資本の少ない中小企業にとって、法人の節税対策は重要です。
しかし、あなたは手元にキャッシュを残したいあまり、節税が「目的」になっていませんか?
節税は手元にお金を残す「手段」であって、目的ではありません。
節税が目的化してしまうと、手元のキャッシュを減らしてまで、節税対策を行うようになってきます。
これでは本末転倒です。
何のための中小企業の節税なのか?
中小企業がキャッシュを残すには、法人税を支払うことも視野に入れなくてはいけません。
また、節税と資金調達(銀行融資)は相反する行為です。
節税のし過ぎは、銀行融資においてマイナス効果を及ぼします。
節税という部分解を求めるあまり、全体の最適解を失ってはいけません。
節税を行うときは、経営というトータルな視点を忘れないようにしましょう。
節税の方法は3タイプ
一口に節税といっても、そのタイプは次の3つに分かれます。
- 繰延べ型タイプ
- 恒久型タイプ
- 一時型タイプ
この3種類にわけて解説していきます。
※節税を行う際は、必ず税理士先生の指導を仰いで、独断でやらないようにしましょう。また、ここで述べた方法は節税効果を保証するものではありませんので、実行の際は自己責任でお願いします。
繰延べ型タイプ
このタイプの節税は、今期払わなくてはいけない税金を翌期以降に延期するものです。
基本は、納税を繰延べしているだけなので、厳密にいうと節税効果はありません。
しかし法人税が下げられる傾向にありますので、法人税が下がった場合は繰り延べるだけでも意味があります(ファイナンス理論に基づいても、税金の支払いを遅らせることは意味があるりますが)。
未払い費用・未払い金で節税
未払い費用・未払い金の計上は、期末決算のギリギリでも使える節税法です。
未払い費用・未払い金の計上とは、「今期に発生した費用で、支払が来期になって未払いのものを、当期の決算に計上する」というものです。
意外に小さな金額のもを見落としていますが、チリも積もれば少額でも大きくなります。
しかも未払い費用・未払い金を使った節税は、追加のキャッシュアウトも伴わず、手軽に利用できるというメリッもあります。
期末の決算対策で、ぜひとも使っておきたい節税法です。
「未払金」や「未払い費用」と呼ばれるもので、次のようなもの指します。
- 締め日以降の給料及び通勤手当(20日締めの場合、21日~末日まで)
- 会社負担分の社会保険料
- カード払いした経費
消耗品・固定資産を購入して節税
固定資産、消耗品を購入することで節税になります。
要は、固定費・消耗品を購入することで利益を減らし、それによって節税できるというわけです。
利益が出た期に手っ取り早くできる節税法です。
中小企業の場合、要件を満たせば特例で300万円までなら、その年に全額経費で計上できます。
手軽にできる節税だけに注意が必要で、税金を払いたくないからと、これといった目的もなく固定資産・消耗品を購入することは余分な利益を削ってしまいます。
税金は減らせますが、手持ちキャッシュも同時に減ってしまうからです。
また購入した金額や使用年数でも、経理の処理の仕方が変わってきますので注意が必要です。
さらに消耗品の場合は、決算間近に切手などを露骨に大量に買うと、却下される可能性があります。
あくまで自然な購入額にすることが大事です。
前払い費用で節税
決算対策として速効性のある節税対策が「短期前払い費用」です。
条件はありますが、保険料や家賃などの費用を1年分まとめて前払いすることで、それを今期の経費として計上できる節税法です。
1年というまとまった金額なので、計上すればそれなりの額を節税(その期だけ)できます。
通常、経費として認められるのは今期の分だけです。
3月決算の会社が1月に前倒しで全額支払ったのなら、今期に対応する1月~3月の分までしか経費になりません。
しかし1年以内に役務提供を受けるものについては、支払った年度ですべて損金処理することでるのです。
たとえば生命保険料や家賃を1年分まとめて払うと、来期部分も今期に全額費用計上できます。
ただし、いったん短期前払い費用として計上したものは継続して計上していかねばなりません(今年度は儲かってないから計上しないは通用しない)。
また、1年分まとめて支払うため、手元資金が減少するという大きなデメリットもありますので、実行する際はよくよく考えて行いましょう。
固定資産を処分して節税
会社の中に使わない固定資産があれば、これを処分することで節税できます。
固定資産とは、法人の所有する、建物、建物付属設備、機械設備、車両、工具などです。
この固定資産の中に現在使用してないものがあれば、これを処分することで、「固定資産除去損」として損金に計上できます。
