「最適な役員報酬とは一体いくらなのか?」
あなたが社長(オーナー経営者)なら、一度はそんな悩みを持ったことがあるかもしれません。
とどのつまり、この疑問の知りたいことは、「会社と個人を合わせて一番税負担が少なくなるのはいくらか?」ということです。
逆にいえば、会社と社長個人と合わせて、最も手元にお金が残る役員報酬はいくらなのかともいえます。
この記事では、最適な役員報酬を導き出す方法を解説していきます。
社長の最適な役員報酬の決め方
では、手元キャッシュを最大化するための社長の役員報酬の考え方を解説します。
考え方は簡単です。
役員報酬控除前の会社に残る利益があります。
法人税の実効税率は、資本金が1億円以下の場合で下記の表のとおりです。※2020年2月現在

これに対し個人の所得は、所得税・住民税、社会保険料がかかります(社会保険料は控除の対象なので、所得税を減らす効果があります)。
要は役員報酬控除前の利益を、会社と個人で振り分けて、どちらが手元キャッシュが増えるかということです。

これが基本の形です。
以上を踏まえて、最適な役員報酬を求めます。
- 社長の家族構成、必要な生活費や貯金額を算出します。
- 1の報酬額の所得税額を求めます。他のパターンもいくつかシミュレーションしておきます。
- 翌期の予想の役員報酬控除前の利益を出します。
- 役員報酬控除前の金額から、1で算定した役員報酬を引いた金額を出します。その他のパターンも同じように引いておきます。
- 4の金額と、法人税の実効税率表から、それぞれの法人税額を求めます。
- 2と5の対応する金額のうち、一番小さい金額(の付近)が、当期の最適役員報酬です。
たとえば、役員報酬控除前の利益が2000万円。それを役員報酬、1000万円、1500万円、1800万円の3パターンで受取った場合のシミュレーションをしてみます。※35歳独身。基礎控除のみでシミュレーション。
シミュレーション結果は以下の通りです。

ご覧の表のように、役員報酬を1500万円、会社に残すお金を500万円に設定するのが、一番手元キャッシュを最大化することができるとわかります。
お金は会社に残すべき?それとも個人に残すべき?
ここであらためて、社長にお金を残すべきか、会社にお金を残すべきか考えてみましょう。
会社にお金を残すケース
会社の財務体質を強いものにしたい場合は、あえて法人税を納めて会社にお金を残した方が、自己資本が貯まって財務体質は良くなります。
また、今後設備投資を考えている場合も、ある程度会社にお金を残しておく必要があります。
ただし、会社に残したお金は「基本会社のことにしか使えない」という制限があります。
もし、役員報酬を少なく設定して、生活費が足りなくなったときは、会社から借りることになります。
この会社から借りたお金を「役員貸付金」といいます。
この役員貸付金が決算書に計上されると、融資の審査で問題になり、いざというとき銀行から資金調達できない可能性があります。
役員貸付金は、会社にとっては資産であるものの、実質返ってこないお金とみなされて、マイナス評価されてしまうこともあります(つまり、自己資本の減少)。
さらに、社長個人に対して、
- お金にルーズ、経営者の資質に欠ける社長。
- 万が一融資しても、そのお金を社長が横流ししてしまうのではないか?
