あなたの会社は借入が多くあり過ぎではありませんか?
当たり前ですが、借り過ぎは企業の利益を圧迫しますし、銀行にも借入枠が存在します。
借入水準が危険レベルにあるとわかれば、それ以上は貸してくれません。
要は、企業が適正な借入可能額を知ることが、融資をスムーズに引き出したり、経営を安定させたりすることにつながります。
そこで、借入可能額を見る際の目安を測る方法をご紹介します。
【方法1】返済年数で見る方法
銀行が融資先を分析する際、重視するのが「債務償還年数」です。
これは「その会社が借入金を何年で返済できるか?」を見る指標です。
算式は以下の通りです。
・債務償還年数=(①-②)÷③
- ①有利子負債残高=短期借入金+長期借入金+社債+割引手形−預金
- ②正常運転資金=売掛金+受取手形+在庫−買掛金-支払手形
- ③キャッシュフロー=税引後当期利益+減価償却費
要するに、会社の借入金の合計額を、年間のキャッシュフローで割って、返済できるまでに何年かかるのかを見ます。
たとえば、借入金1億円、税引き後当期利益と減価償却費の合計が1000万円の会社なら、債務償還年数は10年(1億円÷1千万)となります。
同じ1億円の借入金でも、税引き後当期利益と減価償却の合計が800万円になると、債務償還年数は12年5カ月(1億円÷800万円)と期間は延びます。
これまでは、債務償還年数は10年以内が理想とされてきました。
そのため経営改善計画もなどもこの10年が基準となってしまい、それを理論上達成させるために、
- 無理な売上・利益改善計画
- 無謀なコスト削減計画
を作ると、「現実的に達成できない」ことになってしまいます。
計画倒れでは意味がないので、現在では金融機関でもこの基準を緩め、20年以内までは認められるようになってきています。
中小企業の場合は
ちなみに中小企業の場合、キャッシュが最大限残るよう、法人の利益を役員報酬で調整をして、当期利益が最小限になるようにしていることがあります。
このようなケースだと、たしかに手元のキャッシュは増えますが、会社の当期純利益は少なくなるので、返済財源も少なくなります。
そこで、会社と個人を一体として評価することがあります。
つまり、個人と会社で稼いだ額を合算、会社の借金と個人のローンを合算、これで債務償還年数を求めるのです。
計算式は以下の通りです。
- 返済財源(キャッシュフロー)=会社の当期純利益+減価償却費+役員報酬―個人の税金
- 債務償還年数=(会社借入総額+個人のローン)÷返済財源
【方法2】月の売上でみる方法
売上高から借入の限度額を見る方法もあります。
それが、「借入金平均月商倍率」です。
これは売上という事業規模から借入金の返済能力を判断するための指標で、借入金の総額が月商の何か月分あるかを求め、それで借金の限度額の目安にします。
計算式は
・借入金平均月商倍率=借入金総額(短期借入金+長期借入金+割引手形)÷平均月商
で求めます。
一つの目安として
小売業・製造業(1.5安全/3.0要注意/6.0危険)
卸売業(0.8安全/1.5要注意/3.0危険)
以上の基準が一般的なラインです。
この数値は会社の粗利益に関係していて、売上高に占める粗利益の額に月商倍率は近くなります。
通常、会社の借入金は儲かったお金で返済していきますので、会社の儲けの源泉となる粗利益が借入金の上限になるといえます。
ですから、粗利益の高い業種の方が、借入金平均月商倍率は大きくなります。
ただしこれはあくまでだいたいの目安ですので、一般的な基準に当てはまったから即ダメというわけではありません。
銀行は利益より売上?!