この方法のおススメなのは、キャッシュアウトが生じないことです。
節税でまず行うべきはキャッシュアウトの伴わない対策です。
会社の中に使ってない資産がないか調べてみましょう。
固定資産の修繕で節税
利益が出た年に固定資産を修繕することで節税できます。
前から修理したいと思っていたものの、利益がなかなか出ず修繕の機会を逃していた、というなら利益の出た年に修繕すれば費用を計上できるので節税できます。
しかしこの固定資産の修繕ですが、「修繕費か資本的支出か」で、税務処理の方法が変わってきます。
修繕費の場合、その事業年度に一括で費用計上することができます。
それに対し資本的支出になると、修繕にかかる費用のうち資本的支出に該当する部分は、固定資産に計上することになり、減価償却として処理しなくてはいけないのです。
経費が一括計上となるか、それとも減価償却として対応年数に応じて費用化していくかでは、資金繰りの状況が変わってきます。
資金計画を狂わさないよう間違いのない節税対策を行いましょう。
棚卸資産で節税
棚卸資産とは、会社が販売目的のために保有している商品のことで、商品の状態によって、商品、製品、原材料、半製品、仕掛品、貯蔵品にわけられます。
売れ残り棚卸資産が多く残ってしまえば、それだけ資金繰りに悪影響を及ぼすことはお分かりでしょうが、余分な在庫は税金を増やしてしまう原因になります。
売れ残りができてしまうのは致し方ない部分もありますが、できるなら節税を含めた在庫コストを下げて、少しでも資金繰りが良くなるようにしておきたいものです。
棚卸資産で節税するポイントは、いかに棚卸資産の額を低くできるかです。
棚卸資産の額が低くなれば、売上原価が多くなり、結果として利益が圧縮され節税になります。
法人保険で節税
法人で生命保険に加入すると、保険の種類により、保険料を全額経費や半額経費にすることができます。
よく中小企業で節税目的で使われる金融商品です。
節税目的で加入する法人保険は、貯まったお権を解約すると、会社の益金になり税金がかかるため、繰延べ効果しかありません。
保険の解約返戻金率によっては、節税どころか目減りすることもあり、加入にはきちんと計算して入りましょう。
また、保険料が半分経費や全額経費になるとはいえ、保険料というキャッシュアウトが「毎年」生じるので、資金繰りの悪化を招く可能性があります。
経営セーフティー共済に加入して節税
取引先の倒産は避けられないものですが、これに備えるのが「経営セーフティー共済」です。
もしも取引先が倒産したら、掛金総額の10倍(最大8000万円)まで借入できます(無担保・無保証人)。
この共済はリスクヘッジ機能の他に節税効果もついてきます。
年間最大240万円まで掛金を支払うことができ(掛金の積立は800万まで)、全額損金に算入できます。個人事業主の場合は必要経費。
保険料は、単に帳簿へ「保険料」などの経費としただけでは経費として認められません。
個人事業主の場合は、「中小企業倒産防止共済掛金の必要経費算入に関する明細書」、法人の場合は「Ⅲ 特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書」という書類を作成して、確定申告時に提出しなくてはいけないのです。
また解約した場合、返ってくるお金は益金に計上されるので、これもまた法人保険と同じく繰延べ効果しかありません。
恒久型タイプ
恒久型タイプの節税はその名の通り、特別なことがない限り節税効果が続きます。
利用できるものは利用して、その恩恵を受けておきたいものです。
小規模企業共済に加入
小規模企業共済とは、中小企業の役員や個人事業主が退職や廃業した後の生活資金を準備しておくため国が運営する共済制度です。
掛金は全額所得控除で、節税しながら老後資金をためることができます(個人の所得控除で、会社の損金にはなりません)。
将来共済金が戻ってくるときは、掛金納付期間に応じ最大120%相当額が戻ってきます。※掛金納付月数が240ヵ月(20年)未満の場合は元本割れします。
途中解約をしない場合は、節税効果どころか資金が増えて返ってくる、超と得な金融商品です。
また、一定の条件を満たせば、共済契約者が払い込んだ掛金の範囲内で事業資金等の貸付けを受けられます(無担保、無保証人)。
そして何より、小規模企業共済の共済金受給権は、破産した場合の差押え禁止財産になります。
万が一事業に失敗したときにも身を守る金融商品です。
ただし、小規模企業共済を任意解約したときは一時所得となります。
一時所得の場合は次の様に計算されます。