と考えます。
ですから役員貸付金があると、融資を受ける際、非常に不利に働きます。
役員報酬額も会社の防衛戦略の一環であることを考えれば、融資に支障を来たす給与額では意味がないでしょう。
ですので、会社に残す比率を多くするなら、会社からお金を引き出さなくてよい額を役員報酬に設定するべきです。
個人にお金を残すケース
次に、社長個人にお金を残すケースを考えてみます。
会社に残したお金と、社長個人のお金の最大の違いは、「自由に使えるお金かどうか」にあります。
先ほど説明したように、会社のお金は「基本会社のため」という制限があり、個人で勝手に使うことはできません。
それに対し、社長が役員報酬で受取ったお金は、自由に使えるお金です。
プライベートも良し、また、会社が資金ショートを起こしそうなときにも、補てん目的のお金として使えます。
この補てんは、社長から会社への貸付となるわけですが、これを「役員借入金」と呼びます。
役員借入金は、返済期日もなく、督促もないお金で、実質「資本金」と変わりません。
ですから、決算書上に「役員借入金」が計上されても、金融機関はこれを問題としないのです。
※ただし、代表者が返済を要求しないと明らかなとき。したがって、貸借対照表上では、役員借入金は1年以内に返済予定のない「長期借入」に計上する必要があります。1年以内に返済予定の「流動負債」に計上すると、資本金にみなされない可能性が出てきます。
このように、同じキャッシュでも、会社にあるお金と個人では使い方の自由度が違うのです。
会社の利益の規模にもよりますが、これが会社にお金を残すか個人に残すかの、一つの基準になります。
役員借入金は、役員貸付金と違ってすぐに問題となるお金ではありませんが、それだけに税務署から「贈与」を疑われない対策が必要です。
会社との貸し借りだからとなあなあにせず、会社と社長で金銭消費貸借契約書をきちんと交わしておきましょう。
「経営」という視点で役員報酬が最適かを考える
役員報酬が最適かどうかを経営視点で観るなら、ROA(総資本利益率)で計算してみます。
ROAとは、そのビジネスに投下されている資産で、どれだけの利益を獲得したかを示す指標です。
また、ビジネスの効率性と収益性を同時に示す指標でもあります。
つまり、設定した役員報酬額で、ビジネスの収益性と効率性がどうなるかを計算してみるのです。
ROAの計算式は
・営業利益÷総資本
で求められます。※営業利益は、損益計算書の営業利益ですが、経常利益を使っても問題ないです。
ROAは一般的に、5%以上で優良企業といわれています。
この数値をそのまま当てはめるわけにはいきませんが、ROAがあまりにも低ければ、経営という視点で観れば、役員報酬をもらい過ぎともいえます。
一つの考え方ですので、参考にしてみて下さい。
社長の役員報酬を決めるルール
社長の役員報酬を変更するときは(社長に限らず、その他の役員もです)、いくつかの守らなくてはいけないルールがあります。
損金に認められる役員報酬の3つの種類
役員報酬は支払う人の意思によって、恣意的に金額を調整できますので、ややもすれば利益調整や租税回避に利用されてしまいかねません。
そこで、次の3つの規定を作って、役員報酬を損金にできる範囲を制限しています。
下記の3つ以外の方法で役員へ給与を支払っても、損金に計上することはできません。
・No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
1.定期同額給与
定期同額給与とは、
- 支給時期が1カ月以下の一定の期間ごと
- その事業年度の各支給時期における支給額が同額
である給与のことです。
たとえば3月に決算のある会社では、4月から翌年3月までの「毎月」「定期的」に「一定額」支払われる給与のことをいいます。
役員報酬月額が100万円なら、毎月20日が給料日のように、毎月、定期的に決まった額が支払われると、その金額は損金に計上することができます。
1年間、役員報酬を「一定額」にするには、期のはじめに役員報酬額を決めなくてはいけません。
具体的には、役員報酬の変更は期首(事業年度開始)から3か月以内にする必要があります。
役員報酬の変更は、後で説明するように、主に株主総会で決議されます。
たとえば、毎年4月1日から翌年3月31日までを1事業年度としている場合には、6月30日までに株主総会を開いて、役員報酬の変更を決めなくてはいけません。
つまり、「定期同額給与」と「期首から3か月以内に株主総会で決めた額」という2つの条件を満たすことで、損金にできるというわけです。
2.事前確定届け出給与
