資金力の少ない中小企業は、粗利の確保こそが生命線を握ります。
安易な安売りで売上高を確保しても、粗利が低くなれば、それは崖に向かって突っ走っているのと同じです。
数年先には、資金繰りに苦しむことになるでしょう。
右肩上がりの売上成長が期待できない昨今、粗利の維持・拡大こそが、新たな生き残り戦略です。
会社の儲けとは?
そもそも会社の儲けとは何でしょう?
それは、「仕入れ→製造→販売」した後に手元に残るキャッシュです。
そのキャッシュの元なるのが、利益です。
その利益にも、損益計算書からもわかるように、5段階の利益があります。
ここではあえて下から順番に説明していきます。
- 税引き後当期純利益:法人税を支払った後に残る純粋な利益
- 税引き前当期利益:経常利益から特別損益を引いた税引き前の利益。
- 経常利益:営業利益から営業外損益を引いた利益
- 営業利益:売上総利益から販売にかかわる経費や一般管理費を引いた利益
- 売上総利益:売上高から原価を引いた利益
「粗利」と呼ばれるものは、売上高から原価を引いた「売上総利益」のことです。
このように、最終的に手元に残るキャッシュの大元となるのが粗利です。
逆にいえば、粗利の段階で赤字なら、営業利益も、経常利益も、当期純利益も残らないということです(原価割れで販売するなんてよっぽで、これは極例ですが)。
粗利が少なければ、資金繰りに行き詰るのは、その構造から考えれば良くわかります。
経費や人件費、借金の利息、儲かっていれば法人税の出どころは、全部粗利の中にあるからです。
売上の構造を「正しく」掴むにはMQ会計
ではここで、売上の構造についてあらためて考えてみましょう。
なぜならそれが、儲けとなる粗利がどう生み出されるのかを理解するのに一番早いからです。
そこで使うのは、「MQ会計」です。
MQ会計を詳しく知りたいなら、こちらの記事をお読みください
売上を分解すると次のような構造になります。
P:価格
V:原価
M:利益
Q:数量
PQ:売上高(P×Q)
VQ:売上原価(V×Q)
MQ:粗利益総額(M×Q)
売上高とは、価格×数量(P×Q=PQ)で求められます。
売上原価とは、原価×数量(V×Q=VQ)です。
粗利総額とは、利益×数量(M×Q=MQ)で算出します。
このMQ会計で売上構造を分解すれば、何が増減するかによって、粗利の額が変わることが理解できます。
そして、ここでポイントになるのは、売上原価です。
売上原価とは、販売した「数量」に比例するものです。
仕入れたのに売れなかった商品の金額は、含まないことに注意してください。
では、売上原価の事例で解説していきます。
ここではあえて固定費は除外して算出します。
粗利と売上げ原価のシミュレーション
売上原価と粗利の事例1
価格10000円の時計を4000円で仕入れて、1年間で50個販売しました。
このときの売上原価は
4000円×50個=200000円
です。
そして粗利総額は、
500000円-200000円=300000円
になります。
売上原価と粗利の事例2
では、上記のケースで。50個仕入れて40個売れた場合はどうなるかみてみましょう。
最初に断っておきますが
売上高:10000円×40個=400000円
売上原価:4000円×50個=200000円
粗利総額:400000円-20000円=200000円
と考えるのは間違いです。
正解は
売上高:10000円×40個=400000円
売上原価:4000円×40個=160000円
粗利総額:400000円-160000円=240000円
と考えるのが正しいです。
売上原価とは、売れた「数量」に比例するものだということを思い出してください。
売れた数量が40個なので、売上原価も16万円になります。
売上原価と粗利の事例3
最後に、この販売店は去年売れ残った時計が10個ありました。
つまり、期首に10個の在庫です。
そして期中に50個仕入れて販売し、期末には30個売れ残りが出ました。
このときの販売数量は
でも求めることができます。
ですから、この時計販売店の1年間の販売数は
となります。
よって売上高と売上原価と粗利総額は
売上高:10000円×30個=300000円
売上原価:4000円×30個=120000円
粗利総額:300000円-120000円=180000円
となります。
変動比率の間違い
ちなみに、売上原価を算出する場合、売上高から売上原価何%と掛けて求めないようにしましょう。
必ず、売れた「数量」に原価を掛けて求めるようにしてください。
なぜなら、売上原価とは売れた「数量」に比例するものであって、売上に比例するものではないからです。
たとえば売上が1割ダウンした場合を考えてみてください。
上記の例から
価格:10000円
原価:4000円
数量:50個
の場合、売上原価は200000円になります。
これが売上が1割減ったとすると、売上原価40%で考えてしまうと
450000円×40%=180000円
となってしまいます。
でもこれは間違いです。
何度もいいますが、売上原価(変動費)は、売れた「数量」に比例するものです。
ですから、実際は
売上高:9000円×50個=450000円
売上原価:4000円×50個=200000円
粗利総額:450000円-20000円=250000円
が正解です。
もし、売上原価を「売上高×変動比率」で考えていたなら
損益分岐点は
となり、実際の分岐点の
・200000円÷(1-45%)=363636円
※45%=200000円÷450000円
より低く見積もってしまいます。
本当は36万以上売らないと赤字なのに、30万でトントンという間違いをして、赤字に転落してしまいます。
これで、正確な経営判断ができるでしょうか?
