会社がお金を調達する方法は、大きくいって3つあります。
それが、
- 銀行借入
- 増資
- 内部留保
の3つです。
では、この中で一番調達コストが安く済むのはどれでしょう?
経営は費用対効果で考えなくてはいけません。
それは資金調達も同じで、高い買い物をしないためには、数字で費用対効果を計測することは大事です。
借入VS増資。その軍配は・・・
まず、借入と増資を比べてみます。
借入のコストは「利息」で、増資のコストは「配当」になります。
支払利息は経費になります。
ということは、実際のコストは利息から法人税分を引いた金額になります。
これに対し増資の配当は、税引き後の利益から支払うことになり、節税効果はありません。
そうすると、仮に金利と配当率が同じなら、借入金の方が安い調達コストで済むことになります。
<例>5000万円の資金を調達、5%の借入金利、配当率だった場合
- 借入:借入金5000万円×金利5%×(1-法人税率35%)=162.5万円
- 増資:増資額5000万円×配当率5%=250万円
この計算結果からもわかるように、借入の方が87.5万円調達コストが安く済むことになるのです。
社長がポケットマネーで増資したら・・・
ちなみに、社長が個人のポケットマネーで、配当率を借入金利より低く設定して増資した場合はどうでしょう?
増資の元となるお金は、会社からもらう役員報酬になります。
この役員報酬は、所得税・住民税・社会保険料を支払った後のお金です。
だとしたら、実際の調達コストは意外に割高ということです。
銀行借入と内部留保、調達コストが安いのは?
次に借入と内部留保です。
内部留保は経営の王道で、これを貯めることは会社の経営基盤(自己資本率)を強くすることにもなります。
ただし、内部留保をするためには、法人税というゲートを必ず潜らなければなりません。
つまり、内部留保でお金を調達する場合は、税金コストを負担しなくてはいけないのです。
法人の実効税率35%なら、これは相当高い調達コストです。
やはりここでも銀行借入が調達コストは安いということになります。
借入を投資効率から考える
銀行借入は返済と利払いというリスクが生じますが、では無借金経営の方が安全でリスクがなくていいのでしょうか?
実は投資という面からみれば、案外無借金経営の方が投資効率が悪い場合もあるのです。
銀行借入で投資を行うメリットは、自己資金以上に大きな金額を調達できることです。
そしてそのお金は、事業の成長スピードを上げてくれる上、すべてを自己資金で賄うより投資効率を高めてくれることにつながります。
では、「銀行融資あり」と「銀行融資なし」の収支シミュレーションで、その効果を検証してみます。
たとえば、総投資金額5000万円で年間投資収益が700万円の投資案件があったとします。
総投資金額のうち「一部自己負担(1000万円)」した場合と、「全部自己負担(5000万円)」したケースのシミュレーションをしてみます。
銀行融資の条件は、借入金4000万円、返済期間10年、金利2%だったとします。
するとどうでしょう。
銀行融資で投資金額を用意した場合、自己資金の回収時期に大きな違いが出ます。
「銀行融資あり」は4年5カ月で回収できますが、「銀行融資なし」は7年1カ月かかることがわかります。
仮に、別に同じくらいの投資案件があった場合、「銀行融資あり」は4年5カ月後には再度投資に資金を回せます。
しかし「銀行融資なし」だと、それより3年遅れてからでないと実行できないことになります。
シミュレーションは3パターンで
ただし、これはあくまで楽観的なシュミレーションです。
投資収益が600万になったケースと、悲観的に500万になったケースのシミュレーションもおこなってみます。
<投資収益が600万円のケース>
回収期間が同じになる。
<投資収益が500万のケース>
銀行融資ありの自己資金回収期間が上回る
投資収益が600万だと自己資金ですべて用意した場合と回収時期は同じになり、500万まで下がると反対に「銀行融資なし」の方が自己資金回収時期は短くなります。
やはり、楽観、標準、悲観というシナリオでシミュレーションするのは大事です。
損益計算書を金融機関との金利交渉に使う
借入に対する利息は、事業資金を調達するためのコストです。
事業コストなのですから安いに越したことはないわけですが、金利が高いから安くしてくださいとお願いしても、安くしてくれるわけがないことはお分かりでしょう。
金利交渉を行うなら、交渉の材料(しかも有利に)が必要になります。
そこで、損益計算書を使って金利交渉を有利に進める方法を解説します。
経営を作文で語っても伝わりません
その前に、そもそもが、です。
銀行が取り扱っているのはお金です。
そのお金を語るときに、情緒的な作文で訴えかけても話が通じないのは当たり前で、お金のことは数字で話さないと意味が通じないのです。