・(総収入金額-収入を得るために支出した金額(必要経費)-特別控除額(最高50万円)÷2
小規模企業共済の任意解約の場合は、今まで掛けていた掛金を必要経費としてみることができないため、課税金額が大きくなってしまうことに注意が必要です。
住まいを会社に売却して役員社宅にして節税
会社にお金に余裕がある中小企業であることが条件ですが、社長の持ち家を会社に売却し、役員の社宅します。
そうすると、その物件の減価償却費、借入金の利子、固定資産税、火災保険料など会社の費用になり、利益を減らすことができます。
社長個人にしても、それらの負担がなくなるので、手取り収入が増えることになります。
ただし、一定額は賃料を会社に支払わなくてはいけません。
それでも、通常の家賃より低く借りれることができるので、家賃の負担も少なくなります。
住宅ローンがたくさん残っている場合は、このスキームを実行する難易度が高くなりますので注意が必要です。
妻を役員にして所得を分散して節税
社長一人に高額の役員報酬を支給するより、家族を役員にして給与を分散した方が、会社全体で見ると所得税の節税が図れます。
所得税は所得に応じて税率が高くなるので累進課税なので、社長一人に1000万円支給するよりも、社長に700万、妻(役員)に300万と給与を分散した方が所得税の負担は小さくなります。
また役員に対しては退職金も支給できますので、さらなる節税対策ができます。
妻を「非常勤役員」にして節税
妻を役員ではなく「非常勤役員」にすることでも節税効果はあります。
節税は主に、所得の分散と退職金を使った節税です。
また節税だけでなく、社会保険料を削減することも可能になります。
退職金を支給して節税
社長自身に退職金を出して節税することもできます。
社長に退職金を支給すると、適正と認められる範囲までは、会社は損金計上できます。
計上額は
・退職時の報酬月額×在籍年数×功績倍率3.0
と計算されることが多いです。
また、社長個人にも退職金は税制の優遇があります。
日本で一番優遇されている個人の所得税の免除は退職金です。
逆にいえば、退職金を利用しないと、会社から個人へ、最も税負担を少なく所得移転できないということです。
退職金の原資として、生命保険や小規模共済を活用する方法があります。
別会社を作って節税
法人税は超過累進税率で計算されますので、所得を分散することで節税が図れます。
法人の利益に対する税率は、年800万円までと、年800万円超の部分に分かれます。
資本金1億円以下の法人で800万円以下は15%、800万円超は23.4%になりますので、2000万の会社を1000万ずつに分社化したら
- 分社前:400.8万円
- 分社後:333.6万円(166.8万円+166.8万円)
67.2万円の節税になります。
他にも、法人事業税や法人住民税も課せられるため、より多くの節税効果を期待できます。
しかし、管理は複雑化しコストも増えますし、節税が目的となってしまっては穂末転倒です。
よくよく慎重に検討しましょう。
消費税を節税
消費税の節税とは、「消費税の課税取引となる」かどうかです。
消費税の課税取引となれば、その節税効果は恒久的に続きます。
消費税は今や法人税の節税より重要といえます。
8%から10%に上がる予定なのはもちろん、法人税の場合は利益が出なければ課税されませんが、消費税は預かったお金なので赤字黒字関係なく納めなくてはいけない税金だからです。
それだけに、資金繰りへのインパクトは法人税より大きいです。
そこで、外注費を消費税対策として利用している企業が増えています。
外注費は、消費税の課税取引の対象です。
それに対し、従業員に支払う給与は、消費税の課税対象から外れます。
そのため、同じ人件費を支払うなら、外注先へ委託した方が消費税の課税対象となって、消費税の節税になるというわけです。
しかし、この外注費、税務調査では「外注費」ではなく、「給与」として否認されてしまうケースが多発しているとのこと。
せっかくの消費税対策が否認されてしまわないためには、しっかりした外注費対策が必要です。
出張手当で会社も個人も節税
旅費規程を作ると、個人も会社も節税できます。
出張が多ければ、百万単位になります。
出張手当は会社では経費になりますし、旅費規程で受け取った出張費用には所得税はかかりません。
経費を使って節税
会社の経費で落とすことができれば、
- 社長個人の手取りが増える
- 法人税は節税できる
と一粒で2度おいしくなります。
しかしそれだけに、税務署もきびしい目を向けています。
では経費で落ちるものと落ちないものの違いとは何でしょうか?