ちなみに、よく「売上より利益が大事」といいますが、融資の面から見ると、売上規模で限度額を測る指標がある以上、「売上はどうでもいい」とならないことに気づくでしょう。
危険水域に近づいてくれば、間違いなく指摘されます。
売上が落ちているなら落ちているで、現状の分析(売上が落ちてきている理由)と、今後の展開(どう売上げが回復するか、あるいは現状でも利益を確保し、返済に支障がないことの)の説明が必要です。
【方法3】借金の依存度で見る方法
会社の総資本から借金の割合を見て、危険度を測る方法が「借入金依存度」です。
単純に借入が多ければ危なく、少なければ安全という指標です。
算式は
・借入金依存度=有利子負債(借入金+社債+割引手形)÷総資本
で求められます。
総資本とは、貸借対照表の負債・純資産の合計の金額のことです。
そのうちの負債の合計の割合いが大きければ、借金依存体質ということです。
つまり、仕入れや設備投資などの多くを、借金でまかなって事業を回している状態です。
健全な借入依存度は、30%以下といわれ、それに対し、危険ラインと判断されるのは、卸売業で50~55%、製造業で60~65%程度といわれます。
売掛金や棚卸資産が多い会社で借入金借入依存度が高いなら、資金ショートを起こしやすく危険です。
【方法4】支払利息で見る方法
借入の利息から借入金の危険度を見る方法もあります。
それが「インタレスト・カバレッジ・レシオ」です。
借入の利息は稼いだ利益の中から支払ます。
支払利息は経費として、営業外費用の項目に入っていますよね。
そこで、本業から利益である営業利益がが支払利息の何倍あるかを求めることで、「どれだけ利息の支払いに余裕があるか」を見るのがこの指標です。
倍数が高いほど支払い余力があり、1倍を切ると利益から利息の支払いができないことを意味します。
銀行はこの数値を重視します。
計算式は
・インタレスト・カバレッジ・レシオ=営業利益(営業利益+受取利息+受取配当金)÷(支払利息+割引料)
です。
節税のし過ぎは借入限度額を縮めてしまう
節税のし過ぎは借入限度額を縮めてしまう結果になります。
債務償還年数の計算式は
・借入÷(税引き後利益+減価償却費)
になります。
ここでポイントになるのが、「税引き後利益」です。
たとえば、借入が3000万円、税引き後利益が200万円、減価償却費が50万のパターンで計算してみます。
・3000万円÷(200万円+50万円)=12年
この場合の債務償還年数は12年です。
では、税引き後利益が300万となったときはどうなるでしょう?
・3000万円÷(300万円+50万円)=8.6年
と債務償還年数が小さくなり、数値が改善されました。
逆にいえば、債務償還年数の基準は10年なので
・350万円×10年=3500万円
と、融資可能額が500万円もアップすることになるのです。
要するに、税引き後利益が大きくなれば、理論上は融資限度額が大きくなるということです。
ということは、行き過ぎた節税は、無駄に利益を圧縮することになり、結果として融資枠を縮めてしまうことになります。
インタレスト・ガバレッジ・レシオも同じです。
節税のし過ぎで営業利益が小さくなれば、必然的に支払い利息の割合は大きくなります。
これは融資に不利に働きます。
インタレスト・ガバレッジ・レシオは、1倍以下のときは、本業の利益で支払い利息をまかなえないと判断されます。
要するに、利息の支払いだけで、本業の儲けが飛んでしまうような状態です。
このような状況の会社に、誰が進んで融資をしてくれるというのでしょう?
節税のし過ぎは、会社の資金繰りを悪化させることはもちろん、肝心なときに借入をできない結果となりかねないのです。
無駄な節税は、逆に会社経営を危うくするだけです。
気をつけましょう。
なぜ損益計算書と貸借対照表が大事になるのか?
銀行から借入をして、返済財源となるのは、主に「営業活動によるキャッシュフロー」と「資産売却による現金化」の2つです。
営業活動によるキャッシュフローとは、本業から生み出される儲けのことです。
資産売却による現金化とは、会社にある設備機器や建物などの資産を売って現金化することです。
この2つからわかるように、なぜ銀行が、損益計算書と貸借対照表を融資の際、重視するか理解できます。
損益計算書は、本業の儲けを表し、貸借対照表は会社にストックされた資産状況を見れるからです。
「営業活動によるキャッシュフロー」と「資産売却による現金化」の2つの数値が安全基準なら、銀行からの借入枠も大きくなります。
損益計算書で銀行が見るポイント
損益計算書では、営業利益、経常利益がまず見られます。
営業利益は、企業が稼ぐ力がどれくらいかるか、経常利益は、企業が継続的に稼ぐ力がどれくらいあるかを見られます。
先にも書きましたが、返済財源となるのは、企業が毎年生み出す利益(キャッシュフロー)の中からが基本です。
したがって、銀行は事業を行って得る利益を非常に大事にしています。
たとえば営業利益がマイナスなら本業が赤字ということであり、貸し出したお金が返ってくる見込みはなくなります。
ですから、稼ぐ力が大きいほど、審査に有利に働きます。
損益計算書で見られるポイントは次のようなものがあります。
- 前の期と比較しての売上の増減。増減の原因は何か?
