企業の資金繰りを見る指標に「キャッシュ・コンバージョン・サイクル」があります。
それぞれの頭文字を取って「CCC」といいます。
CCCを簡単にいうと、「仕入れから販売までに伴う現金回収期間」のことで、要はこの日数が短いほど、資金繰りが良くなるというわけです。
ならば、資金繰りを良くしたければCCCを指標にし、1日でも短くなるよう手を打つことが大事です。
キャッシュコンバージョンサイクルとは
CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)とは、企業が原材料や商品仕入などへ現金を投入してから最終的に現金化されるまでの日数を示し、資金効率を見るための指標です。
CCCは小さい方ほど資金効率は良いということができます。
たとえばA社から100万円の時計を仕入れたとします。
仕入れ代金は30日後に支払う約束しました。
その10日後にB社に時計を販売することができました。
在庫期間は40日です。
しかしB社の代金の回収は売掛金です。
そのため、60日後が販売代金の回収日となります。
このとき商品の仕入れから販売し、その後代金を回収するまで100日かかっています。
つまり、仕入れ代金支払い後、販売代金が入金される70日間は、自分で資金を立て替えないといけないということです(資金が不足する)。
この期間をキャッシュコンバージョンサイクルといいます。
・(60日+40日)-30日=70日
70日間は自分でお金を立て替えなくてはいけないため、資金繰りは苦しくなります。
逆にいえば、CCCが短くなればそれだけ資金繰りは楽になるということです。
CCC(キャッシュコンバージョンサイクル)の求め方
CCCの算出方法は
という算式で求められます。
売上債権回転期間
・売上債権÷年間売上高×365日
※売上債権=受取手形+売掛金+割引手形―前受け金
棚卸資産回転期間
・棚卸資産÷年間売上原価×365日
買入れ債務金回転期間
・買入れ金÷年間売上原価×365日
※買入債務=支払手形+買掛金―前払い金
仮に
・売上債権回転期間:60日
・棚卸資産回転期間:30日
・買入債務回転期間:40日
なら
と求められます。
といっても、これだけ見ても、財務諸表のどの項目を使って数値を求めるかわからないと思います。
ですので、貸借対照表と損益計算書を使って、CCCの求め方を解説します。
どの項目を使うかがわかれば、計算自体はむずかしくないので、簡単に算出できます。
CCCをシミュレーション
次のような財務状況の会社がありました。
この会社のCCCを求めます。
※全指標の分子の金額は、期末時点における残高のみを使用するのではなく、できるだけ期中の残高を用いることが重要です。
そのため、略式ですが、期首(前年度末)残高と期末(当年度末)残高を足して2で割り、「平均残高」で計算するのが一般的です。
売上債権回転期間
数式:売上債権÷年間売上高×365日
売上債権は、「受取手形+売掛金+割引手形―前受け金」になります。
この貸借対照表の場合、「売掛金」の項目が当てはまります。
年間売上高は損益計算書の「売上高」の項目です。
・売上債権回転期間:3000÷12000×365日=92日
棚卸資産回転期間
数式:棚卸資産÷年間売上原価×365日
棚卸資産は貸借対照表の「商品」の項目になります。
年間売上原価は損益計算書の「売上原価」です。
・棚卸資産回転期間:1000÷8000×365日=46日
買入れ債務金回転期間
数式:買入れ債務÷年間売上原価×365日
買入れ債務は「支払手形+買掛金―前払い金」になりますので、貸借対照表の「買掛金」が当てはまります。
年間売上原価は損益計算書の「売上原価」になります。
・買入れ債務回転期間:2000÷8000×356日=92日
よって、CCCは
となります。
現状より資金繰りを良くしたいなら、CCCを46日より縮めなくてはいけません。
では、それぞれの項目についての改善点を述べていきます。
売上債権回転期間
改善点を見つけるときは、数値を構成している大きな要素を、それぞれの小さな要素に分解していきます。
売上債権回転期間の計算式は
・売上債権÷年間売上高×365日
です。
売上債権回転期間は、「売上債権」と「年間売上高」の2つの大きな要素で構成されています。
この数値を改善するには、
