比率が高くなり、財務諸表の見栄えが良くなります。

皮肉ですが、銀行の好む決算書になり、融資の際、有利となります。

融資成功ガイド!銀行員の決算書の見方とは?

メリット7・資金管理が楽になる

何本も借入をしている企業は、それだけ資金管理が大変になります。

「何日は○○銀行の支払いで、5日後には○○信用金庫」このような資金管理のわずらわしさは、無借金経営にはありません。

メリット8・事業承継の際、スムーズに後継者にバトンタッチできる

金融機関から借入がなければ、事業承継の際、後継者へスムーズにバトンタッチできます。

大きな借入があれば、後継者はそれを引き継ぐことになりますので、心理的プレッシャーが大きくなります。

ときにそのプレッシャーは、後を継ぐことさえ断念することになりかねません。

現経営者とて、その債務を引き継いでもらうことに、気兼ねだってあるでしょう。

後継者が身内ならまだしも、身内以外となればなおさらです。

無借金経営の場合、金銭的負担をかけることはありませんので、事業承継を行いやすいといえます。

※無借金経営の会社で、業績が良く株価の高くなった企業は、今度は事業承継でも「税務」の問題が出てきます。

後継者への承継を計画的に行い、税負担の少ない形にしないと、後継者や会社に資金的な大ダメージを残すことになります。

【保存版】丸ごとわかる中小企業の事業承継成功ガイド

メリット9・廃業・M&Aを選択しても手元資金が多く残る

廃業をする際、無借金であれば返済する金額も少ないので、手元資金が残ります。

同じくM&Aで会社を売却する場合も、負債がない分、高く売ることができます。

借入があれば、廃業でもM&Aでも、清算が必要になり、その分は資金が目減りすることになってしまいます。

無借金経営のデメリット

デメリット1・いざというときにお金を借りられない

すでに借入実績のある企業の場合、融資実行までの期間も短くなります。

また、他の銀行に借入れを申し込む場合でも、借入実績のあることは、一つの信用につながります。

銀行は右にならえがが好きなのです。

その反対に、「実績がない企業」との取引に慎重になるという習性も併せ持っています。

そのため、少額でも取引のない新規の会社は、融資のハードルが高くなります。

「利益が出ていて無借金だから」といっても、断られるケースもあるのです。

いざというときのために備えるなら、少額でも借入実績を作っておくことが大事です。

ちなみに、「預金」と「借入」の実績は別です。

銀行に預金があったとしても、それは「取引のあるお客様」ではないのです。

銀行にとって借入のお客様とは、「借入をしてくれた企業」なのです。

融資のためには、まず銀行と取引をはじめましょう。

それでやっと、融資という土俵に上がれます。

銀行融資完全攻略マニュアル

デメリット2・現金が少ないと資金調達しにくくなる

銀行は現金が少ない会社よりも、借金が多くてもキャッシュが多い方に貸したがります。

それは、何かのアクシデントのとき、現金のある方が潰れにくいからです。

その方針が表れているのが、融資基準です。

少し前までは、銀行は「自己資本比率」を融資の基準として大切にしていましたが、今では、「キャッシュ」があるかどうかに基準を置いています。

借金でもキャッシュが多くなれば、「流動比率」が上がり、財務基盤は強くなるのです。

しかし、無借金といえど手持ちキャッシュが少なければ、流動比率は低いので、融資を断られる可能性が高くなります(これはつまり、自己資本比率を上げるにしても、現金・預金残高の比率を上げないといけないということです)。

融資成功ガイド!銀行員の決算書の見方とは?

デメリット3・レバレッジ効果が働かない

少ない資本で利益を上げる、経営者であればこれは一つの目指す形です。

借金といえど、資金を用意して投資を行い、大きな利益を上げられれば、レバレッジ効果が働き、リターンも大きく返ってきます。

しかし、無借金経営で自己資金しかなければ、レバレッジ効果は得られません。

逆に、少ない資本金で大きなリターンを得ようと思えば、ビジネスそのものにハイリスクを伴うようになります。

レバレッジのメリットには、投資案件そのもののはローリターンでも、レバレッジ効果で得られるキャッシュは多くなることも挙げられます。

無借金経営は安全を求めると、ローリスク、ローリターンというビジネスモデルに偏りがちになり、得られるキャッシュは少なくなります。

デメリット4・成長のチャンスをなくす

「今設備投資を行えば、生産効率が上がって利益が増える」

「このトレンドに乗って、この商品を販売すれば売れる」

といった経営の選択肢があったとき、資金が豊富にあれば、それを選ぶことができます。

しかし、手持ち資金が少なければ、みすみす成功チャンスを失うことになります。

機会損失は直接目に見えないロスですが、このような投資の抑制は、いずれビジネスの衰退を招きます。

会社を成長・維持するためには資金調達能力が必要

デメリット5・資金を投資に回してない(有効活用してない)

上記の「経営上の選択肢を狭める」にも似てますが、余った資金を貯めておくことは、資金を有効活用(投資)してないともいえます。

本来であれば、設備投資や新しいビジネスに投資して、そのお金であらたな利潤を生むことも経営者の役目です。

それをしてないということは、お金を遊ばせているのと一緒です。

それはある意味、借入れの利率以上の損失かもしれないのです。

経営の観点からみれば、無借金経営は必ずしも望ましい形とはいえないです。

経営者が知らないとマズい数値「ROA」とは?