数字を理解し、数字で説明するからこそ、銀行員に金利を下げるメリットを的確に伝えることがきます。
ですから、「お金のことはよくわからない」「数字が苦手」とはじめから拒絶していれば、交渉自体まとまりませんし、わからないことをいいことに、相手の有利な条件を飲まざるを得なくなります。
もうそういう言い訳は、本当に辞めた方がいいです。
とくに、今後、少子高齢化、人口減少、税金・社会保険料の増大で、市場に出回るキャッシュの量が少なくなることを考えれば、お金のことは今以上にシビアになると思うのですが。
数字に強くなることは必須です。
金利交渉を有利に進めるシミュレーション
ではシミュレーションしてみましょう。
仮に、
- 融資残高:600万
- 支払期間:10年
- 金利:5%
- 返済方法:元利均等
の返済の条件で、次のような損益計算の状態の会社だったとします。
このとき、1年間の利息は約29万円、返済の元金部分は約47万円になります。
当期純利益から元金の返済額を引くと(元金部分は経費にならない)、手元には約32万円しか残りません。
返済方法が元利均等なので、2年目の利息は約26万に減りますが、返済の元金部分は約50万に増えますので、売上・経費などが変わらないと仮定すると、トータルの手元資金の残高は約31万に減ります。
同様に3年目も計算すると、今度は手元資金は約30万に減ります。
その条件で借りてるのだから当たり前だろうという話ですが、では仮に売上が下がった場合はどうなるか?
もし、2年目の売上が900万に下がった場合(売上原価、販管費も減ると仮定)、借金返済後の手元資金は約18万円にまで減ってしまいます。
金利3%でシミュレーション
そこで金利が3%なったと仮定してみます。
1年目の返済は利息が約17万円、元金が約52万円で、手元資金は34万円になります。
2年目以降売上が900万円に減ったとしても
利息は約16万円で元金部分は54万円、トータルの手元資金は20万円残ります。
何をもって交渉材料にするか?
たったの2万円の違いですが、ここでは額の違いは置いといて、ここで銀行と交渉するなら、この差額で、会社の未来がどうなるかを説明することが大事になります。
ただ単に、支払いが苦しいから金利安くしてでは、銀行も納得しないでしょう。
金利とは銀行の収入源であり、それを支払が苦しいから条件を変えてといわれても、そんな都合のいい話が通るわけないのです。
しかしそれを、差額の2万円を設備投資なり広告なりに投資して、将来の収益改善になることを説明できれば、銀行だって納得しやすいでしょう。
銀行を納得させる材料
銀行が貸し手として、借り手に何を求めるでしょうか?
- 返済は最後までできるか?
- もし返済できなくなれば、どうやって返済をするか?
です。
だとしたらこの場合、
- 現状だと金利が利益を圧迫して、将来投資すべきお金が残らない
- このままだと、今後売上アップ(または利益改善)の見通しが立たず、返済に支障を来す事態が起こるかもしれない
- それなら、今の金利を圧縮して、その結果浮いたお金を将来の投資に回したい
- そうすることで、返済も確実に行うことができる
という流れで説明すれば、納得しやすくなります。
そのとき、損益計算書のシミュレーションを使って具体的に説明すれば、説得力も高まります。
ただし、銀行は資金を調達できる大事な機関です。
単純に金利の高い安いだけで、判断してしまうのは問題です。
現時点で、その金利交渉が必要かどうか、しっかり見極めましょう。
2%の違いで総額68万円の違い
ちなみに、この条件で借りると返済額は、5%→763万。3%→695万となり、総額で68万円の差額があります。
やはり金利って大きいですね。
まとめ
資金を融資で賄うか自己資金で賄うかの可否は別にして、資金調達にはコストがあることを忘れないようにしましょう。
- 銀行借入→利息
- 増資→配当
- 社長のポケットマネー→所得税・住民税・社会保険料
- 内部留保→法人税
この中で低コストで資金を調達できるのは、銀行借入になります。
社長のポケットマネーは、一見コストがかかってないように思いがちですが、実はかかっていたりしますから、冷静にコスト計算してみないとわかりません。
そして、意外に無借金より銀行融資があった方が、投資効率という観点から観れば優れていたりします。
また、金利が高くそれが事業を圧迫しているなら、金利が安くなった場合のシミュレーションを行い、その結果浮いた利益を先行投資して売上拡大につなげられることを説明すれば、金利交渉を有利に進められる材料になります。
やはり、数字できちんと検証することは大事です。
資金調達の際は、調達コストにも注目しましょう。
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