「事前確定届出給与」とは、「いつ、いくら」所定の金額を支払うかについて、あらかじめ所轄税務署に届け出ることによって、損金に認められるという制度です。
届出の期限は以下の通りです。
- 株主総会等の決議の日から1か月を経過する日
- 会計期間開始日から4か月を経過する日
- 設立事業年度の場合は、その設立の日以後2か月を経過する日
事前に決められた支給額であれば、利益調整に利用することはできませんので、「事前確定届出給与」については、損金として認めてくれるというわけです。
また、事前確定届出給与は定期同額給与と組み合わせて利用することもできます。例えば、役員賞与を設定する場合などに活用されます。
ただし「事前確定届出給与」は、届け出た「支給日」「支給金額」がズレていると、全額損金算入できなくなることに注意しなくてはいけません。
たとえば、12月20日に100万円支給すると届け出た場合、110万円支払うと、110万円全額が損金にできません。
反対に、減額して90万円支給しても、同じく90万円全額が損金にできなくなります。
ちなみに、「事前確定届け出給与」を利用した社会保険料削減スキームもあります。
詳しくは下記リンク先の記事をご覧ください↓
3.業績連動給与
業績連動給与とは、会社またはその会社と支配関係にある会社の業績に、役員の給与額を連動させる制度のことです。
ただし、9割の中小企業は同族会社になりますので、この制度にはほぼ関係ないです。
役員報酬の決め方の手順と手続き
役員報酬は、会社法で「定款または株主総会の決議によって定める」となっています。
定款で決める場合
定款に役員報酬に関する取り決めを盛り込んでおきます。
定款では、全取締役の役員報酬総額の最高限度額を決めてしまいます。
メリットとして、最高限度額以内であれば、取締役会決議により、各人の報酬額を決められます。
その反面、最高限度額を変更する場合は、定款の変更が必要になり、株主総会の特別決議が必要になります。
実際は、定款に役員報酬が規定されることはまれで、ほとんどは株主総会の決議によって定められます。
株主総会で決める場合
会社法361条では、取締役の報酬は、定款で定めていないときは、株主総会の決議によって定めるとされています。
具体的には、
- 報酬等のうち額が確定しているものはその額、
- 報酬等のうち額が確定していないものについては具体的な算定方
- 報酬等のうち金銭でないものについては具体的な内容
を株主総会で決めることになります。
定時株主総会は、通常決算期末から3か月以内に開かれ、そこで、
- 取締役報酬
- 監査役報酬
が、定款または株主総会で、それぞれの報酬の枠を決定し、その範囲内で支給をすることになります
役員報酬額の変更は、役員報酬の変更議案を株主総会に提出し、普通決議で可決すればできます。
株主総会での役員報酬の決定・変更の方法は、下記リンク先の記事をご覧ください↓
レアなケースですが、株主総会で決めた額を超えた役員報酬を支給して否認された事例があります↓
上記リンク先の記事を反面教師にして、株主総会や定款で定めた金額を超えるようなミスは絶対しないようにしましょう。
一人会社の場合
一人会社の場合、取締役会は存在しませんので、自動的に株主総会で役員の報酬を決めることになります。
ですが、一人会社の社長は取締役であり、同時に大株主になります。
社長が提出した議案が否決されることはまずあり得ません。
つまり、社長本人が適正だと考えた報酬を議案として提出し、社長自身が承認する形になります。
注意点:議事録は必ず残す
一人会社でも、通常の会社の場合でも、税務署対策として、株主総会議事録は必ず残すようにします。
株主総会議事録には
- 開催日時
- 会場
- 出席者
- 総発行株式総数
- 誰の役員報酬をいくらに変更することになったか
- 出席者の署名・捺印
を明記します。
なお合同会社の場合は「同意書」という形で、変更内容を記載した書類を用意します。
この場合も出席者の署名・捺印は必要です。
とくに一人会社の場合、株主総会は、形式的なものになるでしょう。
ですが、税務調査など、役員報酬変更の経緯について、第三者に説明することが必要になることがあります。
そのとき、株主総会議事録または同意書がない場合、税務調査に対して変更内容の証明ができないのです。
そうすると、税務署は損金算入を認めるわけにはいかなくなるため、追徴課税をせざるを得なくなります。
ですから、きちんと株主総会議事録を残しておきましょう。
【注意】
役員報酬の支給は、
- 役員報酬についての定款の定め
- または株主総会の決議