メリット6・資金調達コストが高い

自分の会社のお金なので気づきにくいでしょうが、自己資本での資金調達は意外に高くつきます。

仮にあなたが友人の会社に出資することを考えてみてください。

1000万円出資するとして、年3%の利息で貸すことができますか?

冷静に考えてみればわかりますが、元本保証もない、一中小企業のリターンとしては、3%ではいささか少ないというものでしょう。

わたしなら年20%以上でも出し渋るところです。

つまり、本来の市場価格に見直してみれば、資金調達価格が年3%はあり得ない利率なのです。

そう考えれば、現在の銀行の貸し出し金利は破格といえます。

自己資金での調達は、実は高いということを忘れないようにしましょう。

資金調達はコストで考える。一番調達コストが安いのは・・・?

デメリット7・法人税が増える

借金のコスト、つまり支払利息は経費になり、法人税を削減する効果があります。

そのため、借入の調達コストは

・借入の金利×(1-税率)

になります。

実際の金利より、税率の分だけ安くすみます。

逆に、無借金経営は支払利息はありませんので、利益が増え、法人税は増加します。

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8・経営者本来の仕事ができない

お金の少ない状態では、経営者の頭の中は資金繰りのことでいっぱいになります。

経営者本来の仕事とは、事業戦略を考えたり、マーケティングや営業の仕組化、業務の効率化を行うことです。

それがお金がないと、お金をどう集めるかばかりになってしまい、考え方が後ろ向きになります。

事業を展開するにしても、お金が足りるかどうかが気になり、思い切った行動が打てなくなります。

また事業を成長せるには、トライ&エラーが必要ですが、資金不足だと結果が出なければすぐにあきらめてしまいがちになります。

これでは事業を軌道に乗せることが一層むずかしくなるでしょう。

借入でも資金に余裕をもっておけば、資金繰りに奔走することなく、経営者本来の仕事に打ち込めます。

そして何より、資金繰りに明け暮れた経営者の体は疲労で、心はストレスでボロボロやられてしまいます。

多くの会社では、経営者は社内のトップセールスです。

そのトップセールスが機能しないとなると、業績の悪化は免れません。

借入れで資金を持つことは、心と体の健康につながり、それが業績へと反映されます。

9・倒産のリスクが増える

よく勘違いされるのですが、無借金経営には倒産のリスクがつきまといます。

たとえば、売掛金や在庫の増加など、資金繰りが悪化してしまう事態がおきたとき、予備資金としての現金がなければ、会社は持ちません。

たとえば大手の取引先が突然倒産してしまった場合、手持ち資金がなければ支払いをすることができなくなります。

そのときになって銀行にいざ融資をお願いしても、貸してくれるとは限りません。

その理由は先述した通りです。

しかし借入でもキャッシュがあれば、一定期間は危機を乗り越えられるでしょう。

よく「黒字倒産」という言葉を耳にしますが、無借金経営を押し通した結果そうなるケースも多いのです。

借金で会社は潰れない

釈迦に説法ですが、会社が倒産するのは、「キャッシュのあるなし」で決まります。

黒字倒産という言葉もあるように、会社が赤字か黒字かは関係ありません。

これが黒字経営でもお金が残らない3大原因

なぜ起こる?資金繰りを狂わす「勘定合って銭足らず」

黒字でもキャッシュが用意できなければ倒産しますし、その反対に、赤字でもキャッシュがあれば会社は存続できます。

つまり、会社の倒産する原因は、借金そのものではないのです。

借入は返せる計画があり、その通り返済が進んでいるのであれば、何も悪いことではありません。

借入が悪となるのは、返済が事業計画に支障をきたし、計画通りに返せなくなるときです。

そして、お金に色はありません。

借金で用意したお金が、1億だろうが10億だろうが、キャッシュはキャッシュです。

どんな調達方法であれ、それで返済も含めた資金繰りが回っていれば、会社も回っていくのです。

だとしたら、無借金経営にこだわって、キャッシュの残高を減らしてしまうことに何の意味があるのでしょう。

むしろ、会社の財務体質を弱める行為でもあります。

借入を返済して資金繰りが苦しくなる

無借金経営にこだわる経営者が、資金繰りを弱体化させてしまう行為があります。

それは、資金に余裕ができたときに、返済しなくてもよいのに、一括返済して借金を減らすことです。

繰り上げ一括返済をやっても良いのは「借入に頼らなくても、利益が出てキャッシュに困ってない」という企業くらいです。

キャッシュに余裕がない企業がやると、資本が減って、資金繰りの弱体化を招きます。

繰り返しになりますが、お金に色はありません。

借金といえど、それは資本です。

自己資金を含め、資本が少なくなれば、キャッシュの残高も減ることになります。

キャッシュの残高が減れば、大きな支払いが来れば一気に資金繰りは苦しくなりますし、いつも支払に余裕のない綱渡り状態です。

これでいったい何が何やら、借金でも資金に余裕があった方が、経営は安心というものです。

利息が惜しいというならよく計算してみてください。

仮に1000万円を借りていたとして、利息3%なら、年間の支払利息は30万円です。

1カ月の支払いにしてみれば25000円です。

いうなれば、年間30万円の利息を支払って、1000万という安心のキャッシュ残高を得られるのです。

これってお安くないですか?