それは、「仕事に関係あるかどうか」、この一点に尽きます。
その物を仕事に使って売上に関係していることを証明すれば、あのフェラーリ―だって会社の経費で落とすことができるのです。
そのためには、領収書の使い方や、経費の根本的な考え方を知っておかねばいけません。
一時型タイプ
その期のみ通用する節税法です。
当期のみとはいえ、利用できるものは利用しておくと節税できます。
回収できない債権を処分して節税
売掛金でどうしても回収できないものは、内容証明を出すといった手続きを経ることで、「貸倒」として処理できます。
お金は返ってきませんが、貸倒処理した分、利益が圧縮できるので節税につながります。
役員・従業員の社宅で節税
条件を満たせば従業員の社宅であっても、借り上げ社宅家賃を会社の損金とすることが出来ます。
その場合、従業員負担の家賃は会社が支払った家賃の5~10%程度です。
法人の借り上げ社宅としてあげることで、従業員そのものの所得税負担を軽減出来ます。
またこの方法だと社会保険料の軽減にもつながります。
最終的にはルールを変更できるものが勝つ
節税は、国にルール変更の権限があることを忘れてはいけません。
法律の不備や条文の解釈を突いたような節税法がありますが、そのような方法は、国が法律を変えてしまえばいっぺんで使えなくなります。
たとえ法律に不備があったとしても、「いづれそれはルール改正されてしまうかもしれない」と肝に銘じておきましょう。
中小企業の節税の真の目的とは?
ここであえて問いますが、中小企業が行う節税の目的とはなんでしょう?
節税の目的とは、「手元に残るキャッシュを最大限増やすため」です。
そのための「手段」が節税です。
ただ単に中小企業が「法人税の支払額を減らしたい」ではないのです。
「法人税を減らす=キャッシュが増える」ではないことを理解しましょう。
なぜなら、法人税を減らすには、利益を圧縮しなくてはいけないからです。
そのために必要のない物品を購入しても、利益を減らした分、必要以上にキャッシュが出ていきます。
節税をすれば納税額が少なくなり、一見儲かったように思いますが、これでは何が何やら、会社の台所は金欠です。
無駄な経費を使っても、会社の利益にも貢献しませんし。
これが中小企業での節税が目的化してしまった状態です。
仮に500万の利益があれば納める法人税は
500万円×35%=175万円
手元に残るお金は
500万円―175万円=325万円
です。
節税のはずが手元キャッシュが少なくなる
しかしこれを節税で200万円利益を圧縮すれば
(500万円―200万円)×35%=105万円
となり、たしかに法人税は少なくなります。
ですが手元資金を計算してみると
300万円―105万円=195万円
で、130万円も節税した方が少なくなります。
無駄な中小企業の節税対策が貧乏会社への道
そもそも過度な節税は、会社の体力を弱めます。
それは毎年の利益剰余金が少なくなるからです。
利益剰余金が少ないと、自己資本が貯まらず、いわゆる自己資本率が低い会社になってしまいます。
自分で用意できるお金がないということは、他人のお金で回しているということであり、要するに借金で回しているということです。
借金体質は資金を調達できなければ、資金ショートを起こしやすくなります。
それ以前に、普段の資金繰りも苦しいはずです。
利益剰余金とは、損益計算書の当期純利益のお金です。
当期純利益とは、損益計算書の構造からもわかるように、税引き後の利益になります。
中小企業を強くする利益剰余金を貯めるには、必ず法人税という「ゲート」を潜らなくてはいけないのです。
銀行は節税がお嫌い
過度な節税は銀行も嫌います。
上記でお話ししたように、節税の基本は「利益を削ること」です。
利益が削られれば、手元に残るキャッシュは少なくなり、会社に貯まるお金も少なくなります。
銀行が進んでお金を貸したいのは
- 本業の稼ぎが多い会社
- 会社にお金が貯まっている会社
です。
要は、稼ぎがあってお金が貯まっていれば、何かあっても返済が滞ることはないでしょ、という話です。
現に銀行融資を決める企業の格付けでは、営業利益(本業の稼ぎ)、自己資本比率(会社に貯まった資金・資産)が、点数表の配分の大きな割合を占めています。
利益を削って実現する節税とは、銀行の求めるものとは相反するものなのです。
資金調達は会社の生命線を握っています。
節税のし過ぎで、この生命線を細めてしまうのは、やはり得策とはいえません。
まとめ
まだまだ節税法はありますが、代表的なものを取り上げてみました。
これらを使って上手に節税しましょう。
ただし、繰り返しになりますが、節税が目的化しないようにしましょう。
中小企業の節税はあくまで「手元キャッシュを増やすための手段」です。
無理に節税をしても、それは資金繰りの悪化を招きます。
十分気をつけて、節税を行ってください。
※節税を行う際は、必ず税理士先生の指導を仰いで、独断でやらないようにしましょう。また、ここで述べた方法は節税をお約束するものではありませんので、実行の際は自己責任でお願いします。
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