があって、はじめて取締役に報酬請求権が発生することを忘れないにようにしましょう。
これらがない場合には、取締役は会社に対して役員報酬を請求することはできません。
会社と役員との間で委任契約を締結しても同じです。
ただし、役員報酬を支給することについて株主全員の同意があるときには、例外的に報酬請求権が発生するとされています。
また、株主総会の決議がされないまま役員報酬が支払われたとしても、事後に株主総会で決議されたときは、その役員報酬は遡って有効とされます。
役員報酬が高すぎると「不相当に高い部分」が損金不算入
役員報酬は高く設定し過ぎてしまうと、「不相当に高い部分」は損金(経費)になりません。
高い部分の給料は、法人税と個人の所得税・住民税で2重に取られることになります。
法人税法では
役員に支給した給与の額が、その役員の職務の内容、その法人の収益及び使用人に対する給与の支給状況、類似法人の役員に対する給与の支給状況等から見て、その役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合には、その超える部分の金額は過大な役員給与として損金の額に算入されない。
と規定されています。
高すぎる金額は、株主配当と同じような利益処分としての、「賞与に該当する」として会社の損金として認めていないのです。
下記リンク先の記事は、役員報酬が「不相当に高額な部分がある」と否認された事例です↓
どのようなケースが「不相当に高額」となるか参考になる部分がありますので、ぜひご覧ください。
反対に下記リンク先の記事は、税務調査で「不相当に高額」と否認されながらも、その後の裁判で「適正範囲」と認められた事例です↓
裁判で認められたのは、その役員報酬額にするのに、「合理的な理由」があったからです。
第三者が納得できる理由があれば、最終的には認められます。
役員報酬が高いかどうかの判定基準
役員報酬が高いかどうかの判断は、「実質基準」と「形式基準」の2通りの基準によってなされます。
実質基準とは、役員に支給した給与の額が、
- 役員の職務の内容
- 会社の収益状況
- 使用人に対する給与の支給状況
- 業種と事業規模が類似の会社が支給している役員給与の額
からみて、妥当かどうか判断されます。
これに対し「形式基準」とは、定款の規定や株主総会などの決議によって定められた、「給与の額として支給できる限度額」を基準にします。
この基準に比べて、役員報酬が妥当か判定されます。
ただし、「形式基準」の場合は、
- 定款の規定
- 株主総会の決議
のいずれかがなければ支給することも損金算入もできない点に注意が必要です。
また、株主総会で役員報酬の上限額を決議する際は、上限額に余裕を持たせるようにしておきます。
万が一、役員の増員などで総額が上限を超えてしまいそうなときは、必ず上限額の引き上げを行うようにしておきましょう。
役員給与を決める定時株主総会や、取締役会における決議は、役員報酬額の基準となりますので、きちんと議事録を作成しておく必要があります。
税務署対策には、証拠が何より大切です。
下記リンク先の記事は、形式基準では大丈夫でしたが、実質基準で否認された事例です↓
とくに、「業種と事業規模が類似の会社が支給している役員給与の額」と比較されてしまうと、反論が難しくなります。
【重要】「実態」を伴っていることが大事
ルール上の形式的基準・実質的基準を整えておくことも大事ですが、税務上は「実態」で判定される、ということを忘れないようにしましょう。
良くある例が、名義だけの役員です。
たとえ種類上は常勤役員であったとしても、
- 出勤をしてない
- 業務に携わってない
といった「実態」が伴っていなければ、税務調査で指摘されると否認される可能性が高くなります。
反対に、書類上は「非常勤役員」とされていても、実態が伴っていれば「常勤役員」と判定されることもあるのです。
下記リンク先の事例では、当初国税から「常勤役員」を「非常勤役員」と否認されましたが、国税不服審判所の裁決で、その判定が覆りました。
すなわち、非常勤役員ではなく、「常勤役員」と認められたのです↓
その理由は、「勤務実態が常勤役員と同等だった」からでした。
税務上の判定は、「実態」でみられることを忘れないでおきましょう。
金銭以外のものでもらう場合
金銭以外で役員が受け取るものでも、「経済的利益」に当たるときは、給与として扱われることがあります。
法人税基本通達9-2-9で、以下の12項目が規定されています。
(1) 役員等に対して物品その他の資産を贈与した場合におけるその資産の価額に相当する金額