- 「売上債権」を小さくする
- 「年間売上高」を大きくする
とすることで、回転日数を小さくすることができます。
売上債権
売上債権を構成している各要素は
- 売掛金
- 受取手形
の2つです。
さらにその要素を細かく分けていけば、改善項目が具体的になります。
売掛が長いということは、回収が不能になっている債権も含まれているので、それがそのまま貸倒損失になる可能性も含まれます。
期ごとにチェックして、日数が長くなっているなら資金繰り悪化のサインです。
- 売掛が滞っているなら督促をする
- 回収条件の見直しをする(売掛期間の短縮、前払い制の導入、ペイパルなどのクレジットシステムの導入など)
- 金払いが悪くなっているところを洗い出し、場合によっては取引中止
など早めの対処が必要です。
わたしも経験ありますが、金払いの悪いところへの督促や集金は、気の引ける仕事です。
払う気がない相手ならなおさらです。
ですが、基本的にマメにやるしかないでしょう。
計算の注意点
一般的に売上債権に含まれるものは、「受取手形」と「売掛金」です。
実態に「未収入金」勘定などが売上代金の回収に伴う債権である場合は、勘定科目にとらわれることなく加算します。
販売前に「前受金」を受領している場合、売上債権から前受金の額を差し引いて計算します。
年間売上高
年間売上高を構成する要素は
- 新規客
- リピート客
の2つです。
それぞれの要素を分解していけば次のようになります。
あとは、細かく分けた要素を見て、具体的な改善策を考えていきます。
棚卸資産回転日数
棚卸資産回転日数も要素を分解していきます。
棚卸資産回転日数の計算式は
・棚卸資産÷年間売上原価×365日
です。
構成している要素は
- 棚卸資産
- 年売上原価
の2つです。
棚卸資産回転日数は
- 棚卸資産を小さくする
- 年間売上原価を小さくする
ことで数値が改善します。
各要素を分解することで、改善点も具体的になります。
過剰な在庫、売れ残りの在庫は、無駄なコストを発生させ、資本効率を落とします。
また、売れ残りの在庫があることで、損益計算書の売上原価の金額が減り、結果として帳簿上は利益が増えるので、税金も増えることにもなります。
※売上原価に計上できるのは、売れた数量分だけです。
実質、儲かってないのに税金までもっていかれるのであれば、弱り目に祟り目とはこのことです。
もしある場合は、処分または廃棄を考えるべきでしょう。
計算の注意点
棚卸資産回転日数を求める場合、製造業と建設業については下記の点で注意が必要です。
製造業や建設業の場合はさらに注意を要します。
これらの業種の売上原価は製品製造原価となるため、損益計算書の数字をそのまま用いると、多額の労務賃金や減価償却費、その他製造経費を含んだ金額となってしまいます。
製造業や建設業の場合は、製造原価報告書を参照し、材料費と外注加工費の合計額を算出したうえで回転日数を算出してください。
在庫=悪ではない
「在庫=悪」という単純な図式ではないことは、念のため付け加えておきます。
在庫があることで、機会損失を防げるなどのメリットがありますし、豊富な在庫そのものが強みのビジネスもあります。
問われるのは、「適正な在庫管理ができるかどうか」でしょう。
そのためにも、棚卸資産回転日数を把握しておくことは大事です。
この日数が伸びるということは、何らかの異常のサインが出ているということです。
適正値を下回る場合は、欠品の可能性が出てきます。
数字に換算すれば、すぐに発見することができるので、問題の早期改善に役立ちます。
買入債務回転日数
買入れ債務回転日数の計算式は
・買入れ債務÷年間売上原価×365日
です。
よって、買入れ債務回転日数を改善するには
- 買入れ債務を大きくする
- 年間売上原価を小さくする
と日数が伸びます。
日数が伸びるイコール、資金繰りが良くなるということです。
それはつまり、掛けで買ったお金を長い期間眠らせることができるからです。
買入れ債務回転日数は
- 買入れ債務
- 年間売上原価
の2つの要素で構成されています。
その要素を細分化して、構成している項目を洗い出します。
各要素を抽出できたら、具体的な改善策を考えていきます。
買掛金で気をつける点
資金繰りは、基本、回収より支払いが「後」になった方が楽になるので、買掛期間を長くすることは、その理に沿った行為です。