粗利の高い会社と低い会社のシミュレーション
では次に、粗利が経営にどう影響するかをシミュレーションしてみます。
結論からいってしまえば、粗利の高い会社は売上が下がっても、耐えることができます。
それに対し粗利の低い会社は、売上が下がるとその影響をまともに受けます。
実際にシミュレーションしてみます。
次のようなワイン販売会社がありました。
売上高:1000万円(価格2万円×数量500本)
売上原価:400万円(仕入8000円×500本)
粗利総額:600万円(1000万円-400万円)
固定費:200万円
支払利息:10万円
年間借入返済額:100万円
※各シミュレーションの法人税は、実効税率21.4%で計算
この会社が順風満帆、現状のままビジネスを続けていけば、5年後の手元キャッシュは約1033万円まで増えます。
粗利が高い会社の場合
では、この会社が毎年価格を1割引きで販売し、売上を毎年1割ずつ落とした場合をシミュレーションしてみます(もちろん、こんなバカな売り方をする会社はありませんが、粗利の影響をわかりやすくするためです)。
5年後には赤字になりますが、手元キャッシュは約245万円残ります。
粗利が低い会社の場合
しかし、粗利が40%の低い会社ならどうなるでしょう?
売上高:1000万円(価格2万円×数量500本)
売上原価:600万円(仕入12000円×500本)
粗利総額:400万円(1000万円-600万円)
このワイン販売会社が同じように、毎年1割ずつ売り上げを減らしていけば(価格を1割ずつ安くして販売)
3年目には赤字に突入、手元キャッシュも同じく3年目にはなくなり、後は雪だるま式に借金が増えていき、5年目には約マイナス610万円にもなります。
とてもじゃございませんが、5年後は生き残ってないでしょう。
※繰り返しますが、こんなバカな売り方をする会社はありませんが、あくまでシミュレーションを分かりやすくするためです。
このように、粗利の低い会社と高い会社では、会社の体力が違ってきます。
粗利が高ければ、少々の売上減にも耐えられますが、粗利が低ければ、1割の売上減でもすぐに響いてきます。
ちなみに、粗利が40%の会社が、2年目以降1割の売上減のまま5年目まで進んだ場合のシミュレーションは以下の通りです。
赤字にはなりませんが、手元キャッシュはどんどん目減りし、5年目には32万円しか残りません。
6年目には手元キャッシュは赤字になります。
このように資金量のない会社は、絶対に粗利を下げてはいけないのです。
個別の商品・サービスで下げても、売上げ全体では粗利を確保しないといけないです。
粗利を下げた途端、地獄の窯が口を開いて待っています。
利益アップには売上アップより客単価アップ
売上げよりも「利益」が大事なのはここまで説明してきた通りです。
売上げがアップしても利益が薄ければ、支払いがカツカツで手元にお金が残りません。
そうなると、すぐに資金繰りが行き詰りお金の算段に苦労することになります。
だから利益を多く残す販売方法は大事です。
それには客単価アップがおススメです。
実は「客単価5%アップできれば33%利益が増額する」ということをご存知でしょうか?。
客単価5%アップは、5%しか儲けが増えないとはわけが違うことを認識しましょう。
簡単な例で解説します。
客単価アップの驚くべき効果
売上アップと客単価アップ、どちらが利益を多く残せるでしょう?