(2) 役員等に対して所有資産を低い価額で譲渡した場合におけるその資産の価額と譲渡価額との差額に相当する金額
(3) 役員等から高い価額で資産を買い入れた場合におけるその資産の価額と買入価額との差額に相当する金額
(4) 役員等に対して有する債権を放棄し又は免除した場合(貸倒れに該当する場合を除く。)におけるその放棄し又は免除した債権の額に相当する金額
(5) 役員等から債務を無償で引き受けた場合におけるその引き受けた債務の額に相当する金額
(6) 役員等に対してその居住の用に供する土地又は家屋を無償又は低い価額で提供した場合における通常取得すべき賃貸料の額と実際徴収した賃貸料の額との差額に相当する金額
(7) 役員等に対して金銭を無償又は通常の利率よりも低い利率で貸し付けた場合における通常取得すべき利率により計算した利息の額と実際徴収した利息の額との差額に相当する金額
(8) 役員等に対して無償又は低い対価で(6)及び(7)に掲げるもの以外の用役の提供をした場合における通常その用役の対価として収入すべき金額と実際に収入した対価の額との差額に相当する金額
(9) 役員等に対して機密費、接待費、交際費、旅費等の名義で支給したもののうち、その法人の業務のために使用したことが明らかでないもの
(10) 役員等のために個人的費用を負担した場合におけるその費用の額に相当する金額
(11) 役員等が社交団体等の会員となるため又は会員となっているために要する当該社交団体の入会金、経常会費その他当該社交団体の運営のために要する費用で当該役員等の負担すべきものを法人が負担した場合におけるその負担した費用の額に相当する金額
(12) 法人が役員等を被保険者及び保険金受取人とする生命保険契約を締結してその保険料の額の全部又は一部を負担した場合におけるその負担した保険料の額に相当する金額
引用:法人税基本通達9-2-9
仮に時価を大きく下回る金額で売買すると、
- 臨時的な経済的益→役員賞与
- 定期的な経済的利益→役員給与
になることがあります。
役員給与の場合は損金にできますが、役員賞与に認定されると、法人では損金になら、個人では所得税が課税され、いわゆる往復ビンタをくらうことになります。
役員に対して継続的に供与される経済的利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるものは定期同額給与に該当し、損金の額に算入されますが、その他のものは定額同額給与に該当せず、損金の額に算入されません。
No.5202 役員に対する経済的利益
法人との適正な価格でのやり取りはもちろん、何が経済的利益に当たるのか理解しておくことは重要です。
経済的利益が「役員賞与」になる場合
たとえば、社長個人の資産を、安い価格で法人に売ると、時価との差額について「法人が利益を受けた」とされ、法人税の課税対象になります。
逆に法人から社長個人へ安く売った場合も、「役員賞与を支払った」とみなされ、個人に所得税の負担が発生します。
会社から役員への「経済的利益」が「役員賞与」になるパターンは下記リンク先記事をご覧ください↓
もし税務調査で「役員賞与」と指摘された場合でも、すぐにあきらめてはいけません。
実は交渉の余地があります。
具体的には「役員貸付金」で処理できないか交渉することです。
役員貸付金もキツい縛りを受けますが、社長個人への所得税課税を避けることができ、往復ビンタのダメージだけは回避できます。
「役員賞与」と指摘されたときの回避方法の詳しい解説は下記リンク先をご覧ください↓
経済的利益が「役員給与」になる場合
役員に対する経済的利益のうち、供与される利益の額が「毎月おおむね一定であるもの」は定期同額給与に該当し、役員給与になります。
具体的には、 先に挙げた法人税基本通達9-2-9の中で下記に当たる経済的利益になります。
(1) 9-2-9の(1)、(2)又は(8)に掲げる金額でその額が毎月おおむね一定しているもの
(2) 9-2-9の(6)又は(7)に掲げる金額(その額が毎月著しく変動するものを除く。)
(3) 9-2-9の(9)に掲げる金額で毎月定額により支給される渡切交際費に係るもの
(4) 9-2-9の(10)に掲げる金額で毎月負担する住宅の光熱費、家事使用人給料等(その額が毎月著しく変動するものを除く。)
(5) 9-2-9の(11)及び(12)に掲げる金額で経常的に負担するもの
(継続的に供与される経済的利益の意義)
法人から受け取る経済的利益で役員給与になる代表的なものは「生命保険料」です。