逆に、支払サイトが短かくなると、それだけ資金繰りが苦しくなります。
とくに、支払い状態が悪くなり、相手方より厳しい条件での取引を余儀なくなれているなら要注意です。
たとえば、現金でないと取引に応じてくれないとなると、資金繰りは悪くなる一方です。
支払いサイトが長い場合でも、支払を待ってもらっている状態なら、資金繰りは厳しいといえます。
自社の状態を客観的に把握しましょう。
買入れ債務回転期間をあえて短くする
最近では、買入れ債務回転日数をあえて短くする会社も増えているようです。
仕入を現金仕入や支払サイトを短くするなどして、取引相手に有利な条件を示す代わりに、値引きなどの自社に有利な条件を引き出します。
それにより、売上原価を圧縮できます。
また、買入れ債務回転日数を伸ばすために、必要以上に買掛金を大きくすると、総資本が膨れてしまい、その結果、総資本回転率が低下します。
総資本回転率とは、手元にある資本でいくらの売上を作ったかの指標になるので、この数値が小さいということは、非効率な経営をしているということです。
資金繰りが好転したなら、無意味に買入債務回転日数を伸ばすことはやめにしておきましょう。
CCCを改善してキャッシュ残高を2倍にした事例
CCCをKPI(業績評価指標)にして成功した企業に、あの有名な日本電産があります。
日本電産は2012年にCCCをKPIとして掲げ、2011年度は85日だったCCCを、なんと59日まで短縮しました。
これは、CCCの短縮によって、売上高の26日分に相当するキャッシュを生み出したことを意味します。
2012年の日本電産の売上高で計算しますと、約500億円のキャッシュです。
それにより、営業キャッシュフローは、2011年度の567億円から、1103億円まで増加したのです。
CCCの改善が、会社のキャッシュにいかにインパクトをもたらすか、非常にわかりやすい好例です。
経営結果は「貯金の残高」
黒字かつ資産がたくさんあって、さらに債務が少ない、そんな優良企業であっても倒産することがあります。
いわゆる黒字倒産です。
黒字倒産が起こる理由を平たくいうと、キャッシュがない、これに尽きます。
売上は黒字でも肝心のキャッシュがなく、支払い不能になって倒産です。
要するに、帳簿上に利益があっても意味はなく、実質のキャッシュがないと潰れちゃいますよって話です。
ならば、経営者がとことんこだわらなければいけないのは「キャッシュの残高」でしょう。
これから「キャッシュリッチ経営」がますます重要になる理由
資金繰り改善を考えることは、今以上に重要になります。
なぜならこれから日本で起こるのは、少子高齢化と人口減だからです。
消費の主流となる層の人口が減れば、市場規模もそれに比例して小さくなります。
縮小する市場で売上を確保するのも大変ですが、生き残るのも超シビアな競争になります。
そしてさらにもう一つ。
社会保険料と税金の増大です。
法人税は赤字なら納めなくても良いですが、社会保険料は赤字であろうが支払わなくてはいけません。
社会保険料負担は年々アップしていて、平成29年には労使合わせて31.5%まで増えました。
会社の負担は半分ですので、15.75%の負担です。
仮に会社の売上規模が同じなら、手元のキャッシュがますます残りづらくなるのです。
そのことを考えれば、お金を残すことが、どれほど大事になるかということです。
だとしたら、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)を計算して、
「いかに資金繰りを改善するか?」
これを真剣に考えなければ、すぐに倒産や廃業に追い込まれることになります。
まとめ
CCCを算出することで、資金繰り改善の目安が数値で出ます。
何が長くなって、何が短くなったか?これを見るだけで資金繰りの状態を掴むことができます。
キャッシュ・コンバージョン・バリューなどと聞けば、どこぞの経営コンサルしか求められないような指標に思えますが、算出方法を理解してしまえば、誰でも求めることができます。
数値が出れば、対処も的確になります。
CCCを算出して資金繰り改善に役立てましょう。
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