100万の売上げで、85%が売上原価と仮定して計算すると、利益は15万円(100万-85万円)です。
この売上高100万円を5%単価アップすれば、105万円の売上です。
この場合、客単価をアップするだけですので、新規集客用の広告費も掛かりませんし、人件費も掛かりません。
ですので、売上原価自体も85万円のまま。
すると、105万-85万=20万円の利益です。
よって、20万÷15万で33%の利益アップとなるわけです。
逆に、売上アップで利益を20万稼ごうと思えば、134万の売上が必要です(134万-(134万×85%)=20万円)。
売上ベースで考えるなら、同じ20万の利益を稼ぐのにも34%の売上アップが必要ということになります。
5%の客単価アップと34%の売上アップ、どちらが簡単でしょうか?
いわずもがな5%の客単価アップです。
つまり、利益拡大のためには、売上アップよりも客単価アップをすることの方が先決なのです。
これによりお店や会社のキャッシュが改善されます。
儲かったお金で新規集客すれば、理想のサイクルに入れます。
新規集客も大事ですが、むしろそれよりも客単価アップが取組むべき施策です。
売上が減っても利益を確保するには?
少子高齢化の進む日本では、右肩上がりの売上アップは期待できません。
だからこそ、売上げを減らしても資金を確保する方法を知っておくべきです。
ではその方法とはどんなものでしょう?
それは、儲からない得意先を思い切ってカットし、儲かる得意先により多く購入いただくことで、粗利を改善する方法です。
儲からない得意先とは、
- 利益が薄いところ
- 支払いサイトが長いところ
です。
売上げが多くても利益が薄いなら、限界利益から固定費(経費)を引いて、赤字になってないか冷静に分析してみて下さい。
よくよく考えていただきたいのですが、赤字になっていたら、相手のために借金しながら資金を回しているだけです。
支払いサイトが長いのも同じです。
あなたが相手のために、3ヶ月も6ヶ月も利息を払って、資金を寝かせてあげているようなものです。
これって、本当にお客様でしょうか?
お客様が神様という発想なら、こんな横暴も許さなくてはいけないかもしれませんが、相手はあなたと同じ人間です。
そんな人に、商品・サービスを購入してくれたという理由だけで、利息や借金の肩代わりまでして差し上げなくても良いでしょう。
そもそも何ゆえ、相手はあなたに、低単価、長期の支払いスパンと鬼のような条件を求めてくるのでしょうか?
それは、自社の資金繰りを良くするためです。
その相手の都合を優先しすぎて、自分のところが苦しくなるなら、何の意味があるのでしょう。
売上げが減るのは怖いことですが、それよりも利益がなくなることをよっぽど真剣に考えなくてはいけません。
会社・お店の存続は、資金があるかどうかにかかってきます。
資金の出所は、いわずもがな利益です。
その利益を喰いつぶす得意先が、お客様面するだなんてちゃんちゃらおかしいでしょう。
お客様の選別は、売上げでなく利益で考えなくてはいけません。
まとめ
粗利の確保といっても、販売の現場でそれを保つのはむずかしいでしょう。
実際に値引き要求のプレッシャーもありますし、高いと売れないという現実もあります。
しかし、粗利こそが会社の体力の源泉であることは、上記のシミュレーションからも明らかです。
値引きで販売するなら、数をさばいて粗利を確保するなどの対抗措置が必要です。
個別で粗利の確保がむずかしい場合は、売り上げ全体で粗利を確保できる販売計画をしなくてはいけません。
値段を安くすれば、たしかに売りやすくなるでしょう。
ですが、安易に粗利を減らしてしまうと、その後に、それ以上の苦しみが待っていることを忘れないでください。
中小企業が生き残るには、粗利の確保が基本戦略です。
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