簡単にいうと、法人契約の生命保険で、死亡保険受取人が「役員の家族」や「従業員の家族」になっているものがそれに当たります。
ただし、生命保険料が給与課税されるパターンは、誤解されている場合があります。
たとえば年払いで保険料を支払ったとき、「役員賞与」と間違った指摘をされるパターンです。
たとえ年払いであっても、給与課税される生命保険料は「役員給与」となります。
余計な課税をされないためには、正しい知識を身につけておくことが大事です。
給与課税される生命保険料の詳しい解説は下記リンク先記事をご覧ください↓
金銭のやり取りがないからといって、給与課税されないということではないので、気をつけましょう。
役員報酬は期の途中で変更できない
ちなみに、役員報酬には
- 毎月同額を支給すること
- 役員報酬は、その期のはじめから3カ月以内に決定すること
というルールがあります。
毎月の報酬額を好きなように変更できてしまうと、その期の終わりに簡単に利益調整できてしまうので、このような2つのルールが存在します。
役員報酬の変更のルール
役員報酬は一定のルールを満たさないと、「会社の経費にならない」と法人税法で決まっています。
- 定期同額給与:事業年度開始の日から3か月以内に役員報酬を確定しなくてはいけない。
- 事前確定届出給与:株主総会から1か月以内に税務署へ届出る必要がある。
- 利益連動型給与:同族会社以外で一定の要件を満たした場合のみ。
なぜこのような規定があるかというと、期の途中で役員報酬の変更を許してしまうと、簡単に利益調整ができてしまうからです。
大きな利益が出そうなら、期末に役員報酬を増大すれば、法人税から逃れられてしまいます。
それを避けるためにも、基本、期の途中で役員報酬の変更は認めないことになっています。
役員報酬を変更する場合の手続き
とはいえ、事業開始から3カ月以降でも、条件によっては役員報酬の額を変更することはできます。
会社の状況だって一定ではありません。
大きな変動(取引先の倒産など)があれば、やむを得ず役員報酬を変更しなくてはいけないときもあります。
増額する場合
役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更、その他これに類するやむを得ない事情等により、役員報酬を改定することは認めています。
たとえば、現社長が退任し、平取締役が社長に抜擢された場合、大幅な地位向上があったと認められ、その際は役員報酬を変更しても良いということです。
役員報酬を上限までめい一杯上げたいときは、下記リンク先記事がお役に立ちます↓
減額する場合
役員報酬を減額する場合もルールがあります。
それは
「経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じた」
場合と、国税庁では定めています。
ただし注意しなくてはいけないのは
- 経営状況の悪化
- 第三者である利害関係者との関係性
の2点です。
もし、経営状態がひどく悪くなったとしても、株主や債権者などとの関係に問題が生じていなければ、例外として認めないとっています。
例外として認められるためには、下記のような要件を満たす必要があります。
①株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合
②取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の
額を減額せざるを得ない場合③業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維
持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給
与の額の減額が盛り込まれた場合
下記リンク先の記事は、業績悪化を理由に役員報酬を減額しましたが、損金計上を認めなかった事例です。
単なる業績悪化では、減額分を損金にはできませんので、注意しましょう。
また、役員報酬を減額する場合は、その本人となる役員の同意がない限り、会社は報酬額を変更することはできないことに注意しましょう。
役員報酬を下げる場合の手続きなどについて、詳しく知りたい方は下記リンク先記事をご覧ください↓
下記リンク先の記事は、役員報酬の「減額の仕方」を間違えた例です↓
いったん支給してしまった役員報酬は、株主総会や取締役会の決議を経ても減額できないので注意しましょう。
3カ月を過ぎて、役員報酬を増額・減額して認められなかった場合のペナルティは次の通りです。
3カ月ルールを守らなかったときのペナルティとは?