- 前の期と比較しての売上総利益(売上総利益÷売上)の増減。増減があればその原因は何か?
- 前の期と比較しての営業利益・経常利益の増減。増減があればその原因は何か?
- 売上げに対しての営業利益・経常利益の増減。その増減の原因は何か?
- 販管費および一般管理費の各項目の増加・減少についての説明。経費の無駄がないか?
貸借対照表で銀行が見るポイント
貸借対照表で何より重視されるのが、「純資産」になります。
純資産が多ければ、会社にストックされている資産が多いということであり、万が一本業でコケても、資産を売却すれば借入金を回収することができます。
純資産は、
・総資産-純負債
で計算されます。
この数値がマイナスということは、現時点で、資産を全部売ったとしても、「全額返済できない」ということですので、融資を受けるのは大変不利な状況になります。
この状態を「債務超過」といいます。
本当はマイナス、実質債務超過
純資産がプラスであっても、実際調べてみれば、帳簿価格を割っていることがあります。
たとえば、数年前に買った土地が3000万円だったとしても、現在の売値に換算してみると2000万円しかなかったというケースもあります。
実質1000万円のマイナスです。
このように、貸借対照表に計上されている額を調べていくと、実態価格との差があり、帳簿上の額より低くくなることがあります。
その実態価格で計算してみると、純資産がプラスでなく、マイナスになることがあり、これを「実質債務超過」といいます。
この場合も、融資の審査では大きく不利になります。
安全度を自己資本比率で計測
純資産の絶対額は、大きければ大きいほど安全です。
この純資産の割合を、「自己資本比率」といいます。
・自己資本比率=純資産÷総資産
自己資本比率は、審査でも重要な指標になり、この比率が高いほど、審査では有利になります。
繰り返しになりますが、この数値が高いほど、自己の資産が多いことになり、本業で赤字になっても返せる財源になるからです。
自己資本比率は、理想は20%以上、最低でも10%以上が基準になります。
以上のように、銀行から借入の際は、「返す財源があるかどうか?」も、重要視されます。
借入限度額とは密接な関係ですので。しっかり見ていきましょう。
借入を成功させるには事前のシミュレーションが大事
自社がいくらまでなら借入ができるかを把握するのは大事ですが、借入の目的は事業を成功させることです。
ならば、事前に事業計画や投資計画のシミュレーションをしておくことは大事です。
審査の際、シミュレーション結果があれば、プラスの材料に働くことは間違いないです。
ここでは、設備投資した場合のシミュレーションの仕方を解説します。
※ここで気をつけておかなくてはいけないのが、損益でなく収支(キャッシュフローベース)のシミュレーションを行うことです。
損益は帳簿上だけのシミュレーションで、実際のお金の流れと一致していません。
肝心なのは現実のお金なので、現実に即した収支のシミュレーションで、計画を予測するこが大事です。
シミュレーションは3つのパターンで
設備投資のシミュレーションを行う際は、面倒でも3つのパターンは作ってみましょう。
それが正しい判断を下すために必要なことです。
その3パターンとは、
- 売上が計画通り順調に上がるケース
- 売上が伸びず現状維持のケース
- 業績ダウンするケース
です。
3つなんて面倒だと思うかもしれませんが、この手のシミュレーションはエクセルでひな形さえ作っておけば、数字を入力するだけで簡単に出すことができます。
上記の方法は広告のシミュレーションですが、事業計画や投資計画だって同じように出すことはできます。
未来は正確に予測できません。
そこで、楽観、中立、悲観のシミュレーションをしておけば、順調なケース元より、最悪な事態で進んでしまった場合の金銭的ダメージも予測できます。
失敗の規模が予測できれば、悲観的シナリオになった場合の会社のダメージもわかるので、投資すべきかどうか判断を間違うことも少なくなります。
これが予測を狂わせる原因です
ただし、ここで問題点が一つ。
設備投資のシミュレーションを行うなら、実質のお金の流れに近い収支のシミュレーションでしなければなりません。
売上から利益を引いた損益の計画だけでは、実際のお金の流れを反映してないので、予測を誤る可能性があります。
その原因になるのが「減価償却費」です。
減価償却費とは、ざっくりいいますと、設備投資の金額を耐用年数に応じて、各事業年度において按分していく費用のことです。
仮に200万円の車を購入したら、その年に1度に費用として計上するのではなくて、6年間にわけて、毎年毎年、費用として計上していきます。
減価償却費を考えるとき気をつけなくてはいけないのは、「帳簿上だけで実際には動いてないお金」であることです。
これがシミュレーションをややこしくします。
実際は160万円の差が!