今日からはじめる資金繰り超改善術16選

借入のコストはそれほど高くない

よくある勘違いですが、「1000万円を5年の返済期間で借りたら年200万円の返済。とてもじゃないが利益から200万円は返せない」となるパターンです。

200万円はたしかに大きな金額ですが、1000万円を運転資金として借りた場合、200万円は借りた1000万円の中から支払えばよいだけで、何も200万円丸々事業で得た利益から返さなくてはいけないわけではないのです。

仮に、1000万円を年利3%、返済期間7年、元利均等方式で借りた場合のシミュレーションをしてみます。

ご覧のように、毎年の元本部分の返済は130万~160万円の間で収まっていて、それプラス利息が初年度で年間28万円、最終年度は25000円程度の利息です。

もしこの借入の返済に詰まってしまうとしたら

  • 赤字を埋めるために借入れた運転資金を使ってしまった
  • 取引先の売掛が焦げ付いて回収不能になった

などの、入ってくるお金がマイナスになったときです。

通常運転の場合は、利息と元本の支払いでも、何ら支障のない返済額であることは、ご理解いただけるでしょう。

銀行は借りたいときに貸してくれるわけではない

それに、お金を返すのは簡単ですが、借りるのはその100倍も労力がかかります。

また、借りたいときに銀行が貸してくれるも限りません。

もし、あてにしていた融資を断れたとしたら、一気に資金繰りに窮することになります。

たとえば運転資金で考えてみます。

必要な運転資金の計算は

・売掛債権+棚卸資産-買掛債務

で求められます。

仮に

  • 売掛債務:1000万
  • 棚卸資産:400万
  • 買掛債務:800万

なら

1000万+400万-800万=600万円

が必要な運転資金になります。

通常、商売は、販売代金の回収より仕入代金の支払いが先にきます(現金商売は別)。

つまり、仕入代金の支払いから販売代金の回収までの期間に必要な代金が、上記の計算で求めた運転資金額なのです。

上記のケースなら、手持ち資金が300万しかなければ、あと300万円用意しないと、資金繰りに詰まることになります。

このとき銀行が貸してくれなければ、会社は倒産のピンチになります。

このような火急の状態を避けるために、会社の現金残高は売上の2カ月分は持っておきましょういといわれるわけです。

年間1億円の売上の会社なら、約1700万円はキャッシュを持っておきたい計算です。

しかし、「そんなに現金を用意できるわけないだろう(切れ気味)」といわれるのなら、借りれるうちに銀行から借りておいて、緊急のときに慌てない財務基盤を整えておくのが賢明でしょう、という話です。

【決定版】銀行から運転資金を借りる方法を徹底解説

借金の目安はどれくらい?

とはいえ、「いくらでも借金をしてもよい」というわけではありません。

借金が多くなりすぎると、当然ながら企業の支払い余力を超えることになります。

その結果、借入の資金調達コストは上がっていきます。

銀行からノンバンク、まかり間違えばノンバンクから闇金業者へと、借入金利はどんどん高くなります。

つまり、借入にも一定水準があり、それを超えない範囲で借入をとどめておかないといけないということです。

この水準のレベルは企業によってそれぞれですが、銀行の新規融資の条件が一つの目安になります。

その目安とは

  • 借入が総資本の60%程度
  • 融資残高が平均月商の6ヶ月程度
  • 債務償還年数が10年程度

です。

上記範囲を借入れが超えるようであれば、資金調達コストはそこから上がっていくことになります。

その場合は借入を増やすことより、圧縮していく方向にいかなければいけません。

銀行融資はいくらまで?借入れ限度額を算出する4つの方法

まとめ

借金しないことには越したことはない、誰しも本音はそう思っているかもしれません。

もし、返済できなければ、そう考えると不安が大きくなります。

しかし、あえていうなら、無借金経営にもデメリットがあり、それは利益を得られる機会損失であり、融資の実効性への危険です。

得られたはずの売上を逃すリスク

投資しないことで将来の成長性をふさぐリスク

借りたいときに借りられないリスク

が無借金経営には潜んでいます。

けっして借金を推奨しているわけではありませんが、経営者ならあえて「借金経営のススメ」を考慮してみる必要があります。

そのうえで、借金すべきか借金しないべきかを天秤にかけてみるべきです。

少なくとも、借金=悪と決めつけるのは、自分の手足を縛るバカバカしい行為です。

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