もし、3カ月ルールを守れなかったらどうなるでしょう。
ケース1:期首から3カ月経過後、株主総会で「役員報酬の増額改定の決議」が行われた場合
増額した分が法人税法上の経費(損金)として認められません。

ケース2:事業年度開始から3ヶ月経過後に支給額を減額した場合
逆に、役員報酬の支給額を減額した場合は、減額後の役員報酬がベースになり従来の役員報酬で超過している部分が経費(損金)に認められません。

役員報酬を未払い処理した場合
中小企業の場合、資金繰りの都合がつかず、役員報酬を未払いにすることがあります。
その際の対応については次の通りになります。
原則、源泉徴収は不要
役員報酬が未払いの場合、源泉徴収は原則、不要となります。
理由は、源泉徴収は「実際に支払っとき」に徴収することになるからです。
国税庁タックスアンサーより
役員や使用人に毎月支払われる給与等が、定められた支給日に支払われずに未払となる場合、源泉徴収は給与等を実際に支払う際に行いますので、原則として支払われるまでは源泉徴収は行われないこととなります。
ただし、年末調整が行われるときに役員報酬の未払いがあるときは、年間の給与総額に役員報酬の未払い分も含めて徴収額を計算しなくてはいけません。
税務調査で指摘されないためにあえて支払う
しかしこれはあくまで原則です。
役員報酬は、利益の調整弁に使われやすいという特徴があります。
そのため、年度末に一気に役員報酬の未払い金を支払ってしまうと、税務署から利益調整とみなされてしまう可能性があるのです。
そこで、アリバイ作りではございませんが、未払いであってもあえて源泉徴収を支払って、定期的に役員報酬が支払われた証拠にする場合もあるようです。
こんな税務調査対策も知っておくと役立ちます↓
役員報酬の未払いの場合の実務上の流れ
役員報酬の未払いは、実務の現場では、役員借入金として処理されます。
流れは次の通りです。
- 帳簿上でいったん役員報酬を支払ったことにする
- 役員から会社にお金を貸した形(役員借入金)にして処理する
- 支払うときは役員借入金から減らす
この流れで処理する場合、役員報酬を支払った形になっておりますので、源泉徴収を支払う必要があります。
役員報酬を決める際の3つの注意点
役員報酬を決めるときは、次の3つのことに注意しましょう。
原則、期の途中で役員報酬の額を変更できないだけに、最初の段階でリスクを予想しておくのは大事です。
役員報酬の注意点1:損益計画の予測が狂うと資金繰りに支障が出る
役員報酬は、その期のはじめから3カ月以内に決めなければならない、というルールがあります。
減額する場合は、役員の職務の内容に重大な変更があった場合、会社の経営状態が著しく悪化したなど、厳格なルールに基づいたものでなければなりません。
そのため、期首にある程度正確な、今期の損益を予測しなくてはいけません。
売上が好調なら、その分納める法人税が多くなり、場合によっては法人税を支払うために資金繰りが苦しくなることもあります。
逆に売上が下降したなら、利益が減った分、役員報酬が利益を圧迫(利益に対してもらい過ぎ)することになります。
1年間の業績を正確に予測することはむずかしいですが、当初立てた損益計画が狂うと、納税額に違いがでることは忘れないようにしておきましょう。
役員報酬の注意点2:役員報酬を少なくすると法人税が増える
役員報酬を少なくすると、その分会社の利益が増えるので、法人税は多くなります。
会社の財務体質を強くしたい、設備投資に備えて資金を貯めておきたいなど、経営戦略があるのなら、あえて法人税を支払って、会社にお金を残しておく選択もありまです。
ただ、役員報酬を減らせば利益が増えて法人税は増える。
役員報酬を増やせば利益が減って法人税は減る、という反比例の関係があることは覚えておきましょう。
役員報酬の注意点3:役員報酬を増やすと社会保険料が増える
役員報酬を上げると、社会保険料も上がります。
社長の場合、会社負担分も実質自分で負担していると同じですから、給料の3割が社会保険料で飛ぶ計算です。
月60万円の役員報酬なら、労使合わせて約18万円(個人負担9万円)にもなります。
この負担を大きいです。
役員報酬を最適化しておく3つの意味
役員報酬は、毎月の手取りの多寡だけでなく、会社経営にさまざまな影響を及ぼします。
役員報酬を最適化しておく意味は、意外に大事なのです。
1.会社の防衛戦略
社長が自分の手取り収入を含めて、手元キャッシュを最大化しておくことは、会社の防衛対策です。
中小企業の社長の場合、会社と個人の財布は実質一体で、会社に火急のピンチが訪れれば、社長個人の財布から補てんしなくてはいけないからです。
金融機関がピンチのときに、都合よく貸してくれるは限りませんし。
そして金融機関は、社長の役員報酬の額もみています。