たとえば、店舗(賃貸)の内装工事の場合、耐用年数は10年~15年になります。
仮に1200万の内装工事で耐用年数が15年なら、毎年80万円(1200万÷15年)の費用が計上できます。
しかし、内装費1200万を銀行融資で用意した場合、減価償却の耐用年数と借入金の返済期間がイコールにはなりません。
通常、銀行融資の返済期間は、長くても5年~7年くらいになり、減価償却期間より半部以上短くなります。
もし、1200万円を5年で返済するとなると、毎年の返済額は240万(1200万円÷5年)になります。
そうすると、損益ベースの予測と収支ベースの予測では、160万円(240万円-80万円)という大きな差が出てきます。
つまり、帳簿上では80万円の経費計上しかしてないのに、実際の借入金の返済は240万円行っており、その差額160万円分資金繰りが苦しくなるということです。
シミュレーションが・・・とんでもない結果になった
では、損益ベースと収支ベースのシミュレーションの違いを比べてみましょう。
仮に、借入れ1200万円の返済期間10年、減価償却期間15年で、売上は1年ごとに50万円伸びたとします(経費と原価も同時に増える)。
3年目までシミュレーション結果です。
損益ベースでは、3年目には30万の黒字になると出ています。
しかし、収支ベース(キャッシュフローベース)で見てみると、30万の黒字がどっこい、130万の赤字となっています。
この状態なら資金繰りはかなり苦しくなると予測できます。
このパターンは毎年50万売上が伸びると予想する楽観的シミュレーションですが、にもかかわらず収支ベースで考えると、利益を圧迫する設備投資となることがわかります。
この状態で、果たして投資すべきや否や。
あなたならどう判断されますか?
間違ったシミュレーションは3年後の地獄を招く
上記のケースは、あきらかに投資金額が多すぎなことが原因で資金繰りが苦しくなるパターンです。
設備投資額を抑えないと投資としては失敗に終わる可能性が高いです。
しかし、損益ベースで投資判断をしてしまうと、3年後には恐ろしい状況が待っていることに気づかず進んでしまうことになります。
商売で大事なのは、帳簿上の利益ではなく、口座にあるお金です。
お金が尽きたら商売を続けられませんから、やはり収支ベースで予測を立てることは大事です。
投資の指標はROAで計測
設備投資を行うときは、ROAを計算しておくことも忘れないようにしましょう。
設備投資のROAとは、「その投資と利益によってキャッシュフローがどのくらい見込めるか」です。
例題のような設備投資では、資金繰りの悪化を招くことは明白であり、銀行の借入が終わる5年間は、会社の財務悪くなり、それが引き金となって経営破綻もあり得ます。
そこで、採算の良し悪しを測るROAを使って、健全な投資かどうか計測するのです。
設備投資のROAは、「投資によって見込まれる経常利益÷投資額」で算出します。
そしてその数値を、会社全体のROA「当期純利益÷総資産」と比較して、それを上回るものであることを確認します。
何度もいいますが、設備投資で問われるのは、「投資によって生じる利益(キャッシュフロー)」なので、この点を誤らないように気をつけましょう。
誤ればそれは、過剰な設備投資で、倒産に向けて歩き出すことになります。
借入の適切な判断は正確なシミレーションから
予測は予測でしかありませんが、それでも数字で予測を立てることは、未来を考える上で重要です。
数字で予測を立てることで、黒字か赤字か、黒字ならどのくらい儲かって、赤字ならどれぐらい資金繰りに影響するのか、具体的にわかるからです。
わかればこそ、適正な判断を下すことができます。
しかしそのシミュレーションが、誤った数字の前提なら、投資の計算自体危うくなります。
設備投資、事業計画、投資計画などのシミュレーションは、収支ベース(キャッシュフローベース)で組み立てましょう。
それが投資で失敗しない第一歩です。
まとめ
企業と借金は切っても切り離せない関係です。
借り過ぎはダメですが、借金を怖れるあまりビジネスチャンスを逃してしまうのも大きな損失です。
要は、適正な借金であれば、借金も怖くないわけです。
債務償還年数、平均月商倍率、借入金依存度、インタレスト・ガバレッジ・レシオの4つの指標で、借入金の限度額を出してみてください。
その中で最も小さい金額が、あなたの会社の「健全な借入れの限度額」となります。
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