役員報酬額が多いか少ないかではなく、社長の家族構成から生活費を推測し、預貯金として残る額がいくらかを算出します。
その手元に残る額が多ければ、資産があるということであり、その結果、会社とは別の第2の資産として勘定してくれるのです。
そういう予備資金が多ければ、融資の際も有利に働きます。
返済に確実性が出てくるからです。
ですから、会社にお金を残しておくことはもちろん、社長個人の手取り収入も最大化しておかなくてはいけないのです。
けっして、私利私欲のためではありません(行き過ぎは私利私欲のためになりますが・・・)。
2.銀行融資対策
役員報酬の額は融資の際のポイントになります。
役員報酬が多いか少ないかではなく、その役員報酬額でいくら手元に残るか?です。
仮に、役員報酬2000万円で、社長、妻、子供3人の構成で、生活費としていくら使って、手元に残る余裕資金(預貯金できるお金)がいくらなのかということです。
手残りが多ければ、資産が多くあると推測でき、その結果、審査では有利に働くことになります(ただし、あくまで本業がメイン)。
役員報酬と生活資金の差額がギリギリなら、手持ちの資産が少ないということであり、融資のプラスポイントにはなりません。
したがって、融資のことをを視野に入れるなら、役員報酬は高めに設定して、社長の個人資産に余裕を持たせておくことは重要です。
貯金でなくても、不動産や投資信託などの金融資産になっていれば、それを銀行に開示することで、プラス評価されます。
また、連帯保証(会社の借入の個人保証)を外す際のポイントにも、社長の個人資産は大事になってくるので、やはり役員報酬は多めに取っておくのが無難です。
3.事業承継対策
役員報酬の額は、事業承継にも影響を及ぼします。
当たり前の話ですが、役員報酬は安ければ、会社に利益が多く残り、その反対に高ければ会社に残る利益は少なくなります。
利益が多くある会社の自社株は、評価が高くなります。
すなわち株価が高くなるということです。
会社は利益を上げることが目的ですので、本来株価が高くなることは良いことです。
しかし、事業承継の時期になると、それが裏目に出てきます。
後継者は自社株を引き継ぐことになるわけですが、その際、
- 自社株を買うための資金
- 相続・贈与で株式を受取るときの、相続税・贈与税の納税資金
を負担しなくてはいけません。
株式が高いと、自己資金でとてもまかない切れないケースが出てきます。
会社を継ぐために、多額の借金を背負う、あるいは会社の資金繰りが悪くなるでは、大きな負債も一緒に継ぐことになります。
したがって、がんばって高くした自社株が、皮肉にも裏目になってしまうのです。
会社の株式の評価を下げるためには、会社に貯まった利益を放出する必要があります。
そのとき有効なのが、役員報酬なのです。
自分の役員報酬を高めに設定して、これ以上会社に利益が貯まらないようにしたり、減らしたりするために利用するのです。※追記あり
また、後継者にも高めの役員報酬を支払って、事業承継の準備資金を用意してもらいながら、会社の利益を減らすことも必要です。
利益が出ている会社で、事業承継のタイミングが近づいてきたら、役員報酬が低いままだと、実は大きなリスクを抱えていることになります。
あえて役員報酬を高く設定するというのも、時期によっては必要なのです(私利私欲ではなく、後継者、会社、従業員のためにです)。
【追記】退職の時期に合わせて、役員報酬を一気に上げてしまうのは、大きなリスクになります。
仮に、これまで100万円の役員報酬だった人が、退職の1年前から200万円の報酬になれば、あきらかに不自然です。
税務調査で、「最終報酬月額を上げるためだけの臨時的昇給」とみなされれば、退職金を全額損金に算入することがむずかしくなります。
それだけでなく、上げた毎月の役員報酬自体が、「不相当に高い報酬」として、損金不算入になってしまう可能性もあります。
やはり、事業承継は長い目で、計画的にプランを実行しなくてはいけません。
退職前に役員報酬を一気に上げるリスクについて、下記リンク先記事で詳しく解説しています↓
まとめ
結局のところ、「最適な役員報酬額」とは、それぞれの社長の事業戦略によって変わります。
ですから、この方法で求めるのが正しいとはいえません。
しかし、基本の求め方はこの記事に書いた通りです。
ただ、一つだけいえることは、役員報酬額が節税目的になってはいけないということです。
節税の目的は、手元のキャッシュを最大化することであって、節税で無駄にキャッシュを減らしてしまっては意味ないです。
節税はあくまで「部分の最適化」であって、「全体の最適化」ではないのですから。
役員報酬を決める際は、この記事を参考にしてみて下さい。
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